『いよいよ本戦の第一試合が始まろうとしています!まず東ゲートから姿を現したのは聖ガラードワース学園のドロテオ・レムス、エリオット・フォースターペア!そしてそしてその反対側、西ゲートからは星導館学園の比企谷小町、戸塚彩加ペアの入場です!』
『第一試合から冒頭の十二人がいるペア同士の対決ッスね。その上どちらも予選は殆ど対戦相手を寄せ付けずに勝ち上がってきてるッスから楽しみッス』
耳をつんざくような大歓声、それに対抗するかのように音量を上げた実況の声が響く中、四人がゲートからステージに足を踏み入れて向かい合う。
戸塚の正面にいる金髪の幼気な雰囲気の少年はガラードワース序列12位『輝剣』の二つ名を持つエリオット・フォースター。
「決闘をすると煩いガラードワースの環境で中等部の奴が冒頭の十二人か……ったく、初戦から天才が相手かよ」
ガラードワースは基本的に決闘は禁止なので、他の学園に比べて序列を上げるのが難しいとされている。
レヴォルフはその逆で決闘を推奨しているので序列はガンガン変動する。まあ冒頭の十二人の上位陣は殆ど変わらないが。少なくとも俺とオーフェリアは序列が下がった事は一度もない。
「確かにエリオットには才能がありますけど……転入して1年もしないで冒頭の十二人入りした貴方の妹も天才だと思いますわよ」
「ああ……まあな」
普段の言動からアホだと思っているから時々忘れるが、ブランシャールの言う通り小町も天才の一人だ。今の星導館の冒頭の十二人で中等部の生徒は小町を入れて二人しかいないし。才能だけなら星導館でトップに近いだろう。(トップは間違いなく刀藤だけど)
そんな妹の正面にいるがっしりとした体格の青年がガラードワース序列11位『鎧装の魔術師』の二つ名を持つドロテオ・レムスだ。歴戦の猛者といった風格で今大会の出場選手の中でも最年長クラスの人間だろう。
「比企谷小町にとってドロテオは最悪の相性だ。普通に戦ったら間違いなくドロテオが勝つだろうな」
ライオネルさんの言う通りドロテオ・レムスの能力は小町にとって最悪の相性だ。
しかし……
「まあ1ヶ月前の小町なら100%負けますね」
俺がそう返すとライオネルさんが訝しげな表情を見せてくる。
「ほう……口調からしてお前が何かしたのか?『影の魔術師』」
「まあ軽い訓練とアドバイスはしましたね。今回の鳳凰星武祭で『鎧装の魔術師』が来ると予想されていたので」
「いくら妹とはいえ……他所の学園の生徒を鍛えるなんて正気ですの?」
「至って正気だ。俺からすりゃレヴォルフより妹の方が重要だ。それにレヴォルフは王竜星武祭を重視していて、鳳凰星武祭と獅鷲星武祭には力を入れてないしな」
「それはそうですけど……」
「まあそれは人それぞれでしょ。それよりお前の妹、可愛いな」
ケヴィンさんがそう言ってくるが……
「それは否定しませんが手を出したら八つ裂きにするので。小町の彼氏は俺より強い事が最低条件ですから」
軽く殺気を込めてそう返す。
「うぉっ。怖い怖い」
「貴方より強い男性となると……アーネストと界龍の『覇軍星君』くらいでしょうね」
だろうな。天霧もいい線いっているがまだ負けないだろう。つーかあいつの場合、リースフェルトや沙々宮、刀藤にエンフィールドと沢山の女に惚れられているかな。小町もそのハーレムメンバーに入りそうで怖い。
「お喋りはそのくらいに。そろそろ始まるみたいだよ」
フェアクロフさんがそう言ってくるのでステージを見る。すると小町は両手に二挺のハンドガン型煌式武装を、戸塚は右手に散弾型煌式武装を手に持って起動している。
対するエリオットはクレイモアタイプの片手剣型煌式武装を手に持っている。ドロテオはまだ煌式武装を手に持っていないが対戦が始まったら持つのだろう。
『さあ!そうこうしているうちに開始時間が迫ってまいりました!ベスト16に進むのは星導館かはたまたガラードワースか!』
実況がそう叫ぶとモニターに映る四人の校章が光り出す。
『鳳凰星武祭四回戦第一試合、試合開始!』
校章がそう告げると同時に小町は両手にあるハンドガン型煌式武装をドロテオの胸に狙いを定め発砲する。狙いを定めてから発砲までの時間は殆どない。しかし放った光弾は一直線にドロテオの胸にある校章に向かって飛んでいく。その事から小町の銃の腕前が一流だという事が素人でも理解出来るだろう。
同じ様に戸塚も散弾型煌式武装を発砲する。狙いはエリオットだ。今回は近寄らせない事が最優先なので結構撃ちにいくのだろう。
『おっと』
戸塚の目論見通りエリオットは後ろに大きく後退した。光弾は一発も当たっていないが問題ない。こんなんで倒せるなら苦労しないし目的はエリオット相手に時間稼ぎをする事だ。後ろに下がるのは充分な成果だ。
しかしドロテオの方は……
『ははっ!開始と同時に胸の校章を狙いに来るとはな、『神速銃士』』
ドロテオの薄い笑い声が聞こえると同時にドロテオの胸のあたりから周囲に鎧が生まれる。それによって小町の放った光弾は弾かれてしまう。
鎧は胸から体の隅まで広がっていき、遂には全身に鎧が纏われた。それはまるで西洋風のプレートアーマーを纏った騎士みたいでガラードワースに相応しい姿だ。
ドロテオの能力は『鎧装の魔術師』の二つ名からわかるように高い防御力を持つ鎧を生み出すものだ。
しかし1番厄介なのは鎧は能力の産物であるので、壊れても即座に修復されて元に戻ってしまう事だ。さらに校章も鎧に覆われてしまう。その事からドロテオを倒す方法はただ一つ。鎧の内部にまで届くような高威力の攻撃を叩き込む事だ。
しかし小町にとってそれは最悪の条件だ。小町の戦闘スタイルは持ち前のスピードで相手を撹乱してからの精密射撃による攻撃で、攻撃力を余り重視していない。よって小町の武器ではドロテオの鎧を破壊するのは至難だろう。
『さて……それではこちらも攻めさせてもらうぞ』
ドロテオはそう言って左手を前に突き出す。すると薄いプレートが無数に現れて組み合わさっていく。
10秒もしないでそれは層を成して、そこには馬の形をした鎧が現れる。合理的に考えたら馬の形をした鎧を作る必要はないが、能力はどこまでそのイメージを自分の中に構築出来るかによって精度が大きく変わる。
そしてこれがドロテオにとって最も理想の形なのだろう。実際に予選では馬の形をした鎧を作り対戦相手を蹂躙していたし。
そう思っているとドロテオは馬に乗り馬上槍型煌式武装を起動する。見た目は完全に中世の騎士だ。カッコイイな。
『行くぞ!』
『あらら……最初から全開かぁ』
ドロテオがそう言って馬の腹を蹴ると馬は猛スピードで駆け出した。その速度は本物の馬より遥かに速い。
それに対して小町は明らかに嫌そうな顔をして、ため息を吐きながら真横に動き出す。嫌なのはわかるがその顔は止めろ。一応これ全世界に発信されてるんだからね?親父あたり卒倒しそうだ。
「女子のする表情ではありませんわね……」
ブランシャールが呆れた表情をしている。うちの妹がすみません。
内心謝っていると……
『群がってーーー盾の軍勢』
戸塚がそう呟いて自身の能力で生み出した巨大な盾を100以上に分割して放つ。そのうちの70ぐらいはエリオットに直接飛ばして、残りの30くらいの盾はドロテオの方へ行かないようにする為の牽制に使っている。
『くっ……鬱陶しい…!』
エリオットは忌々しそうな表情をしながら煌式武装を振るう。
ウザそうにしているが、ガラードワースの片手剣術の特徴である突き技で自分に寄ってくる盾を次々と破壊している。
『えいっ!』
戸塚は更に近づけさせない為に散弾型煌式武装を発砲する。エリオットはそれを確認して少し後退する。戸塚は今の所順調だな。
しかしエリオットには盾も散弾型煌式武装の光弾も一発も当たっていない。流石に冒頭の十二人クラスの敵にはダメージを与えるのは無理か。一瞬でも油断したら戸塚は負けるだろう。
だから勝つ為には小町が急いでドロテオを倒さないといけない訳だが……
小町を見ると、小町は横に跳んで馬を駆りながら突撃してくるドロテオの一撃を躱す。
それと同時にハンドガン型煌式武装を馬の右前足に向けて発砲する。馬の足に当ててバランスを崩しドロテオを落馬させるつもりなのだろう。
放たれた光弾は馬の足に当たる。横に跳びながら高速で動く馬の足に当てる技術は見事だ。
しかし……
『おおっと!何と比企谷選手の放った光弾が弾かれたぁ!』
『レムス選手の鎧は硬いのは知ってたッスけど、ここまでとは思わなかったッスね』
実況と解説の言う通り、ドロテオの能力で作られた馬の足にはヒビ一つ入らずバランスを崩すのは叶わなかった。よってドロテオは落馬する事もなく小町の横を駆け抜けて行った。
小町の煌式武装も決して弱くはないが……ドロテオの鎧は予想以上に硬いようだ。
しかしアレなら……
俺がそう思っていると小町が右手にあるハンドガン型煌式武装ををホルスターにしまって、懐からある待機状態の煌式武装を取り出して起動する。
すると小町の手には真っ黒な銃が現れる。そしてその銃のグリップには……
「紫色のマナダイト……純星煌式武装?!」
ブランシャールが驚いた表情をしながら小町を見ている。ブランシャールの言う通りアレはただのマナダイトではなくウルム=マナダイト、つまり普通の煌式武装より遥かに強力な純星煌式武装だ。
「アレが小町の純星煌式武装の『冥王の覇銃』だ」
「ほう……比企谷小町の弱点を補うならあの純星煌式武装は破壊に特化した物という事か?」
「そうっすね。多分アルルカントの擬形体の防御障壁も破壊出来ると思いますよ」
「へぇ。可愛い顔してとんでもない武器を持ってるなぁ!」
ケヴィンさんが感心の声を上げている。ですよね。訓練していた時に何発かくらったがかなり痛かったし。
当時の訓練を思い出している中、ドロテオはUターンをして、再び小町の方を向いている。
『なるほどな……純星煌式武装か』
『はい。小町が貴方に勝つにはこれしかないです』
『面白い。行くぞ、『神速銃士』!』
ドロテオはそう叫んで馬の腹を先程より強く蹴る。すると先程とは比べ物にならないほどの速度で小町に突っ込む。能力で作られた馬であるのに人馬一体と言った姿を見せている。
それに対して小町はゆっくりと『冥王の覇銃』を構えてドロテオに狙いを定める。しかしまだ撃たない。恐らくドロテオが反応出来ても回避出来ない距離に近づいてから放つのだろう。
そう思っているとドロテオは更に速度を上げる。それを見て俺は理解した。
(……あの野郎。避ける気なんてない。真っ向から小町を撃ち破るつもりだ)
だとしたらマズい。『冥王の覇銃』を使えばドロテオの鎧を破壊して倒す事は出来るかもしれないが小町もドロテオの攻撃をくらうかもしれない。
そんな俺の心配を他所に小町の手にある『冥王の覇銃』のグリップについてあるウルム=マナダイトが光り輝く。
そしてウルム=マナダイトの輝きが最高潮に達したその刹那ーー
『冥王の覇銃』の引き金が引かれ銃口から紫色のスパークを帯びた黒い光が一直線にドロテオの腹に向かって突き進んだ。
そしてドロテオの腹に当たると激しいスパークが起こり観客の目を襲う。
『冥王の覇銃』から放たれた光はドロテオの周囲に広がりやがてドロテオの体を包み込んだ。
(よし。先ずは1人目!)
俺が内心ガッツポーズをした時だった。
『おおおおおおおおおおおおお!』
ステージから凄まじい雄叫びが聞こえたので意識をステージに戻すと、鎧を破壊されて全身がボロボロになっているドロテオが光の中から現れて小町に馬上槍を突き出した。
『ぐうっ?!』
まさか倒せていないとは思わなかったのだろう。少し気が緩んだ小町には避けられず、ドロテオの馬上槍をモロにくらった。
その衝撃によって小町がステージの壁に吹き飛ばされると同時にドロテオは地面に倒れこんだ。どうやら半ば無理やり最後の一撃を放ったようだ。
『ドロテオ・レムス、意識消失』
そんなアナウンスが流れると観客席からは歓声が上がる。
作戦通りドロテオを倒す事には成功したが最後の一撃をくらってしまった上、エリオット・フォースターは未だに無傷でかなりピンチだ。
小町の敗北を告げるアナウンスはされていないので校章は破壊されていないし意識はあるのだろう。
しかし小さくないダメージを受けたあいつらに勝ち目はあるのか?
内心不安に思いながら壁に吹き飛ばされた小町を見る。
試合はまだ終わっていない。