ゴッドイーター、改め死神   作:ユウレスカ
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ep.10「仲直り」

 その日、呼び出された井塚は、珍しく体調がいいらしい浮竹から任務を言い渡されていた。

「討伐任務、ですか」

「ああ。確か君は戌吊の出身だっただろう?その近くに最近、虚が出没するようになったらしくてね。他の隊との合同任務だが、お願いできるかい?」

「それは問題ありませんが……合同任務ということは、それ程に目標の虚は強力なんですか?」

 井塚のもっともな疑問に、浮竹は首を縦に振る。どうやらそうらしい。だが、それならば何故、着任1年にも満たない自分にこの任務がやってきたのだろうか。

 その理由について訊ねると、浮竹は事情を説明してくれた。

 結果から言うと、今まで事務仕事にばかり傾倒していたのが仇になったらしく、他の隊員から戦えないのではないかと噂されるようになったらしい。これに関しては、井塚は予想済みだ、むしろやっとかという思いでもある。

 そんな噂を払拭させるためにも、井塚には一度討伐任務に出てもらうことになったと。そして、その任務に今回のものがあたったのは、任務地が出身である戌吊の近くであること、そして同行し、ともに任務にあたるのがかつての同期である――

「ほら、朽木白哉とは一年とはいえ学友だったんだろ?なら組みやすいかと思ってな」

「…………」

 この時ばかりは、人のいい浮竹隊長を殴りたくなったと、後に井塚は語っている。

 今さっき任務への参加については是と答えたものの、あの日以来全く話していない彼とちゃんと組めるのかが心配である。というか向こうが了承してくれるのか、それも問題だ。そしてあいつは今どんな状態なのだろう。懸念材料を多々抱えながら、井塚は任務に就くことになった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

「というわけで海燕先生愚痴を聞いてください」

「自業自得だ馬鹿」

「教え子に対する扱いがひどい!」

 これが先生のやることかよぉ!と泣いているような体勢で机にうつ伏せる井塚。ウソ泣きをする暇があるのなら、どう接すればいいか考えればいいのにと海燕は思いながら、相談料として奢ってもらった甘味を頬張る。

 仕事も定時で終わり、二人は流魂街で合流して甘味処で食事をしながら、井塚の相談を受けることになったのだ。相談と言うか、愚痴になってしまったが。まぁ、任務について浮竹から予め聞いていた海燕は、なんとなく誘われた理由は察していた。伊達に六年の付き合いではない、そのくらいは察しが付く。

「ま、任務自体は明日だろう?寝るまでの間に、本人とどう接するか考えておけばいいじゃないか」

「それが思いついたら苦労しませんよ……自分、仕事の対応はできますけど、それじゃまた朽木くん傷つけそうですし、かといって以前の対応なんてしたら混乱するでしょうし」

 ああああ今ほど浮竹隊長の気遣いが面倒な時はない!

 そう嘆いて机を叩く井塚。揺れで零れそうになる甘味を守るために皿ごと持ち上げて、海燕はため息を吐いて井塚に助言する。

「傷つけるも何も、元々お前がやった行動による現状だろうが。もう相手を傷つけちまってるんだから、いっそ振り回すくらいの覚悟で任務に挑んだ方がいいんじゃないか」

「んなこと言われましても……」 

 何度でもいうが、井塚自身はあの時の言動に一切の後悔はない。むしろあった方が、あの時傷つけた白哉に申し訳ないと思うほどである。彼の為を思っての行動でもあったが、それ自体が自分本位だったということも自覚している。

 ざわざわと、夕方の賑わいを見せる甘味処の一角で、二人は真剣な表情で向かい合っている。それは周りの雰囲気からはかけ離れたものだった。

「私、今の朽木くんが想像つかないんですよね。あの時最後に見た、傷ついた表情からどう立ち直ったのか、いやもしかしたら立ち直っていないかもしれない、そもそも了承してくれるかも怪しい、会った途端薄情者と斬りかかられる可能性も」

「待て最後、最後のはさすがにあり得ないからな絶対」

 自虐の止まらない井塚に対し、海燕が待ったをかける。最近の白哉の様子に関しては海燕は知っているため、そんなことはしないとすぐに判断できる。というか、そんな私怨じみた行動をおこす人間が死神にいるとは思えない。

 それでもうじうじと考え込んでいる井塚に、海燕は一つ溜息をつき、離れた位置に座っている客に合図を出した。机に伏せてなおもぶつぶつと言っている井塚はそれに気づかない。

 海燕に合図を出された客は、暫し逡巡したのち、席を立ってゆっくりと井塚達の席へとやってくる。その足取りもまた、どこか不安げだ。

――鈴の音は、鳴らない

「ま、あんまりうじうじ考えすぎるなよ井塚。つーか一番の解決策があるじゃないか」

「解決策ですか?そんなのどこ、に……」

 井塚の言葉が途中で詰まる。それもそのはずだ、こちらに近づいてくる、懐かしい顔が見えたのだから。固まった井塚に、海燕が企み顔で笑いながら言う。

「任務前日に話し合ってさっさと和解しとけ、馬鹿ども」

 世話が焼けるな、二人とも。そう言って、海燕がお代片手に甘味処を出ていく。残されたのは相変わらず固まっている井塚と――およそ五年ぶりに顔を合わせる白哉。

 所在なさげにしながらも、海燕が立った席に座る白哉。その物音でやっと我に還ったのか、井塚が視線を彷徨わせる。やはり、どう接していいか分からないらしい。

 と、白哉の耳に懐かしいものを見つけて、つい口が開いた。

「――それ、まだつけててくれたんだ」

「……ああ」

 彼の耳にあったのは、いつか贈った厄除け鈴の耳飾り。あんな別れ方をしたのだから、とっくに捨てたと思っていた井塚は、ほっと胸をなでおろす。自分の勝手とはいえ、贈り物を粗末にされるのはいやだった。

 少しだけ気分が上昇するが、それ以降の会話が続かず、気まずそうに注文した甘味をつつく。こういう時、どうやって和解していただろう、と生前を思い出そうとして、井塚は今更、何年ぶりの再会などしたことが無いことに気づいた。喧嘩別れなんてしたこともない、どうしようか。

 ああでもない、こうでもないと井塚が悩んでいると、く、と堪えるような笑い声が聞こえた。顔を上げると、白哉が目の前で笑いをこらえている。久しぶり、いや、もしかすると初めて見たかもしれない表情に、井塚が瞠目する。

「何笑ってるのさ」

「いやなに、貴様がそう困った表情を出したのを初めて見たものでな」

 あの頃はさんざん、貴様に振り回されていたな。そう賛同を促す白哉に、井塚は解せぬ、といった様子で顔を顰める。それを見てまた、白哉が笑った。

「仕方ないじゃないか、喧嘩別れした学友とどう話そうか、なんて思いつかないんだから」

「貴様でも思いつかないことがあるのか」

「万能でも天才でもないからね、私は。だから――」

――だから、君と離れることにしたんだ

 そう続いた言葉に、白哉の表情が硬くなる。

「君には申し訳ないけれど、あの時の選択に後悔なんてしてない。何度あの時に戻ったところで、私は君を手ひどく拒絶するだろうね」

 たった一人を精神的支柱にすることの危うさはよくわかっている。万が一、それを失ってしまった時の最悪の事態も。だから、後悔も何もない――ないのだ。

 そう言って、肘をつき、手を合わせて額に拳を押し付ける井塚に、白哉は暫し沈黙を貫いたのち――ゆっくりと口を開いた。

「私も、あの時の貴様の選択は合っていたと思う」

「は?」

「貴様より先に死神となり、父や祖父とともに業務をこなす中で……なんとなくだが、指摘されたことの意味が、分かった気がしたのだ」

 井塚は無言で先を促してくる。

「二年と言う短い間だったが、様々な事態に遭遇した。その中で、貴様が言っていた状況に直面することもあった。……そして、それがもし貴様であったら、と仮定したとき、咄嗟に対処できない自分に気づいた」

 井塚は話さない。

「仕事に――業務に私事を持ち込んでしまうのはいけない。割り切れないなら離れるべきだ、そう言いたかったのだな」

「……まぁ、すごく平たく言うと、そうなるかな」

 微妙な言い方に多少引っ掛かりを覚えたものの、答えを得た白哉は満足そうにうなずいた。

「まぁでも、取り返しのつかないことにならないなら、いや、なる時もかな、時には私事で動いてもいいと思うんだ」

「……矛盾してないか」

「しているけどしてないよ。公私を使い分けて、時に非情に、時に親身になればいいってこと」

 規則に従うのもいいけど、それに固執してばかりで大切なものを取りこぼしていたら意味がないじゃないか。そう井塚は笑う。

「結局、人が大事にするのは己であり、己にとって大切な人たちだ。規則はその次……いや、さらにその次かもしれない。まぁ、だから、選択は常にその時、後悔がないものをとることが大事」

「後に後悔してもか?」

「未来のことなんて誰にも分かんないんだから、その時にとれるベストな選択を取るべきだよ。過去を振り返ってあーだこーだいつまでも言うのは宜しくない」

「なるほど……では、ここで私たちが過去のことでいろいろ言うのも、よろしくないな」

「くっ、そう来たか……!」

 悔しそうに歯噛みする井塚を前に、白哉は笑みを浮かべる。こんな風に、また話せることをいつも、心のどこかで願っていた。それが叶ったのがうれしくて、次の日に任務があるというのに、二人は遅くまで話し続けた。



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