ゴッドイーター、改め死神   作:ユウレスカ

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ep.8「対話し」

 ギルに再会し、真央霊術院への入学を進めてから数年後。

 井塚は頭を抱えていた。

「始解が出来ない……っ!」

 進級後、飛び級を重ねていった白哉は自分より二年はやく卒業。今は六番隊にいるという。自分もようやく卒業という年になり、本格的に刀禅をし、斬魄刀との対話を試みているのだが、一向にうまくいかないのだ。同調どころか、対話すらままならない。

「やっぱ、アラガミに遭遇するかもしれない、と気を張っちまってるんじゃないっすか?」

 そう離れた場所からアドバイスをするのは、今年入学してきたギルである。あの後、色々と悩んでいたようだが、志波家の面々に後押しされ、ようやく今年入学してきたのだ。志波家様様である。

「そうなんかなぁ……でも、やっぱこれの仕組み聞いたら神機にしか思えないじゃない?」

「それもそうなんすよね……俺、始解できるかな」

「まずは私が出来ないといけないけどね!」

 先輩として、後輩に抜かされるのだけはいただけない。プライドが許すまい。気を取り直してまた刀禅を始める。

「そもそも卒業までに習得できなくても、別にいいと思うんですけどね……」 

 ぼやくギルの声が聞こえたが、敢えて無視しておいた。卒業時、すでに白哉が始解を習得していたとの噂を耳にしたのだ。自分から追い払ってしまったとはいえ、仲たがいするまでは良きライバルと言える存在だった彼。そんな彼に負けられない、負けられるわけがない。

「手ごたえはあるんだけどねぇ」

 小さくぼやく言葉は何回目だったか。近づくまではいけるのだが、そこから先がどうにも突破できないのだ。入り口は目の前にあるのに、扉を開くカギがないような、そんな感じが現状である。有体に言って非常に悔しい。目の前にあるのに開かないとか、この斬魄刀、なかなか強情である。

 集中し、意識を斬魄刀の中に落とし込んでいく。思い出すのはリンドウの救出の時、彼の精神世界に、彼の神機とともに突入したあの時の感覚だ。心の奥深く、本人すら気づかない領域に降りていこうとする――前に、何かにぶつかった。いつもの壁だ。透明の壁の向こう側には、懐かしい、あの人工島が見える。

――エイジス島。理想を隠れ蓑に、総てを喰らい、生命を再分配するアラガミが造られていた場所。そして、かつての上司、雨宮 リンドウを救った場所。井塚にとって、因縁深い場所だ。

 その島の中心に、何かがいる。そこまでは、いつも見えている。が、それ以上がわからない。人なのか、それとも井塚達が危惧しているように、アラガミなのか。それすらも見えないのだ。

 口惜しさに歯噛みしながらも、突入しようとする努力は怠らない。

「ねぇ、なんでここを通してくれないのさ」

 言葉を投げかける。だが、相手は何も応えない。いつものことだ。

「私の実力が足りないからかい?それとも、理解?」

 無言が返ってくる。

 さて、どうしよう。ここまではいつもしている問答だ、ここから通さないのは、自分に何かが足りないからだろうと考えている。何が――なにが足りないのだろうか。

 と、どこか遠くの方でギルの声が聞こえてきた。何かぼやいている。

「そういや——」

 斬魄刀って、俺たちの生前って知ってるんですかね。

「……!」

 不自然なほどにはっきりと聞こえた言葉に、はっとする。斬魄刀は神機と似ている、そして、日々ふれあい、持ち主の魂から自らの形を作り出す。そして、神機は、持ち主とシンクロすることで、その能力を発揮していた。もし、シンクロしていたとき、あれの意思がこちらに流れ込んでいたとしたら……?

 一つ、深呼吸。そして、口にするのは、()()()()()

「――エルステ(erste)?」

 その呼びかけに、壁の向こう側の存在がこちらを向く気配がした。それに思わず苦笑する。そうなのか、君は、ここまでついてきていたのか。

――ersteとは、井塚が神機に勝手につけていた呼び名である。ドイツ語で「一番目」を意味するその単語を自らの相棒に付けることで、自身が極東支部――通称アナグラの最初の第二世代神機使いであるという自覚、そして責任を日々自らに確認していたのだ。

 神機とは引退するまで付き添う、いわば相棒。その為、井塚のように名づけるとまではいかなくとも、相棒として接していた人間はアナグラには結構いた。実際、神機は制御されているものの、アラガミであり、生きていることに違いはない。整備士の少女も、神機に意思があるように話していた。

 井塚は、神機は生きており、意思があるというのも知っている。リンドウを助けた時、傍らにいたのは、彼の神機、ブラッドサージの精神体だった。あれを見て、神機に意思がない、だなんて断言できるはずがない。

「――ああ、やっと呼んでくれたな」

 うれしそうな声と共に、壁がなくなる感覚。寄りかかっていた勢いのまま、精神世界へと足を踏み入れる。

 懐かしきエイジス島は、シックザール前支部長と対峙したあの時の状態だった。朽ちておらず、何かの膜に覆われたような円形の人工島。そして、その膜と同化し、目の前にさかさまの状態で眠るのは――総てを喰らう、最後のアラガミ・ノヴァ。

 まさか、あれが自分の斬魄刀の意思なのだろうか。見上げていると、ふと他の気配。視線を落とし、目の前を見ると、向こう側から、人の形をしただれかがやってきた。

 黒いぼろ布を纏った、かつて、この場所で月に向かっていったのを見送った、あの少女とうり二つの容姿の少女。だが、その瞳はつりあがり、冷たい氷を思わせる眼差しをしている。彼女ではないようだ。

「君がエルステ?それとも、あのノヴァが?」

「おや、挨拶もなしにそれを問うのか?」

 疑問には答えず、マナー違反だと注意をする少女。開口一番に、まさか斬魄刀に注意されるとは思っておらず、井塚は苦笑する。

「それはごめん。やっと会えてうれしいよ」

「そうか……私も、うれしいよ」

 そう言って、瞳だけでうれしさを表してくる。意外と表情豊かのようだ。

 軽く挨拶をかわすと、少女はくる、と一回転し、話を始める。

「どちらかがエルステかというと――()()()()()()()、というのが正解だ」

「私は斬魄刀の理性であり、あの大きいのは斬魄刀の本能――すなわちアラガミ」

「レンというものを覚えているか?……そう、雨宮リンドウを助けに行くときに、君とともにいたモノだ」

「私はどちらかというとそちら側であり、あの大きいのはリンドウを喰らわんとしたハンニバルと似た存在」

「この二つがきみの斬魄刀の意思だ。ああ、名前はどちらも同じだから安心してくれ。エルステではないがな」

 淡々と説明をすると、質問は?と問うてくる。

「もし私が卍解を習得しようとしたら、屈服させる対象は君と、あれであってる?」

「合ってる」

「じゃあ、あれを具象化しなければならないの?」

「いや、違う。これについては、いつかやろうとした時にでも説明しよう」

 なんだ、違うのか。それはよかった、と井塚はほっとする。

――その判断を、後に後悔することになるのだが、それはまだ先の話だ

 さて、斬魄刀との対話はできた。次に自分がすること――それはその名を聞き出すこと。

 エルステが斬魄刀の名前ではない、というのは半ば予想していた。もとより自分が勝手にそう呼んでいただけだ。神機であるアラガミ自身が、他の名前をもっていたとしてもおかしくない。

「で、君達の名前、ここまで来たんだから教えてくれるんだよね」

「勿論。やっと私の呼び名を思い出してくれたからな」

 気前よく答えると、少女は井塚に近づき、耳元でそっとささやいた。

 

 

「我らが名は《神薙》

 その力、死に物狂いで使いこなせ」

 

 

 

 刀禅の様子を見守っていたギルは、驚いていた。突然、井塚から発せられる霊圧が膨れ上がったのだ。

 まさか――何か予感めいたのを感じ、彼女が精神世界から戻ってくるのを待つ。

 暫くして、井塚が立ち上がり、斬魄刀を手に取る。その刀身を見て、ふと首を傾げる。何故だろうか、どこか、刀身の輝きが増したような……。

「うん……」

 井塚も何かを感じたのか、斬魄刀を観察し、それを掲げる。

「確かに、こりゃ使いこなすのが大変そうだ」

 よろしくな――そう言う井塚を見て、ギルは数瞬固まったのち、事態を察して口を開いた。

「始解の習得、おめでとうございます」

 と。




というわけで始解はあっさり習得

ちなみにこの時の詳細はギルには話さないという

「自分で考え付いた方がいい」とのこと

ヒントギルからもらったやろ!というツッコミは聞こえないらしいです

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