狂乱した混沌は過程と結果で秋の空よりもらりるれろ   作:と十十

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電波塔は、そこにあり!!

「じつは私は転生者なんだ」

 そんな一言が筒津(つつづ)に告げられたのは、午前の授業が終わり、やれやれ昼飯でも食べますかいな。と購買のパンを買いに行くついでに便所に小用を終え。ハンカチを忘れたことに気づき、洗った手をズボンを叩くふりをしながら拭っている最中のことであった。

 じつは、とは聞くが筒津は目の前の人物について知るところは多くなかった、簡潔に二人の間柄を説明するならクラスメイトであり、保健委員のメンバーであることぐらいだ。

 会話を交わした覚えもさほど多くなく、さしあたってそんなカミングアウトを受けるぐらいの、親しい間柄でないはずなのだ。

 まぁ、それでも「私」が「あなた」よりは良いかと筒津はおもう。

 きょう日この頃、妄言を吐く人のことを電波と呼ぶが、信じる人が自分自身しかいない場合は悲しきかな、世の中ではそれを狂人と呼ぶ。

 崇めるのは自分、信じるのも自分。そんな狂気な世界への誘いとも言える告白を聞かされて筒津は約三十秒、脳裏の考えと裏腹にポカンと、その人物を見つめるはめになった。

 細く凛々しい眉に健康そうで瑞々しい唇、ややつり上がった切れ長い目、力強い意思が篭った瞳には無類の自信がこめられていた(あるいは狂信的な)。また顔立ちは男勝りで、中性的というよりはボーイッシュ、それに合わせたように短くしてある髪型は彼女によく似合っていた。つい先程の発言さえ聞かなければ、ほどよく眺めていたくなる美少女だ。

 ああ、なんて返事をすればいいのか、何故自分は悩んでいるのだろうか。むしろこれは聞き間違えなのではないだろうか、筒津はかるく現実逃避を試みてみたが、目の前のクラスメイトは、それを許してくれるほど甘い存在ではなかった。

「前の世界では、東雲矢戸爾(シノノメヤコヤ)と呼ばれていた」

 シノノメヤコヤ……。いや、あんたは野崎夕子だったろ。しかし筒津はまだ声を出して突っ込まない。

 いや突っ込めないのだ、転生がなんたらとかシノノメがなんたらとか全てどっかにおいても、やっかいな人物に目をつけられたという事実を筒津は認めたくなかった。

 一つでも声を出してみろ、俺の日常がこうだぜっ!

 筒津は、日常と書かれた壁が、粉塵を巻き上げて崩れ落ちる姿を想像してしまった。

 そんなことを考えているうちに、どこぞのオペレーターボイスで「第三波きますッ」みたいなとりあえずそれくらいの威力をもった発言をされそうなので。

 筒津は…………。

 地面に両手を……、指を立てるようにかまえ頭は低く、右足を立てて――。

 走り去った。

 

「クラウチングスタートだと……」

 彼女を一人、ダイナミックスルーして。

 

 

――

 

 

 筒津は走った。

 妹の結婚式のためでも親友のためでもなく、純粋に自分自身のために走った。

 メロスも道中は、きっとこんな気持であったに違いない。

 こうして筒津は、廊下の端からはしまで全力疾走をかまし、途中注意をうけながらもなんとか屋上へとやってきたのであった。

 何故屋上に上がれるかというと、そうであるからとしか言いようがない。

 つまりはそういうことなのだ。むろん校則では入ることを禁止されている。

 息も心臓もいい感じに上がったのを鎮めるために、筒津はどかりとその場でくずれ落ちる。

 思いは一つ、ああ怖かった。

 筒津は、オーアールゼットといった風体で息を切らす。なぜ俺がこんな目に。

 人生とは無情で非常で厳しい現実しかないことぐらい知ってはいたが。

 いまだに優しい現実という幻想に取り憑かれた人間に出会うとは、なんとも不運ではないか!

 ああ、日本の教育機関はいったいどうなっているのだ、これもなにもかも「ゆとり」が悪いのだ。

 あの暗黒の時代の水で育ち、皆と一緒という幻想を信じ、闘争心の刃を引きぬいたあれが。

 頭がお花畑のような狂人をつくりだすのだ。と筒津は行き場のない憤りをめちゃくちゃな理論であたりちらす。無論でたらめである。

 そして不意に気づく己の空腹に。

 さらに盛大に鳴り響く腹の音。

 滴り落ちる汗もあってか、喉が乾く。

 筒津は、再度、再び、もう一度おもった。なぜ俺がこんなめに。

 ああ、人生とは、無情で非常で厳しい現実の連続だ。

 春の日やあの世この世と馬車を駆り……。

 おっかちゃん、俺くじけそう。筒津はがっくりと肩を落とすほかなかった。

 そこでピロリピロリと鳴く携帯電話、泣きたいのはこっちだと筒津は、気だるそうに取り出し画面をながめる。

「……遊びにいくよ?」

 それはメールであった、内容は何処かで聞いたことがあるような、そう宇宙人あたりがふってきてもおかしくはない、いやなんのことだ。

 つまるところ、筒津自身まったく身の覚えがない内容であった。

 何故かというと。いや、それは彼の尊厳を著しく傷つけるものであり、明言しないことによって救われる命があるが故にここで書くことはしない。

 あるとすれば、先ほどの女子から、というのが一番妥当な筋であるが。

 これは、またなかなかの恐怖ではなかろうか。

 来ちゃった……。とか言われてみたいワードランク年間トップランキング100位以内(脳内調べ)に入るのだが。これは笑えない。

 お兄ちゃんどいて! そいつ殺せない! とかもっと笑えないので本気で恐ろしい。

 あああ、今度は何処に逃げればいいんだ、これは国家の力に頼るしかない。

 我が国は平和主義の民主国家だ。

 そう筒津が思ってしまったのがいけなかったのだろうか。

 それともはたまた、これが運命というものなのか。

 いや、単に筒津が不運だったということなのかもしれない。

 それを証明するかのように、気がつくと筒津は背に大きな衝撃を受けぶっ倒れていた。

「我の名は、電子魚雷(ライコ・トゥピド)! 情報の海で発生した生命体だ! さあ我と一緒に青春を満喫しようではないか!」

 天高らかに告げられる声、痛みでもだえる筒津。

 もうなにが何だかわからないが、新手の狂人がきたということだけはたしかだった。

「どうした筒津よ、さあ起き上がれ、今のはほんの挨拶ではないか」

 どこの路上格闘家だよボケッ! 筒津は、痛みに顔を歪ませながらそのライコなんとかのほうにヨロヨロと向き合う。

「……篠山さん、なにしとはるんどすか…………」

「さ、篠山ではない、ライコ・トゥピドだ!」

 筒津が思わず京都訛りで聞いてしまうほど、目の前の人物は不可思議な格好をしていた。

 ツインテールにした金髪のカツラにブルーのカラーコンタクト、猫耳つきカチューシャ。

 服は、さすがにまずいと思ったのか制服のままであったが。筒津のいだく、窓際で本を読んでいるちょっと地味目の子、というイメージを吹き飛ばすには十分な威力をもっていた。

 女の子は高校に入ると変わる。とよく聞くが、こういうことだったのだろうか。

 いや、それとも今日は非公式校内同人イベントでもあったのだろうか。

 筒津は、首を右へ左へと傾げる。

「それで篠山さん、なにしてるの?」

「だから篠山ではなく、ぁあ、もうっ! 我は、情報の海で発生した生命体で電子魚雷(ライコ・トゥピド)という兵器なの!」

「あー……。そのライ子さんは、どのような要件でここにきて、どんな懸案事項を抱えて、どうして俺にタックルかましてきたのかなああああああああああああああ!!」

「ご、ごめんなさいー……」

 筒津の突如のブチ切れに、少し涙目になりながら頭を手でおさえる篠山。

 小柄なので、やたらその姿が似合う。

 もう少しその姿を眺めていたい気もするが、瑞々しいがあかないのでとりあえず矛をしまう。

「んで、なに?」

「えっと、その、あの……。一緒にお昼……食べま、せんか?」

 いまだショックから抜け出せないようすで。彼女はおっかなびっくりといった感じに、その小さな包を掲げながら筒津をみつめた。

「……もっと普通に誘ってくれたら、今より三倍嬉しかった」

「ごごごご、ごめんなさい」

 忌憚なき感想と、げんなりとうなだれる筒津をみて、はうう。やら、はわわ。とオタオタする篠山。

 そんな彼女を宥めながら、筒津はあらためて自分が昼食をなにも持ってきてないことに気づく。

 第二印象が天元突破な子とはいえ、女の子と一緒に昼食をとるという素敵トキメキイベントなのに、筒津には食べるものがない。

 ちょっと涙でそう。色々な意味で。

 筒津がドンヨリと肩を落としていると、篠山はそれこそ身を投げるような覚悟をした目付きで、筒津にもう一つの包を取り出した。

「それは!」

「あああ、あの、あの……ふふ二人ぶん作ってきたので、あの……たべても、も、」

 神はいた。

 最後の方は、もう小声でなにいってるかわからなかったが、よく意味はわかった!

 もう、今日の出来事は全てチャラにしていい。そう筒津は考えるほどに多幸感で脳内がいっぱいになる。

 年頃の男子高校生とは、女子に消しゴム一つとってもらえただけでも、何かと嬉しいオツムをしているので、それが手作りお弁当ともなるとそれはもう俺の人生が有頂天である。

 今にも小躍りをかましそうになる筒津だが、一つ良いことがあれば一つ悪いことがおきるのが世の常である。

 篠山が差し出すお弁当を受け取ろうと、手を伸ばしたそのとき。

 筒津の横腹に先ほどのタックルよりも強い衝撃がはしった。

 当然、物理の法則にしたがい、筒津の体は地面と本日二度目の熱い抱擁。というか日に焼けてほんとうに熱いのだが。

 とにかく、しこたま体を打ち付けられることになった。

「筒津! そんな女の弁当より、私の愛妻弁当を食べろ!」

 そしてまた本日二回目の高らかに告げられる声。

 この声は聞き覚えがある。

 できれば思い出したくなかったが、思い出すほかないので思い出してしまう。

 そう、筒津が一番に出会った電波、もといい狂人。

 野崎夕子あらため東雲矢戸爾(シノノメヤコヤ)が、仁王立ちしていた。

 

 ピンクだった。

 

 そこで筒津の意識は、プッツリと途切れてしまうのは、だれにも責められないだろう。

 ちなみに篠山は白でした。




 果たして何が書きたかったのか、書いた本人すらも首を傾げる。
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