学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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何だかんだ比企谷八幡は頭がキレる(中編)

クインヴェール女学院のトレーニングホールにて……

 

「ほーん。クインヴェールの料理は美味いと聞いていたが本当に美味いとはな……」

 

俺は今クインヴェールで売られているお菓子を食べているがこれが美味い。常日頃コンビニのお菓子しか食べない俺からしたら凄く新鮮だ。てかシルヴィの奴、これを毎日食ってんのかよ?

 

現在俺は今俺が面倒を見ているチーム・赫夜のメンバーと休憩を取っている。

 

理由は簡単、俺と赫夜のメンバーの1人である若宮美奈兎が『ダークリパルサー』の効果を受けて気分が悪くなったからだ。俺は殆ど回復したが若宮はまだ酔いが収まっていないようで横になっている。

 

内心若宮に同情しながらバームクーヘンをパクリと丸飲みしていると……

 

「ちょっと比企谷さん!お行儀が悪いですわよ!ちゃんとフォークを使って食べなさいな!」

 

隣に座っているフェアクロフ先輩が注意をしてくる。

 

「いいじゃないですか。俺はレヴォルフなんで仕方ないですよ」

 

「レヴォルフを言い訳にするのは止めなさい!」

 

「はいはい」

 

「はいは1回!」

 

「はーい」

 

「伸ばさない!」

 

さっきからフェアクロフ先輩の突っ込みが激しい。てかこの人ガラードワースのブランシャールみたいにおかん属性を持ってるな。

 

しかし俺はそれを口にしない。以前ガラードワースのお茶会に参加した時に口にしたらブランシャール真っ赤になってブチ切れたし。アレは結構怖かったからな。

 

「でも比企谷さん。手が汚れるのでフォークを使った方が良いと思いますよ」

 

蓮城寺がクスクス笑いながらそう言ってくる。まあ確かに洗うの面倒だしな。

 

「わかったよ。じゃあフォーク借りるぞ」

 

「何で柚陽さんの言う事は簡単に聞くのですの?!」

 

するとフェアクロフ先輩は真っ赤になって突っ掛かる。予想通りだ。この人やっぱりブランシャールに似てからかいがいがあるな。普段シルヴィにからかわれている鬱憤はこの人で晴らさせて貰おう。

 

「比企谷さん!聞いていますの?!」

 

「聞いていますよ。やっぱり焼肉にはタレより塩ですよ」

 

「聞いてないじゃないですか!」

 

「まあまあ、それより若宮は寝てるんでそんなに騒いじゃダメですよ?」

 

「なっ……!」

 

ヤバい、面白過ぎだろこの人。兄妹でも余り似てないな。美人って点はそっくりだけど。

 

「う、う〜ん」

 

そんな中、漸く若宮は目が覚めたようだ。

 

「美奈兎、体調はどうかしら?」

 

「あ、クロエ……うん。何とか大丈夫だよ。……あ、私もお菓子食べて良いかな?!」

 

「どうぞ」

 

蓮城寺が差し出したバームクーヘンを美味そうに食べ始める。とりあえず若宮が食ったら特訓再開だな。

 

「うーん。美味しい!ところで比企谷君は見た感じ全然平気そうだけど大丈夫なの?」

 

「問題ない。俺は体調をしょっちゅう崩すから慣れている」

 

「え?身体が弱いの?」

 

「違う。公式序列戦でオーフェリアと戦うと必ず毒をくらって体調を崩すからな」

 

最近は戦っていないがオーフェリアと戦うと必ず体調を崩す。よって俺はあらゆる苦しみに対して耐性が出来ている。オーフェリアの毒は千差万別だがアレに比べたら『ダークリパルサー』の超音波はそこまで苦しくない。5分も休めば充分だ。

 

「『孤毒の魔女』オーフェリア・ランドルーフェン……」

 

そう思っていると辺りに緊張が走る。やっぱりオーフェリアの名前は桁違いに大きいからな。

 

「比企谷君でも勝てないの?」

 

「無理無理。本気のあいつに勝てるのは界龍の1位くらいだろ?少なくとも俺やシルヴィじゃ無理だ」

 

今のオーフェリアは自身の能力を制御する為に全力を出すのは無理だがそれでも俺やシルヴィより遥かに強い。医者の話だと完全に力を制御出来るようになった場合、力は最盛期の3割くらいに落ちるらしいがそれでも俺のふた回りくらい上の実力らしいし。

 

「まあそれは獅鷲星武祭に出るお前らには関係ない。それより若宮、お前はもう動けるのか?」

 

「え?あ、うん。大丈夫だよ」

 

「なら良い。んじゃトレーニングメニューを話すから耳の穴かっぽじって聞けよ」

 

俺がそう言うと全員が真剣な表情になる。やる気があるのはいいが、蓮城寺とフロックハート以外は手にあるお菓子を置けよ。まあいいけどな。

 

「お前らがやっている訓練は昨日フロックハートから聞いた。若宮とフェアクロフ先輩は近接訓練、蓮城寺は射撃訓練、アッヘンヴァルは能力の精度向上の個別訓練に加えて、連携の訓練と聞いているが……俺が施す訓練は基礎的なそれではなく一歩先の実戦的な訓練だ」

 

そう言って空間ウィンドウを5つ開くと全員の訓練の様子が映る。

 

「まず若宮、お前は型稽古とフェアクロフ先輩との模擬戦をしているが、俺がいる時の訓練はこいつとやれ」

 

俺はそう言って星辰力を込めて

 

「起きて我が傀儡となれーーー影兵」

 

そう呟く。するとと俺の影が黒い光を出し、3体の黒い人形が湧き出る。その姿は真っ黒ではあるが全て俺と同じ体格をしている。

 

「こいつら1体1体の実力は冒頭の十二人1歩手前の実力だ。まずはこいつに勝てるようになれ。言っとくがこいつは俺の能力で出来た兵隊だからお前の動きは学習してあるからな。お前が使っている玄空流だけじゃ絶対に勝てないぞ?」

 

赫夜の5人のデータはしっかりと研究したからやるべき課題はわかっている。

 

「つまり前に言った型技以外を身体で覚えろって事?」

 

「ご名答、獅鷲星武祭が始まったら他のチームも対策を講じてくるんだし、常に攻め方を考え続けろ」

 

「わ、わかった」

 

 

若宮は納得したような表情で頷きながら拳同士をぶつけていた。どうやらやる気は十分なようだ。

 

「んじゃ次は蓮城寺、煌式武装の調整は済んでるな?」

 

「はい」

 

「じゃあ聞くがその煌式武装は一度に何発まで放つことが出来るんだ?」

 

普通の弓なら一度に1発しか射る事が出来ないが煌式武装の弓なら一度に複数の矢を射る事が出来る。先ずはその本数を知る事からだ。

 

「一度に6発まで射る事が出来ますね」

 

「わかった。お前が今までやっている訓練は止まっている的を同時に射る訓練だろうから、俺がいる時は動いている的を同時に射抜く訓練をしろ」

 

そう言って俺が再度自分の影に星辰力を込めると小さい黒い鳥が2羽現れて俺の周囲を飛び回る。

 

「先ずは2羽の鳥を1度に2発の弓を射て同時に当てろ。それを5回連続で出来たら、次は3羽の鳥を1度に3発の弓を射て当てろ、それを5回連続で出来たら……」

 

「次は4羽の鳥を1度に4発の矢で射るのですね?」

 

「そうだ。獅鷲星武祭では時として乱戦になる事もある。運動神経が悪いお前は最後方にいるだろうから乱戦に巻き込まれるのは無いと思うが、乱戦の中正確に狙撃を出来るようになって貰う」

 

というかチームワークを重視する格上を相手にする時はそれがベストだと思う。

 

「わかりました。やってみます」

 

「ああ。あ、それとその鳥は耐久力低いから煌式武装の威力は低くしてくれ。一々能力を使って生み出すのはぶっちゃけ怠い」

 

「あ、それなら大丈夫です。元々練習用に威力調整はしてありますので」

 

「なら良い。じゃあ練習が始まってからは5発連続で当てる事が出来たら新しい鳥を追加するから話しかけてくれ」

 

「わかりました」

 

これで2人目の説明は終わった。

 

「んで次はフロックハートとフェアクロフ先輩は影兵2体の攻撃をとにかく避ける練習ですね。……まあフロックハートはこの特訓の意図を理解してるよな?」

 

「私の場合は敵に攻撃をされている状況でも味方に対して的確に能力を使えるようにする為、ソフィア先輩は例の『ダークリパルサー』を使う時の対処法を学ぶ為でしょ?」

 

フロックハートの能力はシルヴィから精神感応系、他人に思考を発信する能力と聞いている。その手の能力のレベルを高める事は同じ精神感応系能力者じゃないと無理だ。よって俺がする事はどんな状況や状態でも正確に発信出来るように、どちらかと言えば精神方面を鍛える感じだ。

 

その上、フロックハートはそこまで運動神経が良くないのである程度回避能力を高めないといけない。優勢だった軍勢が指揮官がいなくなり一気に不利になる事は古代から良くある事だ。だからフロックハートがやられない事は絶対である。

 

そしてフェアクロフ先輩は俺がいない時は普段の煌式武装を使った練習をして、俺がいる時は『ダークリパルサー』を使っている場合に備えての練習、つまりは回避練習だ。

 

『ダークリパルサー』は相手の防御をすり抜ける事が出来る代わりに向こうの攻撃も防御出来ないのが欠点だ。すなわち『ダークリパルサー』を使っている時、相手の攻撃の対処法は回避しかない。

 

以上の点から2人がやる事は回避能力を高める事だ。

 

「そうだ。ちなみに影兵が使う武器はペイント銃だから、これを着ろ」

 

俺がそう言って指を鳴らすと再度影が地面から生えてフロックハートとフェアクロフ先輩の身体に纏わりつき黒い服と変化する。

 

「俺の訓練をする時はそれを着ろ。汚れても1度能力を解除すれば直ぐに汚れていない服を作るんで」

 

「それはわかりましたが、何故ペイント銃を?普通の煌式武装ではダメなのですの?」

 

「最後には俺と模擬戦をするんですよ?1発も攻撃が当たらないってのはあり得ないですからダメージは受けるでしょう。煌式武装でダメージを負った状態で模擬戦をするのは非生産的です」

 

ダメージを負っていたから動きが鈍って負けたとかじゃ訓練にならない。

 

「なるほど……わかりましたわ」

 

「フロックハートもそれでいいな」

 

「問題ないわ」

 

「なら良し。最後にアッヘンヴァルだが、お前は座学な」

 

「ふぇ?」

 

アッヘンヴァルはキョトンとした表情をして俺を見てくる。やっぱりこいつ小動物みたいだな。……って、いかんいかん。そんな事を考えていたらシルヴィとオーフェリアに怒られるな。

 

「座学ってもそこまで大した事じゃない。前半はお前の合成技についてだが、新しい合成技を開発したり使うタイミングの勉強、後半は能力者としての立ち回り方の実戦練習だ」

 

序列戦の記録を見る限りある程度立ち回り方は出来ているがアレでは足りないので少しペースを上げる必要がある。

 

そして合成技については、他学園で獅鷲星武祭に参加する遊撃手の中でもかなり有効な技だ。そんな技を使いこなすにはもっと遊撃手としての知識を身につけなくてはいけない。

 

そしてこの中にいるメンバーでそれを教える事が出来るのは攻撃型の能力者の俺だけだ。フロックハートも能力者だが、合成技についてはともかく立ち回り方は荷が重いだろう。つーかフロックハートも自分の練習があるし。

 

「わ、わかった」

 

アッヘンヴァルも特訓の内容を理解したようだ。これで全員のやるべき事は話したしそろそろ始めるか。

 

「じゃあ今から2時間、各々の訓練をやって俺と模擬戦な」

 

『了解!』

 

全員が一斉に頷いた。さてさて、頑張ってシルヴィの期待に応えないとな……

 

 

そう思いながら俺も自分の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうなんだ。良かったじゃん』

 

「……ええ。とりあえず身体はある程度安定したから肌から瘴気を出さずに済むわ」

 

『じゃあ後は戦闘をする時に必要以上にの力を出さないようにする訓練だね?』

 

「ええ。今までは力押しの戦い方だったから厳しいと思うけど頑張るわ」

 

『そっか。じゃあオーフェリアさんもクインヴェールに来ない?八幡君に第一目標は達成出来たって報告しないとね』

 

「……そうね。八幡がいないと寂しいしお願いしていいかしら?」

 

『うん。私まだ仕事あるから今から2時間後にクインヴェールの校門前でどうかな?』

 

「わかったわ。じゃあまた後で」




修羅は次回に持ち越しです

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