皇暦2014年、神聖ブリタニア帝国が人型機動兵器KMFを使用して日本に対して軍事的に圧倒な勝利を収めて4年後、ホーリーやクルトたちが住んでいたこの国にもブリタニアの手が及んだ。
そもそも国の民の95%が地中海に面した沿岸部に住んでいたということもあり、かつてフランスやスペインと呼ばれた地域も支配していたブリタニアにとってこの国を攻め取ることは容易だったはずだ。それに起伏が激しいこの地形もまたスラッシュハーケンを用いるKMFの機動力を助けてしまう。内陸部にあるサハラ砂漠に戦場を移すことが出来ていれば、まだ何とかなったかもしれないがこの国の民にとっても砂漠が危険であることには変わりない。
地中海沖からの艦隊から放たれる砲撃、地上ではKMFという兵器が古代の人々が作り上げた美しい町並みを作る建物やなけなしの戦力をかき集めて構成された軍の兵士や兵器とともに平穏を満喫していた民を殺して回る地獄絵図。
現在はホーリーたちのようなかつて国の沿岸部に住んでいた者たちとは別に国の内陸部でマーナのような一族だけで細々と生きてきた者たちも“とある事情”によりかつて住んでいた場所から追われてしまった。そして何の因果か住むところを追われた者たちは自然と同じところに集まることになり、多少の衝突はあったけれども肩を寄せ合うように協力して日本でいうゲットーのような集落を作ってなんとか日々を過ごしてきた。
しかし、コバルトブルーの美しい海を見渡せる美しい街並みや昔ながらの漁法で獲られた魚といった観光資源で栄えていた沿岸部は全てをブリタニアに奪われ、彼らの好みに合うリゾート地へと変えられてしまった。
不慣れな地へ追いやられた彼らも生きるために試行錯誤を繰り返す。だが、日々の食事を賄うために農業や畜産などをしてみるが乾燥した大地と毎日のように吹き荒れる砂嵐が彼らのする事を邪魔する。
次第に大人たちは全てを諦め、生気を失ってしまった。そんな大人たちの姿を見て未来に絶望するしかないのは子供たちだ。日に日に痩せこけていく年端のいかない子供たちと高齢者たち。このままでは駄目だと立ち上がったのが、ホーリーを初めとする少年少女たちだったのは何の皮肉なのか。
幸い単純明快な前向きな性格でリーダーシップを発揮するクルトという少年の存在と、邪道と言われようと突き進める強さを持ったノルドという少年がいたことが功を奏した。
陽の目を浴びる表立ったことはクルトを中心としたメンバーでまとめ、裏の誰もがやりたがらないことはノルドがどんなことをしてでも生命線を保ち続けるというやり方を行うことが出来た。しかし、それももう限界に達してしまう寸前。
「血気盛んな青年団の一部がブリタニア軍の基地に何らかの行動を起こそうとしている……か」
「そうさ。ノルドが仲間たちの顰蹙を買ってまで媚び諂うブリタニア軍人たちの伝で何の検査もなく基地に入れるルートはある。だけれど、“そんなこと”をすればブリタニア軍の報復活動でここは簡単に血の海に沈むだろうよ。けど、食料品もそうだけれど医療薬品が足りてないのさ。かといって敗戦国民であるオレたちには薬を買う権利もなければ金もない」
俺に分かり易いようにあらかたの現状を説明するホーリーに目を向ける。アラブ系の褐色の肌と黒い髪、凛とした佇まいで清楚な感じを受けるが話す言葉はそこらの男よりも漢らしいという矛盾を抱える少女だ。お嬢さまという猫の皮を被っていた犬みたいな奴を知っているけれど、ホーリーはまったくそれの逆を行く。
「確かに何の考えもなしに基地に対して反抗するような行動は控えた方がいいだろう。しかし、それほど猶予はないということだな」
「ああ。クルトが全員の前であんな啖呵を切ってくれたからな、今回ノルドが仕入れてきてくれた物品は本当に厳しい状況下に置かれている人間に回すことが出来た。しかし……」
「あの程度の量では高が知れている。根本的な改善が求められているという訳か」
ホーリーは俺の言葉に深く頷いた。この集落にはいくつか井戸のようなものがあるが、一度煮沸しなければ安心して飲む事が出来ないもの。家畜も育てているようだが、自分たちの食も儘ならない中で満足な餌を与えることが出来るはずもなく、ここにいる人間と同様に痩せてしまっている。一応、乾燥した土地でも育つ野菜を植えているようだが、青年団の人間で管理していないと空腹に飢えて盗みを働く者もいるという。現状がこのような有様であるために強く非難することも出来ない。この状況が続けばブリタニアの手に掛かることなく、この集落は勝手に滅んでしまうという危機感をホーリーたちは抱いているのだ。
俺はふとテントの中にいるホーリーたちの様子を窺う。現状を話すホーリーは勿論のこと、テントの隅に座っているクルトとノルドの2人も少年と称するよりも青年と言ったほうが良い顔つきをしているが、俺の知る彼らの同年代の男性よりも一回りほど体格が細い。特にノルドの見えている肉体には数多の傷跡が刻まれている。中には深く抉られたような傷もあり、クルトが言っていたブリタニア人相手に“媚び諂う行為”をした代償にしてはあまりに酷過ぎる傷だ。日本で見た名誉ブリタニア人制度を利用していた日本人店主たちがブリタニア人相手にペコペコしているようなものではないのだろう。
「話を聞くに、この集落の近くにブリタニア軍の基地があるんだな?」
「ああ、……あるぜ。沿岸部から運ばれてくる補給物資を置くための基地が……な」
抑揚の無い低い声。ノルドが口を開いた。彼は無意識なのか右手で左の二の腕を擦りながら話し始める。駐留しているブリタニア軍人は60人くらいだが、入れ替わりが激しく長く常駐しているのは基地司令部くらいだということ。内陸部に近い位置に基地があるのは、山地のどこかにある施設に物資を運んでいるからとのこと。辺境の任務であるが、皇帝直々の命令であるため、現場の兵士たちはイラついているけれど自分たちに媚び諂う道化を見れば、笑いながらチップ代わりに物資をくれる、と。
ノルドが媚び諂う道化の件を自虐気味に語る際、クルトは下唇を噛み締め膝の上に置かれていた彼の手は自身の怒りを漏らさないようにしているかのようにワナワナと小刻みに震えていた。クルトはブリタニア人に媚び諂う行為に憤っているのではなく、ノルドが自分を卑下してしまっている現状に怒りを覚えているのだろう。きっとクルトとノルドの2人は子供の頃は友人、いや親友とも呼べる関係だったのではないかと推察できる。
「先ほど青年団の一部が行動を起こすと言っていたが、何か武器になるようなものはあるのか?」
「アルジェリア軍が使っていた武器がある。管理に関してはKMFの恐ろしさを目の当たりにして逃げ出してきたアルジェリア軍の元兵士が担っているよ。名前はアントニオっていう筋肉隆々でガタイはデカイが性格は生まれたての羊みたいな奴だ。鼻の下のちょび髭がトレードマークのオッサンだからすぐに分かると思うけれど、今日は夜も更けたし紹介するのは明日にするとしようじゃないか」
ホーリーは急に立ち上がるとテントの出入り口を開き、外でカタカタ震えつつ縮みこまった状態で待っていたマーナを中に入れて焚き火の近くに置いた。小さな手で身体の至る所を擦りながら焚き火に当たるマーナの頬には次第に朱が差していく。
「はふぅ……」
「マーナ、アンタも強情だねぇ。マーナの神さまをどうこうしようとはオレたちは考えていない。少しは信用したらどうだい」
マーナはテントの外に放り出されて冷え切ってしまっていた身体が十分に温まったのか、焚き火の傍から俺の近くに移動してきた。そして、満面の笑みを俺に向けてくる。茶化すようなホーリーの言葉を聞いて少し考えた後、マーナは告げた。
「ホーリーにはしてる。けど、神さまを殴ったクルトたちは嫌い。神さまはマーナの“呪い”を消してくれた。マーナはもう皆が死ぬのを見続けなくてよくなったの。だから神さまのお世話はマーナがするの」
マーナの舌足らずの言葉を聞いてホーリーたちはやれやれと言いたげな様子で苦笑いを浮かべていたが、俺の心中は穏やかではなかった。マーナの『呪い』という言葉と『皆が死ぬのを見続けなくていい』という発言は否応にも緑髪の魔女の姿を彷彿させる。
コードの所有者はC.C.やV.V.だけではなかったのだ。
何らかの現象で過去の世界に逆行してしまった俺は死に掛けていたとはいえ、ギアスは達成人へと至りコードを引き継ぐ下地はあった。
不死という呪いを受け、幼い身体で悠久の年月を過ごしてきたマーナにとって、自分の身体からコードを奪い取ってくれた俺という存在は本当に神そのものなのだろう。
ただやはり、神さまという呼称は気に入らないが。
◇
日が昇り始める時間帯には動く気力のある者たちは活動し始める。畑に水を捲く者もいれば、僅かばかりの家畜を連れて空っ風が吹く平原に餌を求めて歩いていく者。そのほとんどは本来であれば学校に行き、学問を習うような年頃の少年少女らだ。
俺はそんな彼らの姿を横目にクルトとホーリーたちが率いる青年団、引いてはブリタニアに対して反抗する気力を持ち合わせている者たちと合うために集落で一番広い家屋へ案内されていた。無論俺の傍らには手で眼を擦りつつもちゃんと自分の足で歩いてついてきたマーナの姿がある。俺たちの様子を見ていたホーリーが部屋の中央に移動して、パンッと手を叩いて注目を集めた。
「オウ朝っぱらから集まってもらってすまねぇ。テメェらも昨日のいざこざで顔を知っていると思うが、そっちの白い布を身に纏った色白の男が【エルツー】。ここまで追い込まれた現状にあるオレらを救ってくれるかもしれねぇ奴だ。今回は顔合わせの意味で連れて来た。興味のねぇやつは出て行ってくれ」
部屋の中央で腕を組んで仁王立ちするホーリーの後ろ姿はまさに漢って感じで格好いい。何故彼女がリーダーじゃ駄目だったのだろうか。そう俺が思っていると部屋の柱に背を預けていた少年が前に出てきた。目を引くのは右目の周囲にある古い大きな傷跡。
「僕はコージィというのだがそんなことはどうでもいい。単刀直入に尋ねよう。この現状を打破する目算があるかどうかを。見ての通り、姐さんの招集に答えることが出来たのは僕を含め10人。この人数でブリタニア軍基地を襲撃し、物資を奪えるのかどうかだ」
建物の構造上、影になる部分が多くある家屋の中で俺は幾重の視線が向けられる感覚を覚えた。視線は色々な感情を秘めていた。俺に対して興味を持ったもの、懐疑的なもの、好意的なもの、否定的なもの、個人個人が向ける思いは千差万別だろう。だが、ここにいる誰もに共通しているのはこのままでは拙いという危機感を抱いていること。俺が日本でまず率いたのはカレンと扇の2人だけだったときに比べれば、この程度どうということはない。俺は身に纏う布を握っていたマーナの手を振りほどくとホーリーの横に立つべく移動した。
「俺の名はL.L.(エルツー)だ。昨日の騒ぎでは不甲斐ない姿を見せたが、クルトとノルドの争いを止めたかったのは事実だ。まずは皆が気になっているコージィの質問に対する俺の答えだが、この人数でのブリタニア軍基地への襲撃は不可能だと考えている」
質問をしたコージィも含め、全員が落胆したように深々と溜息吐くのが分かる。
「そもそも基地を襲撃すると簡単に言うが、君たちは襲撃が巧くいった後で何が起こるかを理解しているのか?」
「襲撃が成功した場合……?」
「ブリタニアは駐留していた軍よりも強力な兵器を扱う軍人たちを派遣し、基地を襲撃した君らを捕捉し報復を図ってくるだろう。例えその軍を打ち払ったとしても、更に強力な奴らが送り込まれてくるのは目に見えている。ブリタニアに反抗する者はこうなるのだという格好のプロパガンダにされるはずだ」
俺が突きつけた現実味のある言い分に顔色を青くしたコージィは俯き、悔しそうに拳を握り締めた。
「……あの」
掠れ気味の小さな声の主を探すと、気だるそうに机に凭れ掛かっている少年が手を上げていた。俺が視線を向けていることに気付いた彼は左手を口元に当てた状態で時折、咳き込みながら言葉を紡ぐ。
「襲撃が駄目なら……狙撃による暗殺は……どうでしょう。警邏に出て……きた軍人を1人ずつ暗殺していく……手もあります」
「同じ事だ。人員はどこからか補充され、不可解な事件が続くようであればそれを捜査する奴らが増えるだけだ」
「そう……ですか。残念です」
質問が終わると同時に少年はまた机に凭れ掛かった。ホーリーに尋ねると少年の名はリーズベルといい、病弱だが狙撃に関しては高い技術を持っているという。病は不治のもので死に場所を求めているという実しやかな噂もあるらしい。ふむ、病弱のスナイパーか。
家屋内が静まり返り、どうしたものかと思っていると後方から滾る炎のような怒りを伴った声が聞こえてきた。
「エルツーは結局のところ、俺たちに何もせずに死ねと言っているのか」
「そう聞こえたか、クルト」
俺が振り返った先にはノルドによって羽交い絞めにされたクルトの姿があった。犬歯を剝き出しにして、ノルドの制止を振りほどこうと暴れながら叫ぶ。
「俺たちの現状は嫌と言うほど見ただろ!今すぐにでも行動を起こさなければ駄目なんだ!」
「落ち着け、クルト」
士気が下がるようなことを平然と告げた俺に対抗するために熱くなってしまい、自分の気持ちが溢れ出ることになってしまい思わず手が出てしまいそうになったクルトに対して、あくまで止めた形の沈着冷静なノルドの声が屋内に響き渡る。
「ふざけんな!ノルドが身体を焼かれながら手に入れてきた食料品をなんで何も行動を起こそうとしない奴らに渡さなければならない!そいつらに渡さないように取れた方法が、俺がノルドを。ブリタニア人に媚びうる奴と言って嘲笑って殴ることだけって、ふざけるな!ふざけんなぁっ!!」
昨夜、テントで見せていた憤りの表情の原因はそれだったのかと俺はなおも叫び続けるクルトを見る。彼の頬にはいつの間にか涙が伝い、クルトを羽交い絞めにしているノルドもまた全てを悟ったような優しい笑みを浮かべていた。
「お前の気持ちは分かっている。クルト、俺のことは……いいんだ」
「よくねぇよっ!俺は……俺は親友を貶めるような役目を受けるために団長になったんじゃないんだ」
ノルドに羽交い絞めにされたまま項垂れるように泣き崩れるクルト。俺はその様子を見てクルトの人物像を改め直す。そして、ホーリーの呼びかけで集まったという10人がクルトやノルドにとって心情を吐露しても構わないと思っているメンバーであるということを理解した。建物の影に隠れていた人間が数人クルトたちに駆け寄ったのを見た後で、俺は“動かなかったメンバー”の下へ足を向ける。
まず向かったのはボロボロのソファに寝そべったままの身動きひとつしない少女のところだ。彼女が寝ているソファの周りには無骨なナイフや拳銃などが無造作に転がっている。近くにいたコージィと机に頬杖をつきながら俺に向かって儚げな笑みを浮かべて様子を窺っていたリーズベルの2人を呼び寄せて尋ねた。
「ここにある武器はアントニオがすべて管理しているのではないのか?」
「ジルは特別なんです。なにせ、ここにいるメンバーがフル装備で襲撃をかけたとしても彼女なら瞬く間に全員を制圧することができるでしょうから。ですよね、コージィさん」
「ああ。手榴弾ひとつでブリタニアのKMFを中破させた彼女なら僕たちを排除するくらい何てことはないだろうな」
ここにもマリアンヌやスザクと同じ系統の化け物がいるのか、と内心で愚痴を零す。
戦争に使用されているKMFは少なくとも第4世代以降のものだ。確かに戦い方ひとつで状況をひっくり返せないこともないが、冗談は機関銃の連射を生身で避けられるスザクくらいにしておいて欲しい。
「んぅ……おなか……へったぁ」
「っ!?……なるほどな」
ソファの上で身動ぎをしたジルという名の少女が少しだけ瞼を開けた。僅かな間だけであったがそのぼやけた瞳に映ったギアスの紋章を俺は見逃さなかった。どういった経緯があってジルがギアスを手に入れたのかは分からない。だが、コードを所有し永遠とも呼べる日々を過ごしてきたマーナという少女がいるのだから、彼女を介してジルがギアスを手に入れた可能性もある。ただコードが俺に引き継がれたことによって、マーナは有り様が変わってしまっている。ことの真相はジル自身に聞かねばならないだろうが、彼女の手を借りるのは最後の手段にしたい。
「ホーリー、とりあえず必要なのは食料と医療品で間違いないな?」
「オウ、そうだが。エルツーは何か当てがあるのか」
「まずは正攻法だ。租界に行って資金を稼ぎ、食料と医療品を購入してくる。同行者にはノルドと、奥のほうで“酒を煽っている振り”をしている奴に来てもらおうか」
俺の言葉を聞いてクルトたちの周囲にいた数人とコージィたちの目が家屋の奥に向く。そこには髪や髭を無造作に生やしたままの男がいた。彼の周りには酒瓶がゴロゴロ転がっていて、その手には鈍色のボトルのようなものが握られている。一見浮浪者にしか見えないが、彼の眼光は逐一俺の行動の一挙一動に注目し視線を逸らすことが無かった。
「何故、俺が酒を飲んでいないと?」
「格好はいくらでも無様に偽造することは出来る。だが、その人が培ってきた所作というものは中々隠し通せるものではない。次回からは気をつけることだな、“日本人”」
「はっ!まさか、余所の国でその呼び方をされるとは思ってもいなかったな。……行き倒れになっていた俺を救ってくれた恩がここの連中にはある。お前が何を考えて租界に行こうとしているかは知らないが、変なことをすれば……」
「フッ、愚問だな。俺にそんなことをして得られるメリットは存在しない。……俺は自身でやると決めたからには徹底的にやり続ける。コージィ、軍基地ひとつ奪い返すくらいで満足するな!どうせやるなら『ブリタニアからこの国を奪い返す』くらい言え!この程度やり遂げられないようなら反抗するだけ無駄だ!」
「「「「なぁっ!?」」」」
俺の宣言を聞いて、クルトもノルドも、コージィや立ち上がった日本人もあんぐりと口を開けて阿呆面を晒す。ホーリーは少し間の抜けた顔を晒した後、笑いを堪えるように肩を震わせ、ソファに寝そべっていたジルは小さく何かを呟いた。
「そんなこと……可能なん……ですか?」
恐怖からなのか、歓喜からなのか、身体を震わせながらリーズベルが尋ねてくる。俺はニヤリと笑みを浮かべクルトたち全員に聞こえるように宣言する。
「可能だとも。現状を打破したいと思い行動を起こす意思を持つお前たちならば!他者を思い、自身を投げ打ってでも行動できる者がいるならば!お前たちがこの国を変えたいと本気で思うのであれば、俺は幾らでも力を貸そう。この戦いの果てに、俺が本当に欲しいものがある!」
「神さまが欲しいものって何?」
見れば眼下にマーナがいた。そしてまっすぐな瞳を俺に向けている。当然、その場にいる面々も知りたいはずだ。俺が望むものを。
「俺が欲しいもの。それは『優しい世界』だ。人種も、主義も、宗教も無い、強者が弱者を虐げない優しい世界。誰もが笑って暮らせるようなそんな世界。それが俺の欲しいものだ」
普遍的かつ全世界規模の巨大な願いを聞かされて、ほとんどの者が顔を見合わせる中で、俺に協調するように声を上げた者がいた。それは先ほどまで親友を貶めてしまったと涙を流していたクルトだった。彼は自分を心配して集まった者たちを代表するように前に進み出てきて言った。
「俺はエルツーが夢見る『優しい世界』をこの目で見てみたい!俺たちがブリタニア相手に戦った先にそんな未来があるのなら、俺は戦う!だから、力を貸してくれ!」
「力を貸してくれ……か。あくまでも自分たちが行うという意思をちゃんと見せてもらった。いいだろう、これは契約だ。力を貸す代わりに俺の願いをひとつだけ叶えてもらう。俺の願いは、……言わなくてもいいな」
「ああ!」
クルトが俺に向かって右手を差し出してくる。見れば俺とクルトの周囲にはホーリーの呼びかけに集まった全員が姿を現していた。
長身痩躯でブリタニア人からの暴行を受けてでも物資を得るために自身を犠牲にする我慢強い男、ノルド。
漢らしい言動で危うく暴走しそうとしていた面々をも引き留めることが出来る姉御肌、ホーリー。
不死という呪いから開放され、自由にしてくれた俺を世話すると豪語する少女、マーナ。
率先し意見を述べる役目を任された右目の周囲に大きな傷跡を持つ少年、コージィ。
病弱でありながら狙撃という専門職のスキルを持つ儚げな笑みを浮かべる少年、リーズベル。
何らかのギアスの力を持ち、対人戦、対KMF戦において優位に事を進めることが出来る少女、ジル。
鋭い眼光で俺の行動を逐一見続け、自分を救ってくれた連中に恩義を感じ戦うことを選んだ日本人。
クルトが泣き崩れた際に一番に駆け寄り声を掛けた心優しき少女。
俺がジルに近づいていった後にホーリーの下へ来て何やら怪しげな相談をしていた大きな荷物を背負った少女。
クルトが泣き崩れたことで解放される形になったノルドに対して何やら謝罪の言葉を告げているようだった少年。
俺は差し出されたクルトの右手を握る。
―これが過去に遡った魔王による神話の始まりの日の出来事であった―