ゴッドイーター、改め死神   作:ユウレスカ
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ep.4「顔合せ」

 特に何事もなく過ぎていった日常。あっという間に月日は過ぎて、もうすぐ進級となった冬のある日。

 井塚は約一年ぶりに、海燕と流魂街で顔を合わせた。

「や、お久しぶりです海燕先生」

「おう……その先生呼び、何とかならねぇ?」

「お断りします!」

「うわいい笑顔で言い切りやがったよ」

 表情を引きつらせる海燕に対し、井塚は実に楽しそうにしている。誰に言われようと、海燕は自分にとって最初の先生であり、この世界で初めて出会った「人間」だ。刷り込みのようでもあるが、懐くし、頼りにするし、そして遠慮が一切ないのもご愛敬。海燕も振り回されながらも、生来の気質から、井塚のことは気にかけていた。

 街道を歩きながら、手紙では語り切れなかったあれそれを話していく。春先の座禅騒動は爆笑されると同時にしっかりと説教を受けてしまい、もう時効だろ、と思ってしまったのは秘密である。

「そんでもって朽木くんなんですけどね、このたび飛び級が決まったそうです」

「おーあの朽木家の一人息子か、相当優秀なんだって?」

「はい。とはいっても、海燕先生ほどではありませんけどね」

 入学してから知ったことだが、目の前にいる海燕は僅か二年で卒業し、すでに今、副隊長という地位に隊長自ら推されているという逸材だった。優秀なうえに性格もいいとかハイスペックすぎる、と手紙に書き綴ったのもいい思い出だ。

 霊術院には飛び級制度があるとはいえ、それが使用される例は少ない。よほど優秀な生徒でなくてはいけないからだ。だからこそ、それを何度も使用され、二年で卒業していったという彼の実力は凄まじいものなのだろう。

「んなこと言ってもなあ、俺よりもっと短い期間で卒業したのもいるらしいぞ」

「えっ、それってもしや一年で、ってことですか」

「おう、しかも見た目は少年ときた」

 市丸 ギンっていう死神だ、と海燕は身振り手振りで説明してくれる。銀色の短髪、見た目は少年。どこか狐を思い出させる顔だちをしているとか。一年で卒業した上、即席官に就いたらしい。なにそれこわい。

「とんだ化け物ですね……」

「だろう?おまけに、その顔だちや言動からも胡散臭さがにじみ出てるみたいでな、俺はちょっと苦手だ」

「あれ、意外ですね、海燕先生がそう言い切るなんて」

 ちょうどいい甘味処に入り、席に座りながらそう口にする。注文はどれにするか。

「ん~どういうわけか、あいつの腹ん中が見えない、ってのもあるだろうが……」

「だろうが?」

 ふむ、今日は寒いし、あったかいお汁粉にしてみるか。

「何か一人で抱えて、突っ走って死んじまいそうなんだよな」

「全部抱えて、一人でやり切ろうとして潰れるタイプですね、わかります」

「なんか実感籠ってるな、生前に似たようなやつでもいたのか?」

 いたというか、自分も含めて周りにはそんな人間が四、五人はいたと思う。自分は上官を何とかアラガミ化から救おうとした時に無茶したし、仲間のソーマは親の不始末だっつって突っ走って死にかけるし、先輩のサクヤさんや仲間のアリサも、当時隊長だった自分に内緒で敵の本拠地に乗り込んで嵌められるし。こうして並べ立てると、やはりなんだかんだで全員一人で抱えようとする人材ばかりだったな。よく最後まで死ななかったものだ。

 海燕の疑問に苦笑しながら、井塚は口を開く。

「周りの人間は自分の含め、そんな人ばかりでしたからね」

「お前もか」

「死にかける度に、もう無茶はするなって怒られて、それをお前が言うかって軽い口論になってました」

「うわぁ……」

 懐かしいと思いながらそう言うと引かれた、解せぬ。そろそろ、と店内を歩き回っている女性に声をかけ、注文する。

「自分、お汁粉で」

「あ、んじゃ俺はおはぎ」

 注文を受けて女性が下がると、海燕は眉を寄せて井塚に話しかける。

「こっちではもう無理するなよ」

「善処します」

「それ実質『いいえ』じゃねぇか……」

「死にかけるのは慣れてますし、死ぬつもりはありませんから!」

「そういう問題でもねぇよ」

 頭を抱える海燕を尻目に、井塚はカラカラと笑う。そう、生前の仲間もだが、井塚自身、死ぬ気はないのだ。ただ問題を解決しようと一人突出し、死にかけることが多々あるだけである。

「ま、生き延びる覚悟はありますよ?生前の自分の隊はそれが基本理念でしたから」

「あーそういやお前さん、隊長になったこともあるんだったか」

「ほんの二年程ですけどね」

 アリサが設立した独立支援部隊クレイドルに所属するために、同期のコウタに後任を指名して、さっさかソロになったのはいい思い出だ。自分に隊長は合っていなかったのだろう。

「私の前任がいつも口にしていたんです。

『命令は三つ。

 死ぬな

 死にそうになったら逃げろ

 そんで隠れろ

 運が良ければ、不意をついてぶっ殺せ』

 って」

「それ命令三つじゃなくて四つの間違いじゃないか?」

「これをがちがちの新人に聞かせて、そうツッコミを貰って肩の力を抜いてもらうのが目的なので、これでいいんです……で、最後にはこう締めくくってました『生きてりゃ万事どうにでもなる』と」

「ほう」

「そんなわけで、私は生前の偉大なる隊長殿の教えを守るため、死ぬわけにはいかんのです」

「もう一回死んでるからここにいるんだけどな」

「それは言わないお約束ですよ、海燕先生」

 あの状況で生き延びろ、って方が無理がある。星のどこにも逃げ場が無かったというのに。そんな中でも意地で最期まで戦っていたのは、今考えると素晴らしいくらいに馬鹿なんだが。

 と、運ばれてきたおはぎに串を刺しながら、海燕がそういや、とまた口を開く。

「生前、なんでお前さんが死んだのか聞いてなかったな。他のことは話すのに」

「あー……」

 正直、あの時のことはまだ平常心のまま話せるかも分からない。思い出すくらいなら問題ないのだが、それを口にするために、詳細に思い出さないといけないのが苦痛なのだ。

 それに、あの時の状況を目の前にいる海燕がどれだけ理解できるのか、という問題もある。今現在建てている仮説が正しいなら、この世界は生前のあの世界の犠牲の上に、成り立っているのだ。それを知るだけでもちょっとしたダメージを受ける可能性もある。

「私の生前、海燕先生も察しているでしょうけど、すごく特殊なんですよ。それを説明するのにも時間が結構かかりますし……正直、自分はまだ()()を乗り越えられていません」

「意外だな。明るく話してるものだから、きっちり精算できていると思ってた」

「そりゃあ、あの日以外は大変でしたけど、とてもいい思い出ばかりですからね……でも、あの日だけは、今でも夢に見てしまうんですよ」

「そうか、悪かった」

 あっさり引き下がり、謝罪を口にする海燕に、井塚は頭を上げてください、と慌てて言う。こちらがそれを伝えてなかったのだから、乗り越えていると誤解されるのも仕方がないのだ。

「海燕先生が謝ることないですよ、いつかこれは、区切りをつけないといけないものですし」

「あぁ、そうだな。もしきつくなったら、遠慮なく相談してくれ。あ、例の朽木の長男でもいいぜ?」

「朽木くんにはそも、生前のことについて話したことないんで、後者はあり得ないですね。海燕先生に相談は……まぁ、善処します!」

「だからそれは『いいえ』と同義だっつってるだろ……」

 再び頭を抱える海燕を見ながら、お汁粉を飲む。うん、おいしい。生前は食料が乏しく、食べるものが少なかったからか、尸魂界に来てからの食事一つ一つがすべて美味しく思えてくる。

 ホクホクとした様子で井塚がお汁粉を堪能していると、何を言っても仕方がないとあきらめたのか、海燕もおはぎを食べ始めた。そういえば、これは見るのが初めてだったな、と思って訊ねてみる。

「海燕先生、そのおはぎって、何でできてるんですか?」

「お前現世で見たこと……って、確か食糧難だったんだか。こいつは米が主な原料で――」

 海燕の説明を熱心に聞き入る井塚。

 何でもない日常を噛みしめながら、今日もいつものように、過ごしている。



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