ガラードワースの生徒会専用の部屋に叫び声が響き渡る。声を出しているレティシア・ブランシャールは気品を感じる美しい女子だが叫び声には余り品を感じない。まあ品のある叫び声なんてないだろうが。
ブランシャールは叫び声を上げてから一息吐いて俺達の方にやってきてフェアクロフさんに詰め寄る。
「どういうつもりですかアーネスト!何があったら『孤毒の魔女』と『影の魔術師』の2人がここに来る事になったのですの?!」
まあブランシャールの反応が普通だよな。自分の所属している学園の長が折り合いの悪い学園の2トップを連れてきたんだし。
「ここに来る途中で偶然2人に会って、この前のお詫びとして招いたんだよ。比企谷君とミス・ランドルーフェンは悪い人じゃないから問題ないと思うよ。レティシアも今度お詫びするべきと提案したじゃないか」
「それは……そうですけど、流石に生徒会専用の部屋に招くのは少々問題だと思います!万が一2人が部屋から出る時にガラードワースの生徒に見られたりしたら……」
まあそうだよな。フェアクロフさんはさっき生徒会のメンバーは事情を知っているが、学園ではまだ噂が広まっていると言っていた。もし俺とオーフェリアがここから出るのをガラードワースの生徒に見られたら問題になるだろうし、フェアクロフさん達にも迷惑がかかるだろう。
だから俺が口を開ける。
「安心しろ『光翼の魔女』俺とオーフェリアが帰る時は影の中に潜って帰る」
俺がそう言うとブランシャールは俺に視線を向けてくる。
「まあそれなら……ところで貴方の能力は他人にも使えるんですか?」
「正確には『俺と触れ合っているあらゆる存在』だ。こんな感じに」
そう言って俺はオーフェリアの手を掴み影の中に入り直ぐに出る。
俺が影から出るとブランシャールは感心した表情で見てくる。
「前から思っていましたが貴方の能力は本当に多彩ですわね」
「まあこれでも黒猫機関に勧誘された事もあるからな。多彩さには自信がある」
俺の力は戦闘にも向いているが諜報は更に向いている。何せ影の中にいれば誰からの干渉も受けない安全地帯だし。
「ちょっ!貴方、そんな事をガラードワースの私に話すなんて正気ですの!?」
何でそんなに驚いてんだよ?
「至って正気だ。勧誘は蹴ったし、それ以前に別に俺はガラードワースを嫌ってないし」
まあ多少苦手だけど。規律と忠誠を絶対とする学園は俺には向いてないし。
「……貴方、かなり変わってますわね。本当にレヴォルフの生徒ですの?」
「一応レヴォルフだ。ってもくじ引きで決めたけどな」
「く、くじ引きっ?!あ、貴方、自分の行く学園をくじで決めたんですの?!」
「まあな」
俺はただ総武中にいたくなかったからアスタリスクに来たからな。学校はぶっちゃけどこでもいい。
「君がレヴォルフの生徒らしくないとは思っていたが……そういう事だったのか」
フェアクロフさんは納得したように頷く。
「へぇ!どうせならうちに来て欲しかったねぇ」
そう言って楽しげに俺の肩を叩くのはチーム・ランスロットのメンバーの一人『黒盾』のケヴィン・ホルスト。ガラードワースの生徒にしてはチャラいと聞いていたが本当のようだ。
それとすみませんがくじの中にはガラードワースは入ってなかったのでガラードワースに来る事はあり得ないです。ガラードワースは嫌いではないが苦手なので。
「呆れた男だ。自分の進路をくじ引きで決めるとは」
ため息を吐きながら俺を見てくるのはチーム・ランスロットのメンバーの一人『王槍』のライオネル・カーシュ。戦闘スタイル同様普段の生活でもかなり真面目そうだ。
……うん。まあ確かに自分の進路をくじ引きで決めるのはアレだったな。つーか小町が俺と同時期にアスタリスクに来ていたら俺はレヴォルフにはいなかっただろうし。
「では会長。お茶とお菓子の準備を致します」
そんな中、今年新しくチーム・ランスロットに入った『優騎士』パーシヴァル・ガードナーは特にリアクションを見せずにお茶とお菓子の準備を始めている。
20年ぶりに聖杯こと『贖罪の錘角』に選ばれた人間という事で前から興味はあったが……予想以上に不気味だ。単純な戦闘能力なら俺の方が遥かに上だと思うが何となく危ない匂いがする。
少しだけ恐怖を感じながら俺とオーフェリアはフェアクロフさんに案内された席に座った。
「どうぞ」
パーシヴァル・ガードナーがそう言ってテーブルの周りにいる全員の前に紅茶とお菓子を出してくる。
「サンキュー」
適当に礼を言って紅茶の中に角砂糖を入れようとした時だった。
「ちょっと待ちなさい比企谷八幡!」
俺の向かい側に座っているブランシャールがいきなり俺を呼んでくる。
「ん?どうした?」
俺今特に変な事はしてないけど、ブランシャールにとっては気に触る事でもしたのか?
「どうしたではありませんわ!角砂糖四つは入れ過ぎです!一つにしなさい!」
……これについては完全に予想外だ。
「見逃してくれよ。俺は甘い物が好きなんだよ」
「却下ですわ!限度というのがあります!」
「いいじゃねぇか。人生は苦いんだし飲み物くらいは甘くていいだろ?」
「何を達観したような事を言っているのですか?!高校生の言う言葉じゃありませんわ!」
さっきからブランシャールのツッコミが激しい。それを聞いていて俺は思った。
「つーかアレだな。ブランシャールって淑女ってイメージがあったが、どっちかって言うとおかんだな」
ついポロリと漏らしてしまった。
「お、おかん?!」
ブランシャールは呆気にとられた表情を見せてくる。
「……おかん?比企谷君、おかんと言うのは母親という意味で合ってるかい?」
フェアクロフさんがそう聞いてくる。まあフェアクロフさんならおかんの意味を知らなくても仕方ないかもしれん。
「はいそうです」
「なるほど。ふふっ、おかんとは言い得て妙だね」
「アーネスト?!」
フェアクロフさんはそう言って爽やかな笑みを浮かべてくる。
「お、おかん……やばい。レティにはピッタリの言葉だ」
「ケヴィンまで?!〜〜〜!!」
ケヴィンさんが肩を震わせて笑っている。それを見たブランシャールは真っ赤になった頬を膨らませながら俺を睨んでくる。ブランシャールの周囲からは星辰力が出ている。ヤバい怒らせちまったようだ。
「すまんブランシャール。少しからかい過ぎだ」
これ以上怒らせると面倒なので謝る事にした。
俺が頭を軽く下げるとブランシャールの周囲から星辰力がフッと消えた。
「……もう」
ブランシャールはため息を吐きながら自身の手元にある紅茶をグイッと飲む。顔はまだ赤いが、ここで怒るのは馬鹿らしいと判断したのだろう。怒りの気配はなくなった。
「ははっ。いや、今のは良かったぜ『影の魔術師』」
「は、はぁ……」
ケヴィンさんはいまだに笑いながら俺の肩を叩いてくる。つーか笑うとブランシャールが睨んでくるんで止めてください。
内心ケヴィンさんに突っ込んでいる時だった。
「ところでさ『影の魔術師』は『孤毒の魔女』とはどこまで行ったんだ?」
いきなり爆弾を投下してきた。
「……っ!げほっ!ごほっ!」
予想外の攻撃により紅茶が気管支に入ってむせてしまった。苦しい。ケヴィンさんと反対側の隣に座っているオーフェリアを見ると頬を染めていた。どうやらオーフェリアにとっても予想外だったようだ。
「おいおい大丈夫か?」
「はぁ、はぁ……大丈夫です。でもいきなり何で……」
「そりゃ鳳凰星武祭初日に道の真ん中で抱擁をしたんだしさぁ。直で見た俺からしたらすげぇ情熱的に見えたぜ」
見てたのかよ?……いやまあ道の真ん中、しかも星武祭中だから凄い人がいたから見られても仕方ないかもしれんが……
「うぅ……恥ずかしい」
何で俺はあんな場所でオーフェリアを抱きしめてしまったんだ?いくら頼まれたとはいえ、抱きしめるなら路地裏でやれば良かったものを………俺の馬鹿野郎!!
「まあかっこ良かったしいいじゃん。それよりあの抱きしめ方よりもっと情熱的な抱きしめ方があるけど聞く?」
絶対に嫌だ。聞いたら恥ずかしくて悶死する自信がある。
俺が断りの返事をしようとすると……
「……教えて」
その前にオーフェリアがケヴィンさんに教えを請うた。待てコラ。
「おいオーフェリア……」
「……私は聞きたい。そして八幡にそのやり方で抱きしめて欲しいのだけど……ダメ?」
俺がオーフェリアを止めようとしたが、オーフェリアは上目遣いで俺を見てくる。……毎回思うがオーフェリアの上目遣い破壊力あり過ぎだろ?
周りを見るとフェアクロフさんは見守るような笑みを向けていて、ブランシャールは真っ赤になっていて、ライオネルさんは呆れたような顔をケヴィンさんに向けていて、パーシヴァルは無表情で紅茶を飲んでいる。……パーシヴァルの奴、冷静過ぎだろ?
当のケヴィンさんは楽しそうな表情で俺とオーフェリアを見て口を開ける。
「だそうだ『影の魔術師』。男なら淑女の要請に応たえるのが義務だぜ」
ぐっ……まさに八方塞がりだ。現にケヴィンさんはニヤリとした表情を向けて更に口を開ける。
「いいか?この写真だとお前は彼女の背中に手を回しているけど……」
そう言って各学園の新聞に載っている写真を見せてくる。うわ……改めて見るとよくあんな場所で抱き合ってたな俺達。つーか何で持ってんですか?
「こん時にお前は手を動かすんだよ」
「手を動かす?」
意味がわからん。
「そうそう。その後に少しずつ腰の方にゆっくり動かすんだよ。そんで更に引き寄せるとかなり情熱的になるぞ」
はぁ?!腰に手を回すだと?!
無理無理!絶対に無理だから!普通に抱き合っていても凄くドキドキするのに腰に手を回して更に引き寄せるとか無理だろ!
「あ、いや……それは……」
「大丈夫だって。何度も経験した俺が言うんだし。それに『孤毒の魔女』も満更でもない表情をしてるぜ?」
そう言われてオーフェリアを見ると頬を染めながらチラチラ見てくる。何だよ……そんな顔をすんなよ。こっちも変な気分になるからな?
ドキドキしているとライオネルさんが固い表情でケヴィンさんに話しかける。
「相変わらずだな。お前は少しは慎みを覚えたらどうだ?」
「おいおい。俺はただ淑女の要請に応えてるだけだぜ?レオも少しはそこらへんに興味を持った方がいいんじゃない?」
「興味ないな」
「レオこそ相変わらずお固いなー」
「お前が軽薄過ぎるだけだ」
額を近づけながら口論を始める。これ止めなくていいのか?
そう思っていると唐突な銃声が響いた。は?銃声?
「……お二人共、お客様がいる前ですよ?」
見るとパーシヴァルが短銃型の煌式武装を展開して、その銃口を天井に向けている。そして天井には穴が穿たれていた。
「……いや、生徒会専用の部屋で煌式武装をぶっ放す方が迷惑だからな?」
つい本音が漏れてしまう。口喧嘩止める為に煌式武装をぶっ放す奴なんてレヴォルフでも数少ないぞ?無表情の癖にやる事過激だな。
パーシヴァルは俺をチラリと見て頭を下げる。
「失礼しました。つい癖で」
は?つい癖でだと?こいつまさか学園でも同じ事をしてんのか?
内心突っ込んでいるとブランシャールはげっそりとした表情を浮かべている。
「見苦しい所をお見せしまして申し訳ありません。この子の引き金は本当に軽くて生徒会室の天井にも何度穴があいたことやら……」
マジか?何度も穴があいたのかよ?
つーかガラードワースは六学園の中で唯一名門と称されているが……中々癖のある人間が多いな。
そんな事を考えている時だった。
『長らくお待たせいたしました!それではこれより四回戦、本戦の一回戦第一試合を始めまーす!!』
会場に実況アナウンスが響き渡る。
瞬間、全員の意識が切り替わったように表情を変えてステージを見る。
会場には天地を揺るがすような大歓声が沸き上り無数のライトが縦横無尽に舞い踊る中、出場ゲートから四人の人間が姿を表す。
いよいよか……勝てよ小町に戸塚