狂乱した混沌は過程と結果で秋の空よりもらりるれろ 作:と十十
冒頭歌
スカートよ
スカートよ
何故躍る
乙女の心がわかって
おそろしいのか
――
……ブウウウ――――ンン、ブウウ――――ンンンン……。
音……いや、振動だ。
いったいなんだろうか、ぼやけた青空に霞がかった頭でぼんやりと筒津は考えてみる。
ジっと青空を眺めているうちに、今がちょうど正午だということに気がついた。
日が高く、ちょうど真上にきてるからだ。サンサンとふりそそぐ日光に筒津は、ピクリピクリと目蓋を細め、ようやくいま自分が校舎の屋上にいるのだと認識する。
筒津は、起き上がろうと腕に力を入れる。固いコンクリートの上で寝ていたためか、体の各所が妙に痛い。
……おかしいな……。
普段ならば、校舎内で午前ないし午後を過ごしているのに何故自分は、屋上などにいるのか。
なにか青春の風でも香りでも唐突に感じたくなり、似合わぬ冒険心に若さという火をくべらせて来たのならば筒津自身も納得するところではあるが。
さてさて、この掴めぬ綿を頭いっぱいに入れられたような違和感は、いったいなんであろうか。
……おかしいぞ……。
いくら首を傾げたところで、答えは出ない。何故出ない。そもそも何故とは何故なんだ。
何故という理由を考えることじたい、この現状にて考えるのはとても不自然で馬鹿らしいことではないのか、筒津はさらに頭を捻る。人は目的無く動くことができぬ生物であるがゆえに、その過程に本人しか知らぬ、いや本人でさえも不感知な無意識の理由であろうと、目的に向かって行動していたりするのだ。
そこに何故は無い。もしそこに何故が差し込まれるならば連続として述のように繋がる"理由"を逐一として考え選択しなければならないからだ。
その理由の理由を考えるほど、普段の平凡が似合う学生の筒津も暇では無いはずではあるが、筒津は、何が因果かそれをウンウンと力んでいるのである。
そしてその理由に行き当たった筒津は、愕然とするほかなかった。
「記憶が……無い」
言葉に出してみると、意外と軽くぽろりと足元に転がるようだが。
心の基盤が音を立ててヒビ入るのを筒津は感じ。根底は崩れ、柱はみえぬ影のように朧げで。
足元に足は、土は、いや地面は、筒津は、自分は立っているのか座っているのかさえもあやふやになり。嗚咽ともとれない叫びを噛み殺そうとすると、冬でもないというのにガチガチと奥歯が鳴り響き。不意に世界と身体が裏返ったようなそんな気持ちが脳裏を擦り。
強い目眩と
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………衝撃が走った。
物理的に。
――
なんてことはない、振動は携帯のそれであり。
屋上に居るのは、クラスメートであり自称転生者の狂人にからまれたからだ。
そしてくだんの狂人は、やたら満足気に筒津を眺めているのであった。
「
筒津をはさんでその狂人に向かって抗議しているのは、同年代よりやや小柄な。
これまたやっぱりちょっと、なんというか最大限好意的に解釈をするなら個性的主張をもつ電子魚雷さんこと
「
狂人あらため野崎、いや東雲……。
そう、何がどういうわけか、筒津は現在進行形で黒歴史のBloody Roadを歩む戦乙女たちにつかまってしまったのだ。ハーグ陸戦条約は適応されるのであろうか。
筒津は、未だにグワングワンする頭を擦りながらどうしものかと考えつつも、もはや蚊帳の外で言い合いを続ける二人を尻目に「腹減った……」と呟くほかなかった。
しかしながら、その一言が以外にも功を奏した……。と言うべきなのだろうか。
二人はピタリと言い争いを止め、片方は不敵に、片方は恥ずかしげに。筒津の前に2つの袋包をズズいと差し出してくる。
「筒津! 私の弁当は美味いぞ!」
「あの、よかったら食べてください……」
そう、それはまぎれもない
青空の下、屋上にて同級生の女子二人からお弁当を差し出される。
なんだこれは、何だこの状況は。あまりの非現実っぷりに筒津は、もしや自分は知らぬまに悪魔と契約でもしたのではなかろうかと錯乱めいた想像をする。
だが、差し出されたが手前。男として、いち男子高校生としてそれを受け取ることにした。
もう狂人とか変人とかどうでもよかった。
むしゃむしゃして食べた、今は後悔している(後日談)
そんなわけでお楽しみのご開帳である。篠山嬢の桃色の包と、野崎夕子の紺色の包を恭しくもひもとき。
現れたのは、やや小さめな小豆色の二段式弁当箱と、銀色が鈍く光るいわゆるドカ弁という大きな弁当箱だった。
さて、ここからが本当の勝負どころである。
筒津は、厳かに、それこそ祈るような気持ちで一言。
「いただきます」
手を合わせた。
言ってしまったからにはもう戻れない。世の先人たちは、これに何度後悔し涙を流したこともそれこそ星の数ほどあろう、良い意味でも悪い意味でも。
だがしかし、真の男は一度言ったことは曲げない。曲げてはならない。
それがいかに焦げていようと、生煮であろうと、もはや料理の体を留めていなくても、誰がために作られた物は、誰がために食べなければならない。それは神聖で不可避な行為であるが故に、五腑が爛れようとも完食すべきものなのだ。
我、いま一気一千の魂をこめて箸をつかむ者なり。
筒津は、気合と共に弁当の蓋を開けた。
まずは、何はともあれご飯である、美味し弁当とはご飯で始まり、ご飯で締めくくられるものだ。
その比率は、おかずと比べて多くても少なくてもいけない。
さらに品々の味の濃さなども考えるとなると、ただ盛っただけでは黄金比は生み出せないこと必須。
長年の業と勘が必要になってくる。
さらにさらに、このように二段構えの場合はご飯の持つ湯気と熱でベチョベチョになりやすいので一度冷ますなりする行程が必要だが、これが長すぎるとご飯は硬くなり、αはβに変わり、とてもじやないが食べれたものではなくなるのだ。
とは言ったものの、今回はとりあえずこいつらを味方につけなれば、各々と戦えないので今回は無条件で可としておこう。
補給線として、ふりかけや梅干しなども付いているので持久戦も期待できる。
先ほど猛々しく量について講釈つかまったが、今回は物量作戦である。
白の縦列歩兵隊を尖兵に、ぶんが悪い相手を物量で文字通り囲い飲み込むのだ。
古来より軍師達が好んで使ってきた由緒正しい戦術である。
今回は、それに加えて最大の武器、食の大艦巨砲と言うべきか。
かなりの空腹である。空腹に勝る調味料なし。この戦に敗北は見えぬ。
だがそれでも敵情視察はかかせない。勝ったと思ったときこそ帯を締めなければならない。
まずは篠山嬢のおかず、小さい器ながも綺麗に収まっている印象を受ける。
唐揚げとハンバーグがメインにサラダ、スライスされたゆで卵にプチトマトが三つ。
食の赤・黄・緑。がそろった素晴らしい内容だ。
ついでにちょこんと熊さんマークのクシが唐揚げに刺さっているのもなかなかにポイントが高い。
相手として不足はない、だが今回はそれだけではとどまらないのだ。
倍プッシュだと言わんばかりの大きさを誇るドカ弁、狂気の沙汰ほど美味しいとでも言うのか狂人の野崎夕子の弁当を覚悟しつつ開くと。
ほどほどの量に均等に敷き詰められたご飯に、大きめの梅干し、それも市販ものではなく本当に長年漬けられた紅一点が真ん中に鎮座しているではないか。
おかずはシャケを中心に、菜っ葉のお浸しなどの青物も取り揃えている。
もちろん煮物などは、小分けに入れられてるので煮汁がご飯と混ざることもない。
渋いちょいす、だがそれがいい。まさにお弁当である。
筒津は、この蓋然的な出会いに感謝すらした。
だがしかしここでよく考えてほしい、お弁当が二つあるという事実を。
そして、これから二つを同時完食せねばならない、という現実を。
難問だよ……これは。
筒津は、強く箸を握り締める。
進行ルートを綿密に計算しつつ、どちらの弁当も比重が均等になるよう食さねばなるまい。
また片方のおかずだけが余るような、畜生がやるような食べ方はもってのほかだ。
このお弁当が好意的なものならなおさら、思惑的な代物であろうと打算が絡んでこようとも。
二つ同時に出されたのなら、二つ同時に完食するのが筋というものである。
そう「ごちそうさま」を二回言うことは許されないのだ。
さらに悠長にも食べてはいられない、昼休みが終わってしまう。そのためにも素早く的確に、かつ均等にペースを維持しながら食べねばならない。
いただきます、はもう言った。
箸も持った。
おかずの品々も確認した。
ならばもう語るべきものはないだろう。
戦いを……。
一心不乱の大戦争を! 始めようではないか!
我が、胃袋に入らぬものなし!
推して参る!!!
といった若気のいたりは、この年頃ならば誰にでも一つや二つぐらいはあり。
ましてや女子からお弁当をもらった筒津の舞い上がりようは、それはそれは。
将来確実に布団の中、あるいはベットの上で悶絶することになること必須。
そして、このお弁当がきっかけに筒津は、彼女たちの動乱に否応なしに巻き込まれることになっていくのであった。
――
「ご、ごちそうさまでした……」
「お粗末さまでした。うむ、契約成立だな」
「わぁー、よろしくお願いしますー」
「…………――」
何故このような展開になったか、自分でも首を傾げる。
前回から久しぶりにキーボードを叩きました。
冒頭歌は、ドグラ・マグラのオマージュです。