学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして比企谷八幡は訓練を施す(後編)

「う〜、手も足も出なかったよ〜」

 

5人の元に歩くと若宮が悔しそうな表情で嘆いていた。そりゃまあ……いくら5対1でもそう簡単に負けるつもりはない。

 

「まあ今回は実力を確かめるのが目的だしそう気にするな。それに最後は割と本気を出したぞ」

 

「嘘ね。貴方、シルヴィアや『孤毒の魔女』に使っていた鎧や槍を使っていなかったじゃないの」

 

フロックハートは冷たい目をしてそう言ってくる。おそらく影狼修羅鎧と影狼神槍を使わなかったから本気を出していないと思ってるいるのだろう。

 

「アホか。影狼修羅鎧はともかく、影狼神槍は対オーフェリア用に開発した技だ。お前らに放ったら五体満足じゃいられないぞ?」

 

アレは破壊力に特化した切り札で桁違いの星辰力を持つオーフェリアでさえ無傷で防ぐのは無理な技だ。こいつらに使ったら良くて腕が捥げる、最悪死ぬだろう。んな事したら間違いなく面倒になるし。

 

「まあそれはどうでもいい。それより総評に入るぞ」

 

俺が話を切り上げて本題に入ると全員が真剣な表情になる。

 

「まず若宮、お前の近接技については上位序列者、それこそ冒頭の十二人に近いだろう。だがまだ型以外の動きは硬い。おそらく実戦稽古は殆どしてないだろ?」

 

俺に対して攻撃している時はキレがあったが、俺が反撃した瞬間若干動きが鈍かった。

 

「う、うん」

 

「だろうな。場合によってはお前の型と相性が悪い相手に備えて型以外にもある程度の動きを実戦で身に付けろ」

 

「でもトレーニングの相手はどうするの?あんまり他の人には見せたくないし……」

 

「そいつは俺の影兵やイレーネあたりに協力して貰うように頼んでやるから安心しろ」

 

イレーネの体術は実戦で鍛えた物で若宮にとっては良い刺激になるだろう。イレーネもカジノですった金を俺が補填してやれば喜んで協力してくれるだろう。

 

「次はアッヘンヴァル。お前は切り札の使い所を考えろ。例えば最後に放ったハート型の光弾だが、もっと早くにフェアクロフ先輩の援護に使えばフェアクロフ先輩をフリーにする事が出来て勝てたかもしれないぞ?」

 

最後に放ったハート型の光弾は俺の影の鞭6本を破壊する威力だった。アレをフェアクロフ先輩に使っていた4本を破壊する為に使っていれば勝てたかもしれないし、勝てなくてもかなり危なかっただろう。

 

「あ……」

 

「理解したようだな。という事でお前は後で俺が直接鍛えるから技の使い所を身体に叩き込ませろ」

 

切り札は出し惜しみするか早めに使うかは対戦相手によって変える必要がある。その判断を出来るようにならなきゃ遊撃手としては半人前だ。

 

「あ、で、でも私の能力は何度も使えないの……」

 

「あ?どういう事だ?」

 

何度も使えない能力だと?意味がわからん。星辰力がないならともかく、何度も使えないって何だよ?

 

疑問に思っているとフロックハートが前に出てきて説明をしてくる。

 

「彼女の能力はトランプを模した能力なの。4つのスート、スペードが近接攻撃、ハートが遠距離攻撃、ダイヤが防御能力、クラブが補助型能力で威力はその数字によって変化するの。そして一度使ったスートと数字の組み合わせは1日使えなくなるのよ」

 

「随分と癖の強い能力だな……ちなみに最後の技はもしかして複数の能力を合わせたのか?」

 

「う、うん」

 

ほう……一つ一つが弱い能力でも組めば化ける。ある意味獅鷲星武祭にピッタリの能力だな。

 

「わかった。じゃあお前の課題は能力者としての立ち回り方を学ぶ事と、合成技のバリエーションを増やす事だ。」

 

能力者としての立ち回り方は俺が教えて、更に俺が合成技の実験台になればアッヘンヴァルは問題ないだろう。

 

「わ、わかった。よ、よろしく……」

 

そう言ってアッヘンヴァルは上目遣いで俺に教えを請いてきた。

 

(……何この小動物?凄く可愛いんですけど)

 

保護欲を駆り立てるアッヘンヴァルの表情。プリシラに似ていて凄く可愛いな……

 

そう思っていると……

 

pipipi……

 

俺の端末が鳴り出した。

 

端末を開くとメールが2通来ていた。それも同じ時間に。何か前にもあったぞ?

 

嫌な予感を感じながらメールを開くと凍り付いてしまった。そこには……

 

 

 

 

 

 

『fromオーフェリア 八幡、今私とシルヴィア以外の女相手に鼻の下を伸ばしていたわね。帰ったら話を聞かせてもらうから』

 

『fromシルヴィ 八幡君さ、今赫夜のメンバーにデレデレしてたでしょ。帰ったら事情を説明してね』

 

そう表示されていた。

 

(……………死んだな)

 

つーか何でわかったんだよ?!しかも『伸ばしていたわね』と『してたでしょ』って断定してんじゃねぇか?!何でわかったの?!もしかして身体に何か仕込まれたの?!

 

「比企谷君どうしたんだろう?」

 

「顔がわかりやすいくらい真っ青になっていますね」

 

「……大丈夫かな?」

 

「見たところメールを見たからこうなったようですが……」

 

「大方恋人に何か隠し事をしていのがバレたって所でしょ」

 

「え?!クロエ、そんな事まで知ってるの?!」

 

「え?あ、いや何となくそう思っただけよ。それより……」

 

何か近くから声が聞こえたかと思ったらいきなり振動を感じたので前を見るとフロックハートが俺の肩を揺らしていた。

 

 

 

「やっと意識を戻したわね。次の総評をして欲しいのだけど」

 

フロックハートに冷たい目で見られて現状を理解する。そうだ、今は総評が第一だ。シルヴィとオーフェリアには後でしっかり謝ろう。今日は朝までキスされるかもな。

 

「悪い悪い。んじゃ次は蓮城寺な」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

うわ、礼儀正しいなオイ。屑の巣窟に通っている俺からしたら凄く新鮮に見えるんだけど?

 

「ああ。お前は煌式武装としての弓を使えるようになれ。試合を見る限りお前の戦い方は煌式武装じゃない普通の弓の戦い方だ。そこらの雑魚ならともかく獅鷲星武祭本戦に出るような連中相手には限界があるからな。直線的な射撃以外も出来るようになれ」

 

射撃技術は素晴らしいの一言だが、それだけじゃ上の連中には勝てない。弓型煌式武装は使用者の技術によって威力や矢の軌道を調整する事が出来る。後衛の人間はありとあらゆる状況でも援護を出来なければいけないので弓型煌式武装としての技を身につけなくてはいけない。

 

「わかりました。次の稽古までに再調整しておきます」

 

「え?!ちょ、ちょっと待って!」

 

すると若宮が慌てた様子で蓮城寺に詰め寄っていた。何だいきなり?

 

「いいの?それじゃあ獅鷲星武祭に参加する理由が……」

 

は?どういう事だ?

 

疑問に思っている中、蓮城寺は笑って首を横に振る。

 

「いえ。あれは無知で愚かな自己中心的な視野狭窄です。チームの一員としての役割などを考えた場合、自分に出来る事を広めていく必要があるようです」

 

「柚陽ちゃん……」

 

何か百合百合しい空気を出しているが、こいつら百合じゃないよな?百合は勘弁して欲しいぞ。シルヴィとオーフェリア以外の百合は認めん。

 

「何だかよくわからんが再調整はするんだな?」

 

とりあえずOKはしたみたいだが一応再確認をしておく。それを聞いた蓮城寺は笑顔で頷く。

 

「はい。問題ありません」

 

どうやら本当に不満はないようだな。

 

「なら良い。んじゃ次はフェアクロフ先輩。って言ってもフェアクロフ先輩は技術的には問題ないですね」

 

実際に影の鞭4本や影兵の攻撃を凌ぎ切った以上技術は超一流だ。俺が授ける技術はないだろう。

 

「ですから俺が教えるのは人を傷つけなくても戦える作戦を増やす策を教えます」

 

「そ、そんな事が出来るのですの?」

 

訝しげにそう言ってくる。余り信じているようには見えない。つーか俺フェアクロフ先輩とフロックハートに信用されてないなぁ……

 

「はい。例えばこの煌式武装ですが……」

 

俺はそう言って腰からハンドガン型煌式武装『レッドバレット』を取り出してトレーニングルームの壁に向けて放つ。壁に向かって飛んでいった光弾は壁に当たると雲散霧消する。しかし壁には傷一つ付いていない。

 

「って、感じで俺のレッドバレットの能力は『相手の気分を悪くする』って能力で殺傷能力が一切ないんですよ。実際あの光弾は超音波の塊ですし」

 

「つまり私に殺傷能力はないけど厄介な能力を持った煌式武装を試してみろと?」

 

「ええ。今回フェアクロフ先輩の俺の攻撃を凌ぐのが主な仕事でしたけど場合によっては、圧倒的な強者がチームリーダーの場合攻め手を増やす必要があるので」

 

人を傷つけられなくても戦い方はいくらでもある。相手の調子を崩して若宮やアッヘンヴァルに獲らせる戦法を身につけておいた方がいいだろう。

 

「ですが私、銃はからっきしですわよ」

 

「それについては俺の方で心当たりがあるので準備をしておきます」

 

アルルカントにいる知り合い、厨二病のデブはアルルカントと星導館とレヴォルフの煌式武装共同開発の為に暫くレヴォルフにいたからな。あいつに剣型煌式武装を作らせよう。

 

「わかりましたわ。よろしくお願いしますわ」

 

「はいはい。んで最後にフロックハートだが……」

 

俺が口を開けようとすると……

 

『間も無くトレーニングルームの利用時間が終了します』

 

赫夜の5人の胸にある校章が点滅してそう告げる。

 

「時間切れのようだな。フロックハートについては後でシルヴィから連絡先を聞いてから説明で良いか?」

 

他の5人はともかく、俺が女子校に長居していたらヤバいからな。

 

「……わかったわ」

 

「了解了解。んじゃ次はフェアクロフ先輩の煌式武装が完成してからでいいか?」

 

「うん。いいよ」

 

チームリーダーの若宮に確認を取ると了承を得たので今後の方針は決まった。

 

「わかった。んじゃ俺は帰る。まだ次回な」

 

俺は息を吐いて影の中に潜り、5人の驚きの表情を見ながらトレーニングルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、訳で材木座。1週間以内、出来れば3日以内に作ってくれ」

 

クインヴェールを出た俺は自分の家に帰る途中材木座に電話をしている。

 

『ちょっと待つがよい。これでも我獅子派として結構忙しいんだが……』

 

「やれ。やらないならお前が書いた小説を投稿サイトに投稿するぞ」

 

『待って待って!やるからそれは勘弁して!』

 

素に戻ってるぞお前。そんくらいのことで狼狽えて獅子派の幹部が務まるのかよ?

 

 

「投稿するのは冗談だ。でもわりかし急いでるから早くして欲しい」

 

『むふぅ……それは構わぬが何故にサーベル型煌式武装なのだ?貴様が使う煌式武装はナイフ型であろう?』

 

「使うのは俺じゃないからだ。とにかく頼む。報酬は30万でどうだ?」

 

『任せるがよい。最高の武装を作ってやろう』

 

即答かよ。現金な奴だ。まあ高くついたが後でフェアクロフ先輩に徴収しよう。

 

「助かる。じゃあな」

 

俺はそう言って通話を終了する。それと同時に自分の家が目に入る。

 

はぁ……帰ったらシルヴィとオーフェリアに怒られるんだろうな。まあ自業自得だけど。

 

覚悟を決めた俺は息を吐いて鍵を開ける。

 

「ただいま」

 

一言挨拶をして中に入ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おかえりなさいませ、ご主人様」

 

「お、おかえり八幡君」

 

悪魔風のエロい雰囲気のメイド服を着たオーフェリアと裸エプロンのシルヴィがいた。

 

 

………ここは天国か?てか怒られると思っていたんだけど何があったんだ?


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