学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は襲撃される(後編)

俺は今内心冷や汗をかいている。

 

理由は簡単だ。目の前には明らかにヤバい2人がいるからだ。

 

1人はヴァルダという女、ローブを被っている為女である事以外殆ど分からないが明らかにヤバい雰囲気を出している。

 

そしてもう1人は自らを『処刑刀』と名乗った男、何処かで見た事があるが何故が思い出せない不思議な男でその手には『四色の魔剣』の一振りである『赤霞の魔剣』を持っている。『赤霞の魔剣』は不気味に輝いていて危険な匂いがする。

 

そんな中、俺は奴らの目的を口にする。

 

「てめぇらの目的は大体理解出来る。大方ディルクと組んでる協力者で俺が持っている人質と音声データだろ。違うか?」

 

俺がそう尋ねるとヴァルダは特に反応しなかったが処刑刀は薄い笑みを浮かべてくる。

 

「ふふっ……知っているなら話は早いね。悪いけど彼にしろオーフェリア嬢にしろ我々にとっては重要な人材なんでね、どちらも失う訳にはいかないのだよ」

 

「……だから俺を襲撃して交渉カードを奪って交渉そのものを出来なくさせる、と?」

 

俺がそう言うと処刑刀はそれに対する返事をしないで『赤霞の魔剣』を構え直す。どうやら話は終わりのようだ。

 

俺は意識を切り替えて自身の影に星辰力を注ぎ込み……

 

 

 

「影の刃群」

 

自身の影から100を超える影の刃を生やして処刑刀に飛ばす。大抵の雑魚ならこれで倒せるが処刑刀には余り効果がないだろう。

 

それに対して処刑刀は『赤霞の魔剣』を何度も振るい影の刃を斬り落とす。その剣速はまさに超一流、フェアクロフさんと比べても遜色ないレベルだ。

 

影の刃を次々に斬っている処刑刀を見た俺は出し惜しみをしている場合ではないと判断した。今処刑刀に勝つ為に最善を尽くさないと負けるだろう。

 

「纏えーーー影狼修羅鎧」

 

そう呟くと足元の影が立ち上り俺の体に纏わりつき奇妙な感触が襲いかかる。それは徐々に広がり体全身に伝わると奇妙な感触はなくなり若干の重みを感じるようになった。これで準備完了だな。

 

俺は鎧を着込むと同時に処刑刀に突っ込む。処刑刀を見るとちょうど今全ての影の刃を破壊したようだ。100を超える刃を30秒以内に全て破壊するとはな……鎧を着込んで正解だった。

 

そう思いながら俺は拳に全力を込めて放つ。それに対して処刑刀も『赤霞の魔剣』を振るう。

 

疾風の様な斬撃が鎧を纏っている俺の拳とぶつかり合う。圧倒的な破壊力を持つ2つの攻撃がぶつかり合った事により衝撃が生まれ、俺と処刑刀の足元がクレーター状に凹み周囲に瓦礫が弾け飛ぶ。

 

「ちっ……」

 

何つーパワーだ。鎧越しでも腕に衝撃が走るなんて……冗談抜きで強い。

 

「ほほう……素晴らしい一撃だね。鎧にしてもこの刀で斬れないとは……」

 

影狼修羅鎧と『赤霞の魔剣』から火花が飛び散る中、処刑刀は感心したような声を出してくる。

 

「よく言うぜ。まだ本気を出してない上にヴァルダを参戦させてない時点で余裕たっぷりだろお前」

 

ヴァルダが戦っている所は見てないが体つきやオーラからしてかなりの手練れだと思う。にもかかわらずヴァルダは俺と処刑刀から少し離れた場所にいるだけで攻撃に参加してくる気配を感じない。

 

「ああ。彼女の仕事は私の正体を知られないようにする事と人払いだからね。戦いには参加しないよ」

 

つまり奴の能力は認識を阻害する能力って事か?そうなると警備隊の人間がここに来る事はないという事みたいだ。まあヴァルダが参戦しないならそれでいい。俺が処刑刀を倒すだけだ。

 

方針を決めた俺は空いている右手で『赤霞の魔剣』を殴ろうとする。

 

しかしそれを察知したのか処刑刀は後ろに下がり右ストレートは空振りに終わる。

 

処刑刀はその隙を突いて不気味に赤く輝く大剣で胴を薙いでくる。普通の煌式武装なら避ける必要はないが相手が『四色の魔剣』なら話は別だ。

 

俺は咄嗟に後ろにバックステップでそれを回避するが、処刑刀は流れるような動きで次々と斬撃を放って鎧を斬りつける。今の所鎧は破損していないが衝撃が体に走りかなり痛い。防戦になったら負けだ。

 

だったら攻め一択しかないな。

 

「影の刃群」

 

そう呟くと鎧のありとあらゆる場所から影の刃が大量に現れて、更に斬撃を放とうとする処刑刀に襲いかかる。

 

まさか鎧から影の刃を放ってくるとは思わなかったのだろう。処刑刀の反応がほんの少しだけ悪い。

 

その隙を見逃すはずもなく俺は再度右ストレートを処刑刀に放つ。これなら倒せなくともダメージは与えられるだろう。

 

そう思った時だった。

 

処刑刀は『赤霞の魔剣』に星辰力を込めたのか『赤霞の魔剣』の刀身が巨大になった。アレは天霧が準々決勝で界龍の双子の兄に使った物と同じ物だろう。

 

そして……

 

 

「ふっ……!」

 

『赤霞の魔剣』を手元で風車のように回転させて飛んでくる影の刃群を全て斬り落とした。

 

全てを斬り落とすと同時に俺の右ストレートが処刑刀に襲いかかるが、処刑刀は『赤霞の魔剣』を盾のように構えて拳を受ける。

 

俺の拳をくらった処刑刀は『赤霞の魔剣』ごと後ろに吹っ飛んだが俺は喜べない。今の一撃を放った際、手応えを感じなかった。おそらく当たる直前に後ろに跳んで衝撃を殺したのだろう。今の手応えからして殆どノーダメージと思う。

 

「……ふぅ。危なかった。今のは良い一撃だったね」

 

処刑刀はそう言っているがまだまだ余裕を感じる。ちっ、ディルクの手駒だかなんだか知らないがオーフェリア以外にもここまで強い奴がいるとはな……

 

しかし逃げる訳にはいかない。オーフェリアが自由になる可能性がある事なら何でもやるつもりだ。

 

俺は再度構えを取る。処刑刀もそれを感じ取ったのか『赤霞の魔剣』を構えて近寄ってくる。これからが第二ラウンドって所だろう。

 

そう思いながら再び突っ込んで距離を詰めようとした時だった。

 

いきなり真横から処刑刀に向かって光弾が飛んできた。

 

処刑刀は『赤霞の魔剣』を振るってそれに対処する。気のせいか雰囲気が変わった気がする。でも誰だ?処刑刀の話では人払いをしているらしいが……

 

疑問に思いながら光弾が飛んできた方向を見ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……シルヴィ?」

 

そこには銃剣一体型の煌式武装を持ったシルヴィが立っていた。かなり真剣な表情で俺と処刑刀を見ている。

「八幡君大丈夫?近くを偶然通りかかったから来てみたけど……」

 

シルヴィは俺の横に移動しながら処刑刀を鋭い眼差しで見つめている。

 

「あれ『赤霞の魔剣』だよね?どういう状況?」

 

話しながらも煌式武装を構える隙を微塵も出さない。完全に臨戦態勢に入っているようだ。

 

「簡単に言うとディルクの仲間だ。事情は後で話すが俺は今ディルクに狙われてるんだよ」

 

俺がシルヴィに説明していると、処刑刀は特に表情を変えずにヴァルダに話しかける。

 

「君には人払いをお願いした筈だが?」

 

それに対してヴァルダは冷たく返す。

 

「無茶を言うな。認識干渉と忌避領域を完全なレベルで両立するのは不可能だ。前者に力を割いている以上、後者が疎かになるのは必然。常人ならともかく、あの女のように強き者を防ぐ事は出来ん」

 

……つまりヴァルダは処刑刀の身元が判明するのを防ぐ事が最優先という事か?尚更処刑刀の正体が気になった。

 

しかし……

 

「そんな……」

 

隣にいるシルヴィがいきなりワナワナと震えだす。いきなりどうしたんだ?

 

疑問に思っているとシルヴィが叫び出す。

 

「ウルスラ!あなた、ウルスラだよね?!」

 

……何だと?ヴァルダがウルスラだと?!

 

疑問に思っている中ヴァルダが口を開ける。

 

「誰だお前は?」

 

ヴァルダがそう返事をするとシルヴィが凍りつく。一体どうなってんだ?

 

シルヴィの介入から色々な事が起こり頭が混乱している中、ヴァルダが処刑刀に話しかける。

 

「……どうやらあの女はこの体の関係者のようだな」

 

「そのようだね。彼女は天涯孤独の身で、アスタリスクに来てからも特に友人がいなかったから大丈夫だと思っていたが……まさか世界の歌姫と知り合いだったとはね」

 

この体の関係者だと?その言い方だとまるでヴァルダがウルスラの体を乗っ取ったみたいな言い方だが……

 

疑問に思っている中、ヴァルダが口を開ける。

 

「……まあいい。我は今からあの女の記憶を消す為に全力を出す。正体を知られたくないお前は先に帰っていろ」

 

それを聞いた処刑刀がため息を吐きながら頷く。

 

「わかった。ただし彼から誘拐犯と音声データを奪う事を忘れないように」

 

そう言うと処刑刀は大きく後ろに飛び退くが逃すつもりはない。

 

「逃すか、影の刃群」

 

言うなり鎧から影の刃を出そうとするが……

 

「そうはさせない」

 

ヴァルダがそう言いながら処刑刀を守るように立ち塞がる。それと同時に風が舞起こりローブの内側から黒い光が膨れ上がる。それによってローブがまくれ顔が露わになる。

 

(……あの顔、写真で見た通り本当にウルスラじゃねぇか!)

 

俺がそう突っ込んでいると首からぶら下がっているネックレスが黒い輝きを増す。

 

「な、何?!」

 

「ぐうっ!」

 

すると急に猛烈な頭痛が襲いかかる。余りの痛さに影の刃群も形成する事が出来ずに鎧に戻ってしまう。

 

痛みに堪えているとヴァルダはシルヴィに近寄っている。

 

「……お前の記憶を消させて貰うぞ」

 

「う、あああ……っ!」

 

言葉から察するにヴァルダは今シルヴィの脳内を探っているのだろう。そしてウルスラの記憶を消すつもりだろう。

 

「……させねぇよ」

 

俺は痛みに耐えながらもヴァルダに突っ込んで拳を放つ。しかし自分でもわかる、否、わかってしまう。威力が低過ぎる。頭の痛み、更には処刑刀とやり合った時の疲弊もあってしょぼい一撃だ。

 

「……無駄だ。その程度の拳は我には届かない」

 

言うなり拳を回避して俺の腹に蹴りを叩き込む。余りの衝撃に吐き気がする。ウルスラはシルヴィの師匠だから強いとは思っていたがここまでとはな……

 

俺はそのままシルヴィの真横に吹っ飛んでしまう。それを確認したヴァルダは右手をシルヴィに向ける。すると更に強い輝きが起こり先ほどとは比べ物にならない程の苦痛が俺達を襲う。

 

「ぐううっ!」

 

「あああああ!」

 

ダメだ。もう何も考えられない。このままじゃ……ヤバい。

 

(もうダメだ。誘拐犯と音声データを渡せば助かるのか……?)

 

そうすればこの痛みから解放されるのか?だったら……

 

「ふん、これか」

 

心に魔が差し始めると同時にヴァルダがそう呟く。察するにシルヴィの記憶からウルスラの記憶を見つけたようだ。

 

助けたいのは山々だがこの痛みじゃ……

 

半ば折れているので動けないだろう。

 

そう思っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、ちまん、君……」

 

いきなり呼ばれたのでシルヴィを見る。シルヴィの目には涙が溢れていた。

 

シルヴィの涙を見ると不思議と頭痛やさっきまであった邪心が咄嗟に消えた。止めろ、その顔を止めろ。

 

俺が内心シルヴィに突っ込んでいる中、シルヴィは呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助け、て……!」

 

それを聞いた瞬間、俺は鎧を解除した。

 

そうだ、シルヴィに告白された日に俺はシルヴィを絶対に悲しませないと決めたんだ。

 

シルヴィを悲しませない、オーフェリアが昔のように毎日が幸せになる、それが今の俺がしたい事だ。

 

それを邪魔する存在相手に折れるなんて絶対にしてはいけない事だ。さっき折れかけていた自分を殴り飛ばしたい。

 

俺は鎧に使った星辰力、自身の体内にある殆どの星辰力を自身の周囲に展開する。今ある俺の星辰力の99%を展開する。

 

すると自分の真横に漆黒の槍が現れる。形はシンプル。しかしそれでいい。この槍はシンプルな能力なので余計な装飾はいらないからだ。

 

槍が出来ると同時に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「屠れーーー影狼神槍」

 

そう呟くと対オーフェリア用に俺が開発した槍が一直線にヴァルダめがけて突き進んだ。


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