学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして比企谷八幡は訓練を施す(前編)

「んじゃ、シルヴィも仕事に行ったし始めるぞ。練習試合とはいえ本気でかかってこい」

 

俺がそう言って試合開始地点に立つと赫夜のメンバーの向かい側に立つ。

 

配置は……若宮とフェアクロフ先輩が前衛、アッヘンヴァルが中衛つまり遊撃手あたりだろ。んで蓮城寺とフロックハートが後衛か。

 

俺が腰から黒夜叉とレッドバレットを抜くと向こうも煌式武装を展開する。若宮と蓮城寺の煌式武装はナックル型と弓型と余り使う奴はいないので興味が湧いた。

 

しかしそれも一瞬で直ぐに意識を切り替える。負けるとは思っていないが厳しい戦いにはなるだろう。

 

沈黙が続く中

 

『模擬戦開始!』

 

そんなアナウンスが流れると若宮とフェアクロフ先輩が走り出す。前衛2人のコンビネーションで攻める算段か?

 

「な、九轟の心弾!」

 

同時に真ん中にいたアッヘンヴァルの周囲に万応素が噴いて九つの光弾が現れて放たれる。どうやら短期決戦をするようだ。動き方からしてある程度の鍛錬はしているのがわかる。

 

 

 

 

 

まあわざわざ相手のペースに合わせるつもりは毛頭ないが。

 

そう思いながら俺は星辰力を込め、辺りに万応素を噴出させる。その量はアッヘンヴァルの数十倍だろう。

 

いきなりの万応素に若宮は動きを鈍らせるが戦場でそれは悪手だバカ。

 

 

「影の鞭軍」

 

俺がそう呟くと背中に魔方陣が現れてそこから12の影の鞭が現れて背中に固定される。赫夜のメンバーからしたら背中から12の影の鞭が生えているように見えるだろう。見た目は完全に鞭だが1本1本の太さは半径20センチくらいある巨大な鞭だ。

 

 

そんな事を考えながら背中に固定される同時にその内8本を若宮とフェアクロフ先輩目掛けて攻撃するように、4本は俺の前に盾としてアッヘンヴァルの攻撃を防ぐように指示を出す。すると鞭は唸りを上げてから指示した動きをし始める。

 

アッヘンヴァルの攻撃は影の鞭が盾となって防ぎ……残りの8本は攻撃にまわる。

 

 

 

 

「くっ……!」

 

それを見たフェアクロフ先輩はサーベル型煌式武装でそれを受け流す。しかしあらゆる方向から攻めてくる割と攻撃力のある4本の鞭全てを捌き切るのは難しいようで歩みは止まっている。それでもダメージを受けずに4本の鞭を捌くのは流石の剣技と言った所か。

 

一方の若宮は……

 

「わっ!とっとと……!」

 

避けたりしながらナックル型煌式武装で鞭の横っ腹を殴る事で対処しているも、完璧に対処出来ているのは3本だけで残った1本の鞭には対処出来ず肩に1発くらって後ろに吹き飛ぶ。体勢は崩し切れていないが今の若宮じゃ4本の鞭に対処するのは無理だろう。先ずは若宮からだな……

 

そう思いながら追撃をしようと4本の鞭を放つと……

 

「させません!」

 

「じゃ、王太子の葉剣!」

 

若宮に当たる直前、後ろから蓮城寺の弓とアッヘンヴァルが持つ光の剣が影の鞭を4本の内3本を弾き飛ばす。そして残った1本の攻撃は若宮本人によって妨げられる。

 

(……援護が面倒だな。先ずは遊撃手のアッヘンヴァルを潰すか)

 

俺が影の鞭軍で同時に制御出来る鞭の数は12。その内4本はフェアクロフ先輩の足止めに使っていて、4本は防御用に自身の周囲に配置させている。

 

残りの4本で潰しに行きたいが、4本でアッヘンヴァルを潰すのは無理だろう。

 

方針について悩んでいると……

 

「そこです……!」

 

蓮城寺の弓型煌式武装から極大の光の弓が現れて俺に向かって放たれる。間違いなく流星闘技だろう。

 

「ちっ……」

 

俺は防御用の4本の鞭に指示を出して防御に回すと光の弓とぶつかり合い火花が飛ぶ。

 

「今っ!」

 

それと同時に若宮が突っ込むがそう簡単には行かせない。残った4本の鞭を振るうも距離があるから避けられてしまう。そして更に距離を詰めてくる。

 

だったら……

 

俺が若宮に攻撃した鞭に指示を出す。すると若宮の真後ろにあった鞭の先端が向きを変えて若宮の背中に向けて襲いかかる。いくら何でも後ろからの奇襲には無理だろう。

 

 

 

 

 

 

しかし俺の予想は外れた。

 

若宮はピョンとジャンプして影の鞭の突きを全て回避する。しかも他のメンバーは誰も注意をしていないのにだ。

 

(んだこいつは?後ろに目でも付いてるのか?)

 

若宮の能力について考えていると目の前に光弾が飛んできたので黒夜叉で弾く。見ると最後方でフロックハートがハンドガン型煌式武装を俺に向けていた。人の顔面に狙って撃つとは良い性格してやがる。

 

口に出して文句を言いたいがそれは後だ。何せ今現在若宮と俺との距離が3メートルを切っていてそれどころではないからな。

 

「玄空流ーー旋破!」

 

そう言いながら放ってくるナックル型煌式武装からは星辰力が溢れているから流星闘技だろう。

 

影の鞭は使えない。12本の鞭の内、4本はフェアクロフ先輩の足止め、4本は蓮城寺が出し惜しみなしで放ってくる流星闘技に対する防御、残りの4本は自由だが今から若宮の攻撃を防ぐのは無理だろう。

 

よって若宮の攻撃には俺自身が対処しないといけない。

 

俺は体を右後ろに動かして若宮を俺とフロックハートの間に誘導する。これてフロックハートの援護射撃はないから問題ない。

 

「中々速い一撃だが……まだ足りないな」

 

俺はバックステップで右ストレートを回避する。確かに速いが日頃レヴォルフで揉まれている俺からしたら対処出来ない速さではない。

 

「まだまだぁ!ーーー転槌!」

 

すると低い体勢になりながら左腕から肘打ちを放ってくる。こいつは避けれないな……

 

俺は体をズラして校章に当たらないようにする。最優先は校章の破壊を防ぐ事だ。多少のダメージは仕方ないだろう。

 

「ぐっ!」

 

俺の脇腹に若宮の肘打ちが当たり吹き飛ぶ。ゲロ吐きそうになるが我慢だ。

 

後ろに吹き飛ぶと若宮は更に追撃をしかけようとしたが一瞬ハッとした表情をして高くジャンプをする。そこにはさっき奇襲をした影の鞭があった。

 

(またしても奇襲に失敗かよ……マジで面倒だな)

 

つーかこのチーム結構やるな。影狼修羅鎧や影狼神槍を使っていないとはいえ俺が不利になるとは予想外だ。

 

仕方ない、少々大人気ないが本気を出すか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きて我が傀儡となれーーー影兵」

 

俺がそう呟くと俺の影が黒い光を出し、五体の黒い人形が湧き出る。その姿は真っ黒ではあるが全て俺と同じ体格をしている。

 

それを見たフェアクロフ先輩は戦慄した表情を見せてくる。

 

「気をつけてくださいまし!その人形は冒頭の十二人クラスの実力ですわ!」

 

実際に戦った事のあるフェアクロフ先輩はそう言うがそれは間違いだ。一度に召喚したのが一体なら冒頭の十二人クラスだが、一度に五体の影兵を召喚した場合はせいぜい序列30位から50位くらいだ。

 

しかしフェアクロフ先輩は一体の影兵としか戦った事がないので一体一体の実力が冒頭の十二人クラスと勘違いしているようだ。

 

そして勘違いは時として戦局を大きく変える事になる。

 

「いけ」

 

若宮の追撃を避けながらそう指示を出すと五体の影兵は一斉にフェアクロフ先輩の所に向かう。それと同時にフェアクロフ先輩に攻撃していた4本の鞭の先端を引き寄せて若宮の攻撃を防ぐ。

 

影兵は基本的に自動で動くから意識を割く必要はない。俺の目的はフェアクロフ先輩は五体の影兵で引き際に足止めして、残った4人を12の影の鞭で攻める事だ。

 

ちらっと横を見ると影兵五体がフェアクロフ先輩を囲ってヒットアンドアウェイ戦法をとっている。この程度で倒せるなんて思っていないが足止めとしては充分だろう。

 

そしてフェアクロフ先輩を影兵で足止め出来れば若宮は敵じゃない。

 

若宮は再度流星闘技を発動して右ストレートを放ってくるが4本の影の鞭がそれを防ぎ……

 

 

「先ずは1人」

 

若宮の校章を粉砕する。

 

『若宮美奈兎、校章破損』

 

「そ、そんな……」

 

若宮の呆然としている中俺はアッヘンヴァルに狙いを定める。次はお前だ。現在12の影の鞭の内、4本は蓮城寺の攻撃を防いでいるので使える鞭は8本か。だったら……

 

 

 

俺は8本中6本の鞭をアッヘンヴァルに飛ばす。これで2人目だな。

 

そう思っているとアッヘンヴァルの周囲から万応素が噴き荒れる。さっきまでの数倍はある事から切り札を切るのだろう。

 

「大王の崩順列!」

 

するとアッヘンヴァルの前方に光の砲台が現れてそこからハートの形をした砲弾が放たれて6本の影の鞭がぶつかり、辺り一面に衝撃が走る。

 

それを確認すると同時に影の中に潜る。あのハートの形をした砲弾と6本の鞭の威力は殆ど同じだ。だから今の内に……

 

影の中から移動していると地上では大爆発が起こり辺り一面に煙が上がる。煙はトレーニングルーム全体に広がって視界は悪くなる。

 

しかしこうなる事を予想して影の中に入った俺には関係ない。

 

そのままアッヘンヴァルの足元に近づくと俺は影の中から這い出て、黒夜叉でそのままアッヘンヴァルの校章を斬り裂く。これで2人目。

 

『ニーナ・アッヘンヴァル、校章破損』

 

アナウンスが流れるのが聞こえていると寒気を感じたので咄嗟に後ろに下がるとさっきまで俺がいた場所に向かって光の矢が飛んできた。多分蓮城寺の弓だろう。

 

何とか回避する事には成功したが、その後も俺の位置がわかっているかのように矢を放ってくる。

 

(……マジか?!この煙の中で正確に狙撃出来るのかよ?!)

 

正直これには驚いた。まさか煙が充満している中でここまで正確に狙撃をしてくるとはな予想外だ。

 

しかし弓の煌式武装の利点を生かしていないのが勿体無いな……

 

「覆えーーー影鎧」

 

そう呟くと自信の体に影が纏わりつき鎧となる。影狼修羅鎧の下位の能力だ。しかし並みの煌式武装の攻撃なら簡単に弾けるから問題ない。

 

鎧を纏うとちょうど同じタイミングで煙が晴れて蓮城寺の姿が見える。弓を構えてはいるが表情は驚きに満ちている。

 

それを見ながら俺は蓮城寺に突っ込む。前方から蓮城寺の弓が、右方からフロックハートの光弾が体に当たるが影鎧には傷一つ付かない。

 

そしてそのまま距離を詰めて……

 

『蓮城寺柚陽、校章破損』

 

そのまま蓮城寺の校章を破壊する。後2人だし次は……

 

左で影兵に時間稼ぎをされているフェアクロフ先輩に向けて影を放つ。俺の足元から現れた影はそのままフェアクロフ先輩に突っ込み拘束する。

 

 

「ちょっ!な、何ですの?!」

 

フェアクロフ先輩が驚きの声を出しているが捕まえただけですからね?内心そう突っ込みながら影兵に指示を出す。

 

影兵はそのまま両腕を拘束されて剣を振るえないフェアクロフ先輩に向けて腕を振るい校章を破壊する。

 

『ソフィア・フェアクロフ、校章破損』

 

これで4人。後は……

 

俺は後ろを向きながら影兵を自身の左右に配置して俺に煌式武装を向けているフロックハートに向けて話しかける。

 

「詰みだ。降参してくれるとありがたい」

 

降伏するように促す。影鎧を纏っている俺に加えて影兵がいる時点で俺の勝ちは確定している。万が一傷付けたら後に響くから降伏して欲しい。

 

フロックハートは暫く俺を睨んでいたが、やがてため息を吐く。

 

「わかったわ。私の負けよ」

 

ため息を吐いて校章に手を当てる。

 

『模擬戦終了!勝者、比企谷八幡!』

 

それと同時にアナウンスがトレーニングステージに響き渡る。さてさて……次は総評と反省会だな。

 

そう思いながら俺は5人の元に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあオーフェリアさん。明日からお願いしてもいいかな?』

 

「……わかったわ。任せて」

 

『ありがとう。私は仕事で忙しいから助かるよ』

 

「別に構わないわ。私もそうするべきだと思ってるから」

 

 


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