「んじゃシルヴィ……誕生日おめでとう」
「……おめでとう」
俺とオーフェリアはそう言ってシルヴィに向けてクラッカーを引く。破裂音と共にクラッカーからは紙吹雪が大量に飛び出しシルヴィに当たる。
にしてもアレだな。俺やオーフェリアみたいに静かでコミュ力の低い人間がクラッカーを鳴らすって……凄いシュールなんだけど?つーかクラッカーを引く奴が目を腐らせてる男とメチャクチャ悲しそうな顔をしている女って……
「うん!2人ともありがとう!凄く嬉しいよ」
しかし当のシルヴィは笑顔でお礼を言ってくる。そこには特に含むものを感じない。本気で喜んでいるのだろう。何か悪い事をしていないのに罪悪感を感じる。
「……どういたしまして。そんじゃ飯にしようぜ」
「うん、それじゃあご馳走になるね」
シルヴィがそう言ってフォークを手に取るので俺とオーフェリアもそれに続いて……
「「「いただきます」」」
近くにある料理を取り始めた。俺とシルヴィが一番始めに取るのは勿論……
「うん。やっぱりオーフェリアさんのグラタンは最高だね」
「同感だな。毎日食っても飽きないだろう」
オーフェリアのグラタンだ。これはマジで大好物だ。一番初めに食うのは挨拶をした瞬間から決めていたくらいだ。
「……ありがとう」
当のオーフェリアは頬を染めて恥ずかしそうに目を逸らす。何この子?可愛過ぎだろ?
「可愛い……ねぇオーフェリアさん、ギュッてしていい?」
シルヴィは怪しい笑みを浮かべてオーフェリアにそう言ってくる。気持ちはよくわかるが落ち着け。お前今の顔ヤバいぞ?
「……いきなり何を?」
オーフェリアがキョトンとした表情を浮かべる中、シルヴィは了承の返事を聞かずにオーフェリアをギュッと抱きしめる。
「……シルヴィア、少し苦しいわ」
オーフェリアは若干嫌そうな表情をするも特に逆らう素振りを見せていない。そこまで嫌がっていないのだろう。つーかお前ら何を百合百合してるの?いいぞもっとやれ
「ん〜。やっぱりオーフェリアさんって八幡君の言う通り凄く抱き心地が良いね〜」
「ぶほっ?!」
シルヴィが余計な事を言ったので、つい飲んでいたお茶が気管に入って噎せてしまう。
「なっ…….し、シルヴィ!」
「……シルヴィア、どういう事?」
オーフェリアが頬を染めながらシルヴィに聞いてくる。慌ててシルヴィの口を閉ざそうとするもシルヴィの方が一歩早かった。
「うん。あのね、八幡君がオーフェリアさんの話をする時って必ず『オーフェリアって小さくて凄く抱き心地が良い』って言うんだよ?」
シルヴィィィィィ!テメェマジで余計な事を言ってんじゃねぇよ!アレか?!オーフェリアに毒されてオーフェリア同様、俺の黒歴史暴露装置になってしまったのか?!
「……そうなの八幡?」
「……あー、まあな」
オーフェリアが聞いてくるので仕方なく認める。ここで認めないとシルヴィが更に黒歴史をバラすかもしれないので素直になる。
「……そう。じゃあ八幡もシルヴィアみたいに抱きしめても良いわよ」
「あ、いや、それはだな……「八幡君に拒否権はないよ〜」……わかった」
どうにか遠慮しようとしたがシルヴィが笑顔で威圧してくるので逆らう事が出来ずにオーフェリアの横に座る。
「……じゃあ、やるぞ」
「……んっ」
オーフェリアが頷くので俺は息を吐いてオーフェリアをシルヴィと挟むように抱きしめる。
瞬間、腕の中に温もりを感じる。しょっちゅう感じている温もりだが全く飽きる事はない。そして一度感じると失うのが惜しくなる温もりだ。
「……んっ、八幡っ、くすぐったいわ」
オーフェリアが腕の中で身をよじる。少し強く抱きしめ過ぎたようだ。
「悪かったな。次からは気をつける」
一言謝って力を緩める。あー、癒やされるなぁ……
俺と反対側からオーフェリアを抱きしめているシルヴィもポワポワした表情を見せている。
「……これ凄く癒やされるね。何だかオーフェリアさんが私と八幡君の子供みたい」
「あー、確かにな」
俺とシルヴィに挟まれているオーフェリアは確かに子供みたいにおとなしく抱きしめられているし、割と的を射ている発言だろう。
「……子供はいや。私は八幡の妻になりたいわ」
そう思っていると俺とシルヴィの腕の中にいるオーフェリアが不貞腐れた表情をして反論してくる。突っ込む所そこかよ?!
「ごめんごめん。あくまで例えだよ。実際は未来の妻だよ」
「……っ、シルヴィア……子供扱いしないで」
シルヴィはそう言って自分の頬をオーフェリアの頬に当ててスリスリする。何だ俺の恋人2人は?可愛過ぎだろ。
俺はオーフェリアとの抱擁をとき元の場所に戻り、2人が百合百合している所を肴にして食事を始めた。
オーフェリアの『助けて』と言わんばかりの表情に対して気付かないフリをしながら。
10分後……
「……悪かったよオーフェリア、頼むから許してくれよ?」
俺は今不機嫌になっているオーフェリアのグラスにお茶を注ぎながら謝罪する。
「……八幡のバカ。助けないどころか笑っていたし」
いやだって……恋人2人がじゃれ合っていたんだぞ?見ていて凄く癒されたし。てかもう一回見たいんですけど?
「悪かったって。つーか元はシルヴィが原因だろ?」
シルヴィの奴、オーフェリアと頬をスリスリしたり、オーフェリアの顔を自分の胸に埋めたり色々楽しんでたし。
「あー、そこを言われたら返す言葉がないなぁ。ごめんねオーフェリアさん」
シルヴィはそう言ってペコリと頭を下げる。オーフェリアは暫くの間ジト目で見ていたが……
「……はぁ。いいわ。シルヴィアは誕生日会の主役だしもう許すわ。八幡もシルヴィア同様に許すけど次からはあそこまではしないで」
ため息を吐きながらも俺とシルヴィを許した。いや、本当に済みませんでしたオーフェリアさんや。
「わかった。次から気をつける」
シルヴィ同様頭を下げて謝罪する。それを見たオーフェリアは軽く手を振ってから俺のグラスにお茶を注いできた。どうやら本当に怒っていないようだな。
俺とシルヴィは安堵の息を吐いて食事を再開した。
「ごちそうさま。2人ともありがとう。凄く美味しかった」
シルヴィは最後にステーキを食べてから笑顔でお礼を言ってくる。そろそろだな……
俺はオーフェリアと目配せして隠し持っていた箱を2つ渡す。
「んじゃ最後にこれ。気にいるかわからないがプレゼント」
シルヴィは箱を見てキョトンとした表情を見せるも一瞬の事で、再度笑顔を見せてくる。
「ありがとう。開けてもいいかな?」
「ああ」
「……どうぞ」
了承するとシルヴィは箱を開け始める。出来るなら喜んで欲しいものだ……
シルヴィが紐をとくと、そこには色とりどりの花が刺繍されたピンク色のハンカチと、ピンクや赤、シルヴィに似合いそうな色のビーズで作られたブレスレットが露わになった。
ヤバい……オーフェリアのハンカチ可愛いな。女子が持ったら喜びそうなタイプじゃん。
「……凄い。ハンカチは可愛くてブレスレットは綺麗だね」
そう言ってシルヴィはブレスレットを付けて見せつけてくる。
「どうかな?似合ってる?」
シルヴィはそう聞いてくるが答えられない。俺が作ったからか褒めると自画自賛してるみたいだし。
「……似合ってるわ。八幡、私の誕生日にもブレスレットを作って欲しいわ」
オーフェリアはそう言って俺の服を引っ張ってくる。
「……え?そんなに良いか?」
正直言って余り自信がなかったんだけど。
「うん。凄く綺麗だよ。大切にするね」
「……ええ。私も欲しいわ」
そうか。恋人に欲しいと言われたり、綺麗と言われるのは予想以上に嬉しいな。
「……わかった。俺ので良ければ作ってやる。シルヴィも喜んでくれてなによりだ」
改めて礼を言うと2人が優しい笑顔を見せてくる。……こんな笑顔が見れるなら作って良かったな。
そんな感じでシルヴィの誕生日会は幸せな気分のまま幕を閉じた。
「今日は本当に楽しかったよ。ありがとね」
寝室にてパジャマを着たシルヴィが俺に抱きつきながら礼を言ってくる。
「どういたしまして。シルヴィに喜んでくれて俺も嬉しい」
そう返すとシルヴィは目を細めて頬をスリスリしてくる。
「ふふっ、そういえば八幡君と2人きりで寝るのは久しぶりだね」
「ん?ああ、そうだな」
現在部屋には俺とシルヴィの2人きりだ。オーフェリアはシルヴィに『今日はシルヴィアの誕生日だから八幡と2人で過ごしていいわ』と言って客間で寝る事にした。
シルヴィは仕事上マンションに帰らない日があるが、オーフェリアは自由になったので帰らない日はないので、オーフェリアと2人きりになる事はあってもシルヴィと2人きりなのは久しぶりだ。それこそ鳳凰星武祭でクインヴェールに泊まって以来だし。
「……もう2ヶ月近く経ってるんだね」
「そうだな。今更だがあん時はいきなりキスして悪かったな」
アレは今でもぶっ飛んだ行動だと思っている。無意識とはいえ世界の歌姫の唇を奪ったんだし。
「あはは、別にもう気にしていないよ。でも八幡君に奪われるとは思わなかったな。八幡君とのファーストキスは私が奪う感じになるかと思っていたしね」
「まあそうだな」
俺は基本的に自分からキスする事はない。オーフェリアやシルヴィとキスする時はいつも受け身の姿勢でキスをしている。
「ねぇ八幡君、お願いがあるんだけど」
「お願い?何だよ?」
今日はシルヴィの誕生日だし何でも聞いてやるつもりだ。
「そ、その……日が変わるまでで良いから……私にキス、して?」
何でも………え?
「し、シルヴィ?」
シルヴィに再度確認をするとシルヴィは真っ赤になって俺を見てくる。
「だ、だって今まで八幡君としたキス10953回の内、八幡君からしたキスってたったの421回だけなんだよ。もっと八幡君からキスされたいよ……」
「いや421回もしてるなら充分だろ?」
付き合ってから約2ヶ月、つまり俺からシルヴィにするキスは1日7回のペースだから割と多いだろう。つーかよく回数を覚えてるな!これならオーフェリアも間違いなく覚えていそうだ。
「……八幡君からしたら充分かもしれないけど、私からしたら好きな人からキスをされたいんだよ。……明日、私の誕生日じゃなくなるまでで良いからお願い……」
シルヴィは上目遣いでおねだりをしてくる。はぁ……誕生日を出されたら拒否出来ないな。
俺は一度ため息を吐いてから
「……んっ」
シルヴィの唇に優しくキスをする。シルヴィは驚きの表情を見せてから徐々に真っ赤になる。
「んっ……八幡君からのキス……久しぶりだけど最高だよ。もっとして……」
シルヴィは抱きついてトロンとした表情で誘惑してくる。約束をした手前拒否するつもりはないし……こんな風に誘惑してくるなら遠慮はいらないだろう。
「……後悔するなよ」
俺はそう言って再度シルヴィの唇を奪った。
「んっ……ちゅ……んむっ…んちゅる、んあ、っん…っ」
シルヴィは真っ赤になりながら俺のパジャマを掴んでいる。お互いに舌を絡め合っていて口の中は唾液で溢れていた。当のシルヴィは完全になすがままになっていた。
pipipi
更にシルヴィの唇を奪いにいこうとするとタイマーが鳴る。どうやら日が変わったようだ。
「ぷはっ!誕生日は終わったし寝るぞ」
俺はシルヴィから離れる。これ以上するとシルヴィの唇どころかシルヴィの処女を奪いそうになるから止めるべきだろう。結婚するまでは一線を越えるつもりはない。
「……八幡君、また今日みたいなキスをして欲しいな」
シルヴィは俺に抱きつきながら蠱惑的な表情を見せてくる。だからお前は誘惑するな!
「……気が向いたらな」
そう言って俺は目を閉じる。キスし過ぎたからかかなり眠くなってきた。早く寝よう。
一度寝ると決めたら意識が薄くなってきたな……
「……じゃあ、私が八幡君の気を向かせてあげるから」
最後にそんな声が聞こえ、唇に柔らかい感触を感じながら意識を手放した。
1ヶ月後……
「……うーん。今日の夕飯はハンバーグにするかコロッケにするか….…」
11月、俺はスーパーに買い出しに出ている。最近シルヴィは忙しいので俺とオーフェリアが夕食当番になっているが……やっぱりシルヴィの好物にするか。
そう思いながらハンバーグを取ろうとすると端末が鳴り出す。しかも相手はシルヴィじゃん。
「もしもし。どうしたシルヴィ」
『あ、うん。八幡君にお願いがあるんだけど。あ、別に強制じゃないから無理に受けなくてもいいよ』
「内容次第だ。先ずはそのお願いってのを聞かせてくれ」
まあシルヴィのお願いなら拒否する事はないと思う。……キスの要請以外は。いかん、顔が熱くなってきた。
そんな中、空間ウィンドウに映るシルヴィの口が開く。
『実はうちの学園で獅鷲星武祭に出ようとしているチームで私が応援してるチームがあるんだけど……八幡君に協力してもらいたいんだ』
……え?