学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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エピローグ

シリウスドームのステージはアルディの攻撃によって使用不能になったので表彰式と閉会式はプロキオンドームへと変更された。まあ開会式と違って出席するのは優勝ペアと準優勝ペアだけなので問題ないだろう。

 

そんな事もあって俺は今プロキオンドームの最上層の観客席でオーフェリアと一緒に閉会式を見ている。リースフェルトは治療院に、アルディはエルネスタの研究室に行ったので、壇上にいる選手は天霧とリムシィ、カミラの3人しかいない。

 

「ーーー以上の事から見ても今回の鳳凰星武祭がいかに素晴らしいものだったかわかって頂けると思います。特にアルルカント・アカデミーの2人に関する特例措置は……」

 

現在壇上ではマディアス・メサが今大会の総評を述べていてその横では各学園の生徒会長が並んでいる。まあ界龍の代表は万有天羅ではなくて元序列1位のアレマ・セイヤーンだけど。

 

生徒会長達を見る限りフェアクロフさんとセイヤーンは天霧を見ている。特に後者はメチャクチャ楽しそうな表情を見せている。まああいつはバトルジャンキーだからな。俺も以前挑まれた事あるし。

 

そんな事を考えながら壇上を見ていると俺の恋人の1人であるシルヴィと目が合った。するとシルヴィは小さく微笑んでウィンクをしてくる。うん、やっぱり可愛いな。

 

「……シルヴィア、こんなに離れていても八幡に気付くなんてやるわね」

 

隣ではもう1人の恋人のオーフェリアが純粋に感心したような声を出しているが突っ込む所そこか?

 

呆れながら改めて壇上を見るとディルクが物凄く不機嫌な顔をしていてエンフィールドはニコニコ顔だ。まあ俺がオーフェリアを奪ったからな。っても社会的に潰さなかったんだし感謝して欲しい。

 

ちなみにエンフィールドはフローラを助けたという一報を受けた時点で警備隊に連絡を取り、決勝戦の勝利者インタビューの際にはリースフェルトの代わりに天霧に同伴したが、その場でいきなりフローラの件について暴露した。

 

それによって会場は大騒ぎになりインタビューの時間は延長されて、結果的に表彰式も遅れて開催された。

 

インタビューの時には警備隊が誘拐犯について調査すると発表されていたが、証拠については俺が全てディルクに渡したので誘拐犯がわかる事はないだろう。

 

まあ俺が誘拐犯を逃したと嘘を吐いたのはエンフィールドにバレているだろう。何せさっき『表彰式が終わったらお話がありますから来てください』ってメールが来たし。

 

多分そこには天霧やリースフェルトもいるが……

 

「なあオーフェリア」

 

「……何?」

 

「実はこの後に俺エンフィールドに呼ばれてんだよ。多分そこにリースフェルトがいる可能性があるけどお前も来るか?」

 

オーフェリアは既に自由になっているからリースフェルトを拒否する理由はないが……どうなるやら……

 

俺がそう尋ねるとオーフェリアは俯く。

 

「お前も知ってると思うが、俺はエンフィールドから依頼を受けてフローラってガキを助けて誘拐犯を捕まえた。そしてそれを利用してお前を自由にしたんだが……エンフィールドを納得させるにはそれを話さないといけない。だからリースフェルトもそれを知ると思うがどうする?」

 

「それは……」

 

「まあ別に無理にとは言わない。行きたくないなら行かなくていい」

 

オーフェリアが嫌がる事なんてしたくないし。嫌なら同伴させない。

 

オーフェリアは暫く考える素振りを見せて、やがて……

 

 

「……行くわ。ユリスの性格からして私が自由になったのを知ったらレヴォルフに乗り込むわ。そうなったら遅かれ早かれよ」

 

そう言って了承する。ああ、まあリースフェルトは猪突猛進な所があるからな。オーフェリアの言う通りレヴォルフに乗り込む姿が簡単にイメージ出来る。

 

「わかった。じゃあ閉会式終わったら一緒にエンフィールドの所に来てくれ」

 

「……ええ。それと八幡、よくクローディア・エンフィールドと連絡を取っているけれど彼女とは恋人関係ではないわよね?」

 

オーフェリアはジト目で俺を見てくる。いやいや、エンフィールドとは業務連絡しかしてないぞ。

 

「違ぇからな?大体エンフィールドは天霧の事が好きなんだよ」

 

「……ならいいわ。八幡の恋人は私とシルヴィアだけよ。他の人は認めないわ」

 

オーフェリアはそう言ってくる。

 

そう、俺は決勝戦が終わって直ぐにオーフェリアとシルヴィに重婚でもいいから結婚してくれと言われた。

 

始めは戸惑ったが2人を悲しませずに今の関係が続くにはこれしかないと判断し、2人からのプロポーズを受け入れた。

 

そんで今は2人と恋人関係になり、アスタリスクを卒業するまでにウルスラを助け出し、卒業後は重婚がOKな国で3人で穏やかな生活を送る予定だ。

 

候補地は色々とあるが今の所最有力候補はオーフェリアやリースフェルトの出身地のリーゼルタニアだ。あそこは重婚がOKだし観光地としても人気だし。

 

そんな事を考えている中、漸く天霧の手に優勝トロフィーが渡された。本当に長かったな。序盤の話は観客と視聴者に向けた話しで堅苦しかったし。

 

ステージでマディアス・メサが天霧の肩に手を置いてメディアの取材陣がいる方向に体を向かせる。

 

「さあ!我々に無上の興奮と感動を与えてくれた彼らに盛大な拍手を!」

 

マディアスの声を受けて会場中から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。拍手の嵐が巻き起こる中、俺も拍手をする。後半は誘拐犯だの面倒事があったがまあまあ楽しめたな。

 

それにオーフェリアも自由にさせる事も出来たし、そう言った意味ではなかなか有意義な大会だったな。

こうして鳳凰星武祭は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表彰式が終わってから20分、俺とオーフェリアは指定された集合場所の天霧とリースフェルトの控え室に向かっている。

 

シルヴィは仕事があるらしく直ぐには合流出来ない。まあ今日は俺の寮に泊まるから最悪寮で合流出来れば問題ないだろう。

 

そんな事を考えながら俺はさっきエンフィールドから貰った許可証を取り出してセンサーにかざす。すると滑らかな機械音が鳴り扉が開くので中に入る。

 

中に入ると天霧と、リースフェルト以外の天霧ハーレムメンバー3人がいた。そして俺とオーフェリアが入ると目を見開く。

 

「あら……これはまた予想外の人が来ましたね」

 

エンフィールドが珍しく驚きの表情を見せてくる。

 

「オーフェリアを呼んだのは俺だ。お前が俺を呼んだ理由は大体察しはついている。そんでその件に関してオーフェリアが関わってるから呼んだんだ」

 

「そうですか。まあまずは掛けてください」

 

エンフィールドにそう言われたのでエンフィールドの向かい側に座る。

 

「まずはお礼を言わせてください。フローラを助けていただきありがとうございます。比企谷君がいなかったらどうなっていたか……」

 

そう言ってエンフィールドは頭を下げてくる。

 

「別に構わない。フローラを助ける事は俺の目的にも繋がっていたから助けただけだ。それより本題に入れ」

 

「では単刀直入に言います。比企谷君は誘拐犯を逃したとメールを送っていましたが……本当は逃していませんね」

 

「ああ、そうだ」

 

俺は普通に認める。今更隠す理由はないしな。

 

俺が認めると天霧と刀藤は驚きの表情を、沙々宮はジト目で俺を見てくる。エンフィールドは変わらずニコニコしているが。

 

「やはりそうでしたか。貴方程の実力者が逃すとは思えませんでしたので」

 

「当たり前だ。レヴォルフにおいて俺はオーフェリア以外には負けるつもりはないしな」

 

「そうですか。ちなみにお聞きしますがその誘拐犯はどうしましたか?」

 

「ディルクに返したが?」

 

「なっ……?!」

 

俺の返答に刀藤は声を上げる。まあ13歳の子供には予想外だったかもな。

 

「……意味がわからないな」

 

沙々宮は信じられないような表情で俺を見てくる。

 

「俺がエンフィールドから受けた依頼はフローラの救出だ。フローラを助けた以上文句を言われる筋合いはないと思うが?」

 

「そうですね。私は依頼を達成した以上、比企谷君が誘拐犯をどう扱おうが構いません」

 

「何でわざわざ『悪辣の王』に返したんだい?」

 

天霧も会話に参加してくる。

 

「取引に使った。取引の内容は誘拐犯を警備隊に突き出さない代わりにオーフェリアを自由にしろって内容だ」

 

俺がそう返すと天霧とエンフィールドの表情が変わる。どうやら事情を知っているようだな。

 

「……なるほど。だから彼女を連れてきた訳ですね」

 

「そういう事だ。だから誘拐犯及びディルクを裁くのは諦めろ。既に証拠はないからな」

 

「……つまり比企谷は彼のした事を見逃せと?」

 

「そうだ。俺にとってはオーフェリアが最優先事項なんだよ。その為だけに俺はフローラを助けたんだ」

 

オーフェリアが自由になるなら誘拐犯が捕まらなくても構わない。

 

「おいおい、そんな目で見るなよ。フローラは無事でオーフェリアが自由になった事でリースフェルトの目標の1つが叶ったんだ。お前らとしても良い事だろ?」

 

「それはそうだけど……」

 

エンフィールド以外の3人は納得していないような表情を見せてくる。どんな表情をしようと無駄だ。オーフェリアが再び自由じゃなくなるなんて絶対に嫌だからな。

 

そんな事を考えていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「済まない。警備隊の聴取が長引いて……比企谷にオーフェリア?」

 

リースフェルトが入ってきた。そして直ぐに険しい表情を見せてくる。って、ヤバいヤバい。星辰力が溢れかけてるぞ?

 

「落ち着けリースフェルト。お前がオーフェリアとやる理由はもうない」

 

俺がそう言うとリースフェルトは訝しげな表情で俺を見てくるので俺は空間ウィンドウを開きリースフェルトの前に飛ばす。

 

「なっ?!こ、これは本物だな?!」

 

リースフェルトに見せたのはオーフェリアの権利書。それを俺が持っているのでオーフェリアは既にディルクから解放されている事を嫌でも理解出来るだろう。

 

「安心しろ、本物だ」

 

「そうか……オーフェリア」

 

俺がそう返すとリースフェルトはオーフェリアと向き合う。オーフェリアは少しだけ怯えている。もう敵ではなくなったのでどう接したらいいのかわからないのだろう。

 

そう考えているとリースフェルトはオーフェリアに抱きつく。

 

「……ユリス」

 

「……オーフェリア。本当に自由になったんだな?」

 

「……ええ。でも私はあなたを傷付けた。だから私はあなたの側にいる事は出来な「そんな事はもういい!」……ユリス」

 

「もういい。私は去年の事は気にしていない。だからまた一緒に……!」

 

「……ユリス。ごめんなさい……ごめんなさい」

 

オーフェリアはそう言って抱き返す。これ以上ここにいるのはアレだろう。

 

「おいお前ら。外に出るぞ」

 

そう言って俺が立ち上がりドアに向かうと他の3人も立ち上がり俺に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……綾斗、ユリスと『孤毒の魔女』の間には何があったの?」

 

外に出るなり沙々宮が天霧に質問をしてくる。まあ普通気になるよな。

 

そう思っていると天霧が俺を見てくる。俺はその意図を知った。

 

「別に話してもいいだろ?もうオーフェリアは自由になったんだし、遅かれ早かれ後でリースフェルトが教えるだろうし」

 

俺がそう言うと天霧が頷いて説明を始める。

 

 

「……って感じだね」

 

「そんな事があったんですか」

 

「……事情を聞くと比企谷のした事に文句を言いにくい」

 

全ての説明が終わると沙々宮と刀藤は驚きを始め色々な表情を見せてくる。まあいきなりあんな重い話をされたらなぁ……

 

 

そんな事を考えていると控え室のドアが開いてリースフェルトとオーフェリアが出てくる。2人の目は真っ赤に染まっていた。相当泣いたようだな。

 

リースフェルトは俺の元に近付きいきなり頭を下げてくる。

 

「比企谷、フローラの事、オーフェリアの事といい本当にありがとう」

 

「俺がしたくてした事だから別に気にしなくていい。それより誘拐犯についてだが……」

 

「ああ、オーフェリアから聞いた。誘拐犯を裁きたい気持ちはあるがそれでまたオーフェリアが自由でなくなるなら裁けなくて構わない」

 

「意外だな。てっきり文句の1つを言ってくるかと思ったぞ」

 

「そこまでしてくれた人間に文句を言うつもりはない。改めて礼を言う」

 

「どういたしまして……ん?悪い、メールだ」

 

端末を開くとシルヴィからで仕事終わったから合流しようとの内容だった。

 

「悪いが知り合いに呼ばれたから俺はもう行く」

 

「……シルヴィアから?」

 

「ああ。お前はどうする?リースフェルトと話があるなら残ってもいいが?」

「……私は」

 

オーフェリアが悩んでいるとリースフェルトがオーフェリアの肩を叩く。

 

「私の事は気にするな。お前が自由になった今いつでも会えるのだから」

 

「……そう。わかったわ。八幡、行きましょう」

 

「そうだな。んじゃまたな」

 

「ええ。また頼みたい事があったらお願いします」

 

「それはエンフィールドが報酬をくれたらな」

 

報酬はもちろん蝕武祭、正確にはウルスラについての情報だ。何としてもウルスラを助けないといけないからな。

 

「もちろんです。情報が入り次第直ぐに送りますよ」

 

「わかった。じゃあ行こうぜオーフェリア」

 

「……ええ。じゃあユリス、また会いましょう」

 

オーフェリアがそう言うとリースフェルトは笑顔を見せてくる。

 

「ああ!またなオーフェリア」

 

リースフェルトの笑顔を見てオーフェリアも微かに笑顔を見せてリースフェルトに背を向けて歩き出すので俺もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドームの外に出ると変装したシルヴィが待っていた。

 

「あ、2人とも来たね。……アレ?オーフェリアさん泣いたみたいだけど大丈夫?」

 

「……ええ。嬉し涙だから大丈夫よ」

 

オーフェリアはそう言って微かに笑みを浮かべる。

 

「そっか。その顔なら大丈夫みたいだね。じゃあ八幡君の寮に向かおうか」

 

「……そうね」

 

シルヴィはそう言って俺の右腕に抱きついてくる。それを見たオーフェリアは左腕に抱きつく。やれやれ、俺の恋人は大胆過ぎるな。

 

「はいはい。その前に冷蔵庫の中少ないからスーパーに寄っていいか?」

 

泊まりなら3人分の飯が必要だ。今冷蔵庫にある食材じゃ足りないかもしれん。

 

「いいよ。じゃあ行こっか」

 

そう言われて俺は2人に挟まれながら移動を始める。隣の2人を見ると幸せそうだ。

 

出来る事ならずっとこんな日常を過ごしたい。平和に過ごしたい。

 

そう思いながら俺は2人の恋人に引っ張られつつ、モノレール乗り場に向かって歩き出した。


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