「……ん」
頭の中が真っ白だ。
「……君」
ダメだ。何も考えが浮かばない。何なんだこの状況は?
「八幡君!」
いきなり背中に衝撃が走る。痛え!
痛みに驚いているとーーー
「やっと戻ってきたね。もう駅に着いたよ」
目の前にシルヴィとオーフェリアがいた。そして俺は今モノレールに乗っていた。
「あれ?俺達今シリウスドームを出たばっかじゃん。もう着いたのか?」
俺の記憶では準々決勝を見終わって今シリウスドームを出た筈だったが……どんだけボーッとしてたんだ?
「つーかマジでモノレールに乗ってた記憶がないんだけど……」
さっきまで頭の中が真っ白だったし。
俺が独り言を呟いていると視界の隅でオーフェリアとシルヴィが真っ赤になって俯いている。え?何その表情?俺2人に変な事をしていたのか?
「………八幡。私達が言った事、本当に覚えていない?」
するとオーフェリアが頬を染めながら詰め寄ってくる。近い近い近いから!!
「あ、ああ。覚えていないが……お前ら俺に変な事を言ったのか?」
「……何でもないわ。ねぇシルヴィア?」
「う、うん何でもないよ。八幡君は気にしないで」
いや、そうは言っているが顔真っ赤だからな?明らかに何かあっただろ?
かなり気になったが聞くのは止めておこう。明らかにヤバい地雷だと思うし。
俺はそれで話は終わりとばかりに息を吐いてモノレールから降りて改札に向かって歩き出した。
それから20分……
「じゃあオーフェリア、またな」
俺は今オーフェリアの寮の前にいる。駅を降りてからオーフェリアを寮まで送ってからシルヴィを俺の寮に案内する手順となった。
「……ええ。八幡……」
オーフェリアは頷いてから俺に抱きついてくる。いつもの事だ。オーフェリアと別れる時は必ず抱きしめてから別れる。
俺はいつも通りオーフェリアの背中に手を回して優しく抱きしめる。これでオーフェリアが喜ぶなら恥じらいなど捨てていくらでもやるつもりだ。
「んっ……八幡、頭撫でて」
オーフェリアは上目遣いでおねだりをしてくる。毎回思うがオーフェリアの上目遣いは破壊力があり過ぎる……これがギャップ萌えというヤツなのか?
「はいはい」
俺は苦笑しながらオーフェリアの髪を優しく撫でる。少しでもオーフェリアに喜んで貰いたい、その一心で。
「……もういいわ。ありがとう」
オーフェリアがそう言うので抱擁をとく。抱きしめるのは慣れたがオーフェリアのおねだりは当分慣れないだろう。
「じゃあオーフェリア、またな」
「……ええ。それと……今度八幡の寮に泊まる約束、忘れないで」
「はいはい、わかったよ」
「ありがとう。それとシルヴィア……」
オーフェリアはシルヴィに近寄って耳打ちをする。するとシルヴィは苦笑いする。
「大丈夫だよ。まだそれをする勇気はないから」
「まだ、ね」
「うん。まだだよ。オーフェリアさんもそうでしょ?」
「ええ。まだないわ」
「だから今日はそこまで差がつかないと思うよ」
何だ?差がつかないとか言っているがさっきから何の話をしてるんだ?
興味はあるが何となく嫌な予感がするので聞かないでおこう。聞いたら地雷な気がする。
そう思っていると……
「じゃあ、また明日」
そう言ってオーフェリアは自分の寮に入って行った。
オーフェリアが見えなくなるのを確認した所でシルヴィが話しかけてきた。
「じゃあ八幡君。行こうか」
そう言って腕に抱きついてくる。こいつも段々行動パターンがオーフェリアに似てきたな。シルヴィも最近結構変わっているが何があったんだ?
俺は疑問符を浮かべながらシルヴィと腕を組み自分の寮に向けて歩き出した。
それから……
「んじゃ上がれよ」
俺は自分の寮に着いたのでドアを開けてシルヴィを招く。今更だが世界の歌姫を招くって……いくらシルヴィがお願いしてきたからってヤバい行動だろ?俺いつか殺されそうだな。
「お邪魔します」
当のシルヴィは楽しそうな表情をして中に入るが俺の寮に面白い事なんてないと思うぞ?
若干呆れていると腹が鳴る。準々決勝が終わったのは6時前で今は7時だ。腹が鳴ってもおかしくない時間帯だ。
「おう。んじゃ今から飯作るから適当に寛いでくれ」
そう言ってキッチンに向かう。さて……今日はシルヴィもいるから脂っこくない料理にしないとな。
すると……
「あ、私も手伝うよ」
シルヴィもキッチンに入ってくる。
「いやいや、お前客だから休んでていいぞ?」
「ううん。泊めて貰うんだからお手伝いするのは当然だよ。それに私がやりたいからやるんだし」
シルヴィは笑顔だが譲る気配は感じない。シルヴィは結構頑固である事を知っているので引き受けるか。
「わかった。じゃあ頼んでいいか?」
「もちろん。何を作るの?」
「そうだな……肉と魚どっちがいい?」
「うーん。昨日魚を食べたから肉でお願い」
「はいよ」
シルヴィは肉を所望しているようだ。冷蔵庫を開けてみると鶏肉と豚肉があった。
「作るとしたら唐揚げか豚の生姜焼きにするがどうする?」
「じゃあ生姜焼きにして貰っていい?あ、八幡君が唐揚げかいいなら唐揚げでいいよ」
「どっちでもいいから生姜焼きで構わない」
「ありがとう。じゃあ私米をとぐね」
そう言うとシルヴィは米を洗い出すので俺はサラダを作る為に冷蔵庫から野菜を取り出す。
レタスなど野菜を洗い切っているとシルヴィが話しかけてきた。
「ねえ八幡君、こうして2人で料理するのって……新婚さんみたいだと思わない?」
爆弾を落としてきた。
「し、シルヴィ!いきなり恥ずかしい事を言うな!」
顔が熱くなるのを感じながらシルヴィを睨むも、当のシルヴィは笑っている。
「八幡君照れてるの?可愛い」
そりゃ照れるわ!世界の歌姫と結婚なんて………想像しただけで顔が熱くなる。あり得ないがもしも実際にシルヴィと結婚する事になったら恥ずかしさの余り悶死しそうだ。
シルヴィの冗談に恥ずかしがりながらシルヴィを見ると真っ赤になりながら俯いていた。
「おいシルヴィ。大丈夫か?」
「う、うん!大丈夫だよ!」
いや絶対大丈夫じゃないだろ?いきなりどうしたんだ?
その後も疑問に思いながら何度も聞いたが、その度に真っ赤になって首を振って教えてくれなかったので諦めた。
「よし……これで完成だな」
「味噌汁も出来たよ」
それから30分、生姜焼きの匂いが漂うキッチンにて俺とシルヴィは夕食を完成させた。
「シルヴィの味噌汁美味そうだな」
「ありがとう。これでも料理は自信があるんだ」
相変わらず完璧な奴だな。正直言って凄すぎて嫉妬の感情が浮かばないぜ。
シルヴィの凄さに感服しながら料理をテーブルの上に置く。料理を全て置くとシルヴィは俺の横にくっついてくる。シルヴィもオーフェリアと同じかよ?
「いただきます」
シルヴィがそう言うので若干慌てて俺も挨拶をする。
「いただきます」
挨拶をして夕食を食べ始める。……うん、俺が作る味噌汁よりシルヴィが作った味噌汁の方が数段上だ。専業主夫を目指す者として今後も精進しないとな。
シルヴィの味噌汁に対抗意識を出していると……
「八幡君」
いきなりシルヴィに話しかけられたので振り向くと……
「はいあーん」
いきなり口の中にレタスが入る。随分いきなりだな……
シルヴィを見るとコロコロ笑いながら
「美味しい?」
そう聞いてくる。
「まあ、な」
シャキシャキして美味い。まあ俺が作った物だから自画自賛だけど。
「ふふっ。あーん」
そう言って今度は生姜焼きを口に入れてくるが、俺は雛鳥扱いかよ?
結局、あーんをされまくった夕食となった。まあ誰かと一緒に夕食を取るのはアスタリスクに来てからは余り経験しなかったのでそこそこ楽しめたから良しとするか。
「それで明日は午後に仕事があるから一緒に見れないと思う」
「そうかわかった。じゃあ第1試合はいつものVIP席でいいのか?」
「うん」
夕食を済ませた俺達は他愛のない雑談を交わしている。まあ俺自身コミュ障なので話す事は星武祭関係の事だらけだが。
「そうか。じゃあ後でオーフェリアと一緒に集合時間を『pipipi』……っと、もう湧いたか」
話していると風呂が沸いたという知らせが来た。
「続きは後でな。どっちから先に入る?」
俺がそう尋ねるとシルヴィは頬を染める。今の会話で頬を染める内容があったか?
「あ……う、うん。八幡君が洗ったし八幡君からでいいよ」
「そうか。じゃあちょっと行ってくる」
「う、うん……」
シルヴィから了承を得たので洗面所に向かった。しかしシルヴィは何で挙動不審になっていたんだ?
洗面所に着いた俺はパパッと服を脱ぎ全裸になり風呂場に入る。湯気が出ていて風呂に来たという実感を感じる。
「ふぅ……」
俺は息を吐いて頭を濡らしシャンプーを頭に付けて洗い始める。夏は汗をかくからしっかりと洗わないといけない。
とにかく頭を擦り全体にシャンプーが広がったのでシャワーで流し始めると洗面所からシルヴィが話しかけてきた。
「は、八幡君。湯加減はどう?」
「ん?いやまだ湯船には入ってない。今頭を洗ってて体を洗い終わったら入る」
「そ、そうなんだ……」
洗面所を見るとシルヴィの影が薄く見える。さっきから突っ立っているがどうしたんだ?
「シルヴィ、いきなり話しかけてきたが何か用か?」
「え?う、うん。ちょっとね……」
「そうか。悪いが今はシャンプーを洗い流してるから後にしてくれ」
さっきからシャンプーが目に入って痛い。俺は会話を打ち切りシャワーでシャンプーを洗い流す。シルヴィも話があるようだし急がないとな……
俺は急いでシャワーを流す。よし、これで頭は洗い終わったしシルヴィに話を『ガララッ』……ん?ガララッ?何の音だ?
疑問に思いながら振り向くと……
「は、八幡君………背中、流していいかな?」
女神のように美しい体にバスタオルを巻いて顔を茹で蛸のように真っ赤にしているシルヴィが恥ずかしそうにしながら洗面所から入ってきた。