最悪の状況
今の俺の状況はその一言に尽きる。理由は簡単だ。第三者が見たら全員が最悪の状況だと断言するだろう。
何故なら……
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「ねぇ八幡君。何でオーフェリアさんの胸を揉んでいるのかな?」
目の前にドス黒いオーラを纏ったシルヴィが笑顔(ただし瞳は絶対零度だが)で俺に話しかけてくる。
怖い。マジで怖い。この状態のシルヴィと戦ったら確実に負けるだろう。それくらい怖い。
まあ気持ちはわかる。何せ今の俺はオーフェリアの胸を揉んでいるからだ。
だがちょっと待って欲しい。俺が自身の意思で揉んだ訳ではない。オーフェリアが俺の手を掴んで胸に運んだんだ。一瞬触りたいと思っていた事は口にしないが。
「い、いや……それはだな、オーフェリアが触らせてきたんだよ」
オーフェリアの胸から手を離してシルヴィに弁解する。そう説明するとシルヴィはドス黒いオーラを消すもジト目で見てくる。
「……まあ八幡君が自分から触るとは思えないからそれは信じるよ。でも八幡君心の奥では嬉しいって思ってるでしょ?嫌なら本気で抵抗するけど八幡君そこまで嫌そうじゃなかったし 」
ギクリ
何でわかんだよ?
確かに嫌じゃなかったし……寧ろシルヴィの言う通り少し嬉しいって思った。それについては否定しない。
「ま、まあ……一瞬魔がさしたのは事実だ」
嘘を吐いて怒られるのが嫌なので正直に話す。
「……そうなの八幡?」
「……ふーん。そうなんだ」
俺がそう返すとオーフェリアは腕を絡めてきて、シルヴィはジト目のまま俺の足をグリグリしてくる。シルヴィ痛いから……
「シルヴィ、痛いから止めてくれ」
俺が頼むとシルヴィは頬を膨らませてくる。怒っているようだがお前がそんな仕草をしても可愛いだけだからな?
「ふーんだ。八幡君のバカ。私を心配させたのに……」
「は?心配だと?」
俺なんかシルヴィを心配させる事をしたか?はっきり言って見当もつかないんだけど。
「……八幡君お腹が痛いって言ってVIP席を出てから全然帰ってこなかったじゃん。だから私は心配して探しに来たのに……」
そう言ってシルヴィはそっぽを向く。
(……そいつは悪い事をしたな)
しかも手洗いに行くのは建前で本当の目的はシルヴィに照れてる所を見られるのを防ぐ為だ。そんな目的で逃げた俺をシルヴィは心配して探しに来てくれた。騙して心配させた挙句あんな場面を見せるとは……
「悪かったなシルヴィ。俺の出来ることなら何でもするから許してくれ」
誠心誠意を込めて謝る。今回は完全に俺が悪いのでしっかり謝るべきだろう。
「……何でも?」
シルヴィはジト目のまま確かめるように俺に聞いてくる。
「あ、ああ。俺に出来ることならな」
まあ俺に出来ることなんてたかが知れてるがな。シルヴィも無茶な要求はしないだろう。
シルヴィは顎に手を当てて考える素振りを見せてくる。頼むから無茶な要求はしないでくれよ。
そう思っているとシルヴィは手をポンと叩く。どうやら決まったようだな。
「じゃあ今日八幡君の家に泊まって2人きりで過ごしたいんだけど」
………は?
シルヴィが俺の家に泊まるだと?
「……シルヴィア、どういうつもり?」
俺がシルヴィに質問をしようとしたが、その前に俺の右腕に抱きついているオーフェリアが不機嫌な表情でシルヴィを見てくる。
「どういうつもりって私が八幡君の家に泊まりたいからお願いしただけだよ?オーフェリアさんが怒る事じゃないと思うな?」
シルヴィはオーフェリアに対して不敵な笑みを浮かべながら俺の左腕に抱きついてきた。柔らかな膨らみが腕に当たってヤバい。
「……土俵に上がったのね」
「ふふっ……負けないから」
「………私も負けない」
そう言うとオーフェリアは更に強く腕に抱きついてくる。ちょっとちょっと?!マジでヤバいですから!
つーかマジで何の勝負をしてるんだ?全くもって見当がつかないんですけど。少なくとも戦闘関係じゃないのは確かだと思うが……
「じゃあ八幡君、今日はよろしくね」
考えに耽っているとシルヴィが話しかけてくる。
「……まあ何でもすると言ったからするけど」
「やった♪ありがとう」
シルヴィはさっきとは一転、本当に楽しそうな表情を見せてくる。その笑顔を見ると幸せな気分になってくる。やっぱりシルヴィの笑顔は魅力的だな。
「……じゃあ八幡、私も明日以降に八幡の家に泊まっていい?」
オーフェリアが上目遣いでお願いをしてくる。こいつもかよ……
「別に構わない」
オーフェリアとは既に何度も一夜を過ごしているからな。ぶっちゃけもう慣れた。
「……そう。ふふっ……」
オーフェリアはそう言って頭をスリスリしてくる。慣れたのは事実だが……スキンシップは減らして欲しい。何せ寝てる時なんて舐めてきたりくすぐったりしてくるからな。
俺は2人の美少女に挟まれているからか、周りにいる男子に睨まれながらVIP席に向かって歩き出した。通行人の皆さんは睨むのを止めてください。お願いしますから
「……八幡、あーん」
ステージで第2試合の出場選手である刀藤と沙々宮が勝利して控え室に戻ろうとしている中、VIP席にいる俺は右隣にいるオーフェリアにクッキーを差し出されている。
「……はいよ」
ため息を吐きながら口を開けるとクッキーが口の中に入る。よく噛むと味が口の中で広がる。
「……美味しい?」
「……美味い」
「そう。なら良かった」
オーフェリアはそう言うと、今度は左隣にいるシルヴィがチョコレートを差し出してきた。
「八幡君あーん」
そう言うとチョコレートを近づけてくる。
「……なあお前ら。自分で食うから腕を離してくれないか?」
現在俺の両腕はオーフェリアとシルヴィに抱きつかれているので自由に動かせない。よって物を食う時は食べさせて貰っている。
特に怪我をしてる訳ではないので自分で食いたいと思っているのだが……
「「却下」」
2人に一蹴される。何でわざわざこんな事をやってんだよ。全くもって意味がわからないな。
そう思っているとシルヴィは更にチョコレートを近づけてくる。見ると満面の笑みでありながら微妙に迫力を感じる。
「八幡君、あーん」
その圧力に逆らえず口を開けてしまう。するとチョコレートは口に入り、口の中で溶けて甘い味が広がる。
「美味しい?」
「まあな」
「良かった。八幡君がそう言うと嬉しいな」
シルヴィは笑顔で頷くと更に強く腕を抱きしめてくる。そして更に柔らかな感触を腕に感じる。
その感触に緊張していると
「……八幡」
いきなりオーフェリアが俺に顔を近づけて……
「んっ……」
いきなり唇に近い頬を舐めてきた。
「なっ、なっ、なっ……」
オーフェリアのいきなりの行動に驚いているとシルヴィがオーフェリアに顔を近づける。
「……オーフェリアさん?何をしたの?」
ジト目だ。シルヴィがジト目でオーフェリアを見ている。それに対するオーフェリアはほんの少しだけ笑みを浮かべている。
「……八幡の頬に食べカスが付いていたから取っただけよ?」
そんな風に返事をするとシルヴィから黒いオーラが少しだけ漂いだす。頼むから喧嘩するなよ?
「ふーん。でも口で取る必要はないんじゃなかいかな?」
「……それは私の自由じゃない?それに八幡は満更でもない顔をしてるけど?」
するとオーフェリアが唐突に俺の名前を出してくる。するとシルヴィは俺の事を見てくる。まるで全てを見透かすかのようにじっと見てくる。
「八幡君。満更でもないの?」
「え?あ、いや、そのだな……」
ついテンパってしまう。満更でもないのは事実だ。しかもいきなり指摘されたので否定する事が出来なかった。
「……ふーん。満更でもないみたいだね」
シルヴィはジト目で俺を見ながら更に強く腕に抱きついてくる。
もう勘弁してくれ!両腕とも柔らかな膨らみに挟まれるって理性を失いそうでヤバい!そしてシルヴィは足を踏むな!
(誰か助けてくれ!!)
すると俺の祈りが通じたのか……
『さぁさぁ皆様お待ちかね!いよいよ準々決勝第3試合が始まろうとしています!まず東ゲートからその姿を現したのは、星導館学園の比企谷小町・戸塚彩加ペア!そしてその反対側の西ゲートからはクインヴェール女学園の雪ノ下雪乃・由比ヶ浜結衣ペアの入場です!』
会場に実況の声が流れ歓声が上がる。良し、この機会は逃さない!
「おい。そろそろ試合が始まるから菓子はその辺でいい」
そう言って半ば無理やり2人から腕を解放する。このタイミングなら問題ないだろう。
すると俺の予想通り2人は文句を言わずに菓子を片付け始める。ナイスタイミングでアナウンスがあって本当に良かったぜ。
内心実況に感謝していると4人がステージに立つ。そして何かを話しているようだ。
「この試合は全員八幡君の知り合いだね」
「そうだな。つーかクインヴェールの生徒が鳳凰星武祭でベスト8入りするの久しぶりじゃね?」
王竜星武祭や獅鷲星武祭はシルヴィやルサールカが好成績を出しているが鳳凰星武祭では強い奴を余り見ない。まあクインヴェールは星武祭を学生の魅力を引き出す為のステージとしてるからなぁ……
「そうだね。だから2人には頑張って欲しいね」
「まあ生徒会長からしたらそうかもな」
実際の所どっちが勝つか分からない。雪ノ下は冒頭の十二人クラスの実力だし由比ヶ浜の能力もかなり面倒な物だ。小町達はかなり厳しい戦いを強いられるだろう。
そう思っているとアナウンスが流れる。
『さあ!そうこうしているうちにいよいよ試合開始の時間となりました!勝利の女神が微笑むのは星導館なのか、はたまたクインヴェールなのか!』
ステージでは小町と雪ノ下がそれぞれハンドガン型煌式武装とレイピア型煌式武装を展開して、戸塚と由比ヶ浜がそれぞれのペアの後ろにつく。準備は万全のようだ。
緊張感が高まる中、
『鳳凰星武祭準々決勝第3試合、試合開始!』
試合開始の宣言がされた。