ゴッドイーター、改め死神   作:ユウレスカ

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ep.23「死神喰」

「でぇりゃあ!」

 ガキィン、という乱暴に鉄を打ち合うような音が響く。そこは秘密の場所、流魂街から外れた森。

「まだまだ、これでは私は倒せないぞ」

「クソッ」

 そこにいるのは二人の女。一人は井塚、もう一人は理性の“神薙”。

 井塚の容姿は修行を始めた頃に比べても変質の割合は変わっていない。しかし、彼女は極めて理性的に“神薙”と対峙している。彼女らを見張る海燕たちがいないのが何よりの証左かもしれない。

 そう、井塚はここ数十年で漸く、斬魄刀の半分を屈服させることに成功していた。その為、今では不完全ながらも卍解を使うことはできる。瞬きのような時間だけだが。

 本能をねじ伏せても、理性の“神薙”は手ごわい。手傷を与えることが出来ても、未だに跪かせたこともない。

 間違いなく、井塚の中で――ある意味規格外のいくつかを除いて――最も手ごわい相手だった。

 だが、これまでの戦闘で井塚が何も考えていなかったわけではない。理性の“神薙”もまた、本当の意味で彼女を拒絶しているわけでもない。

 

――神機の時と同じ感覚でいるな!

 

――それはお前であり、それは“私達”だ。アラガミとは違う

 

――そして本能もまたただの“アラガミ”ではない、分かるだろう?

 

――ただ私を跪かせるだけでは、勝利にはならないぞ

 

 武器の扱いを、屈服の意味を、斬魄刀に宿る己の在り方を。何度も何度も聞かされた。

 “神薙”を屈服させるには、戦闘での勝利では足りない。

「あ、あア゛ァァァァァァ!」

「――なんだ、もう時間切れか」

 井塚の瞳が金色に染まる。井塚が理性なしに本能を抑え続けられる時間はまだ短い。終わりにするか、と“神薙”が呟いたときだった。

「――なっ!?」

 今までにないスピードで、井塚が“神薙”に斬りかかってきた。それも、本能に飲まれかけた後に見せる猪突猛進な突撃ではなく、“神薙”の後方に回り込んでからの斬撃。

 素早く反転し攻撃を防ぐ“神薙”だが、その表情は厳しい。

「い、ったい、どこでこんな力を……」

 “神薙”が防ぐ斬魄刀からの重みは、今までの比ではない。現に、彼女の足が地面にめり込んでいる。

「はナしてる時間ハ、ないもノで、ネ!」

 そう叫ぶと、井塚は刀の重心をずらし、“神薙”がバランスを崩したところを見逃さず蹴り飛ばす。半ば“アラガミ化”しかけている死神の蹴りなだけあって、“神薙”もかなりの距離を飛ばされた。

 追撃をする為、即座に瞬歩で追いかける井塚。

 “神薙”が気づいたときには遅く、井塚は眼前に刃を向け――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まぁ、及第点、だな」

「負け惜しみ?それ」

 はは、と笑う“神薙”の額には斬魄刀の“神薙”が突き刺さっている。井塚の体の変質も、徐々に戻っていく。

「神機の時と同じようにいるな、アラガミとは違う、って何度も言ってたのがやけに引っかかった」

 突き刺した刃をそのままに、井塚は“神薙”の傍らに座って話し始める。

理性(きみ)本能(アレ)もアラガミじゃないなら、“ただの”だなんてつける必要もない」

 “神薙”は倒れたまま、斬魄刀も抜かずにそれを聞いている。

「というか、最初から答えは言っていたのにね」

 そう、最初から。話していた内容から、彼女は告げていた。

「君の中に私の記憶があり、思いがある。君は私の神機の名前で応えたけど――」

 

 君もまた、“私”だったわけだ。

 

「……半分正解、だな」

 得意げに言った井塚を、“神薙”は一蹴する。

「私は確かに“君の神機(エルステ)”だったさ。だが、同時に君のナカに居座るアラガミ(かいぶつ)でもあった」

「だから、卍解を習得するためには、それを操り、そして」

「――喰らう必要があった」

Exactly(そのとおり)

 ピキ、ピキ、と“神薙”に刺さった斬魄刀が音を立てる。突き刺さった部分から、本能の“神薙”が霊子を喰らい始めたのだ。

「ただ斬るだけでは、それは出来ない。明確に私を喰らい、取り込むことを意識しなければ、“奴”は応えないからな」

 本能の“神薙”とて、ただ井塚を害する為だけに暴れていたわけではなかったのだ。

 ただ、片割れを取り戻したかっただけ。

「元々一つだったものを戻すための作業だった、ともいえるな。つまりは」

 そう呟く“神薙”の体は少しずつ縮んでいく。だが痛みはないようで、その表情は穏やかだ。

「……ねぇ、一つになったら、君らはどうなるの」

 どちらかが消えるのか、それともどちらも消えるのか。井塚の疑問に、“神薙”は笑う。

「どうもならないさ。“前”のときと同じく、ただの斬魄刀としてある。こうして話せるかは分からん」

 それが、“神薙”という斬魄刀の在り方。持ち主と深くリンクし、様々な利点と欠点を齎す。

「ただ、いつでも私達――私は君と共にある。私は、君の味方だ」

 そう言って、微笑んで。

 硝子が割れるような音と共に、理性の“神薙”は斬魄刀に喰らい尽くされた。

 井塚は立ち上がると、斬魄刀を手に取る。右手首の傷痕が、うずくような感覚を覚えた。

「さて、これをどうやって利用するか、だな」

 ハイリスクハイリターンなこの斬魄刀。完璧に使いこなせなければ、意味がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、瀞霊廷ではある噂が流れていた。

「死神の恰好をした虚、ですか?」

「せや」

 そう言って、ギンは甘味を頬張る。その隣に座る乱菊も同様だ。一方、対面するように座るギルの表情は険しい。

 流魂街で乱菊に出会って以来、半ば彼女の保護者のようになったギルは、ギンと彼女の再会の手引きもしてやっていた。相も変わらず腹に一物抱えてそうなギンの様子は変わらないものの、表情は今までよりは豊かになったから良しとしている。

 そんなギンから齎された噂に、ギルはどういう事だろうと考えを巡らせる。

「なんでもここ最近、虚の討伐任務があると既に相手さんがやられてる場合が多いらしうて。で、その時何度か遭遇したんが」

「その死神の恰好をした虚らしいわよぉ」

 死覇装を纏い、手には見慣れぬ斬魄刀。素顔は虚特有の面に似た何かで覆われて確認できず、しかし彼らの特徴である穴が左胸に空いていたという。

「どんな感じの斬魄刀なんすか」

「それなんやけど、色んな情報があってな」

 ある時は巨大な剣を。

 ある時は巨大な槍を。

 またある時は巨大な鎌を手に持っていたという。

 それなら別個体とも考えられたが、背丈や虚の面の形が同じであることから、同一の個体が複数の斬魄刀を操っているとみられている。

「こっちには何かしてくるんですか?そいつ」

「助けられたって話は聞いたことあるわね」

「けれど、いつまでも無害とは言い切れへん。目的もなんもかも不明、上が逃がすとは思えへんね」

 近く指令が下るんやない?とギンは締めくくった。

 ギルの表情は険しいままだ。目の前にある甘味に手を付けることもしない。隙ありとばかりに乱菊が甘味をかっさらうが、咎めもしない。

「他に特徴とかは?」

「他ぁ?あったかしら」

 ギルからの質問に、乱菊は首を傾げる。一方で心当たりがあったのか、ギンはそういえば、と話し始めた。

「なんでも、斬魄刀が変化して巨大な頭になって虚を喰ったって噂もあるけど、流石に嘘やろなぁ」

「そんな噂があるの?怖いわぁ」

 そう言って笑うギンと乱菊の目には、小さく拳を握りしめたギルの変化は映らなかった。

 

 

 

 

 

 

「何してるんですか、ミクイさん」

「お疲れ様、ギル。海燕先生も」

 時刻は深夜、以前白哉に教えられた秘密の場所にて。井塚はギルと海燕に呼び出されてやってきた。険しい表情を浮かべている二人とは反対に、井塚の表情は朗らかだ。

「お前だろ、例のアレ」

「ええまぁ」

 例のアレ――虚を手にかける虚の噂。

 あれは、井塚が卍解の練習と称して片っ端から虚の討伐を行っていた結果だった。

 卍解“神薙・特異”

 記憶した膨大な情報から取捨選択し、その能力を模倣する斬魄刀。アラガミを疑似的に憑依させているような代物だ。

 その能力の限界を知るために、井塚は暇さえあれば虚を討伐していた。同じタイミングで姿を消していれば怪しまれるだろうが、そこは井塚。別口の協力者である浮竹とある程度口裏を合わせてそれを行っている。

――斬魄刀の能力を“虚の能力と姿を得る”と浮竹に偽っているが

「一歩間違えれば危険だってことくらい分かるだろ」

 呆れたように溜息を吐く海燕に、井塚はにへら、とダラしない笑みで返す。

 既に死神のような虚の話は噂にはとどまらず、隊首会でも討伐するか否かの話になっているとは聞き及んでいる。緊急度が低いということで流されているが。

「どうにも、実戦じゃないと試し斬りができなかったもので」

 “神薙・特異”の最大の欠点。それは“侵蝕”。

 卍解を行っている間、井塚は常に虚化の危険と隣り合わせ。それを防ぐためには、斬魄刀に餌――すなわち虚等を与えなければならない。腕輪のない状態で神機を操っているようなものだ。

 それに加えて、模倣する能力や姿に見合った身体能力を自身で身に着けていなければ力に振り回されてしまう。かなりピーキーな性能をしているのが、井塚の卍解だ。

 斬魄刀の情報をなるべく秘密にしておきたい井塚にとって、卍解の鍛錬ができる機会など規律違反でも起こさなければなかった。

「まあでも、何度かやってみてそれなりにはなってきたと思うので、もうしませんよ」

「本当ですか」

「今回ばかりは本当だよ」

 体の動かし方、模倣からの変化の限界、能力の扱い。一度コツを掴んでしまえば“餌”の心配以外は楽なものだ。あとは、それをどう今後の活動に利用するか。

 井塚の表情に嘘が見られない事を感じ取ったのか、二人は漸く表情を緩める。

「全く。無茶ばっかするもんじゃねぇぞ」

「うわっ、頭かき混ぜないでくださいよ海燕先生!」

「ミクイさんは“前”からこうですからね。ソーマさんたちがいればな……」

「ソコデソーマノ話ハヤメテ」

「いい加減治せよな、その悪癖」

「悪癖とか言わないでくださいよー!」

 夜空の下、楽し気な彼らの声は人気のない山々に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

――以降、ぱったりと止んだ死神の姿をした虚の情報

 

 

――しかし人々の間でその話は消えることは無く

 

 

――いつしか“虚を喰らう死神”と話は変わり、こう呼ばれることになる

 

 

――“死神喰”と




無理やりなネーミング?知ってます!

寧ろ展開が多少駆け足になってしまったことが色々とアレです……
分かりにくい場合はこちらに書きますので遠慮なく言ってください
次はギル側で朽木家の方を書く……かな?

現世編の方も書きたいので番外編で入れたいですね(どうやっても時間軸がずれてますし)
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