CE70年2月6日 アラスカ
「確かに国連に代わる国際機関が必要であろうという意見には賛同します。ですが、先のコペルニクスの悲劇をプラントの犯行というにはあまりに短絡的ではないでしょうか?我が国は理事国合同での調査が必要かと思います。」
元駐プラント高等弁務官にして現アジアオセオニア共同体外務大臣の野村雄一郎はそう発言する。これが我が国の見解だ、少なくとも先のテロの犯行がプラントのものだとは思っていない。彼らの政治的感覚が非常に稚拙なものであることは理解しているが、それにしてもあのような場所で、「わざと」プラント側の代表が遅れてまでテロで代表団を殺した意味が分からない。ブルーコスモスの犯行といったほうがまだ理解できる。
「…もうすでに賽は投げられたのですよミスター野村。犯人など関係がない。あなた方ならおわかりでしょう。我々理事国はプラント相手に鎮圧行為を仕掛けます。あなた方が乗りたくないというのならそれでも結構。しかし…ん?なんだね?今は重要な会議中だ…は?いまなんと?…えぇ。」
大西洋連邦の代表に対して通信が入る、今この場でとらなければならないような重要なものなのだろうか?まさかプラントが軍事力の行使でもしたか?
「…わかりました、今回の作戦に参加したくないというのならそれでもいいでしょう。連合には加盟してくださるのでしょう」
「え…えぇ、連合、地球連合には参加します。」
「わかりました。それでは先に賛同してくださったユーラシア連邦、東アジア共和国とともに我らは地球連合軍宣言を発布します。あなた方は署名こそしていただきますが、宣戦布告、いや、鎮圧宣言には加わらなくても結構です。」
何があったのだ?
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同じころ、カリフォルニア アズラエル・カントリークラブ
「…ほう?アズラエル理事、珍しくゴルフのお誘いが来たと思ったらこういうことですか…さすがですな。」
うん、やはり大西洋連邦の情報部は優秀だ、と思いながらジオニック社社長、藤田誠治はアズラエルに言う。基本的に、この人はゴルフなどはあまりやらなかったはずだ。
「えぇ、業腹ですが今回、国の計画しているプラント鎮圧作戦、『バレンタイン作戦』は失敗するでしょう。そして、奴らに勝つにはあなた方の開発しているMSが必要です。もちろん、そのものを輸入しようってんじゃありません。できれば研究用に何機か、それとOSや稼働データがほしいんです。もちろんタダとは言いませんよ。」
忌々しいことにその開発計画は我らの手の届かないところで遂行されていますが、まぁ量産するとなると我らがいなければ話にならないでしょう、とアズラエルは続ける。
そういってアズラエルは一枚のPDAを誠治に渡す。低電力高出力ジェネレータ、小型ビーム兵器、PS装甲などのデータである。
「ほう…ここまでしてそのデータが欲しいと?」
「勿論、我々の味方として戦っていただく必要もあります。ですがまぁ、あなた方がいてAOCが戦争に参加しないということもないでしょう?」
「まぁそれはそうですが…」
「こちらとしても概ね把握しています、アジアオセオニア共同体が大規模作戦行動を実行するためには来年の春ごろまで時間が必要だということも。それは黙認しましょう、それに、それまでに彼らがこちらに攻めてくるというのであれば好都合です。あの連中が何を考えているのか知りませんが、彼らにとって戦線拡大は死刑執行書へのサインにほかなりませんし、息切れも早くなるでしょう。まぁ、核のつるべ撃ちであの不細工な砂時計を消し飛ばそうと叫んでいるのがブルーコスモスにいますが、あの砂時計には少なくない投資をしているのでそれは却下です。」
金の卵を産むガチョウを絞めるバカはいませんからね。と続けながらアズラエルは疲れた顔をする。
「なるほど、つまりタイミングを合わせて一大反抗作戦に出るために協力しろと。その為ならば我々だけ参戦のタイミングを遅らせても構わないのですな?」
「えぇ、そういうことです。長期戦になればこちらが優位になることは自明の理ですが、いつまでもダラダラと続けられては民生部門が停滞します。それは我々の望むところではない、そうでしょう?」
「そうですな、戦争は掻き入れ時です。しかし、そればかりに頼っては戦争で儲からなくなってしまう。なにせ戦争は国家にとって一大消費行為ですから、商売相手を貧乏にしてしまっては商売が成り立たなくなってしまいます。」
ついでに国にお金がないと作りたいものも作れないしネ!!と藤田は心の中でつぶやく。キサラギの連中ほどじゃないが、こっちだってアプサラス、シャンブロとかを作ってみたいのだ。…さすがに生体兵器はアレだと思うが、まぁヒトに手を出さなきゃ構わないだろう。無人機だっていいのだ、生体ユニットとか使っていなければ。
「当然、国だって都合が悪ければ私たちの言うことなんか聞きやしませんからね。いくら煽ったところで、討つ準備が整っていないければ意味がありません。ですので初手は…まぁそういうことです。」
「いいのですかな?」
「都合のいいことにジブリール君が気勢を上げてユーラシアや東アジアを煽っています、バレンタイン作戦の主力は彼らですよ。勿論我々も第3艦隊…連合になれば第5艦隊を付けますが…まぁ、先陣を切るのはユーラシアと東アジアです。最悪、大西洋とアジアオセオニアの全力、7個艦隊が彼らご自慢のMSを装備して殴り掛かれば押しつぶせますしね」
宇宙艦隊は大西洋連邦が4個艦隊アジアオセオニア共同体が3個艦隊、ユーラシアと東アジアが2個艦隊持っている。普通なら使いつぶせば関係悪化は避けられないが、盲目的な反コーディネイター状態に陥った民衆ならば、怒りはコーディネイターに向くだろう、とアズラエルの言い分を要約するのならその通りだ。
「そのために、東アジアとユーラシアの四個艦隊は犠牲になってもらう…と。そういえば新星やアルテミスに駐留している戦力はどれほどなのですか?」
「なんだかんだでそこそこはいますよ。それにアルテミスの戦略的価値は相当低いはずです…新星はムーア侵攻の拠点にされそうですが…」
「まぁムーアの防衛は任せて大丈夫かと。あそこは新型が優先的に配備されていますし。」
「えぇ、アーガマクラスに至ってはこちらで購入しようかなどという声があったくらいです。どうせ売ってくれないと諭したり、こちらも新型戦艦の設計出して黙らせましたが」
「確かにカイラス級はともかくそのあたりは難しいですな」
「カイラスクラスは売ってくれるんですね…あれでもなかなか高性能だというのに…」
「所詮青葉級の改良型ですから。」
「改良で片付けられるほどのものでもないでしょうに…私だって一応エンジニアとして働ける程度の知識はあるんですよ?」
勿論経営が本職ですが、と言いながらアズラエルは苦笑する。
「まぁ、OSに関しては大丈夫でしょう。実機は、おそらく遅れるか間に合いませんが。それから、稼働データはある程度まででしょうな。そこまでしか軍が頷かないでしょう」
「というと?」
「さすがに稼働データまで引き抜くのを納得させるのは難しいということです。開発は軍が主導ですので…。」
「…まぁ仕方ないとしましょう、要はMSが作れて、ZAFTに対抗できればそれでいいのですからね。」
「えぇ、それで…ところで理事、やはりゴルフはあまりなさらないので?」
「ははは…慣れない事はするもんじゃありませんね、映画とかにあるこういうシーンはカッコいいんですけど…」
開始早々OBを出したアズラエルは苦笑いをするのであった。
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2月14日 大統領府 地下作戦会議室 バレンタイン作戦対応会合
「ルーズべルトが参加していない…だと」
「あれ?これ地味に歴史変わっちゃうやつ?」
「安心しろ、シャルル・ドゴールに核が搭載されているのを確認した。しかも公には記録されていない。ここは原作通りだな。」
「アズラエルがブチギレてロゴスのユーラシアの連中に招集かけてる。でもジブリールの野郎が拒否しやがったらしいぞ…」
「最悪は内戦やりながらザフトと戦争するパターン!?」
「いや、たぶんそれはない。というか、ここでボコられれば連中にそんな余力はない。もちろんうちにも、大西洋にもだが」
「ったく…持ってるおもちゃの管理もできない軍隊なんぞテロ組織以下じゃねぇか!!」
政治家と軍人、それから財界人の集ったバレンタイン作戦への対応を話し合う会議では混乱が続いている。観戦武官の派遣はしていないが、情報収集は怠ってはいないのだ。ムーアから観測している情報と地球連合から来るしかないが。
≪極軌道方面よりアガメムノン級を旗艦とした別動隊が侵攻…これは…核攻撃隊です!!≫
趨勢が決し、もはや地球連合軍の撤退しかないだろうというところで極軌道方面からの核攻撃、原作の再現か。しかし、何故見落としたのか…一応、スペースコロニーというものはデブリ迎撃用の高性能レーダーを備えているのだから、それを転用すればかなり高性能な索敵装置になるはずなのだ。確かにデブリ帯の敵を発見するのは困難ではあるが、ここまで気づかないのもアレだろう。NJなどはまだ展開されていないはずだ。
「…ここでか?タイミングが遅いな、もう退くしかないだろうに」
「いや…ZAFTの連中、功を焦って前に出すぎだ。防衛戦でそこまで前に出る必要ないだろうに…こういう時に対応できん。ほら見ろ」
古賀参謀長官と、阿部宇宙軍大将が冗談を言い合うように軽く話しているが、プラントに核攻撃が成功した。
≪ユニウスセブンに核弾頭が命中!!崩壊します!!≫
「原作通り、と。で?この後は何だっけ?」
「クラインの積極的中立勧告だな、もちろん無視を決め込む。はっきり言って、連中は友好国を友好国と思っていない。召使か奴隷だとでも思っている節がある。じゃなきゃNJなんか投下しないさ。そんなことをしてもエイプリルフールクライシスはほぼ確定となったのだから、正直言って中立の旨味が我々にはない。大体プラントは我々には必要ないのだからな。南アメリカ侵攻も大西洋だけで済むだろう。んで、問題はその次、22日の世界樹攻防戦だ。我々の月艦隊、地球連合に組み込まれた後の名前は第三艦隊の三分の一が駐留しているんだ。どうするんだ?」
「意図的に、というか防諜のため更新が遅らされている戦隊が多かったな?退却させたいが…」
古賀参謀長官が言いよどむ。いい理由が思いつかないらしい。
「都合のいいことに東アジア、ユーラシア連名で退去要請が来てるぞ。酷いことに装備置いてけとさ。乗る?」
「なりふり構わずといったところか?反コーディも極まると見てて哀れだな。まぁ、そんなことは知ったこっちゃない。しかし都合がいいな。まぁ、装備に関してはと割り切ろう。どうせ次がもうできてる、残ってる青葉級とアチェ級もそこの艦隊だけだしな。アーヴィング大統領には私から言っておく。藤田さん、アズラエルにも言っておいてくれ」
「了解した」
アジアオセオニア共同体はこの勧告を受諾し、世界樹より一切の人員を引き、月面都市に籠ることとなる。そしてプラントは2月18日、独立宣言をし、地球連合との戦闘状態に突入していくこととなる。
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そのころ…
白兎、MS試験場
「…えー…これで迅雷の開発が終了して…あと90㎜マシンガン弾の生産ラインを増設…まぁ、主兵装だしな、それから、PS装甲などの新技術を使った新規Gの設計に試作Gの試験に…」
MS開発部門のトップとなった湯野教授は忙しい日々を送っていた。
「ふぅ…あ、教授、お疲れ様です。」
曲がり角で鶴野に出くわす、この先にあるのは更衣室とシャワールーム、試験が終わったので着替えてきたのか。
「おう、鶴野、お疲れ、これで取り敢えず、お前がやらなきゃならない試験は終了だ。お前は3日ほど休暇が貰えるな。」
俺はまだ仕事があるがな、と教授は言う。
「Gの試験は…?あ、別の人の仕事でしたか…」
「そうだ、まぁ、よく働いてくれたし、こんなもんでいいだろう。それに、お前、今年の春卒業だろ?就職先に関しては…済まん、上のほうで勝手に決められてた」
「あー…なんとなく察してました、確かADTRD、先進防衛技術研究部でしたっけ?あの白兎の中心部のでっかい建物。そこの人たちが教えてくれましたよ」
「ここもそこ関連の施設だがな、まぁ、そういうことだ。お前は、エンジニアとしてそこに入ることになった。アクチュエータ以外のことも勉強はしてたんだろ?」
確かにMS開発部署に入ってから、もともと期待されていた通りパイロットエンジニアとして働けるよう、多くの人に教えを乞うていた。ソフト関連に関してはまだまだと聞いているが、そのあたりは他人に任せればいいのだろう。当然の話だが、MSの開発など一人でやることでもない。
「ええ、まぁMSエンジニアとして最低限の知識は持っていると思います。」
「まぁ、そういうこった。MSの民生利用…レイスタみたいなものを開発するのは戦後になるだろうし、当面は軍にしかMSの需要はないからな。就職先も自ずと軍か軍需企業になるわけだ」
「まぁ、そうですよね、…教授」
ある部屋から光が漏れているのを見て二人は表情を険しくする。その部屋は、AOCのMS開発の中枢ともいえる部屋であり、開発中のMSなどのデータを記録しているメインコンピュータがある。幹部スタッフの同伴がなければ入ることすら許されず、そして、その幹部スタッフは現在湯野教授以外出払っている。
「あぁ…」
教授が、支給品の端末を操作すると、警備スタッフが来て部屋に突入する。捕まったのは最近入ってきた男だった。もちろん、最重要データへのアクセス権など持っていない。最初期からかかわっているスタッフの中でも持っていない者もいるのだ。鶴野も持っていない。だからこの部屋に入るしかなかったのだろうが、ただの興味で片付けられる問題でもない。急いで鶴野に入室、データ閲覧を許可し、確認作業を手伝わせる。
「やられた…」
新型Gシリーズ、最初に方針の決まっていたRX-G-01アージュンのデータが情報端末にコピーされ、持ち出されていたのであった。
「Mk-Ⅲ…って…まさか!?」
「どうした?」
「犯人オーブなんじゃないですかね?あの背中のスラスター」
ガンダムMk-Ⅲの見た目が微妙にアストレイに似ているんじゃないか?と鶴野が言う、正直、二本角があればガンダムだろと言っているように聞こえるが、機能面ではそう違いはないのではないか?
「いや、それは確かエールストライカーを参考に…大体そんなロクでもないバタフライエフェクトがあって堪るか!!…と言いたいところだが…技術者の流出をできるだけ…というかほぼ阻止したからな、原作に比べてオーブの技術レベルは下がっているのではと思われている。というかオーブ自体の成り立ちがなぁ…」
オーブ連合首長国。できたはいいが、まだ火山ガスが噴出する部分の多かった新島群その他にできた国家。その実態は、東アジア、大西洋、AOCの再構築戦争時の反統合主義者や平和主義者、反戦論者などの集まりが、いまだ領有権の定まっていなかった島々を占拠して建国した国家に過ぎない。五大氏族とやらも、その際に集った団体たちのリーダらしい。AOCとしては国防上、非常によろしくない位置にあるので関係には気を使っていた、まかり間違って東アジアの軍事拠点でもできたらそれこそ脅威だったし、何より、曲がりなりにも国を立ち上げた彼らは、こちらの苦悩を少しなりともわかってくれていたため、建設的な付き合いができた。技術流出その他にはかなり気を使っていたが。しかしウズミ・ナラ・アスハが代表になってからその状態も崩れつつある。何より、アイツ確かオーブへの留学経験があったはずだ…。
「ありえない話じゃあない。まぁ、その辺は、調査部にまかせるとしよう」
技術屋風情がスパイの目的やら何やらを探ったって答えが出るわけないさ、ということだ。考えたって仕方がない。ただ、判明したことを上に報告して、あとは任せればいい。
ちなみに盗まれた機体はこんな感じです。
RX-G-X01アージュン(モデルはガンダムMk-Ⅲ)
疾風と共通。
25㎜頭部機関砲
57㎜高エネルギービームライフル『雷上動』
ビームサーベル『小鴉丸』×2
背部ビームキャノン
OSの提供やフレーム技術の提供などを引き換えに大西洋連邦よりもたらされたPS装甲などの実験用に開発されたアジアオセオニア共同体版Gシリーズ、良好な機動性を発揮したムーバブルフレーム実験機のデータが活用されており、PS装甲により間接が強化されたためより高負荷に耐える。背中の可変スラスターバインダーは、カタログ上の出力はエールストライカーに劣り、最高速度では勝てないと推測されるが、軽量であり、機動性は勝ると考えられる。高機動を誇る白兵戦型、ちなみにモデルがMk-Ⅲなのは、「Mk-Ⅱのデータ使ってるし、あいつもGに関係させてやりたいからMk-Ⅲだろ」という技術者たちのノリから。
代表首長は個人の判断で任意の国民に各種罪状を適用し、逮捕令状無しに口頭のみでその逮捕を軍・警察に命じ即時実行させることができる
国民から一般選挙によって選出される立法機関である議会も存在し、五大氏族と対峙させることで政治システムを成立させている。(ただし、アスハ家の政策を議会側が妄信している事から、このシステムは形骸化している)
オーブの設定って、いろんな意味でアカン国なんじゃないか…って思ってしまうようなところが多々あるように感じてしまいます。事実国が回るからこれでいいのでしょうけど…もしロクデナシが連合首長になった場合が怖すぎます。