試合開始の宣言がされると同時に小町はハンドガン型煌式武装で狙いを定めて発砲する。狙いは雪ノ下の胸にある校章。開始と同時にあそこまで見事に校章を狙える銃使いは数少ないだろう。
しかし雪ノ下も冒頭の十二人クラスの実力を持っているので決まらない。雪ノ下がレイピア型煌式武装を振るって光弾を斬り払う。
開幕直後の先制パンチは失敗か。
すると雪ノ下の後ろから真っ白な犬が6匹小町に襲いかかる。出たな爆弾犬。
小町はバックステップで後ろに下がりながら発砲して6匹全ての頭を撃ち抜く。つーか今思ったが犬の頭を撃ち抜くってヤバい絵面だな……
ステージでの嫌な光景を見ていると由比ヶ浜の犬が爆発する。それによって爆風が起こり小町と雪ノ下の間に煙が出る。
雪ノ下の周囲から万応素が噴き出す。なるほどな。由比ヶ浜の犬は囮で小町の隙を作り雪ノ下の能力をぶつけるのが狙いか。
雪ノ下の能力は小町の射撃と違ってそこまで正確に狙わなくても当たる能力だ。煙がある状態で小町が雪ノ下と戦っても100%負けるだろう。
『凍てつきなさいーーー氷槍雨』
雪ノ下がレイピア型煌式武装を振るうと雪ノ下の周囲に8つの氷の槍が顕現される。その姿はまるでオーケストラの指揮者の様に見える。
そして顕現すると同時にレイピア型煌式武装が振り下ろされて氷の槍が射出される。8つの槍が小町を狙う。
しかし、
『させないよ!』
小町の周囲に巨大な盾が現れて氷の槍を弾いた。戸塚の盾は分割しなければかなり頑丈だ。あの程度の攻撃なら問題なく防げるだろう。
盾が氷の槍を全て防いだのを確認した小町は盾の後ろから雪ノ下達の足元に向けて光弾を放つ。
雪ノ下達は後退する事でそれに対処した。その間に小町達も後退して体勢を立て直した。これで一旦仕切り直しのようだな。
「……小町の純星煌式武装は乱発は出来ないし、結構不利だな」
「純星煌式武装って本戦一回戦で『鎧装の魔術師』を倒した銃だよね?どんな代償なの?」
腕に抱きついているシルヴィが聞いてくる。
「とにかく星辰力の消費が激しい。小町の星辰力を100としたら『冥王の覇銃』一発の消費星辰力は40から45だ」
「それかなり燃費が悪くない?」
「まあな。そのかわりに俺の影狼修羅鎧も破壊出来る威力だからな」
「そうなんだ。でも今回の試合では余り役に立たないね」
シルヴィと話しているとステージでは光弾と大量の盾、氷の槍と白い犬がぶつかり合って爆音が会場に響き渡っている。正に一進一退の攻防だ。
するとこの状況を打破する為か雪ノ下の周囲から万応素が噴き出す。能力の使用か?
そしてーー
『そびえ立ちなさいーーー絶対氷王城』
するとステージに半径15メートルを超える魔方陣が現れてそこから氷が現れる。
氷がどんどん魔方陣から現れて形を変えていきーーー
『おおっと!ここで雪ノ下選手の能力が発動!ステージに巨大な氷の城が完成したぁ!』
『この能力は初めて見るッスけど噴き出してる万応素からしてかなり丈夫な城だと思うッスね』
ステージには半径15メートル、高さ10メートルを超える巨大な氷の城が出来た。見た目は俺がアスタリスクに来る前に住んでいた千葉を代表する遊園地の城そっくりだ。そして氷の城は透明で城の中に雪ノ下と由比ヶ浜がいるのがよく見える。
そして城の中では雪ノ下が体をよろめかせていた。その事から雪ノ下は氷の城を作るのに自分の星辰力の殆どを注ぎ込んだのがわかる。
しかしそこまでして氷の城を作る理由は何なんだ?
疑問に思っているとーーー
『いけー!』
由比ヶ浜の声が聞こえると同時に氷の城の外に小さな魔方陣が現れて白い犬が現れる。
その数20匹、さっきまでより3倍以上の数の犬が現れて小町と戸塚に飛んでいく。
2人は持っている銃を使って次々に撃破する。しかし数が多く数匹は2人の近くで爆発して爆風が2人を襲う。
爆風をくらった小町達は軽傷だがダメージを受けているが幸いな事に校章にダメージはない。
しかしーー
『まだまだ行くよー!』
同時に再び魔方陣が現れて今度は30匹の犬が現れる。明らかに防御を無視して攻めている。
『ここまで攻めるという事は雪ノ下選手の作った城は防御用って事ッスね』
解説の言う通りだ。普通能力者は攻撃する時も防御する事も考えなくちゃいけないが……
「防御を考えていないって事は雪ノ下の防御を信頼してるんだろうな」
そうでないとあそこまでガンガン攻める訳がない。よほど信頼してるんだろう。
しかし……ヤバいな、いくら2人が散弾型煌式武装を持っていても、犬が多方向から攻めてきたら負けるぞ。
その事を小町達も理解したのか2人は後ろに下がる。そして小町は懐から紫のマナダイトーーーウルム=マナダイトが埋め込まれた待機状態の煌式武装を取り出す。
『おおっと!ここで比企谷選手、レムス選手を打ち破った純星煌式武装『冥王の覇銃』を取り出したぁ!』
実況が叫ぶ中、『冥王の覇銃』は起動状態となりウルム=マナダイトが紫色の輝きを放つ。
『それはマズい!!』
由比ヶ浜がそう言って手を振ると犬が吠えてから色々な方向から小町に飛びかかる。『冥王の覇銃』は強力ゆえに両手でないと扱えない。つまり今の小町は隙だらけだ。
しかしーー
『させないよ!』
これは鳳凰星武祭、小町の隙はパートナーの戸塚が盾を分割して由比ヶ浜の犬とぶつけ相殺する事でカバーをする。
小町の周囲で爆風が漂う中、遂にウルム=マナダイトの輝きが最高潮に達する。
瞬間、『冥王の覇銃』の引き金が引かれ銃口から紫色のスパークを帯びた黒い光が一直線に氷の城に向かって突き進んだ。
城に当たると激しいスパークが起こり観客の目を襲う。『冥王の覇銃』から放たれた光は徐々に氷の壁を破壊していき……
『比企谷選手の『冥王の覇銃』が炸裂!大爆発が起こっているがどうなった?!』
爆発が起こりステージ全体が煙に包まれる。今見えるのは氷の城のてっぺん辺りだけだ。しかしそれは崩れていないので完全崩壊は無理だったのだろう。その事からこの城の頑丈さが嫌でも理解出来る。
そう思っていると煙が徐々に晴れていき小町が見えーーー
小町の全身を大量の氷の槍が蹂躙した。
『比企谷小町、校章破損』
ステージに機械音声が流れ出す。………は?
小町が負けただと?マジでどうなったんだ?
疑問に思っていると煙が晴れる。そしてそこには……
由比ヶ浜に支えられている雪ノ下が小町に手を向けていた。そして氷の城を見ると城壁の一部が崩壊していた。
『おおっと!ここで比企谷選手が脱落!これはどういう事でしょうか?!』
『おそらく比企谷選手の放った『冥王の覇銃の』一撃は城壁を破壊する事は出来ましたが雪ノ下選手と由比ヶ浜選手には当たらなかったみたいッスね。そして爆風がある場所で戦ったら雪ノ下選手の方が比企谷選手より上ッスからこういう結果になったんじゃないッスか?』
なるほどな……
『冥王の覇銃』によって城壁の破壊には成功したが雪ノ下達には当たらなかった。そして爆風の中の射撃はまず当たらないが、能力による攻撃はそこまで狙いを定めなくても良い。
だから雪ノ下は最後当てずっぽうで攻撃して、その結果小町の校章を破壊出来たのだろう。
まあ何にせよ……
「……勝負あったわね」
オーフェリアの言う通り勝負は決まっただろう。
ステージでは戸塚が盾を分割して由比ヶ浜の犬を防いでいるが分が悪いのは簡単にわかる。
その上雪ノ下もまだ戦える状態のようで由比ヶ浜の援護をしている。正確に戸塚を狙っている。
戸塚は最後まで粘りに粘ったが……
『試合終了!勝者、雪ノ下雪乃&由比ヶ浜結衣!』
機械音声が試合の決着を告げる。残念だが負けてしまったな。
比企谷小町&戸塚彩加 準々決勝にて敗北
『お兄ちゃん負けちゃったよぉ!!凄く悔しい!』
それから20分、俺は今第四試合の天霧、リースフェルトペアと界龍の双子ペアの試合を見ながら小町と電話をしている。
「まあそうだな……強いて言うなら『冥王の覇銃』を撃ったら直ぐに下がるべきだったな。そうすれば少なくとも直ぐに負ける事はなかったと思うぞ?」
ステージに浮かんでいる八つの爆雷球を見ながらそう返事をする。
試合はというと天霧が無双をしている。
序盤は押されていたがリースフェルトが時間稼ぎをしているうちに何かしたのだろう。試合が始まって10分もしているが未だに天霧は問題なく力を振るって双子の妹を撃破した。
『うん……そうだよね。少し油断したかも』
「まあ負けちまったもんは仕方ない。雪ノ下は次の王竜星武祭に出るんだしそん時にリベンジしろ」
『うんわかった。……悪いけどもう切るね』
「わかった。じゃあな」
そう言って電話を切る。
「随分悔しがってたね」
隣にいるシルヴィが話しかけてくる。
「まあそうだろうな。俺もお前に負けた時はメチャクチャ悔しかったし」
俺自身負けてもそこまで悔しくないだろうと思っていたがシルヴィに負けた時はメチャクチャ悔しかった。多分勝てない試合じゃなかったからだろう。
「誰だって負けたら悔しいよ。だから私は悔しさを糧にして次の王竜星武祭では優勝するつもりだし」
「……それは無理ね。八幡やシルヴィアの運命じゃ私の運命は覆せないから」
「やってみなきゃわからないよ。だから私は王竜星武祭についても八幡君についても負けないから」
「………は?」
何で俺の名前を出す?つーかシルヴィよ、胸を当てるな。大分慣れてきたとはいえキツいんですけど?
「………絶対に負けないわ」
するとオーフェリアはさっきとは違ってムッとしたような表情を浮かべてくる。怒る理由についてはわからないが最近オーフェリアの奴、表情を出すようになってくれて嬉しいな。それは嬉しいがシルヴィ同様胸を当てるな。
「……なあ、頼むから離れてくれな「「却下」」……さいですか」
最後まで言う事なく却下をくらう。こりゃ離れて貰うのは無理だろうな。
ため息を吐きながらステージを見ると天霧が『黒炉の魔剣』を振るって爆雷球を薙ぎ払う。さらにその衝撃で巻き起こりかけていた大爆発を、上段から振り下ろす一撃で爆風ごと断ち切った。
「……ったくつくづく四色の魔剣はふざけた能力を持ってんな」
呆れた声を出す中、天霧は『黒炉の魔剣』を手放し『幻映霧散』との距離を詰めーーー
『ーーーさすがに少し腹が立ったよ』
そう言って顔面に拳を叩き込んだ。
それをくらった沈雲は一気に壁に激突してそのまま気を失って試合が終了した。
嵐のような大歓声と喝采が吹き荒れる中俺が思った事は……
(天霧を怒らせるとヤバそうだな。そしてシルヴィとオーフェリアは俺に抱きつきながらお互いに睨み合うのは止めてくれ)
俺を挟んで睨み合っている2人に辟易しながらため息を吐いた。
「うーん。今日も楽しかった」
帰りのモノレールにて、シルヴィは伸びをしながらそう言ってくる。伸びをする事で揺れる二つの塊を見ていたらオーフェリアに抓られた、解せぬ。
「……八幡のバカ」
「痛い痛い。オーフェリア、痛いから止めてくれ」
そう言うとオーフェリアは手は離してくれるもののジト目で見てくる。何か凄い悪い事をした気分だな。
「……八幡の寮にもあった卑猥な雑誌の事もあるしやっぱり八幡は胸が好きなのね」
「待て待て待て。頼むからそれ以上言わないでくれ」
モノレールの中にいる人が冷たい眼差しで見てくる。早く降りる駅に着いてくれないと視線によって体に穴が開きそうだ。
「……ふーん。八幡君そんなにエッチな本を持ってるんだ」
それを聞いたシルヴィもオーフェリア同様ジト目で俺を見ながら抓ってきた。だから痛いって。
「……シルヴィア、今日八幡の寮に泊まるなら処分しておいて」
オーフェリアがジト目のままシルヴィにそう頼む。
「は?ちょっと待ってオーフェリア。それは止めて欲し「わかった。任せといて」……おい」
2人の連携っぷりに呆れた視線を向けていると……
「八幡(君)は高1でしょ(だよね)?そういう(エッチな)本は18歳になってから(だよ)。それに……」
オーフェリアとシルヴィはいきなり真っ赤になりながら俺の耳に顔を寄せて……
「……そういう事がしたいなら私がしてあげる(よ)」
いきなり爆弾を投下してきた。
その後の俺の記憶はなかった。