学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は救出作戦に挑む(後編)

「まいど。またよろしくな」

 

明らかにヤバい雰囲気を醸し出している店員にそう言われた俺達は店を後にする。

 

「さて、必要な物は買ったし……大丈夫か刀藤?」

 

俺の右横には涙目になっている刀藤がいる。

 

「は、はい。少し怖くて……」

 

「ったく、だから俺はカフェで待ってろって言ったのに……」

 

俺達がさっきまでいた店は拳銃、催涙弾、閃光弾、魔改造された煌式武装、果ては麻薬などが売っている非合法ショップだ。俺は始めに来なくてもいいと言ったが2人は付いてきた。

 

沙々宮は特に表情を変えていないが……

 

「お前は大丈夫なのか?」

 

俺がそう尋ねるとコクンと頷く。

 

「……使えそうなジャンク品もあった。今度暇な時にまた行きたい」

 

逞しいな。一応この店、レヴォルフでも行かない奴結構いるのに…….

 

「まあいい。それより必要な物を買ったんだし行くぞ」

 

俺がそう言うと2人が表情を変えて俺の手を掴んでくるので、影の中に潜り移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして先程のカジノに戻る。入口についた俺達は影の中で最後の確認をする。

 

「最終確認だ。俺はフローラの下で待機、沙々宮は入口で1度目の合図が来るのを待て。刀藤は沙々宮と一緒にいて俺の2度目の合図でアレを使え」

 

「わかった」

 

「は、はい!」

 

「よし。それと最後に……」

 

俺は星辰力を込めて入口の横に影の鷲を作り上げる。予定としては最後にずらかる時に影に潜って離脱するが万が一に備えて別の移動手段も用意した方がいいだろう。

 

「準備完了。んじゃ俺はもう行く」

 

俺はそう言って2人を影から出して再びカジノの中に入る。さてさて……

 

 

俺はそのままフローラと誘拐犯がいる地下に向かって進んだ。

 

地下の巨大な扉の下を潜るとさっきと同じ場所にフローラと少し離れた場所に誘拐犯がいた。作戦は変更する必要はないな。

 

俺は息を吐きながらゆっくり影を進ませてフローラのすぐ横に移動する。さて、いよいよだな。

 

俺は携帯端末を取り出してさっき番号交換した沙々宮の端末に連絡を入れる。

 

「準備完了だ。……やれ」

 

ただ一言そう告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「わかった」

 

カジノの出口にいる1人の少女が了解の意を示して通話を終了する。それと同時に

 

 

 

 

 

 

 

 

「39式煌型光線砲ウォルフドーラーーー掃射」

 

 

自身の持つ煌式武装の一撃を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォン………

 

 

いきなりの爆音が鳴り響く。影の中からもはっきりと聞こえるくらい巨大な音だ。試合を見ていても思ったがあいつの煌式武装威力高過ぎだろ?

 

「……来たか」

 

その音を聞いた誘拐犯はフローラから目を逸らし、星辰力を込め始める。おそらく一階に設置してあった罠を起動して侵入者を迎撃するつもりだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが残念だったな。侵入者は既に忍び込んでいるんだよ。

 

俺は影の中から両手を出して右手でフローラの足を掴み、左手でさっき購入した催涙弾と閃光弾を投げつける。

 

「んんんっー?!」

 

いきなり足を掴まれたからかフローラは驚きの声を上げる。それを聞いた誘拐犯はこちらを振り向こうとするが……

 

 

その前に閃光と催涙ガスが地下を蹂躙する。

 

「……ぐぅっ!」

 

いきなりの奇襲だったからか誘拐犯は目を覆って後ろに下がる。

 

「んんっー!!」

 

フローラも閃光と催涙ガスをくらって苦しそうにしている。悪い事をしたが助ける為だからそれは我慢してくれ。

 

防護マスクを付けて平気な俺は内心謝りながらフローラと一緒に影の中に潜り一階に続く階段へと進み始める。

 

「……馬鹿なっ!何処に行った?!」

 

後ろからは誘拐犯が焦ったような声を出しているが無視だ。こんな奴に構っている暇はない。

 

階段を上り始めると同時に刀藤に連絡を取る。

 

「フローラは助けた。誘拐犯が追ってくるのを防げ」

 

『は、はい!』

 

刀藤から返事を貰う中、後ろから徐々に気配が近づいてくる。おそらく誘拐犯の狙いは一階にいる侵入者である沙々宮と刀藤を狙う算段だろう。

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如大爆発が起こり階段は木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

俺はそれを無視して更に突き進む。

 

これが今回の作戦で簡単に言うと……

 

①沙々宮が煌式武装でカジノの入口を吹っ飛ばし、派手な音を立てる事で誘拐犯の注意を引く

 

②俺が催涙弾と閃光弾を投げてフローラを見れないようにする

 

③フローラを影に引き摺り込む

 

④刀藤が俺が買った手榴弾を階段に投げつけ、階段を破壊する事で追跡を防ぐ

 

と言った感じだ。まさか誘拐犯も俺が協力しているとは思っていなかっただろう。

 

そんな事を考えながら一階に上がると、一階では刀藤と沙々宮が黒い人影みたいな物と戦っていた。数はおよそ100。万全の状態ならともかく今のあいつらじゃキツイだろう。

 

そう判断した俺はフローラを片手に持ちながら影の中から出る。影の中にいちゃ攻撃出来ないのが俺の能力の欠点だが、この際仕方ないだろう。

 

「影の刃群」

 

そう呟くと俺の影から大量の刃が現れて人影を狙う。刃の数は300、人影を撃破するには十分だ。

 

後ろからの奇襲に人影は対処出来ずに全て霧散した。設置型だけあってそこまで強くなかったな。

 

「フローラちゃん!」

 

「……どうやら無事みたい」

 

怪我はしていない。まあ催涙弾くらったから目は涙で一杯だが。催涙弾を使う事は事前に2人から許可を得たので責められないだろう。

 

「無事だからさっさとずらかるぞ。さっさとこっちに来い」

 

俺がそう言うと2人が近寄ってくる。それを確認しながらフローラに話しかける。

 

「悪いがロープや猿轡は安全な場所に着いてから取ってやるから……?!」

 

それまで我慢しろ、そう言おうとしたがいきなり殺気を感じたので言えなかった。

 

殺気を感じると同時に俺は後ろに下がる。

 

するとさっきまで俺のいた場所には黒い棘があった。黒い棘は柱の影から生えていた。姿は見えないがさっきの誘拐犯だろう。

 

(……こいつ。俺と同じ能力か?)

 

そう思っている間にも他の柱の影からも大量の棘が俺に襲いかかってくる。俺は自身の影から刃を生やしてそれを相殺しながらフローラを刀藤に投げ渡す。

 

「刀藤、沙々宮、予定変更だ。フローラ連れて入口にいる影の鷲に乗って逃げろ」

 

もしもの時に備えて用意しておいて正解だった。あの鷲は乗った人間を星導館まで運ぶように指示をしてある。乗って星導館の敷地内に入ればこっちの勝ちだ。

 

「でも、比企谷先輩は?!」

 

「決まってんだろ。俺は誘拐犯の相手をするからさっさと行け。目的を見失うな。フローラの安全が最優先だ」

 

つーかかなりのダメージを受けているこいつらがいたら足手纏いになる可能性があるし、今言った事を含めてこいつら3人を逃した方がいいだろう。

 

「……すまない。行くぞ綺凛」

 

「すみません……ご武運を!」

 

2人は俺に謝罪するとフローラを連れてカジノを出て影の鷲に乗る。鷲は甲高い鳴き声をあげて空へ飛んで行った。これでエンフィールドの依頼は達成した。

 

後は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさかお前が絡んでいたとはな、比企谷八幡」

 

俺自身の目的の為に動くか。

 

俺は誘拐犯を見て笑みを浮かべながら自身の影に星辰力を込める。

 

「さあて……少しは楽しませてくれよ。誘拐犯さんよぉ……」

 

カジノの一階にて影を使う者同士がぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、アスタリスク上空

 

「沙々宮様、刀藤様!ありがとうございます!」

 

全ての戒めを解かれたフローラが2人に礼を言う。

 

「いいえ。それより怪我は……?」

 

「あい!目は痛いですけど怪我はないです!」

 

2人はそれを聞いて安堵の息を吐く。目については仕方がない。催涙弾と閃光弾をくらったのだから。

 

しかし2人はそれを使った比企谷を責めるつもりはない。催涙弾と閃光弾は後遺症の残らない物だしフローラを助ける為に使った物である。

 

そして何より彼がいなかったらフローラの居場所を突き止める事が出来なかったのだから。

 

「そう。なら良かった」

 

「あ、あの!それより私を助けてくれたもう1人の人は……?」

 

「あ、味方ですよ」

 

「そうなんですか?でも彼が1人で残って大丈夫なのですか?相手は魔術師ですけど……」

 

フローラは先程自分を助けてくれた男を心配している。しかし刀藤と沙々宮は全く心配していない。

 

2人は比企谷については殆ど知らない。少なくとも味方である事くらいだ。しかし2人、いやアスタリスクにいる人間なら知っている。

 

 

「「大丈夫(ですよ)。比企谷(先輩)はアスタリスク最強の魔術師だから(ですから)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくち!」

 

俺はくしゃみをしてしまう。今は体調は良いから風邪じゃないだろう。誰かが噂でもしてんのか?

 

「まあ俺の噂なんて碌なもんじゃないだろうな。……お前もそう思うだろ?」

 

俺は地面に這い蹲っている誘拐犯に話しかける。……って気絶してんじゃねぇか。誘拐犯の口からは血が出ていて右足は変な方向に曲がっている。少しやり過ぎたか?

 

戦いは5分で終わった。奴の能力は俺と同じ影を操る能力だが弱過ぎる。

 

ありとあらゆる場所から影を生やしてくるが威力が低い。何せ影狼修羅鎧じゃない普通の影の鎧を突破出来ない時点で俺の下位互換でしかない。

 

まあ当然の話だ。レヴォルフの人間じゃオーフェリア以外には負けるつもりはないしな。

 

そんな事を考えながら影の鎧を解除すると同時に誘拐犯のポケットが薄く光る。おそらくディルクからの連絡だろう。

 

俺は薄い笑みを浮かべながら端末を取り出して空間ウィンドウを開く。すると音声通信が入り

 

『七番ーーー状況を報告しろ』

 

苛立たしげな声が聞こえてくる。間違いなくディルクだろう。

 

俺は一度深呼吸をして口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようディルク。元気か?」

 

爽やかに挨拶をしてみる。

 

俺がそう言うと、一瞬息を呑む音がしてから

 

『……なんでてめえがいるんだよ?』

 

さっきより遥かに不機嫌な声が聞こえてくる。明らかに怒ってるな。更に怒らせてやるとするか。

 

「俺天霧のファンだから助けようと思ったんだよ」

 

ディルクの性格からして天霧の事は大嫌いだろうし天霧の名前を出してみる。案の定電話の向こうからは舌打ちが聞こえてくる。

 

「それにしてもアレだな。生徒会長が黒猫機関という統合企業財体の財産を使って何をするかと思ったらまさか誘拐して星武祭を妨害するとはなー」

 

嫌味ったらしく挑発しながらさっき録音したディルクと誘拐犯の会話を流し始める。

 

録音した音声が流れ終わると同時にディルクが話しかけてくる。

 

『……要求は何だ?』

 

「あれ?わかっちゃった?」

 

『舐めんじゃねぇよ。俺を潰したいだけなら俺と会話しないで七番と音声データを警備隊に突き出せば良い話だ。俺と会話をするって事は何かを要求したいんだろうが』

 

「流石生徒会長。頭の回転早いな」

 

『気色悪い世辞言ってないでとっとと話せ』

 

どんどん苛立ちを増しているようだ。俺としてはもっと苛立たせたいがそろそろ本題に入るとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の要求はただ1つだ。オーフェリアを自由にしろ、カス野郎」


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