学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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閑話:オーフェリア・ランドルーフェンの願いは……

小町と戸塚の控え室、そこにいる俺は今かなり緊張している。

 

見るとソファーに座っている小町と戸塚、壁に寄りかかっている天霧も緊張した表情で俺同様、部屋の中心を見ている。

 

中心には美しき少女が2人いる。

 

片や鮮やかな薔薇色の髪と碧色の瞳を持った気丈な雰囲気を醸し出す少女、片や雪のような純白の髪と紅玉色の瞳を持った悲しげな雰囲気を醸し出す少女だ。

 

薔薇色の髪を持つ少女ーーーユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは今にも感情が爆発するように思えるくらいに険しい表情を浮かべて、対する純白の髪を持つ少女ーーーオーフェリア・ランドルーフェンはいつも以上に悲しげな、それこそ泣き出しそうな表情を浮かべている。

 

お互いが睨み合っているだけなのに当事者の2人以外の人間は2人から目を逸らす事が出来ない。

 

暫く見つめ合っているとリースフェルトが口を開ける。

 

「……オーフェリア、何故お前がここにいる?」

 

「八幡が小町のお見舞いに行くと言っていたからその付き添い。……八幡が小町と話し終わったら帰るわ。今は偶然会ったから仕方ないけど……前にも言ったようにもう関わらないで」

 

オーフェリアはリースフェルトが言おうとしている事に対して釘を刺す。それを聞いたリースフェルトは一瞬だけ残念そうに唇を噛んだが、直ぐにオーフェリアを睨む。

 

「断る。私は何としてもお前を連れ戻す。お前がいるべき世界はそこではない」

 

「……やめて。私は私の運命に従っているの」

 

「私はそれを認めない!」

 

オーフェリアが拒絶の意を示しているのに対して、リースフェルトはオーフェリアの拒絶を拒絶している。どちらも一歩も譲らない雰囲気を醸し出している。

 

「……やめてユリス。それに今の私は自分の運命を気に入っているの」

 

「何だと?どういう事だ?」

 

リースフェルトは驚きの表情を浮かべながらオーフェリアに質問をする。するとオーフェリアはチラリと俺を見て自分の胸の校章に手を当てる。

 

「……今の私の運命はここにある。そしてここには……今の私が唯一大切と思える八幡がいるの」

 

「……は?俺?」

 

まさかの俺の名前が出てきてつい声が漏れてしまった。

 

「……ええ。今の私にとって八幡といる事が唯一の幸せなの……だから止めて」

 

途中からリースフェルトを見ながらそう言ってくる。その表情からはさっきの表情と違って強い決意の様な物を感じる。

 

余りの視線の強さに俺もリースフェルトも全員黙り込んでしまう。まさかオーフェリアがここまで感情を出すとは思わなかった。

 

全員が絶句しているとオーフェリアが口を開ける。

 

「……もしも私を八幡から引き離したいなら決闘で私を「待てオーフェリア」……痛いわ」

 

余計な事を言おうとしたオーフェリアの頭にチョップをかます。するとオーフェリアは強い視線からジト目に変えて俺を見てくる。

 

「アホか。星武祭に参加してる選手に決闘を提案してんじゃねぇよ」

 

俺は頭をおさえているオーフェリアから視線を外してリースフェルトを見据える。

 

「リースフェルト。お前の気持ちはわかるが今は帰れ。オーフェリアは頑固だから譲らないしお前も譲らないだろう。だがお前は星武祭参加者だ。ここでオーフェリアに勝負を挑んだら失格になるぞ」

 

星武祭が開催している間は防御障壁がある場所以外では決闘が禁止されている。防御障壁のない場所、しかも他の選手の控え室で決闘なんかしたら天霧、リースフェルトペアは失格になるしオーフェリアもペナルティを与えられるだろう。

 

リースフェルトを見るとさっきまでの睨みは鳴りを潜める。苦い顔をしながらも俺の意見を受け入れる素振りを見せてくる。

 

「それにだ、お前らの次の相手のイレーネは強いぞ。精神が落ち着いた状態じゃないと厳しい相手だ。少し頭を冷やせ」

 

「……………わかった」

 

俺が言っている事に理があると判断したのだろう。リースフェルトは不満そうな表情をしながら頷いた。良かった……ここで引かずに決闘を挑んできたらマジで面倒な事になっていただろう。

 

「天霧、リースフェルトを頼む」

 

「あ、うんわかった」

 

天霧はそう言ってリースフェルトの手を引いて控え室を出て行った。とりあえず揉めずに済んで良かった。

 

 

 

 

 

 

 

安堵の息を吐いていると小町が話しかけてくる。

 

「ねぇお兄ちゃん。リースフェルトさんとオーフェリアさんが昔馴染みなのは知ってたけど、何であそこまで睨み合っていたの?」

 

まあそれを聞きたいのは当然だろう。しかしオーフェリアの過去を俺が勝手に話してはいけないからなぁ……

 

小町に教えられないと言おうとすると……

 

「……話しても構わないわ」

 

オーフェリアがそう言ってくる。え?何で今俺が考えている事がわかったの?もしかしてエスパー?

 

「……いいのか?」

 

「ええ。どうせ昔の話だから」

 

オーフェリアが了承したので俺は小町達に、昔リーゼルタニアの孤児院にいて借金のカタとして研究所に連れられた事、そこで星脈世代になった後ディルクの下についている事全てを話した。

 

「そんな事が……」

 

2人は絶句していた。まあ平和な星導館にいるならそんな話に慣れていなくても仕方ないだろう。

 

「……2人がそんな顔する必要はないわ。仕方のない事だもの……」

 

オーフェリアは既に自分の事に関しては諦めている。それは出会った当初から聞いているので今更驚きはしないが……

 

(……何でか凄くムシャクシャするんだよな)

 

理由はわからないがオーフェリアがそうやって全てを諦めるのを見るとイライラする。

 

そんな中、小町がオーフェリアに話しかける。

 

「オーフェリアさん。2つ聞きたい事があるのですがいいですか?」

 

「いいわよ。何を聞きたいの?」

 

「じゃあ1つ目、もしお兄ちゃんがリースフェルトさんの方に行ったとしたらオーフェリアさんもリースフェルトさんの方に行きますか?」

 

「………それは無理よ。私は彼の所有物だから自由はないわ」

 

「彼とは『悪辣の王』ですよね?」

 

「そうよ」

 

「じゃあ2つ目、オーフェリアさんは自由になりたいですか?」

 

小町がそう言うとオーフェリアは目を見開く。予想外の質問だったようだ。

 

「無理かどうかではなくて自由になりたいかなりたくないか、YesかNoでお願いします」

 

小町がそう言ってオーフェリアに詰め寄る。オーフェリアはそれに対して考えるような素振りを見せて………

 

「………わからないわ」

 

そう返事をする。ん?わからないって何だ?

 

疑問に思っている中オーフェリアは説明を続ける。

 

「……絶対にあり得ないけど……もし自由になったらしたい事があるの。だけどそれは絶対に叶わない事だから……」

 

「したい事?何ですか?したい事があるなら王竜星武祭で優勝した時に叶えて貰うのはダメなんですか?」

 

まあ普通に考えたらそうだが……ディルクの為に願いを使ったのか?

 

疑問に思っているとオーフェリアは小町に近寄り小町の耳に顔を近付ける。何だ?俺が聞いちゃいけない事か?

 

オーフェリアが小町から離れると小町は驚きの表情を浮かべオーフェリアに話しかける。

 

「……オーフェリアさん。それは本当ですか?」

 

「……ええ」

 

「そうですか。オーフェリアさんの境遇からしたら厳しいかもしれませんがお兄ちゃんの妹としては応援します」

 

「ん?おい小町。俺がどうかしたのか?」

 

オーフェリアの願いは俺が関係しているようだが何なんだ?

 

「それはもしオーフェリアさんが自由になったら、その後オーフェリアさん自身が言う事で小町の言う事じゃないよ」

 

「そうか。じゃあオーフェリアが自由になったら聞く」

 

「そうして」

 

「……待って。さっきから聞いていればまるで私が自由になるように言っているの?」

 

オーフェリアが信じられない表情をしながら俺と小町を見てくる。

 

「そうですね。小町はオーフェリアさんはいつか自由になると思っています」

 

「……その根拠は?」

 

「勘です」

 

小町はそう言うとテヘペロをする。可愛い、可愛いがイラッときた。

 

オーフェリアは若干呆れた表情を浮かべながら額に手を当てている。

 

 

 

 

「……はぁ。やっぱり小町は八幡の妹ね」

 

待てコラ。それはどういう意味だ。

 

俺が突っ込もうとすると端末が鳴り響く。次の試合が始まるのを伝えるアラームだ。

 

「あ!次の試合がそろそろ始まるみたいだね。小町達は今から試合を見ながらシャワー浴びるから」

 

「あ、まだ浴びてなかったのか。じゃあ俺達は帰る」

 

そう言って俺達は立ち上がる。

 

「じゃあまたね、お兄ちゃん、オーフェリアさん」

 

「また次の試合で」

 

2人に見送られながら控え室を後にした。

 

 

控え室を出るとオーフェリアが制服を掴んでくる。

 

「……八幡」

 

「何だ?」

 

「……もし小町の言う通り、私が自由になったら……その……」

 

オーフェリアはそう言ってモジモジし始める。こいつが俺に対して何を願うか知らないが……

 

「わかってる。もしお前が自由になったら俺がお前の願いを叶えてやる」

 

オーフェリアの願いに俺の協力が必要なら喜んで力を貸してやる。それくらいおやすい御用だ。

 

「……そう」

 

俺がそう言うとオーフェリアは頬を染めて俯き出す。

 

(……ん?理由はないが失言をした気がする)

 

俺は胸に妙にモヤモヤした物を感じながらオーフェリアと一緒に会場に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「そういえば小町ちゃん」

 

「はい。何ですか?」

 

「オーフェリアさんの願いって何だったの?聞いた限りじゃ八幡が必要みたいだけど」

 

「あー、そうですね。オーフェリアさんの願いは……」

 

控え室にいる小町は一つ区切り、戸塚に対して口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーお兄ちゃんと結婚して、誰にも干渉されず幸せに暮らしたいんだってーーー


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