鳳凰星武祭7日目、シリウスドーム
「試合終了!勝者、比企谷小町&戸塚彩加!」
ステージにいる2人が煌式武装をしまうと大歓声が包み込む。
『何とぉ!この試合も圧勝!比企谷・戸塚ペア、見事本戦進出を決めました!』
三回戦も一、二回戦同様危なげなく勝利した2人を見て安堵の息を吐く。
「……よかったわね八幡」
隣に座って頭をスリスリしてくるオーフェリアはそう言ってくる。今日はシルヴィは仕事でいない。ま、明日の抽選会は生徒会長がくじを引くのでその時に会う約束をしてるけど。つーか集合場所がクインヴェール生徒会専用の席だが、レヴォルフの2トップが入っても大丈夫なのか?
「まあな。問題は明日の抽選会なんだよな……」
くじを引くのはエンフィールドだから俺にはどうにも出来ないけど。まあ初戦から天霧、リースフェルトペアやアルルカントのアルディ、リムシィペアなんて引いたらブチ切れるかもしれないけど。
今のところ本戦に勝ち上がっている有力ペアは刀藤、沙々宮ペアとアルルカントの擬形体ペア、ガラードワースの正騎士ペア、界龍の万有天羅の弟子のペアだろう。界龍と言えば川越姉弟も万有天羅の弟子らしい。侮るのはダメだろう。
天霧、リースフェルトペアとウルサイス姉妹のペアはまだ三回戦を終えてないが絶対に負けないだろう。
多々いる強敵の存在に頭を悩ませながら次の試合を見る。
既に試合が始まっていてステージでは天霧とリースフェルトのペアが界龍のペアを一方的に蹴散らして本戦出場を果たしていた。
翌日……
「やっほー、2人ともいらっしゃい」
シリウスドームにあるクインヴェール生徒会専用の部屋に入るとシルヴィが笑顔で手を振ってきた。
「……こんにちは」
「よう。ところでシルヴィ、俺達を入れて大丈夫なのか?」
仮にも生徒会長が自身の学園専用の部屋に他校の生徒を入れるって割と問題だろう。
「ん?大丈夫だよ。他の役員は学園で仕事をしてるし2人とも鳳凰星武祭に出てないから」
それでいいのか?まあシルヴィがそう言ってるなら大丈夫だろう。
息を吐きながらシルヴィの隣の席に座りステージを見ると運営委員と思われる人物が巨大な空間スクリーンの前でなにやら熱弁を振るっている。
「いやー、抽選会が始まるまで結構退屈だから2人が来てくれて良かったよ」
シルヴィの言う通り、抽選会は最後にやるものでそれまではお偉いさんの挨拶やら、前半戦の統括だの退屈な話ばかりだ。今も今大会の傾向やら、前大会との比較を説明していているし。実際去年の王竜星武祭では抽選会はサボって後になって組み合わせを知ったしな。
しかしシルヴィは生徒会長なのでサボる訳にはいかず、退屈な話を聞かされている。こりゃ誰かを呼んでも仕方ないだろう。
「それは別に構わない。そう言えば抽選会ってどういう順番でくじを引くんだ?」
「前シーズンの総合順位の高い順。つまり最初にアーネストが引いて私が最後だよ」
確か前シーズンの総合順位はガラードワース、アルルカント、界龍、レヴォルフ、星導館、クインヴェールだったな。
「という事はエンフィールドが引くのは最後の方か。初戦から外れは引かないでくれよ」
頼むから冒頭の十二人がいるペアとアルルカントの擬形体ペアとか引かないでくれ。つーか強い者同士潰しあってくれ。
「こればっかりは運だからね。ところで八幡君は何処が優勝すると思う?」
シルヴィにそう言われるので考える。ふむ……正直言って迷うが……
「アルルカントの擬形体ペアだな」
「そっか。私は星導館の『叢雲』と『華焔の魔女』の2人かな。オーフェリアさんは?」
「……シルヴィアと同じだわ」
2人はそう言ってくるがそれは厳しいと思う。何せ天霧はあの力をマトモに使えるのは5分だけだ。30……いや20分使えるなら俺も天霧達が優勝すると思うが5分なら優勝は無理だろう。
まあこいつらは天霧の封印を知らないからな。封印を知らなかったら俺も天霧達だと思う。
そんな事を考えていると俺の携帯端末が鳴り出したので見てみると小町からで『緊張してきた。お兄ちゃんヘルプ!』と書いてあった。ヘルプって何だよ……?
「はぁ……すまん、俺ちょっと妹の所に行ってくる」
何をヘルプすりゃいいかわからないがとりあえず行くしかない。
「あ、じゃあ私も行っていいかな?八幡君の妹さんにも興味あるし」
「それは構わないがここにいなくて大丈夫なのか?」
「うん。別にここで待機してろって言われてないし、私の出番が来たらメールが来るから大丈夫だよ」
なら大丈夫だろう。
「わかった。じゃあ行こうぜ」
俺がそう言うと2人は立ち上がって生徒会専用の部屋を後にした。
小町によると1番高い階層にいるらしい。各学園の生徒会専用の部屋は割と上の階層にあるのでそこまで時間がかからない。
俺達が廊下を歩いている時だった。
「……すまん。腹が痛いから先に行っててくれ」
後少しって所で急な腹痛が襲ってきた。凄く痛い。
「大丈夫?」
「……大丈夫じゃない。長引きそうだから先に行っててくれ。ほい、小町がいる席の座標」
そう言って俺はシルヴィの端末に座標を送ると同時にダッシュで手洗いに向かった。何でこんなに腹が痛いんだよ?もしかして抽選会の結果が気になって俺も緊張してるのか?
そんな事を現実逃避気味に考えながら俺はトイレのドアを開けて中に入り込んだ。
10分後……
「……ふう」
激闘を終えた俺は手を洗う。久々に骨のある闘いだったな。激闘だっただけに達成感が半端ない。
さて、俺も急いで行かないとな。小町の奴が俺の黒歴史を話してたらヤバイし。
手を洗った俺は手洗いを出て目的地に急ぐ。その足は軽やかだった。
軽いステップを踏みながら曲がり角を曲がると……
「んきゃ?!」
妙な声が聞こえて体に衝撃が走る。
すると大量の紙の書類がバサハサと落ちる。
「……っと、悪い……って樫丸じゃねぇか」
そこにはいたのはレヴォルフの生徒会秘書を務めている樫丸ころなだった。
「あ……ひ、比企谷さん。す、すみません!」
樫丸はそう言ってペコペコ頭を下げてくる。ヤバい、凄く罪悪感を感じる。
「いや、こっちも余所見してたからな。拾うの手伝う」
そう言って俺が書類を拾い始めると樫丸は再びペコペコしながら拾う。
俺は紙を拾いながら樫丸を見る。どう見てもレヴォルフに相応しくない学生だ。普通にクインヴェールの方が似合っているし、ガラードワースで過ごしても違和感がないだろう。
以前ドジを踏んでレヴォルフに入ったと聞いた時は余りのドジっぷりに呆れてしまった。しかしあの後にディルクにスカウトされて秘書になったと知った時は耳を疑った。
ディルクは基本的に人間を能力でしか判断しないので、樫丸は何かしら優れた所があるのだろう。
……拾い集めた紙を再び落としている所を見ると全く信じられないが。
俺はため息を吐きながら樫丸の落とした紙を拾い集めた。
「ほらよ。これで全部だ」
「す、すみません。何度も落としてしまって」
そう、あの後樫丸は3回紙を落としたのだ。マジでドジ過ぎる。言っちゃ悪いがディルクが認める程の能力を持っているとは思えん。
そうなると答えは一つだ。
(あのデブ……ロリコンだったのかよ。あの体型でその趣味は犯罪だぞ)
ディルクが自分の趣味で樫丸を秘書にした。
そうとしか考えにくい。だから何度ドジをしても手元に置いているのだろう。
自分の出した結論に頷いている時だった。
「おいころな。いつまで待たせんだよ?」
苛立ちの混じった……というか苛立ちしかない声が後ろから聞こえてきたので後ろを見る。
そこには1人の青年がいた。色のくすんだ赤髪で、背は低く小太り、目には暗く深い苛立ちのようなものが燻っている。
ディルク・エーベルヴァイン。
レヴォルフ黒学院において初めて非星脈世代として生徒会長になった男だ。
自らは絶対に手を汚さずに、他人を盤上の駒のように動かしながら暗躍をするというのが世間からの評判だ。序列外にもかかわらず『悪辣の王』という二つ名を付けられるくらいだし当然だろう。
向こうも俺の存在に気付いたらしい。目が合った瞬間に苛立ちの混じった目で睨みながら舌打ちをしてくる。相変わらずこいつは人を苛立たせるな。
「す、すみません会長!」
樫丸はペコペコ頭を下げながら謝ってくる。これ以上ディルクと関わるとこっちも疲れる。早めに退散するべきだ。
「じゃあ樫丸。俺はもう行くが次からは気をつけろよ」
「は、はい!ご迷惑をおかけしました!」
「気にすんな。じゃあな」
そう言ってこの場を去ろうとした時だった。
「待て。てめぇに話がある」
ディルクが後ろから呼びかけてくる。……面倒な予感しかしないな。
しかしここで無視すると後々もっと面倒な事になりそうだ。
そう判断した俺は再度ディルクと向き合う。
「……んだよ?こっちも暇じゃないからさっさとしろ」
俺がそう返すとディルクは俺を睨みながら口を開ける。
「単刀直入に言うぞ。これ以上オーフェリアに関わるな。てめぇがいてあいつが腑抜けたら迷惑なんだよ」