学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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何だかんだ比企谷八幡は頭がキレる(前編)

地下に向かうエレベーターは不気味だ。窓がない中、ゴウンゴウンと音を立てながら降りるのは余り好きではない。

 

俺は今、レヴォルフで最もマトモな場所に向かっている。レヴォルフの生徒は9割が屑で残りの1割がマトモな生徒だが、俺が今行く場所に所属している学生は全員マトモな生徒だと思う。

 

エレベーターが止まって扉が開くと白衣を着たレヴォルフの学生と中年の男性が慌ただしく動き回っていた。

 

俺が今いる場所はレヴォルフの装備局だ。俺の黒夜叉とレッドバレットもここで作って貰ったが今回は自分の煌式武装の調整をしに来た訳ではない。

 

俺は目的の人物を探し出そうと奥に行こうとすると……

 

「八幡」

 

後ろから目的の人物の声が聞こえたので振り向くと白衣を着た材木座がいた。周りにはレヴォルフの生徒だけでなくアルルカントや星導館の学生もいたが例の煌式武装の共同開発者だろう。

 

「おう材木座、例のアレは?」

 

「うむ。設計図通りの物は完成したのである」

 

そう言ってケースを渡してきたので開くと待機状態の煌式武装があった。試しに起動してみると水色の刀身が現れた。まんま『ダークリパルサー』だなおい。

 

「サンキューな。んじゃ報酬払うから口座番号教えろ」

 

俺がそう言うと材木座は首を横に振る。

 

「いや、報酬は現金ではないものに変えたいのだがよいか?」

 

「ものにもよるな」

 

「うむ。実は三校共同で開発した新型煌式武装のモニターを務めて貰いたい」

 

「モニター?それは構わないが何で俺なんだ?」

 

「今はまだ最終試験中なのだがかなり扱い辛い武器なのだ。具体的に言うと空間把握能力が必須なのだよ。貴様の他には星導館の『華焔の魔女』あたりにも頼んである」

 

空間把握能力ねぇ……まあ確かに俺やリースフェルトには向いているな。

 

「……わかった。じゃあ出来たら連絡しろ」

 

「うむ。それと新作の小説も完成したから是非「読むのは構わないがどっかのラノベをパクってたら殺すからな?」ひげぶぅ!」

 

何か奇声を出して倒れだすが俺の知った事じゃない。てかここで奇声を出すって事はパクった自覚あるのかよ?マジで小説家諦めて技術者になれよ。お前なら大成するぞマジで。

 

内心そう突っ込みながら俺は装備局を後にした。さて、クインヴェールに行かないとな。

 

後ろでは叫び声が聞こえているが気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分、クインヴェールに着いた俺は前回同様影の中に入って移動をしている。シルヴィから許可証を貰っているとはいえ男、それもレヴォルフのNo.2がウロチョロしていたら面倒なのは簡単に想像出来るからな。

 

そう思いながら前回使用されたトレーニングルームが見えたので影の中から周囲を見渡す。……よし、誰もいないな

 

それを確認すると同時に影から出てインターホンを鳴らす。

 

「おい。比企谷だ。開けてくれ」

 

『はいはーい!今開けるね〜!』

 

インターホンを鳴らし要件を伝えると直ぐに若宮の声が聞こえてドアが開いたので中に入ると各々が並んでいた。全員を見る限り若干息を乱している事から俺が来る前に自主練をしていたのだろう。

 

「んじゃ早速だが始めるぞ。今回の予定は先ずフェアクロフ先輩の為に用意した煌式武装の確認、その後に各々のやるべき課題をやって最後に俺と模擬戦って流れで行くが良いな?」

 

全員が頷いたので俺の方針には文句はないようだ。じゃあ先ずは……

 

俺は鞄からケースを取り出して中から待機状態の煌式武装を取り出す。

 

そしてフェアクロフ先輩に顔を向けて話す。

 

「先ずはフェアクロフ先輩に確認を取らせて貰いますが……フェアクロフ先輩は生身の人間を傷付ける事が出来ないと世間では評価されていますが、人を傷付けられないというより自分の手によって相手に血を流させるのが無理なんですよね?」

 

フェアクロフ先輩は既に2度星武祭に参加しているし今回も星武祭に参加しようとしている。この事から先輩は戦いが嫌いだから人を傷付けるのが無理というわけではないのがわかる。

 

「え、ええ。そうですわ」

 

「つまり、裏を返せば相手に肉体的損傷を与えない攻撃なら可能って事ですよね?」

 

「……おそらくは」

 

大体俺の読みは当たったようだ。それならこいつを使って相手に攻撃を出来るだろう。

 

 

そう思いながら俺は手にある待機状態の煌式武装を起動する。すると水色の刀身が現れて綺麗なサーベルとなる。

 

「こいつは俺が知り合いに作らせた煌式武装『ダークリパルサー』です」

 

「『ダークリパルサー』って……」

 

俺が紹介をするとアッヘンヴァルは若干呆れたような表情をしている。どうやら元ネタを知っているようだ。

 

「言っとくが名付けたのは俺じゃないからな?そんな呆れた視線が俺に向けるな」

 

俺はパクリはしない主義だ。あのデブと一緒にしないで欲しい。

 

「それで?その『ダークリパルサー』はどういう効果なのかしら?」

 

フロックハートが冷たい目をしてそう言ってくるがお前俺に対して当たり強くね?まあ気にしないけど。

 

「ああ。『ダークリパルサー』の効果だが……」

 

 

そう言うなり俺は手に持っていた鞄を放り投げて『ダークリパルサー』で斬り払う。

 

しかし刀身は鞄をすり抜けて、鞄は傷1つ付かずに地面に落ちる。

 

それを見た5人は多少の差はあれど驚きの表情を浮かべている。

 

「こいつの刀身はレッドバレットが放つ光弾と同じで超音波で出来ている。相手の体内に超音波を直接ぶつける技だから物理的干渉は一切出来ず、精神的干渉をする煌式武装なんだよ。こんな風に」

 

そう言って俺は『ダークリパルサー』を空いている自分の手の平に刺す。手の平からは一滴の血も流れていない。

 

「す、凄い……って比企谷君苦しそうだけど大丈夫?」

 

しかし頭からは頭痛がする。材木座からは超音波の威力はレッドバレットの弾丸1発の数十倍以上で桁違いと聞いていたが……頭じゃなくて腕に刺しただけでここまでとは思わなかった。

 

「だから言っただろ?この煌式武装は相手の体内に超音波を送る能力を持っているって。ちなみに当たり所によって頭痛の辛さは違って、頭に近い場所ほど頭痛が激しくなるらしい」

 

腕に刺しただけでここまで頭痛がするなんて頭に刺したらヤバそうだな。

 

「うーん。その煌式武装の能力はわかったけど……どのくらい頭が痛くなるのか知りたいな……」

 

若宮がそう言ってくるがこいつマゾか?

 

「なら試してみろ。言っとくが刺すとしたら腕にしとけ。腕に刺した経験者からしたら頭に刺すのはヤバいと思うぞ?」

 

そう言って俺は『ダークリパルサー』を若宮に投げ渡すと若宮は躊躇いながらも自分の腕に刺した。

 

「ううっ……」

 

すると直ぐに若宮の顔に苦痛が現れてよろめきだす。

 

「美奈兎……?大丈夫?」

 

1番近くにいたアッヘンヴァルが若宮を支える。若宮は苦しそうな表情をしながら腕から『ダークリパルサー』を抜く。

 

「ううっ……凄く痛いよ〜。でもこれをソフィア先輩が使えば凄いと思うよ」

 

若宮はそう言うがこの武器は重大な欠陥があるからそう上手くはいかないだろう。現にフロックハートとフェアクロフ先輩は難しそうな表情を浮かべている事から弱点に気付いたのだろう。

 

「……なるほど。確かにこの武器なら私の力が制御される事はないでしょう。ただ……」

 

「かなり難しい武器ね。チーム戦以外じゃ絶対に使われないわね」

 

同感だな。獅鷲星武祭以外では絶対に使う奴はいないだろう。

 

「どういう意味ですか?」

 

蓮城寺がそう聞いてくるので俺は『ダークリパルサー』の欠点について話す事にした。

 

「『ダークリパルサー』には弱点があって、物理的干渉を受けない、つまり相手の攻撃に対して受け太刀を使って対処する事が出来ないんだよ」

 

『ダークリパルサー』の刀身は超音波で構成されているので煌式武装や盾で防ぐことは出来ないが、その代わりに相手の攻撃を受け太刀で防ぐことが出来ないという剣士にとっては致命的な欠陥がある。相手の攻撃も刀身に当たらずにすり抜けるからだ。

 

つまり『ダークリパルサー』を持っている時、相手の攻撃は回避でしか対処出来ない。

 

それを聞いた蓮城寺は納得したように頷く。

 

「なるほど……ソフィア先輩に持たせると全力を出せる代わりに受け太刀が出来なくなる。使い所が難しいですね」

 

「そう。だからこいつを使う場合は強いチームリーダー、それこそチーム・ランスロットのフェアクロフさんやエンフィールドの所の天霧あたりを倒す時に使うべきだな」

 

「ソフィア先輩が相打ち覚悟で相手のチームリーダーに一太刀浴びせて、他のメンバーが調子を崩したチームリーダーを叩くのが定石ね」

 

俺の意見にフロックハートが付け加えてくる。大体それで合っている。

 

「まあ決めるのはフェアクロフ先輩ですから使うかどうかは任せます。こいつが嫌なら早めに言ってください。違う能力を持った煌式武装を作らせますから」

 

何か今材木座が喚いたような気がするが気の所為だろう。材木座は使い倒しても心が痛まないし大丈夫だろう。

 

 

 

フェアクロフ先輩は『ダークリパルサー』を手に取って何度も振るう。フェアクロフ先輩によって振られる剣はまさに神速のような速さだ。俺でも辛うじて見えるくらいだ。

 

単純な剣の腕なら兄とマトモに渡り合えるとは聞いていたが……つよい。もしも人を傷付けることが出来るなら俺やシルヴィの領域に届くだろう。

 

暫くフェアクロフ先輩の剣技を見ていると

 

「そうですわね。選択肢を増やすという意味でも使ってみますわ」

 

1つ頷いて俺を見てくる。どうやらやる気のようだ。

 

「了解っす。んじゃフェアクロフ先輩の課題はとにかく攻撃を避けれるようになる事と、『ダークリパルサー』と普通の煌式武装の切り替え速度を限界まで高める事ですね」

 

フェアクロフ先輩は優秀な剣士だ。場合によっては強者の足止めや後衛の防御を担当する事もあるので状況に応じて煌式武装を使い分けなくてはいけない。その為に煌式武装の切り替え速度を高めるのは必須事項だろう。

 

「わかりましたわ。よろしくお願いします」

 

さてそれじゃあ始めたい所だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん。まだ酔いが収まってないから少し休んでから始めたい」

 

まだ『ダークリパルサー』による超音波の影響を受けていて体が怠い。

 

「あ〜、私も休みたいな……」

 

俺同様腕に『ダークリパルサー』を刺した若宮も俺の意見に賛成してくる。

 

それを聞いた他の4人が呆れた顔をしたのは言うまでもないだろう。




次回、修羅が現れる

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