デルトラクエスト短編 作:バタバタ
「つらかったかい?クリステン(何やってんだ、僕)」
「うん……………私ね、寂しいよ……………一人で死んでいくんだもんね…………自業自得だよね………?」
「(ああ、そうだね)大丈夫だよ、僕が側に居るからさ………クリステン、償えない罪なんてないよ」
言ってるリーフも、聞いてるバルダもイライラしてきたが、仕方ない。特に害は無いし、ファドレラとマリエットの将来のためにも、クリステンのご機嫌取りに勤しまなければならない。
「(ジャスミン、僕は、君という者がありながら、こんな性悪女を口説いているんだ…………怒ってくれるかい?もし、そうなら早く来て欲しい……………)もう逝ってしまうのか、クリステン…………(ネタ切れそう………………)」
「ふふ…………、困らせてごめんなさいね…………、国王陛下♪」
「(ああ、まったくだよ)いいや、君にもせめて最期は安らかに逝って欲しいから………(しぶといなぁ………)」
そのとき、ようやくジャスミンが、ファドレラとマリエットを連れてやって来た。ファドレラも、マリエットも監禁の後遺症で長く歩くことができないようだ。これもクリステンが悪いのだ。またもや、イライラするリーフだったが、後は二人に任せるべく脇に退いた。
「姉さん!!」「クリステン!!」
「…………!あなたたちには、悪かった、と思ってるわ…………ちょっとだけ」
「ね、姉さん、わ、わたしは……「ごめん、クリステン………僕は………、僕…………」」
思う所はあっても、あえて口には出さない。折角の良い雰囲気だから邪魔をする必要は無い。だから、リーフたちは、黙って三人のやり取りを聞いていた。あの二人にとっては、クリステンは、北の歌姫の番人としてではなく、しつこいけど、負い目がある元カノ、同じ人を好きになってしまった姉、という面が強いのかもしれない。
「………………私を差し置いて、イチャイチャするんだから、絶対に幸せになりなさいよ………………」
「はい……………、姉さん…………」
「うん、必ずマリエットを幸せにするよ………約束するよ、君と…………」
「…………………私も言われたかったなぁ……………、幸せにする…………って………!……!」
涙ぐむクリステンに、ファドレラとマリエットも涙を流しながら応える。クリステンの言葉は、どこか恨み言のようにも聞こえるが、ファドレラが彼女を振って、妹を選んだことを考えれば許容範囲だろう。だが、
「二人ともそろそろ行ってくれ、僕たちは、彼女にいくつか聞きたいことがあるんだ」
渋る二人をバルダとジャスミンに連れ出してもらい、再びクリステンとの一対一になる。これが一番聞き出し易いはずだ、と、リーフは思った。東の歌姫の番人ーーーロルフからは、ろくに聞き出すことができなかった。辛うじて、遺品からこの『影の門』に北の歌姫があることを知ったぐらいだ。マリエットが閉じ込められていたロケットから既に、西の歌姫の在処が示された地図を見つけた以上、他にめぼしい情報がある、とも思えないが、聞いてみる価値はあるだろう。
「もう話すことは無いわ……………西の歌姫の場所ぐらいしか知らないし……………」
「それは、もう知ってるんだ」
クリステンが秘密を墓場まで持っていくほど、影の大王に心酔しているわけでもあるまいし、本当に知らないのだろう。息遣いも荒いし、看取るくらい良いだろう。そのまま放っていくのは、後味が悪いし、ファドレラたちが心配だ。
「ふふふ、残念だったわね…………う……、くぅ…………ねぇ、最後のお願いしても………!……いいかしら?」
「何だい?」 「抱き締めて…………欲しいかな…………って………ね」
「ふざけるなよ、淫乱………………まあ、いいけどさ、
分かっているのかい?君は苦しみ抜いて死ぬことになるけど…………」
影の大王から授かった魔力、北の歌姫の魔力を一身に浴び、邪悪の化身とかしているクリステンが、デルトラのベルトを身に付けたデルトラ国王に触れられれば、ただでは済まない。毒で衰弱した今、たとえ改心していたとしても、身体に満ち溢れていた邪悪な魔力が浄化された反動は彼女を死に至らしめるには、十分だ。しかも、エメラルドが体内の毒を解毒するために、浄化の際に発生する『良心の呵責(強制)』も相まって、死ぬまで苦しみ続けることになる。デルトラのベルトは、悪人正幾説とは、縁が無いようだ。
「最期くらい…………人の温もりの中で過ごしたいだけよ……………あなたが…………、言ったのよ、私が……!…はぁはぁ………ファドレラの歌で泣く理由だって…………………」
「じゃあ、触るよ……………………」
リーフは、クリステンの身体を救い上げて、抱きしめた。それと同時に、デルトラのベルトが熱を帯びた。
「ああっ、くぅぅぅぅぅぅぅっ………………、あはっ………、こんなにっ…………苦しいなんて…………はぁはぁ……ぐぅっ……………」
「僕としては、どろどろに溶けて、肉塊にでもなると思ってたから、逆に驚いたよ…………、あれで、意外と反省してたんだね?」
「悪く……………ないわね……………こういうの…………私……………次に…………生まれ…………変わったら…………ね、…………あなた………っ!………みたいな人………に……………!恋…………したいかな………、な………なんて……………」
「お休み……………、クリステン………(生まれ変わる前に地獄が先だろうけど……………」
「リーフ…………最後の方、声に出てるわよ」
「いいんだよ、ジャスミン………聞こえてないだろうから…………」
(悪夢は終わった。もう仮面一座と関わる必要は無いだろうし、『仮面の人』に襲われることも無い。死の島に向かう前に、恐怖の山に向かい、そこで小人族と会おう。もうすぐ、北の大地が完全に息を吹き返す。そしたら………………)
「あの……………、国王陛下、本当にありがとうございました。助けていただいて」
「何、気にすることは無いさ………ところで、仮面一座に戻る、というのは…………?」
「はい、母が亡くなって、血族の者だけになってしまったのでしょう?なら、たとえ、疎まれよう、と、蔑まれよう、と戻って助けなければ、と思ったんです」
「それは、償いかな?」 「いえ、責任です……僕の」
「それは良かった……………、ところで、ラスト、って人がいたんだけど………「えっ、どうしてました?」」
「リーフ、あの狐女がどうかしたの?」
「いや、推測だけどね………………、彼女は、ファドレラ……………君の元婚約者じゃないか、と思ってね」
「えっ、何故分かったんですか?」
「やっぱりか…………、いや、単純にベスの話と、君の話題が出たときの彼女の態度から、ちょっとね」
ベスの話では、ファドレラは、血族の輪の者たちの中から結婚相手を選らばなければならない。ファドレラは、七年前は十八歳だった。血族の者の中で一番年が近い女は、おそらくラストだ。また、彼女は、ファドレラの話が出たときにかなり反応していた。特にリーフが、ファドレラの仮面を着けて現れたとき、彼女は大いに取り乱していた。
「ねぇ、ファドレラ……………もしかして、私たちが喋ってるとき、ジト目で睨んでた、タヌキ風の仮面の女の子のこと?」
「ええっ!、見られてたんだ………………」
「(おいおい……………)昔は、タヌキだったんだ」
「その子、ファドレラが、姉さんと付き合ってたときも後ろについていってたけど……………」
「あわわわわ…………、いつも…………かい?」
「姉さんのときは知らないけど、私のときは、二回に一回はいた気が…………って、あんな可愛い許婚を放ったらかしてたの?!可哀想でしょ!」
(あ!マリエットだけはまともなんだな…………振られてないからかな?)
「だって、そのときからずっと、僕の頭の中にはマリエットしかいないから、仕方ないじゃないか!」
「……………!!!もうっ!上手いこと言うんですから…………でも会ったら、ちゃんと話してあげてくださいね?」
「うん、約束するよ!マリエット」
(ファドレラ爆発しろ)
歌姫は、後半分が西と南に残っている。だが、これまでの影の大王のやり口から考えても、このまますんなりとはいかないだろう。むしろ悪意マシマシの罠をどっさり用意していることに違いない。だが、リーフたちも負けるつもりはない。
(そう……………愛は、必ず勝つんだ………愛する者のために戦う僕たちが負ける筈がない…………そうだろ、ジャスミン?)
(あたし…………、リーフと生きて帰れたら、告白するんだ…………)
「(おかしいな………………嬉しいようで、不安も感じる……………)ジャスミン、変なこと考えてない?」
「えっ、!?へ、変なことじゃないからね!」
リーフたちの旅はまだまだ続く。