学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は救出作戦に挑む(前編)

集合場所のトイレで待つ事10分……

 

「……お待たせ」

 

声をかけられたので振り向くと沙々宮と刀藤がいた。帽子を被っているのは変装の為だろう。つーか結構傷が目立っているが大丈夫なのか?

 

「来たか。んじゃ行くぞ」

 

「あ、あの……場所はわかるんですか?」

 

「ああ。以前エンフィールドに発信機を仕込むように頼んだ」

 

そう返すと2人が驚きの表情を見せてくる。っても沙々宮はそこまで表情を変えていないが。

 

「は、発信機ですか?い、いつの間に?」

 

「この前エンフィールドとディルクの対策をした時にエンフィールドがフローラが狙われる可能性があると言ってきたから発信機を渡したんだよ」

 

「……でも誘拐犯が破壊していたら?」

 

「それについては問題ない。発信機と言っても正体は俺の影だ」

 

そう言って俺の影の一部を地面から剥がし2人に見せる。

 

「こいつをエンフィールドに渡してフローラに付けてもらったんだよ。俺の影は俺の能力によって俺の足元から離れても何処にあるか直ぐにわかる」

 

「つまり比企谷先輩専用の発信機という事ですか?」

 

「ああ。俺からすれば場所を教えてくれる発信機、俺以外の人間からすれば黒い塊でしかない。それに今もその影は動いてるから犯人にはバレていない」

 

反応があるのは2つで1つはここシリウスドームにあるがこれはオーフェリアに作った影の服だから違う。残った1つはシリウスドームからドンドン離れているがこいつがフローラだろう。

 

「さて、話は終わりだ。今から移動するから俺の体に触れろ」

 

「……どういう意味だ?」

 

「ここからは敵に見つかったら面倒だから俺の影の中に潜って移動する。万が一見つかったらマズイからな。という事でさっさと俺の体に触れろ。でないと潜れない」

 

周りには人がいないがいつ来るか分からない以上急いだ方がいい。

 

「……わかった」

 

「は、はい!」

 

2人が俺の手を握ってくるので影に星辰力を込める。

 

「影よ」

 

影が俺達3人に纏わりつきそのまま影の中に潜り込む。

 

「……ここが影の中」

 

「不思議な気分がしますね」

 

2人がそう言って周りを見渡すが上以外は黒しかないぞ?

 

そんな事を考えながら俺は影を動かして移動を始めた。影の反応は徐々に遠ざかっている。向かっている方向からして再開発エリアか歓楽街あたりだろう。いかにもレヴォルフの生徒が使いそうな場所だ。

 

 

フローラがいる場所を逐次確認するように決心しながらシリウスドームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……比企谷、聞きたい事がある」

 

影に潜りながら移動する事20分、もう直ぐ中央区を出るという時に沙々宮が話しかけてくる。

 

「何だ?速度についてはこれが最高速度だから我慢してくれ。走った方が速いがバレない為だ」

 

影に潜りながらの移動速度は自動車と同じくらい速い星脈世代が普通に走る速度に比べたら遥かに遅い。最高速度は時速30キロくらいだし。

 

「いや、それについては不満はない。私が聞きたいのは何で私達に協力をするのかだ」

 

「それは私も気になります。レヴォルフの比企谷先輩がわざわざ私達に協力する理由がわからないので」

 

まあそうだよな。拉致を考えた人間と同じ学校の生徒の俺がこいつらに協力するのは不自然かもしれないな。

 

「まあアレだ。理由は2つある。1つは俺はエンフィールドと協力関係だからだ」

 

「うん。それはさっきエンフィールドから聞いた。という事は比企谷は星導館のスパイ?」

 

「そこまでじゃねぇよ。俺はレヴォルフで不穏な動きを察知したらエンフィールドに教えて、エンフィールドは俺が欲しい情報を可能な限り教えるだけの関係だ」

 

実際、エンフィールドは星導館で話した夜に蝕武祭の情報をくれた。残念ながらウルスラに関する情報はなかったが中々興味深い内容だった。今後もこのような情報が手に入るならウルスラの手掛かりも手に入るかもしれない。

 

「……そう。じゃあ2つ目は?」

 

沙々宮がそう聞いてくるが2つ目は単純に……

 

「ディルクが嫌いだから嫌がらせがしたい」

 

俺がそう返すと沙々宮は呆れた表情をして刀藤は呆気に取られた表情をしている。まあまさか助ける理由が私情とは思わなかったのだろう。

 

そんな事をのんびりと考えながら影を動かして再開発エリアに向けて歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

それから更に30分……

 

「ここだ。ここから俺の影の反応があるな」

 

影の中から上を見るとそこそこ立派なビルが目に入る。ビルは五階建てでメインストリートに面してはいるがやや奥まった場所にある所為で余り目立たない。知らない人間ならスルーしてもおかしくないだろう。

 

「それでこれからどうするんですか?」

 

「先ずはこのビルが何なのかを調べる。その後に影の中に潜ったまま中の状態を調べフローラの居場所、無事かどうか、フローラと犯人の位置それらを調べてから作戦を練るぞ」

 

そう言いながら端末を取り出して空間ウィンドウを開いてネットに接続して建物の情報を調べてみる。

 

「カジノだが今は改装工事中みたいだな」

 

「……改装工事が必要?」

 

沙々宮が不思議そうに聞いてくるが同感だ。電飾で飾られた外壁は新しく改装工事が必要とは考えにくい。

 

「多分中が荒れてんだろ。レヴォルフの生徒がカジノで暴れるなんざ日常茶飯事だしな。それより中に入るぞ」

 

「大丈夫なんですか?セキュリティとかがあったら……」

 

「影の中なら問題ねーよ。色々な場所に忍び込んだ事があったが一度もバレなかったし」

 

何せディルクの車に入ってもバレなかったくらいだし。

 

「……なら安心。じゃあ行こう」

 

沙々宮がそう言ってくるので俺はドアと地面の間にある厚さ1センチ未満の隙間をくぐる。0.000001ミクロンの隙間さえあれば俺は何処にでも入る事が出来るしな。

 

そんな事を考えながらビルに入ると……

 

「ボロボロじゃねぇか」

 

内部は酷い状態だった。カジノの設備は既に運び出されたようだが、天井には大量の穴が開いている。どんだけ暴れたんだよ?もしかしてイレーネが暴れたカジノか?あいつ幾つもカジノ壊してるし。

 

「……ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、あの柱の影に万応素があるからな……アレは罠だろう」

 

多分設置型の能力だろう。そして発動条件はおそらく『カジノの入口の扉が開いたら』だろう。まあ今は発動してないという事はバレていないのだろう。

 

「……何にせよ当たりみたい」

 

「だな。建物の情報を見ると地下一階地上五階の六層構造みたいだが上か下、どっちだと思う?」

 

「……下」

 

俺がそう尋ねると沙々宮が即答する。

 

「ちなみに理由は?」

 

「理由はない。勘」

 

「だろうな。影の反応は下から感じるし下だろ」

 

「……わかっているなら聞く必要はない」

 

「悪かった悪かった。後でマッ缶やるから許せ」

 

「いらない。以前小町から聞いて飲んでみたが甘過ぎる」

 

「私も……アレはちょっと……」

 

同伴している女子2人から却下をくらった俺は若干ショボくれながら影を動かして地下に繋がる階段を下り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

地下に降りると巨大な扉が目に入る。この奥にフローラと犯人がいるのだろうな。

 

俺は特に気負うことなくドアと地面の隙間をくぐって中に入る。

 

そこは一階と同じようなホールであちこちにランタンのような明かりが点いている。しかしメインとなる照明が点いていないので全体的に薄暗い印象だ。

 

そして1番奥には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フローラちゃん!」

 

フローラが手足を拘束されて柱に寄りかかっていた。口には猿轡を付けられて服ははだけて胸の部分がチラチラ見える。その事から誘拐犯はロリコンであると推測出来る。

 

「綺凛!静かに!」

 

「あっ……!」

 

沙々宮が刀藤に注意をするが問題ない。影の中で出る音は外に出ないように設定してあるから外には聞こえないだろう。

 

「落ち着け。外には聞こえないようにしてある。それよりアレを見ろ」

 

俺がそう言いながら上を見るように指示を出す。

 

フローラから5メートルくらい離れた場所に全身を真っ黒な服で覆っている男がいる。頭部も目元以外は完全に隠されていて、佇まいが不気味である事からその姿はまるで忍者のようだ。

 

「……アレが誘拐犯?」

 

「だろうな。さて、どうやって助けるかだな……」

 

「フローラちゃんも私達みたいに影の中に入れるのはダメなんですか?」

 

「出来る事は出来るが余りやりたくない。俺の力で影の中に引き摺り込むのにかかる時間は2、3秒だ。もし奴が能力者だったら影の中に入る前に殺される可能性があるからな」

 

潜ろうとしている途中に首でも刎ねられたとしたらシャレにならない。

 

「だからもしやるとしたら奴の気を3秒以上引く必要があるな」

 

「3秒……」

 

「とりあえず策を練る為一度外に……ん?」

 

外の犯人に動きがあった。犯人は端末を取り出して空間ウィンドウを開く。

 

それを理解すると同時に俺はポケットにあるボイスレコーダーを録音モードにする。場合によっては使えるからな。

 

そんな事を考えていると犯人の手元に真っ暗な空間ウィンドウが現れる。音声通信のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーー七番、状況を報告しろ』

 

すると苛立ちをはらんだ声が聞こえてきた。顔は映っていないがこの声、間違いない……

 

「やっぱりディルクが絡んでたか……」

 

予想はしていたが……星武祭中に拉致行為をするとは……どんだけ天霧を危険視してんだよ?

 

「問題ない」

 

『ならいい』

 

「そちらは?」

 

『今のところは警備隊に連絡が行ってないし従順だな。まあまだ準決勝は始まってないから何とも言えないが』

 

とりあえず天霧達はまだ試合が始まってないので要求した事がどうなっているのか理解していないようだ。出来る事なら決勝前にフローラを助けたいものだ。決勝の擬形体は『黒炉の魔剣』なしじゃ厳しいだろうし。

 

「了解した」

 

『準決勝が終わり次第また状況を確認する』

 

そう言いながらディルクは通信を切る。すると男も端末をしまってフローラを監視するのを再開する。とりあえず録音はしといた。これは俺の目的を達成する為に必要なピースの1つだ。他のピースも揃えたい物だ。

 

 

「比企谷先輩、どうするんですか?」

 

刀藤にそう言われながら時計を見る。今の時刻は準決勝第二試合開始1時間前だ。

 

タイムリミットまでは17時間くらいある。ディルクとの電話を聞いている内に作戦は浮かんだ。準備もしなくちゃいけない?

 

「そうだな……とりあえず……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、本当にこんな事をしてていいんですか?」

 

刀藤が納得していない表情を見せてくる。

 

俺達が今いる場所は歓楽街にある俺の行きつけのカフェ。そこで今俺達は夕食を食べている。

 

「いいんだよ。どの道必要な物を買いに歓楽街の奥の方に行かなきゃいけなかったんだし」

 

「それはそうですけど……」

 

「いいから食っとけ。作戦中に腹が減ってミスをしたんじゃ話にならん」

 

そう言いながら頼んだサンドイッチを口にする。

 

「……比企谷の言う通り。これから忙しくなるのだし食べれる内に食べておいた方がいい」

 

沙々宮は俺の意見に賛成してホットドッグを口にする。こいつはこいつで逞しいな……

 

刀藤もそれを見て息を吐きながら食べ始める。それを確認すると端末が鳴り出した。誰からだ?

 

端末を見るとシルヴィからだった。いきなりどうしたんだ?さっき用事があるとメールした筈だが……

 

疑問に思いながら空間ウィンドウを開く。

 

『あ、八幡君。もう直ぐ第二試合始まるけど来れないの?』

 

空間ウィンドウには心配そうな表情をしたシルヴィがいた。確かに説明不足だったな。これは悪い事をしたな。

 

俺がシルヴィに謝ろうとすると……

 

「え?!シルヴィアさん!」

 

「……意外な相手」

 

後ろから刀藤と沙々宮が驚きの声を出してくる。まあいきなり世界の歌姫の顔と声があるからな。仕方ない事だ。

 

そう思っている時だった。

 

空間ウィンドウに映るシルヴィからドス黒いオーラが湧き出し始めた。

 

『……ねぇ八幡君。何でそこに刀藤さんと沙々宮さんがいるのかな?』

 

怖い!怖いからな!つーか何でキレてるの?!

 

「え、あ、それはだな……」

 

『何?はっきりと言ってくれないかな?』

 

そう言いながら顔を近付けてくる。空間ウィンドウ越しとはいえメチャクチャ怖いんですけど。

 

どうしよう。上手く説明出来ない。誘拐云々言ってシルヴィを巻き込む訳にはいかないし……

 

とりあえず今は逃げて明日説明しよう。うん、そうしよう。

 

「すまんシルヴィ。明日説明する!」

 

俺はシルヴィの返事を聞かずに通話を切って、端末の電源も切る。すまんシルヴィよ。明日鳳凰星武祭が終わったらしっかり説明するから今は勘弁してくれ。

 

 

内心シルヴィに謝罪しながら残っているサンドイッチを食べ終える。

 

さて、これからが忙しくなるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、VIP席にて……

 

 

「え?!ちょっと八幡君!」

 

シルヴィアは愛する人にいきなり電話を切られた事に対して焦り出す。慌てながらも再度電話をするも電話に出ない。その事から端末の電源を切ったのだろう。

 

それを理解するとシルヴィアの周囲にドス黒いオーラが更に湧き出す。しかし当のシルヴィアは満面の笑みを浮かべていた。

 

それと同時に手洗いに行っていたオーフェリアがVIP席に帰宅してシルヴィアのオーラに気付く。

 

「……シルヴィア?八幡に電話したのでしょう?何かあったの?」

 

オーフェリアがシルヴィアに話しかけるとシルヴィアは満面の笑みのまま振り返る。

 

「オーフェリアさん。八幡君はね、本当にナンパしてたみたいだよ」

 

「……本当?」

 

「うん。さっき電話したら八幡君の後ろに刀藤さんと沙々宮さんがいたから」

 

それを聞いたオーフェリアの周囲からもドス黒いオーラが湧き出す。

 

「………八幡」

 

「そっかぁ。八幡君は刀藤さんや沙々宮さんみたいな人が好きなんだ」

 

シルヴィアはそう言いながら更にオーラを出す。2人の背後には阿修羅の幻影が浮かび上がっているように見える。

 

 

VIP席にいるお偉いさんが半分以上気絶して、残りはVIP席から退室した事を2人は知らない。


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