ゴッドイーター、改め死神   作:ユウレスカ
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ep.17「酒飲み」

 ある夜の事だった。

 その日、残業で遅くなった市丸は、書類を提出した後、足早に帰路についていた。まだ自分のように残業をしていた死神も多いのか、人通りは少ないものの、全くいない、と言った様子はない。

 自分も含めて大変やなぁと思っていると、ふと自分が向かう方から、見知った男がやってきた。

「お疲れ様です、市丸三席」

「うん、お疲れさん」

 ひら、と手を振る先の相手は、数年前に海燕達経由で知り合った、六番隊のギルバート・マクレインだ。何故か日本人ばかりの尸魂界において、恐らくは唯一と言っていい横文字の名前の死神である。

 数年前、事後処理に追われていた中で、何故か自分を気にかけるようになった海燕。他の隊の所属だというのに、そこから芋づる式のように、同じ銀髪だからと隊長の浮竹が、そして海燕にくっつく形で井塚とギルが、関わってくるようになったのだ。海燕の影響力はかなり大きいらしい。

 そんな彼は、書類の束を抱えている。どうやらまだ業務時間中らしい。

「君も大変やね、平なのに」

「もう平じゃありませんよ、一応十席になりました。それに、平だったとしても、ちゃんと仕事をして上の信頼を貰わないと」

 真面目やねぇ、と市丸はつぶやく。そう、堅物そうでいかにもワルです、という風体をしているギルは、予想に反して真面目だった。風の噂では隊長達の覚えも良いらしい。自分より上の階級でありながらも、見た目はまだ少年の域を出ない自分に敬語を崩さないのがいい証拠だ。

「市丸三席は、今からお帰りですか」

「やっと残業から解放されたところや。君も無茶したらあかんからね」

「この位はまだ大丈夫です、提出したらそれで終わりですし」

 なんてこともないように言う彼。そういう部分は、どこか井塚に似ている気がしなくもない。仕事中毒、というのだろうか。

 と、ギルがそうだ、と声を出す。

「これ終わったらミクイさん達と合流して一杯ひっかける予定なんですが、行きますか?」

「僕中身は兎も角、見た目は子どもなんやけど」

 突然何を言い出すかと訝しむが、ギルはそういえばそうだった、と今更気づいたと言いたげな表情。

「見た目年齢を計るのって、案外難しいんですよ。俺の知り合いにも、十代にしか見えない成人男性とかいましたし、二十代に見えるのに四十代の人とかもいましたから」

 具体的に言えば前隊長とか、かの支部長とか。支部長に至っては本当に見た目詐欺だ。あの人の若さどうなっていたんだ。

 一方、市丸はギルの生前の記憶があるような口調に首を傾げた。死神になる人間で、現世からやってきた魂は往々にして生前の記憶を無くしている。霞んだ程度のものを持っている場合もあるが、具体的な内容を覚えている人間はいないはずだ。

 そんな自分に気づいたのか、詳しいことは後で話しますといって、ギルは足早に書類を届けに行く。瞬歩を使い始めたところを見るに、市丸がここから離れるのを危惧したようだ。先ほどの疑問の答えが知りたいので、逃げることはしないが。

 ほどなくして、ギルが戻ってきた。歩きながら、と言うので、素直に隣に立って歩き出す。

「俺とミクイさん、どっちも生前の記憶があるんです」

「ほーん……ん?井塚ちゃんも?」

 予想の斜め上の言葉に、思わず聞き返すと、ギルははい、と肯定を示した。

「俺とあの人は、生前同じ職場で働いてました。さっき上げた具体例の人たちも、同じ職場の上司です」

「なんか濃そうな職場やね……どないな仕事しはったん?」

「仕事、ですか……自警団、ですかね」

 また、引っかかる言い方だ。生前を覚えていることと言い、彼らは何か妙な部分がある。

 と、目的の居酒屋に着いたらしい。店の入り口に海燕が待機しているのが見える。

「お疲れ様です、カイエンさん」

「おう、お前も遅くまでお疲れ……で、市丸もきたのか」

「流れでつい来てしもうて。ボクも一緒してもどもないかな」

 先ほどまでとは正反対に好意的な提案に驚いたのか、ギルがこちらを見ているのが分かる。君が不可解な言動をするのが悪い、と胸中で呟き、市丸はにこりと笑みを浮かべた。

「ん?まぁ問題ないぜ。もともと四人席が取れていたからな」

 そんな二人の心境などいざ知らず、海燕は快く迎え入れてくれた。

 中に入ると、夜も更けていたからか、すでに出来上がっている客も多い。海燕に案内された先には、一人でちびちびと酒を飲む井塚の姿。

「お、来た来た……って、市丸三席じゃないですか、お疲れ様です」

 そう言って笑う井塚は、どうやらまだ酔ってもいないらしい。これおいしいですよーと酒を勧めてくる。

「いやボクまだ体は少年やから、遠慮しときますわ」

「えー、今夜位、一杯くらいいいじゃないですか」

 けけけ、とまるで悪代官のように勧めてくる井塚に、他の二人も白い眼を向けている。そこら辺はさすがにきちんと線引きしといた方がいいだろうに。

「さて、そこの馬鹿は放っといて。お前らは何呑む?俺は熱燗」

「あ、じゃあ俺もそれで」

「ボクは緑茶、あったかいのがええな」

 マイペースに注文をする三人に、ぶーぶーと抗議の声が投げられるが、それも沈黙と共にスルーされてしまった。諦めた様子で一人盃を煽る彼女は、四人の中に混じっているのに哀愁を漂わせている。

 配膳された三人分の酒やお茶、そしてお通しが来たところで、本格的な酒宴は幕を開けた。

「にしても、漸く新しい隊長格が決まり始めましたね。あれからもう何年たったことか……」

「お前いきなり重い話題振ってくるな。でも、そりゃそうだろう。長年空席の部隊もあんだ、今回はだいぶ早い方だと思うぜ」

「まぁ、言うても決まったんはボクらんとこの五番隊だけなんやけどね」

「副隊長だった藍染さんが、繰り上げ式に上ってきたんでしたっけ。あの人なら、確かに納得ですね」

「で、副隊長は空位になったと。……あれ、あんまり変わってなくない?市丸三席は副隊長にならないんですか?」

「ボク、なんか三番隊に移籍されそうなんよ」

「三番隊ってえと……鳳橋さんと言う方が隊長だったところですか」

「そうそう」

 市丸が頷くと、井塚がぐえー、と半目で見つめてくる。

「私、射場副隊長苦手なんですよね。こう、ぐいぐい押してくるオカン気質と言いますか」

「確かに、あの性格は好き嫌い別れそうだな」

「前隊長とは相性よかったみたいやで。あの人、消極的やったから」

「ああ、尻たたき……」

 嘗ての二人を思い出し、遠い目をする井塚達三人。一方、入隊の時期が事件後の為に彼の人となりを知らないギルは、聞きの姿勢に努めている。

「……そんな射場副隊長も、あの数日は見てられなかったですね」

「まぁ……それはどの隊も似たようなものだったろ。体面は取り繕ってただけに、見ていて痛々しかった」

「ほんま、嫌な事件やったねぇ」

 はぁ、とため息が三つ。平時ならば話題に出せないことも、酒の場ならば話せるというのはいいことだ。

 適当につまみを頼み、今度は井塚が口火を切った。

「そういえば、市丸三席はどうして誘いに乗ったんですか?」

「ん?三番隊のこと?」

「違いますよ、この飲み会のです」

「そういやそうだな。こういうのにはホイホイ来る印象がない」

 で、どういう風の吹き回しだ?と二人が詰め寄る。ギルも気になっているのか、隣からもひしひしと視線を感じた。

「どういうって……ギルから、何や井塚と自分は生前ん記憶があるって聞いて、どないなモンがあるんかいなと気になって来たんや」

「ちょ、市丸さぶふっ!?」

 ぶふっ!と井塚が酒を噴出した。目の前のギルにぶっかかり、彼の言葉が途中で途切れる。海燕も驚いたと言わんばかりに瞠目している。

「げほっ、げほっ。ったくギル、何暴露してんの。びっくりしたじゃんか」

「いや、つい。だめでしたっけ」

「いやダメじゃないけど」

 顔に付いた酒を拭いながら申し訳なさそうにするギルの言葉に、井塚はすぐさま否定する。元より秘密にしようとは言っていなかったのだ。べつに彼に落ち度はない。

「で、二人は生前、何しとったん?ギルは自警団みたいなものって言うとったけど」

「自警団……うん、言いえて妙ですね。その通りですが、あとは害獣の駆除だったり、施設の充実のために上と掛け合ったり。まぁ、戦闘を主にした、何でも屋みたいな感じでもあったかと」

 嘘は言ってない、嘘は。

「へぇ……井塚ちゃんも、戦ってはったん?あのご時世によくそこに勤められたなぁ」

「自分はどちらかというと、先行して情報を集めたり、仲間を指揮する立場でしたね」

 これまた嘘は言ってない。欧州を駆けていたのは新種のアラガミの情報を集める為であり、第一部隊の隊長だった経験を活かして、他の支部の面々を指揮、教育していた時期もある。

 彼女の説明に一応は納得したのか、ほーん、と言って、市丸は相槌を打つ。と、新たな疑問がわいたのか、また口を開いた。

「なら、二人は自分の死因、覚えてるんか?」

「…………」

 いきなり爆弾を突っ込んできた。それが三人の心中だった。しかもこの部分は海燕にすら言ったことがない内容な上、迂闊に話せる内容でもない。

「……覚えてますよ。覚えてなきゃ、夢に何度も見ないです」

 苦しみを吐き出すように答えるギル。井塚は何でもないように盃を煽っているが、その瞳はどこか暗い。

「市丸、お前そんな簡単に地雷踏みに行くなよ……」

「んん、年数がそれなりに経っとるやろうから、もう過去として清算しとるのかとてっきり……かんにんな」

「いや、いつまでも乗り切れない我々の落ち度なので……」

「いやでもあれは記憶に残りますよ、ミクイさん」

「全面的に同意。あれは忘れられるわけがない」

 そのまま生前の話題にシフトした二人を、市丸と海燕は困った様子で慰めていた。 




海燕さんの影響力は偉大だと思う
少年時代の市丸は浮竹に冬獅郎と同じように可愛がられていたらいいなと

何故酒盛り話を思いついたのかはわかりません


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