ゴッドイーター、改め死神   作:ユウレスカ

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護廷十三隊~過去編~
ep.9「秘密の」


 真央霊術院を卒業後、井塚は希望通り十三番隊に入隊することが出来た。平隊員としての日常の中では、席官である海燕とすれ違うことは多々あり、顔を合わせて話し合うとなると稀になっていた。いくら以前からの知り合いだと言っても、頻繁に話しているようでは贔屓に見えてしまうという、双方の見解によるものだ。

 それでも、お互いの性格は長年の付き合いから分かり切っており、共同で仕事を任される際は、それなりに息の合った連携をとっていた。そのおかげか、幸か不幸か入隊から数ヶ月経つころには、席官でないにも関わらず海燕の助手として見られるようになっていた。

「いやぁ助かるよ、井塚に海燕。いろいろと手伝ってもらって」

「あははは……いやなんで私に手伝わせてるんですか海燕先生ならともかくこれ新人にやらせるものじゃないと思うんですがどう思いますか海燕先生」

「お前よくそれ一息で言えるな。

 いやでもこいつの言い分は一理ありますよ、隊長。俺自身組みやすいが、こんなに上に覚えがいい新人が現れたとなると、他の隊員に示しがつきません」

 素直に褒めてくれる隊長――浮竹 十四郎には悪いが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、事務仕事であっても上の仕事に関わり続けるのはよろしくないと、井塚と海燕は進言する。

 実際、これまた運がいいのか悪いのか、井塚が虚の退治の任務についたのは一度もない。戦ったのも卒業試験における現世でのものが最後で、その時は他の学生を指揮して、協力して退治したのだ。

 将来的にすぐにでも席官に行けるともいわれる一組において、今だその頭角を現さない――むしろ表す頭角があるのかと疑われている井塚。そんな彼女を贔屓にしているとあれば、さまざまなトラブルや苦情が出てきかねない。入隊当初に二人の密会で懸念していたことが起こりかねないのは、少々いただけなかった。

「そうはいってもな……お前たちが組んで仕事をした方が、仕事の速さが段違いなんだ。何かあったら俺がなんとかするから、そのまま組んでいてもらえないだろうか。頼む」

 二人の忠言を正論であっさりと退け、浮竹はそう言って頭を下げる。それに慌てたのは井塚達だ。隊長に頭を下げられているのを誰かに見られたら、それこそトラブルの原因になってしまう。

「ちょ、頭下げないでください隊長!そんなに言われたら断れないでしょうが!」

「あーもう仕方ないからこのまま続けますよ!」

「そうか、なら安心だ。あ、ついでに海燕は副隊長に」

「お断りします」

 隙あらば言質をとろうとする浮竹の言葉を素早く退け、海燕はため息を一つ零した。懸念はそれ以外にもあるんだがな、と内心で呟いて、横にいる井塚を見やる。

――始解はできましたが、それについては誰にも言わないでください

 彼女が卒業直前に習得したという始解を見せてくれたのは、入隊前の最後の休みの日。志波家に居候していたギルと共に、二人の秘密の修行場だという、戌吊の外れの窪地にまでやってきたときのことだった。

 解号、刀の名前までは教えてくれなかったが、常時開放型だというそれは、どうみても浅打にしか見えず、首を傾げたのを覚えている。

「じゃ、まずは海燕先生。始解しないで殺陣をしてもらってもいいですか?」

「必要なことなのか?」

「えぇまぁ。私の斬魄刀の能力を知るためには、必要なことです」

 そう言われ、よく分からないまま半刻ほど斬魄刀での鍛錬をした後。ふむ、と顎に手を当て、井塚が驚くべきことを口にした。

「海燕先生の斬魄刀、名前は捩花で、解号は『水天逆巻け』で能力は流水系、合ってますか?」

「な、お前どうしてそれを!?」

 驚きの声を上げる海燕。それもそのはず、海燕は一度も井塚に自身の斬魄刀について話したことは無い。もとより、直接会う機会もここ数年少なかったのだ、話すような状況にならなかった。志波家に居候していたギルなら多少は知っていた可能性はあるが、彼も驚いているところを見ると、事前に教えていたとも考えづらい。

 合っていたことに満足したのか、井塚は得意げに話し始める。

「これがこの子の始解の能力です。接触した――というか戦った相手の能力を読み取り、記憶する。たとえ相手が卍解していなくとも、必殺の技を隠し持っていたとしても、長い間斬り結んでいたら、この子が全部記憶します」

 記憶するには多少の時間と労力を使うので、バレずに戦えるかが鍵になりますね。そう続ける井塚に、ただ言葉が出ない。隠している能力すらも看破する斬魄刀。戦闘能力自体が変わるわけではなく、持ち主である死神をサポートするかのような能力は、しかし恐ろしいものだとすぐわかった。

 その後も詳細に話す井塚曰く、能力の情報をどのくらい留めて置けるかは、量も時間も不明。だが念のため、自分も瞬間記憶と、長期記憶の保持量を増やせるよう勉強しているという。さらに言うと、現世での卒業試験の際、虚を斬った時に瞬時に虚の情報が記憶されたところから、相手を負傷させる方が、情報の抜き取りがしやすいらしい。

 能力の詳細を聞いていくうちに、ふとこれと似たような生き物の話を聞いたことがあるような思いがしてきた。

「なぁ、その能力。もしかして」

「えぇ、アラガミの学習能力とほぼ同等のものです」

 斬ることを喰らう事に変換すれば、まんまですね、と笑う井塚。そんな彼女に、海燕は顔を顰める。生前、神機と言う兵器型のアラガミを使い、戦ってきた彼女が、また同じようなものを持ったことに、何か運命めいたものを感じたのだ。それも、悪い意味での。

 そんな海燕の心情を察したのか、井塚は笑みを深めた。

「そんな顔しなくてもいいですよ、海燕先生。うっかり喰われる事態がないので、斬魄刀の方が安心ですし」

「そういう問題じゃないと思いますよ、ミクイさん」

 生前は年下ながらも士官の位置にいたという井塚に対し、ギルは今でも敬語を使う。生前からの癖だから仕方ない、らしい。だが、彼のツッコミは海燕の内心とほぼ同じだったので、何も言わなかった。

「いくら神機のような危険性はないとはいえ、斬魄刀も生きてます。万が一反旗を翻して襲い掛かってきたら――」

 訂正、全く同じじゃなかった。どうにもこいつらの価値観は生前のもの寄りだ。第一斬魄刀はそう簡単に反旗を翻したりしない、そこは常識だったはずなのだが。

 言い合う二人をよそに、海燕は最初に井塚が言った「誰にも言わないでください」の意味を考える。

 確かに、彼女の斬魄刀の能力は戦闘とは別の意味で規格外だ。日常的に隊員と鍛錬を行わせていたら、記憶の保有量に左右されるだろうが、全死神の能力を把握することも理論上は可能なのだろう。

 だが、それは同時に、味方である死神からしてみても脅威となる。もしも虚側に彼女が堕ちてしまったら、その膨大な情報が抜かれてしまうのだ。

 そうなる可能性を考えると、総隊長にくらいは話しておいた方がいいと思うのだが。

 だが、井塚は海燕の進言に否と返す。

「知る人間は最低限の方がいいです。この場の三人が漏らさなければ、誰かに利用されることもない。逆に、もしこの情報を私一人だけで持っていた場合、万が一私が敵側に回る、あるいは攫われた時、ことの深刻さを鑑みて私の能力を伝える人間がいないのもまずい」

「俺もミクイさんも、裏切る気は今のところありません。でも、その意志がいつまでも続くとは限らない。で、裏切るならきっと、二人そろってだと思われるから、海燕さんにもばらしたって所っすか」

「そういうこと。海燕先生のこと、私は信用してるし、信頼してる。たとえ私たちが裏切ったとしても、海燕先生は尸魂界を裏切らない」

 はっきりとそう言い切られて、海燕は背中に何かが重くのしかかる感覚を覚えた。厄介な能力を持つ死神のことを、最悪の事態にならない限りこの場の三人で、墓場まで持っていく。それと同時に、海燕は二人と敵対してでも尸魂界は守るだろうという、信頼。

 関わる人間が少なかったのもあるだろう。隊士のなかで、二人が親しくしているのは海燕のみ。だが、もし海燕が井塚に信頼されていなかったら、この爆弾はいつか別の、信頼する隊士に明かされていたかもしれない。

 自分を信頼してくれたことに対する喜びと、その爆弾を隠し続けなくてはならないという恐怖。二つが混ざり合って、海燕は頭を抱えた。

「海燕先生。この場を離れたら、この斬魄刀の能力についての話はしません。いついかなる時も、絶対に」

 重荷を負わせてすいません、と謝り。さらに続ける。

「総隊長に話すべき事柄なのかもしれませんが、私、正直今の護廷十三隊の在り方では、斬魄刀もろとも始末されると考えて、秘密にしました」

 厳しい目でそういう彼女に、何も言うことができない。いつもの調子に乗ったような表情はない。そこにいるのは――一人の戦士だった。

「規則に固執せず、ある程度柔軟な対応ができる人なら――話せましたけど」

 というわけで、一緒に秘密、守ってくださいね。

「はぁ……」

 隊長室から下がり、海燕はため息を吐く。あれ以来、本当に井塚は斬魄刀についておくびにも出さずに、平隊員として働いていた。その切り替えの早さもさることながら、始解について弄られてもさらりとかわしているのはもう、何とも言えない。

 軽く載せられた重荷を今も感じながら、海燕は隊員としての日常を送っている。




「ミクイさん。いいんすか?」

「何がだい?」

「海燕さんに、もう一つの懸念事項言わなくて」

「いいよいいよ。これモロ生前の経験からの懸念だから」

「……そうですか」

「それに、海燕先生にはこれ以上はきついよ」



「……護廷十三隊、それも隊長格の中に虚側に寝返る人物がいるかもしれない、なんて」




とかそんな会話があったかもしれない
生前は上司が黒幕が二回もあったからね、仕方ないね

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