「なぁプリシラ、お前誕生日にプレゼント貰うとしたら何を貰ったら嬉しい?」
自分の教室で俺は隣に座っているプリシラに話しかける。
「誕生日プレゼントですか?それってシルヴィアさんのですか?」
まあわかるよな。シルヴィの誕生日は有名だし、プリシラは俺がシルヴィと付き合っている事を知ってるし。
「ああ、何をあげたら良いのか悩んでるんだよ。誕生日まで一週間を切ってるからマジで焦ってる」
「そうですね……シルヴィアさんは世界の歌姫でお金持ちだと思うので物を買うよりは八幡さんの手作りの物をプレゼントしたらどうですか?」
手作りか……まあ発想としては悪くはないが……
「シルヴィが俺の手作りで喜ぶか?」
そこが問題だ。俺の手作りなんかで喜ぶとは考えにくい。シルヴィに限ってないとは思うが拒絶されたら自殺するぞ?
「大丈夫だと思いますけど……いっそのことシルヴィアさん本人に欲しい物を聞いてみたらどうですか?」
シルヴィが欲しい物か……
『じゃあ……八幡君、八幡君さえ良ければ……わ、私……八幡君との子供がその……欲しいな……』
「…………」
「は、八幡さん?!顔が赤くなってますよ!大丈夫ですか?!」
目の前ではプリシラが物凄く驚いた表情で俺に詰め寄っていた。いかん、昨日のシルヴィの発言を思い出してしまった。顔が熱くて仕方ない。
「あ、いや大丈夫だ。昨日シルヴィから欲しい物を聞いた時の事を思い出しただけだ」
「聞いたらそれをプレゼントすればいいんじゃないですか?何が欲しいって言ったんですか?」
事情を知らないプリシラは簡単に言うがそれ無理だからな?何せ……
「それがよ……シルヴィの奴、俺との子供が欲しいって言ったんだよ」
プリシラに顔を寄せて耳打ちする。いくら朝早く生徒が少ないからって堂々と言うのは無理だ。
「……はぅっ!」
それを聞いたプリシラは真っ赤になってフラつく。純粋なプリシラには刺激が強過ぎたようだ。
しかしプリシラの照れ方可愛いな。オーフェリアやシルヴィが照れているのも可愛いが、あの2人とはまた別の可愛さがある。流石俺の心のオアシスだな。
プリシラの照れ方に癒されている時だった。
pipipi……
ん?メールか?
端末を開くとメールが2通来ていた。それも同じ時間に。何だ?誰かが間違えて2回送ったのか?
疑問に思いながらメールを開くと凍り付いてしまった。そこには……
『fromオーフェリア 八幡、今私とシルヴィア以外の女相手に鼻の下を伸ばしていた?』
『fromシルヴィ 八幡君さ、今私とオーフェリアさん以外の女の子にデレデレしてた?』
そう表示されていた。
結局俺は授業が始まっても凍り付いたままだった。
「……それで八幡、実際はどうなの?」
「……はい。デレデレしました。すみませんでした」
俺は今地べたに正座してオーフェリアに頭を下げている。
昼休みにいつものベストプレイスに行くと頬を膨らませて不機嫌丸出しのオーフェリアがいた。頬を膨らませているオーフェリアはクソ可愛かったが俺を見た瞬間、正座を要求してきた。
「……はぁ。全く……八幡のバカ」
オーフェリアはそう言ってそっぽを向く。この子自由になってから感情を出し過ぎだろ?マジで可愛い。
「マジで悪かった。でも俺が恋愛感情を持ってるのはお前とシルヴィだけだ。それだけは信じてくれ」
「それは知っているわよ。……でも納得していないだけよ」
「嫉妬かよ……可愛過ぎか」
嫉妬してるオーフェリアメチャクチャ可愛いんですけど。これがギャップ萌えってヤツか?
「……っ!八幡、変な事を言わないで反省して」
オーフェリアは一瞬驚きの表情を見せてから頬を染めて怒ってくる。しかしさっきと違って怖くない。寧ろ頭を撫でたい。
「悪かったな。何でもするから許してくれ」
どの道悪いのは俺だ。オーフェリアとシルヴィが許してくれるまで何でもする所存だ。
「……じゃあ、今から午後の授業が始まるまで甘えさせて」
オーフェリアはそう言って俺にスリスリしてくる。相変わらず甘えん坊だなぁ……
「はいはい。どうぞ」
「んっ……」
俺が頭を撫でるとオーフェリアは俺の唇にそっとキスを落としてくる。恥ずかしいが俺が悪いので甘んじて受けよう。
「んっ……ちゅるる……」
待てコラ、舌を絡めるのは止めろ。俺も歯止めがきかなくなるからな?
それから20分……
「んっ…ちゅっ……はち、まん……それで何でデレデレしたの?……ちゅるっ……」
20分キスをしているとオーフェリアは唐突に俺にデレデレした理由を聞いてくる。答えるのは構わないが質問するのかキスをするのかどちらかにしてくれ。キスをされながら答えるのは無理だからな?
「ちゅっ……そりゃアレだ。シルヴィの誕生日プレゼントについてだが……」
俺は一旦オーフェリアとのキスを止めて昨日のシルヴィとの会話を話した。
「……そんでその事をプリシラに説明したら真っ赤になって可愛い反応を見せてきたんだよ」
俺が全て話すとオーフェリアは考える素振りを見せてから口を開ける。
「……八幡、私も子供が欲しいわ」
頬を染めて艶のある目で俺を見てくる。普段悲しげな表情のオーフェリアが艶のある目で見てくると何かが込み上がってくる……!
「お、落ち着けオーフェリア。昨日シルヴィにも言ったが子供はアスタリスクを卒業してからにしてくれ」
舌を噛んで理性を踏みとどまらせてそう返す。理性が崩れたらマジでオーフェリアを襲いそうだ。
「……わかったわ。でも卒業したら……」
「わかってる。俺の子供で良ければ作ってやるから」
「……約束よ」
オーフェリアはそう言って抱きついてくるので俺は頭を撫でる。……どうしよう?いくら2人同時に愛すると決めたとはいえ……2人と子供を作るってヤバくね?
一瞬、そう考えたが直ぐに撤回した。
オーフェリアとシルヴィ、2人の告白を受け入れた時に2人共幸せにするって決めたんだ。世間が反対しようが知った事じゃない。
俺はそう考えながら遠くない将来に対して改めて決心をした。
「それでオーフェリア、お前はシルヴィに何をプレゼントするんだ?」
膝の上に乗って甘えてくるオーフェリアに尋ねる。
「……私はハンカチを刺繍しているわ。あげるとしたら普段身につけるような物が良いと思って……」
普段身につける物か……しかも手作り。プリシラの言ったように手作りも良いかもしれん。
「……わかった。アドバイスありがとな。俺は俺で考えてみるわ」
オーフェリアに礼を言うと予鈴が鳴り出した。まさか昼休みの半分以上がオーフェリアとのキスで埋まるとは思わなかった。
つーかシルヴィもそうだが俺の恋人絶対にキス魔だろ?1日最低200回はキスをしてくるし。
そんな事を考えながらオーフェリアを膝から下ろして自身の教室に向かって歩き出した。
来週までにシルヴィのプレゼントも考えないとな……
「……という事でエンフィールド。何か手作りでシルヴィが喜びそうな物について思いつかないか?」
放課後、星導館学園の生徒会室にて俺はエンフィールドから差し出されたお菓子とお茶を食べながら聞いてみる。
女子が喜びそうな手作りの物を知るにはやはり女子に聞くのが一番だろう。
しかしシルヴィは当事者だから除外、オーフェリアはプレゼント製作中で邪魔したくないから除外、プリシラは最近トレーニングをしていて忙しいから除外、イレーネはそういった物に興味ないだろうから除外。
よってエンフィールドに聞いてみる事にした俺は星導館の生徒会室に来ている。
「手作り……まずはクッキーみたいに消耗品にするかアクセサリーのような物にするかどうかを決めるべきでしょうね」
「なるほどな……」
確かに料理を振る舞うというのも悪くないだろう。だが……
「料理系は厳しいな。俺の料理の腕はあいつの料理の腕に比べてショボいし」
2日に1回はシルヴィの飯を食っているがメチャクチャ美味いので自信を無くしてしまった。
「そうなのですか?ところで比企谷君」
「何だよ?」
「比企谷君はシルヴィアと『孤毒の魔女』、どちらと付き合っているのですか?」
「ん?両方だけど」
俺がそう返すとエンフィールドは驚きの表情を浮かべてくる。
「まあ……まさかとは思いましたが本当にそうだったとは。それにしてもよくシルヴィアと交際出来ましたね。てっきりマネージャーが反対するかと」
ああ……ペトラさんね。
「ああ。まあ初めは反対されたけど交渉の末認めて貰った」
正確にはオーフェリアが脅迫した。
交渉が難航しているとオーフェリアが『八幡と私、シルヴィアの3人による交際を認めないなら私がクインヴェールで暴れる』って脅したら『絶対にバレない』事を条件に認められた。
あの時のオーフェリアはガチで怖かった。クインヴェールの理事長室にオーフェリアの圧倒的な万応素が吹き荒れて、隣にいた俺とシルヴィメチャクチャビビったし。
「なるほど……好きな人の為に頑張る姿勢は私も見習いたいですね」
「まあお前も天霧落とせるように頑張れ。それより話を戻すぞ?」
「ああそうでしたね。料理がダメなら消去法でアクセサリーのような物になりますね」
エンフィールドはそう言って空間ウィンドウを表示して俺に見せてくる。そこには色々な造形教室のパンフレットがあった。
「こちらがアスタリスク商業区で行われている造形教室です。参考にどうぞ」
おお、こんなにあるのか。とりあえず今から行ってみるか
「サンキュー。とりあえず行ってみるわ」
「どういたしまして。それと比企谷君にお願いがあるのですが」
「お願い?またレヴォルフの情報か?」
「いえ。来年に行われる獅鷲星武祭についてなのです」
「何だ?誰かを鍛えてくれってか?」
「はい。まだチームは組んでいませんが綾斗とユリスは入るでしょう。その際に個々の力を上げる為に比企谷君の力を借りたいのです」
うーむ。今は何とも言えないな。報酬がないとやる気がしない。
「……一応考えておく。今直ぐに返事をしなくてもいいか?」
「もちろんです。そうですね……来年リーゼルタニアに行きますがアスタリスクに帰国するまでに返事をお願いします」
「了解した。じゃあ失礼する。次からはマッ缶も用意しといてくれ」
「ふふっ、アレは飲み過ぎると糖尿病になりますよ」
「飲まなきゃやってられん。じゃあな」
俺は息を吐いて影の中に潜り生徒会室を後にした。さて……今から体験しに行くか。