双貌の魔王   作:こんたそば

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04.リーダーの資質

NACとサクラダイトの購入の件で交渉するために日本へ赴き帰還したばかりのタクマ。

 

与えられた機体を使いこなすために過酷な戦闘機パイロット訓練を受けていたクライス。

 

ブリタニア帝国第2皇女コーネリアの目を向けさせるため恣意的にエリア18で活動しているリーズベル。

 

天然ガスの精製プラントの地下に作られた基地の一角に設けられたKMFの巨大格納整備施設に彼らの姿はあった。毎日の整備はそれぞれのチームが確実に行っていたものの、ライト・ディアーは『砂漠の牙』との戦闘データとドクター・ジェイルが要望していた試作武器の使用データを提出するついでに、機体各所に入り込んだ砂を取り除くためにブラッシングが行われている。ライト・クロウはプラズマ推進モーターを全開にした戦闘機形態であるフォートレスモードからビーストモードへ移行し、その直後にライト・リンクスとドッキングしたため、その合体による動きや接続不具合な箇所に関するデータの抽出が行われている。ライト・リンクスは勿論、エリア18の熱砂や砂嵐による視界不良という様々な環境下で行われた正確無比な狙撃データが様子を見に来たジェイルの琴線を刺激し、エンジニアたちによる狂乱の宴が起きてしまい、パイロットであるタクマ、クライス、リーズベルの3人は身の危険を感じて離れてきたのだった。

 

「いてて……、アーニスに殴られた腹がマジでいてぇ」

 

「僕は死んだお爺さんたちに頭を撫でられました」

 

「臨死体験しなければならないほどのことを何故言った」

 

クライスが走らせる車の上で会話するリーズベルとタクマ。リーズベルは席に凭れ掛かりながら巨大空間を見てポツリと呟く。

 

「掘削した土はどこにいったんでしょう?」

 

「居住区の壁と家に使われたようだ。あと、エリア15に点在するゲットーの修復資材にも使用されている」

 

「くくくっ……L.L.もエグイことをするよな?」

 

クライスが車を運転しながら2人に声を掛ける。

 

「表向きはゲットーの家屋や道の修理と整備代を払わせるために住民を残らず強制就役につかせるってブリタニアの役人に書類を提出しておいて、ゲットーの住民に用意された居住区は元の生活よりも数倍もいい所で働き甲斐のある仕事があり給料をもらっていい食事も出来るし嗜好品も買えるんだからな」

 

「書面ではかなりの額がピンハネされている形だから、ブリタニアの役人たちも表立って追及することが出来ない」

 

「L.L.のように頭のいい人が不眠不休で働いても身体にガタが来ないってずるいですよねぇ。僕なんか徹夜しただけでフラフラになるのに」

 

リーズベルがしみじみ呟くと同意するようにタクマとクライスも頷いた。

 

その時、車のナビが右へ曲がるように指定してきたため、クライスはギアクラッチとハンドルを巧く使い、ブレーキを踏まなかったにも関わらずほとんど揺れもせず右折を完了させる。相変わらずの運転技術を持つクライスにただただ拍手を送るタクマとリーズベル。彼らが行った先にはすでに組織の幹部クラスが揃っていた。

 

『ご苦労であった。さすがは我が組織でも上位の実力を持つ戦士たちだ』

 

機械を通すことで作られる声で話す真っ白な衣を身に纏った仮面の男が到着したばかりのタクマたちを出迎えた。タクマは一礼したが、クライスとリーズベルの2人は出迎えた相手の格好を爪先から仮面の頂点までをじっくりと見た後、腹を抱えて噴出した。

 

「あはははっ!……何度見ても、その格好は笑えるっ!いててて……」

 

「くすくす。やっぱり、それは無いですよ」

 

『……マーナよ、やはり私がおかしいのか?』

 

「ぶぅ……。マーナは何度も言った!その格好はやめてって!」

 

白い仮面をつけた人間は自分の斜め後ろに控えていた少女マーナに声を掛け、彼女のはっきりとした物言いの前に崩れ落ちた。壮言な振る舞いをしていた白い仮面をつけていた人間が急にコミカルな動きをしたために、それまで空気を読んで黙って立っていた他の面々も笑い出し、その空間は和気藹々とした空気になってしまった。

 

「ええーい!これから真面目な話をしようとしていたのに、どう責任を取ってくれるんだ。クライス、リーズベル」

 

変声機を止めて地声で話す白い仮面の男。一応、彼が白い仮面をつけている間は【Z(エンド)】と呼ぶことになっている。ここは神聖ブリタニア帝国に反抗する組織の巨大拠点であり、エンドは組織の象徴かつ作戦参謀を務める。

 

実質的なリーダーは今のところ不在であるクルトだ。

 

「わりぃって、公の場ではちゃんとすっからさ。それにここに集まっている連中は全員が家族のようなもんじゃねぇか」

 

「そうですよ。エンドさんの正体をバラすような人はいませんって」

 

「そういう問題ではない!」

 

エンドが両手を上げて興奮しクライスとリーズベルの2人を怒鳴ろうとした瞬間、斜め後ろに控えていたマーナがさっと動き、その直後エンドが膝から崩れ落ちた。自分の前に倒れたエンドを見下ろしたマーナはその場にいる全員に向かってVサインを向ける。

 

「ぶいっ!」

 

組織のマスコットキャラであるマーナの活躍を見た面々は指笛を鳴らしたり、拍手したり、雄叫びを上げたりして囃し立てる。そのうち復活したエンドは自信作であった白い仮面を脱いで素顔を晒すと騒ぎを収束させる。そして入り口にいたタクマたちに着席するように促した。

 

無論、マーナに膝カックンされてフラフラになってはいたけれど。仕切りなおすようにL.L.は咳払いするとモニターに捕虜とした人間を入れている部屋の様子を映し出した。

 

「タクマが撃破して捕えた『砂漠の牙』の構成員を尋問したところ、『アラン・スペイサーは極悪非道のブリタニア人であり、エリア15のナンバーズたちは低い賃金かつ命の危険がある場で不眠不休の労働が強いられている』という情報のタレこみがあったようだ」

 

タクマやクライスたちは裏にブリタニアの役人が関わっていそうだと思案し、他の構成員たちは自分に渡されている給料と現状をゲットーで暮らしていた頃のもの、いやアルジェリアという国があって政府が機能していた頃のことまで思い出して、現在の状況がいいやという考えに至った者たちは揃って感慨深く頷いた。そんな中、異議の声を上げたのはマーナと同じ年代の少年少女たち。

 

「はいっ、私たちのことをナンバーズと言っている時点でおかしいと思います!」

 

「ここで、不眠不休で働いているのは俺たちじゃなくてエルツーさんだもんな!」

 

「そうです。もうエルツーさんばっかりに負担は掛けていられません。ということで僕たちは就寝時間の引き延ばしを要求します!」

 

「却下だ。成長期の夜更かしは認めん」

 

「「「横暴だっ!!」」」

 

一室に集められていた人間たちの一部、少年少女のグループからブーイングが上がった。

 

会話の内容があれだが、マーナを溺愛して生みの親でもしないような世話をしているL.L.のやり方が他の少年少女たちにも影響が出てしまうことになるとは誤算だった。L.L.の素の状態の役職は居住区に設けられた教育機関の教育長という立場だ。少年少女たちには正しい知識とそれを応用する勉学が教えられ、規則正しい生活を送る事を是としている。

 

最初はブーイングをしていた少年少女たちもL.L.の説得という名の理論武装の前に儚く膝をついてしまった。

 

「エリア15に滞在しているブリタニア人たちも訝しげに見てきている。だが、『アラン・スペイサー』はあらゆる面で隙がない。だから、こうしてエリア15以外の反政府組織を使わざるを得ない。そこで自分たちが隙を作ることになると分かっていてもだ」

 

「モロッコとアルジェリアを跨ぐサハラ砂漠に行動拠点を置いている『砂漠の牙』を招きいれた人間がいる、という訳ですか」

 

濃い緑色の髪を持つ眼鏡をかけた青年が眉を寄せて思案しながら呟いた。コージィ・メイスト、L.L.が諸々の事情もあって動けない中、前線に赴いて作戦を立案し指揮する参謀補佐の立ち位置にいる青年団時代からの仲間である。

 

思い当たる節があるのかコージィは手元にある機械を操作し、L.L.の後ろにあるモニターを操作しエリア15とモロッコ全体が映っている航空写真を映し出した。そして、レーザーポインターでとある地点を指し示す。

 

「先日、この地点にあるブリタニア軍の基地の連中が大掛かりな演習を砂漠で行っている。その演習で紛れ込んだ可能性も考慮できるが……」

 

「コージィ、君の報告書は読みやすく分かりやすい。作戦自体も堅実で安定した成果が出ている。しかし、もう少し大胆な作戦を執っても良いのではないか?仲間を思いローリスクで立案したい気持ちも分からないでもないが周りを見てみろ。彼らは十分、君が思っているよりも“強い”ぞ」

 

コージィは頬を指で掻きつつ周囲にいる面々を見渡し、「そうですね」と小さく呟き元の席に座った。

 

その様子を見ていたリーズベルはウロヴォロスの砲台を使った上空へ向けた出撃はコージィの発案ではなかったと確信し、モニターの前に立つL.L.に向け、『じとーっ』とした視線を送った。よく見ていれば、L.L.が意図してか、リーズベルやクライスたちがいる方へ顔どころか視線すら向けないでいることに気付く。

 

代わりにリーズベルの怨念掛かった視線に気付いたL.L.の後ろに控えているマーナが手を振ってくる。リーズベルは心の中で「違う、そうじゃない」と思いながらもマーナに向かって手を振り返した。

 

「コージィの考えと捕虜としている人間の尋問で得られた情報を元に、『砂漠の牙』を誘致した人物を突き止める。俺はアランとして政庁に赴き、高官たちの出具合を見極めてくる。その間のことはノルドとホーリーに任せたい」

 

「了解した。『身喰らう蛇』は活動内容を居住区の警備及び治安維持に変えて対処する。ところで、クルトのことなのだが、まだ見つからないのか?」

 

ノルドは行方不明になってしまっている青年団のリーダーで、天然ガスの精製プラントや食料生産施設が完成した後で姿を消してしまった親友の名を口にする。

 

青年団という小さな組織から、大多数の人間が所属する大組織へと変貌してしまったことで重責から逃げたんだという話も出たくらいだ。昔から自分たちにとって姉御肌であったホーリーや自分たちの環境を良い方向へ変えてくれたL.L.が問題ないとしたことでクルトを悪く言う人間はいなくなったが、不安であることには変わりない。

 

「ノルド、君に聞こう。皆を率いる立場であるリーダーに必要な資質とはなんだ?」

 

L.L.はノルドの顔をまっすぐ見ながら尋ねる。

 

だが、それはこの場にいる全員に問われているものだと思った。

 

タクマは見ず知らずの人間であっても手を差し伸べることが出来る寛容な心を持つ者であると思い、

 

クライスは全員が俯いている時でも行動ひとつで意識を変えられる者だと思い、

 

リーズベルは細かな気配りが出来る者と考えた。

 

「俺は……」

 

ノルドは言い淀む。それを見てL.L.はその場に集まった全員に聞こえるように話し始める。

 

「人は言うだろう。人を見極められる、細かな気配りが出来る、全体を見渡す広い視野を持っている、責任力がある。例えをあげれば限が無いはずだ。そんな完璧な人間がいるか?俺を見てみろ、実業家としての俺、居住区での教師としての俺、マーナを溺愛している時の俺。君たちが思い浮かべたリーダー像がそこにあるか?人によって様々だろう。だが、君たちにとってのリーダーはクルトのはずだ。何故なら、彼はどんな時でも真っ先に決断してきた姿を見てきているはずだ」

 

L.L.は断言する。この大人数が所属する組織へと成長を果たした集団を率いるのは自分ではなくクルトであるべきと。

 

天然ガス精製プラントの利権を求めてブリタニアの商人たちが武器を持参した時、不死身の身体を持つL.L.が彼らの前に立ったのならば、ここまでは彼らもクルトのことを思わないだろう。

 

「食べるものが無い時、夜通し鍬を片手に土を耕したのは誰だ?

 

飲み水が無い時、井戸の構造を調べ誰もが諦めても地面を掘り続けたのは誰だ?

 

青年団を立ち上げる時、明日に絶望しか抱いていなかった者たちに未来を語って一人一人仲間にしていったのは誰だ?

 

俺があの時点では実現不可能と思える夢を語った時に真っ先に声を上げたのは誰だ?

 

ブリタニアの連中が天然ガスの利権を求めて殺到し暴力沙汰になりかけた時、真っ先に奴らの前に立ちふさがったのは誰だ?

 

ブリタニア人の暴挙を見て縮み上がってしまったお前たちに明日を諦めるのかと檄を飛ばしたのは誰だ?」

 

あの時、今にも銃弾が発射されようとしている中、クルトは両手を大きく広げ『撃つな』と叫んだ。彼らの前に立ちはだかったのだ。仲間が築き上げてきた思いの結晶を守るために命を懸けた。鬼気迫るクルトの視線や威圧感を前にしたブリタニア人の商人たちは尻尾を巻いて逃げ出したのだ。クルトは武力を一切使わずにブリタニアに勝ったのだ。

 

「クルトだろう?あいつはいつでもお前たちの前に立って、共にこれまでの険しい道のりを歩いてきた。どんな時でも前だけを向いて」

 

そう熱くリーダー論を語ったL.L.であったが、ノルドが知りたいのはクルトの居場所であったことを思い出した。別にノルドはクルトがこの組織のリーダーであることに疑いの目は向けていないし、純粋に行方不明になってしまっている親友の安否を知りたいだけなのだろうと冷静になった頭脳でぽつりと呟いた。

 

「大きくなっていく組織、増えていく仲間や家族を前にして、クルトが『俺はリーダーとしてやっていけているだろうか?』と弱音を吐いたから、急遽ジルの武者修行の旅に同行させた。今頃、EUでドンパチしている頃だな」

 

「ああ、そうなのか。……って、はぁあああああっ!?」

 

L.L.の爆弾発言を聞いてノルドはあんぐりと口を大きく開けて固まり、その場に集まっていた面々も唖然としたり、EU方面を向いて手を合わせて拝んだり、十字を切ったりしている。そんな中、タクマとクライスはあまりのショックに気絶してしまったリーズベルを介抱しながら小声で話す。

 

「これはL.L.の勘違いが原因だな」

 

「L.L.がクルトの英断にしているあの事件の後で、ホーリーに『命を何だと思っているんだ!』と泣かれた直後の発言が今回の騒動の原因であるのならば、ホーリーはこのことを知っていた可能性がある」

 

「そりゃあ、ホーリーは『クルトはちゃんと戻ってくるから信じろ』としか言えないよな。ジルの『ドキッ!ブリタニア帝国最強騎士集団に喧嘩を売っちゃうぞ☆全世界弾丸ツアー!』に強制参加なんて、確実に俺だったら死ねる!」

 

「大体、ジルの近接戦闘特化型KMFのLate grizzly(ライト・グリズリー)ならともかく、凡庸機であるLate(月下)しかないクルトにはラウンズの取り巻きを相手するにも命を賭けねばならないはず」

 

きっと行方不明になった直後からジルの修行につき合わされているのならば、ボロボロのボロ雑巾になってしまっているのではないかとタクマとクライスはクルトの安否を願わずにはいられない。自分たちのそ知らぬ場所でクルトはこの世の地獄と向き合っていることになるのだ。

 

「バラしてしまった以上、これ以上の隠匿は不要だな。よし、現在のクルトの戦闘データを基にKMFの仮想シミュレーターをアップデートするから、正規メンバーは戦っておくように。特に、一部の能力が秀でている面々は必ず1度は勝っておけよ」

 

L.L.の言い様に首を傾げた1人が手を上げて尋ねた。

 

「正直、クルトさんってタクマさんやジル姉さんのように強くなかったと思うんですが?」

 

その意見に尤もだと頷く人間が多い中、L.L.は分かっていないなとやれやれといったジェスチャーを見せながら断言した。

 

「それは間違っているぞ。クルトに足りなかったのは実戦だ。そもそも、クルトがここにいる間はほとんどシミュレーターにも触れられない日々だったから、慣熟の関係で弱いと認識されるのも仕方がないことだ。先日のミケーレ・マンフレディとの痛み分けの戦いはKMFに疎い俺でも実に燃えた」

 

「「「ミケーレ・マンフレディ?」」」

 

「シャルル・ジ・ブリタニアの元ラウンズで、今はユーロ・ブリタニアにおける軍の総帥を務める男だ。ジルは直感で副官を務める人間の方が面白そうだと狙いを変更してしまって、成り行きでラウンズの第2席にいたミケーレと戦う羽目になったようだが、結果は痛み分け。つまり引き分けだ。さて、聞こうか?クルトが弱いと思うか?」

 

クルトを弱いと言ってしまうと必然的にブリタニア最強の騎士集団で第2席に居座った実力者を弱いと呼称することになると皆、押し黙ってしまった。L.L.は室内を見渡し、自分の前にいたノルド、そしてタクマとクライスの3人を指名した。最新の戦闘データを基にくみ上げられた仮想クルト操るKMFとの模擬先をさせるために。

 

 

 

 

場所を移動し、機体が立ち並び鉄やオイルの臭いが充満している巨大格納庫の横に設けられたKMFシミュレーターが何百台も設置された特別室のモニターにはノルドの専用KMFであるLate snake(ライト・スネーク)、クライスの可変型KMFであるライト・クロウ、タクマの専用機であるライト・ディアーの他に普通の武装しか身につけていないLate(月下)が映っている。

 

『タクマ、クライス。作戦は?』

 

『いや、とりあえず連携は必要ないだろ!』

 

「必要であれば、通信で連携をとる方向で」

 

『話し合いは済んだな?では戦闘シミュレーターを起動するぞ。戦闘は租界を想定した高層ビルが立ち並ぶ場所だ。クライスに関しては高度に制限を設けてあるから注意しろ。では、……戦闘開始!』

 

L.L.の開始の合図を聞いたタクマたちがクルトの戦闘データの集合体が操る月下を探すために移動しようとした瞬間、ライト・クロウを蹴り落とすように月下が急降下してきた。そして振り向くことなく右腕に持ったアサルトライフルを掃射してきて、タクマとノルドの2人を分断する。

 

『舐めんな!』

 

クライスがナイトメアモードで使用できる近接武器を取り出そうとした瞬間、月下が距離を詰めてきてライト・クロウは身動きが出来なくなる。直後、左肘が腹部に押し当てられ、クライスが抵抗しようと操縦桿を握り締めると同時にアラート音が鳴り響き、視界が漆黒に閉ざされる。

 

『「輻射波動機構かっ!」』

 

ライト・クロウが反攻らしいことも出来ぬまま腹部付近に風穴を開けられて爆発四散する様子を見届ける形になったタクマとノルドであったが、爆発地点から月下が姿を消していることに気付き、ファクトスフィアを全開にして月下の軌跡を追う。捉えた月下は高層ビルにスラッシュハーケンを打ち込み、まるで猿が木々を飛び移るように高速で移動していてセンサーでは捉え切れない。

 

「ノルド、目で見るな!気配で動きを察知するんだ」

 

『分かった。いや、その必要はない。……こちらに狙いを定めたか。だが、この細い路地では逃げることは出来ん!』

 

ノルドが操縦するライト・スネークは両手にアサルトライフルを持つと一斉に掃射し近寄らせないようにしたのだが、クルトの戦闘データが操る月下はそのまま直進してきた。被弾覚悟かと思われたのだが、月下は連射される銃撃の嵐を巧みな動きで避け被弾することなく近寄ってくる。そこにいるはずなのに攻撃が当たらないことに、ノルドは恐怖する。

 

『亡霊かお前は!』

 

ノルドは両手に構えていた銃を捨て、廻転刃刀を装備し距離を詰めたのだが、月下はランドスピナーを狭い路地を形成する両側の壁につけ、その場から瞬間的に駆け上がる。ノルドが機体を反転させようと動いた時には月下のスラッシュハーケンが飛来してきており、彼は苦笑いを浮かべてブラックアウトするのを大人しく待った。

 

「L.L.、これが現在のクルトの実力だというのか?」

 

『そうだ、タクマ。これが現在のクルトの力だ。リーダーとして実力がないことを危惧していたクルトもこれで自信を持つだろう』

 

「いや、クルトが悩んでいたのはその問題ではないと思うが」

 

タクマは頭部のファクトスフィアとセンサーを使い、月下の居所を探る。そして、機体の位置を特定したところで月下が変な動きで近づいてきていることを感じ取った。ある一点の射撃線上に立たないようにしているかのように。

 

「なんだ、リーズベル。起きたのか」

 

『ええ。クライスさんとノルドさんが成す術なく倒れてしまったので、僕も見ているだけではいけないと思ったんですが……。相棒のセンサースコープが1回も反応しないんです』

 

タクマはライト・ディアーを起こし、リーズベルの機体であるライト・リンクスが狙撃形態でいる場所まで移動した。そして、自分の機体からコードを伸ばすとライト・リンクスの接続端子に繋ぎ、データをリンクさせる。

 

『すごいですね。この戦場のことが手に取るように分かります。そして、行動予測で……丸見え……あれ?』

 

「月下の反応が消えた?」

 

前後左右、周囲の状況を知るために動かしたタクマのライト・ディアーの頭部が打ち抜かれたのはその直後だった。体勢を整えようとしたタクマであったが、コックピットブロックを的確に撃ちぬかれシミュレーター内は暗闇に呑まれる。

 

隣で撃破されたライト・ディアーの接続によって得られていた情報がなくなったことによるデータの混乱を接続されていたコードを断ち切ることによって終了させたリーズベルであったが、モニターに映った一つ目を見て乾いた笑いを漏らす。

 

『あははは、……凄いや』

 

クライスがやられたものと同じ方法でコックピットブロックごと風穴を開けられたライト・リンクスがその場に崩れ落ち爆発四散する。それを行った月下はその場からそっと立ち去るのだった。

 

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