□月Y日 雨
今日も家探し。そろそろ業者が俺の荷物を持っていってしまうので彼らが来る前に何としても住み着く場所を決めねばならない。幸か不幸か、ここら辺はかなり都市部に近いため住宅地が多い。もしも田舎であったら家を探すのも一苦労していたところだ。だが、住宅地が多いということは人口が多いということでもある。前回はなんとかなったが、基本的にペンやノートを買う難易度は高いと言えるだろう。じゃあ買わなければ良いのでは、と思うこともあるが……それこそこのような目的がなければマトモな(?)怨霊と化していてもおかしくないのである。覚えている魔法……魔法?これは魔法と言えるのか?どちらかと言えばまじない、呪いの類であるのではないかと思うが。ということで、呪いと表記する――兎も角、この呪いがある限り俺は何時暴走してもおかしくない、それを防ぐためのこの日記帳なのだ。自分が死んだ存在であることを客観的に認識することが出来る状態であれば、理性がなくなったりすることもないだろう。そこら辺は未経験なので未知の部分ではあるが、備えあれば憂い無しという言葉のあるのだから、問題はない。
さて、肝心の家探しなのだが……結論から言うと、ここ一帯の家は全て埋まっている。文具屋が近くて便利だったのだが。仕方ない、明日は少し遠方まで足を伸ばしてみることにする……と、書いている途中に気がついた。
足ないじゃんHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA
死にたくなった。
死んでた。
追記
今日もまた娘さんが来た。何故毎日毎日来るのだ。いい加減日記帳を言葉のやりとりにするのもどうかと思ったので新しいノートを出してしまった。全くと思いながらも楽しそうにメモ帳に文字を打ち込む娘さんを見ると追い出すことも難しい。なんとか説得は出来ないものだろうか。
ああ、ここに会話の一部分を記しておこうと思う。
会話一部抜粋
『今日は何処にお出かけしてたんですか?』
『家だ。新しい空き家を見つけてそこで日記を書きながら成仏を待つ』
『なるほどー』
『君は何故俺なんぞに会いに来るんだ。話が出来る出来ないは前に聞いたが、それでも俺は幽霊、怨霊だぞ?』
『いやー』
『君を殺してしまう危険だってあるんだぞ』
『うーん、それは怖くないです』
『何故だ?』
『お兄さん、このままでいれば人を殺したりしないでしょ?』
『……君は変な奴だな』
『よく言われます(笑)』
『褒めてはない』
…………なんだこのやり取りは。
□月ゼェーーット!日 暑っ苦しい程の晴れ 少しは自重しろ
今日はとても暑い日であった。怨霊になっても暑さを感じるとは思わなかった。まあ、実際に汗をかいたりするわけではなく、熱気を感じる、という程度なのだが。暑さ寒さも彼岸までという言葉があるが、彼岸まで行けていない俺は暑さや寒さを感じる必要があるらしい。いや、何も根拠がないのであくまでも一つの仮説でしかないので一旦ここまでにしておく。過ぎた思い込みは破滅を呼ぶのである。
さて、肝心の家についてだが……結論から言うと、まるで手応えがない。
俺としては日記が書けてノートを置く場所があれば他は気にはしないのだが、忌々しいことにここ一帯は大学が近く、下宿をする学生が多いために中々アパート等も空いていなかったのである。勿論、学生達を批判しているわけではない。彼らは目的をもって大学に通っているのだから、死んでいるモノがそんな生きている人間の邪魔をしてはいけないだろう。俺自身、大学に通っていた時は本当に大変だった記憶がある。だからこそ、勉学に励む(と信じている)彼らを応援はすれども追い出したり殺したりなど出来るはずがない。
だが、そうなるとやはり家をどうするかという問題が出てくる。何冊も何冊もノートを抱えることは不可能だ。だからこそ、出来るだけ迅速に移動場所を決めねばならない。最悪、どこかのビジネスホテルを使えばいいだろう。客が来たらコッソリと出ていき他の部屋に入ればいい。
……ダメだ。やはり収納スペースが仇になってくる。掃除の時にバレたら大変になるだろうし(勘違いをしてくれるかもしれないが読まれたら一巻の終わりだ)、もしも女性が泊まってしまう場合は直ぐに移動せねばならない。色々と動き回ったりして面倒ということもあり、却下。
悪態を日記に記すのもどうかとは思うが、全くやってられない。死にながら生きるというのはこんなにも大変なのか。
あと、G共を消しまくっていたらいつの間にか「けいけんち」が上がっていた。なんでやねん。ついでに新しい「まほう」……これは最初の「呪い」とは違い、れっきとした魔法っぽい「まほう」である。
その名も、「ス・レイ」。なんと、相手を眠らせることの出来る色々と便利なモノだ。これがあれば、ブラック企業で死にかけている友人を眠らせる事が出来る。クビより職よりまずは命だ。奴の命を老害の雑魚共の利益の為に使わせるわけにはいかないのだ。
ここまで日記を書いていると、まるで俺が親切な幽霊に見えてくる。
だが、それは間違っている。
俺はどんなに善行を重ねても怨霊は怨霊。怨念を捨てない限り、決して救われることのない悪なのだ。
……まあ、日記を書いている限りは悪に堕ちきる事はない…………と思うので当分は大丈夫だ。もっと大丈夫じゃない家探しをだな。
追記
今日も娘さん……ああもういい、どうせ他に来客もいないので彼女と明記する――は来た。部活はないのかと聞けば帰宅部らしい。青春出来るチャンスを無碍にしていないか、お兄さんは心配である。自分でお兄さんとか書いていて吐き気がしてきたので今日はここまで。
▲月○日 晴天、風が気持ち良い
今、俺は新しい環境でこの日記を書いている。
そう、ついに日記を安全に書くことの出来る場所が見つかったのである。
これで俺は安心して日記を書き続けることが出来るだろう。ただ一つ、いや、メチャクチャ懸念事項がある。
ここが、彼女の部屋だということだ。
この説明をするのは微妙に長いので簡潔に書いておく。後から見返して悶えることのないよう、三行だ。
経緯
・家が中々見つからず、ついに業者が来るまであと数日となってしまった・
・という話を彼女にしたら、『ウチに来ますか?』と言われた。それは出来ない、迷惑だと断った
・さっきは疑問形だったくせに『来ますよね?』と脅され、もし来なかったら俺がいることを住職にバラすと言われた
・なう
……四行になってしまった。
なんでも、彼女は学校では大人しく、自分から話題作りをするのが苦手なのだとか。そんな時、幸運にも……いや、俺にとっては完璧な不幸なのだが…………俺が怨霊になり、彼女に出くわした。しかもその怨霊は理性を持っていて筆談でコミュニケーションがとれるときた。なら私の友達になってもらいたい、ということだ。
前の日記において、彼女のことをとてもいい女性だと紹介したようなことがあったと思う。
訂正する、こいつやべー奴だ。
いくら自分に霊感があるからといって怨霊を友人にしたがる人間が一体どれだけいることか。いや、殆どいないだろう(反語)。いや、いた(反語の反語)。そう、いてしまったのである(強調)。いや、これは本当に人間なのだろうか(唐突な疑問)?もしかしたら彼女自身も幽霊なのかもしれない(仮定)。そうすれば中々友人が出来ない言い訳も成立って阿呆か己は。
自分で書いておいてかなり頭の悪い文章だと思う。そもそも幽霊なら友人が出来るわけがないではないか。それに俺は彼女は見えるが生きている間は他の幽霊や怨霊など見ることはできなかった。それは俺に霊感がないということに等しいのであるからして、この仮定はそもそも破綻していると言えよう。
いや、これ本当にどうする。これ以上考え出すとキリがないので一旦筆を休めることとする。