C.E転生   作:asterism

19 / 28
やってしまった…製作途中のものが投稿されてしまったため、一度削除して修正版をあげました。こまめに保存、大事ですね


phase16 開戦:補給基地強襲作戦

AOC スラバヤ 会合

 

「ところでさ、ストックホルム戦時協定って、あれ履行されんのかね?」

 

「されないならされないでもいいさ。世論に対する格好のエサだ」

 

「軍人だと深刻な問題なんだが…」

 

10月会談で決まったことは、AOCの参戦、それから戦時協定の策定、ジャンク屋条約の調印、ジャンク屋ギルドの設立だった。今までそんなものはなく戦っていたため、必要以上に死者が出たし、ゴミも多く出た。主要航路上で起こった戦闘もあったため、デブリの除去は急務で、それも第三者機関にやってもらう必要があった。あまりに互いに信用が無さ過ぎたのである。ジャンク屋ギルドは、便宜上、月自由都市「コペルニクス」自治政府と赤十字社の管轄下に置かれ、デブリの除去、要救助者の救助、最低限の治療などを受け持つこととなった。装備品に関しては、武器の装備は認められず、非武装型のMAや作業用ポッドが一般企業より販売される手筈となっている。プラントなどからは、作業用MSなども販売されるようだ…そんなもの作ってる余裕あるのかあの連中。万が一海賊や、軍事物資の輸送などをした場合のペナルティは強いものとなっているし、臨検は断れないといった条項も組み込んだ。できることなら傭兵にも首輪をはめたかったが。利権関係で無理だった。ストックホルム戦時協定は、捕虜の扱いや中立地帯の策定などを盛り込んだ協定である。プラント側は核、ユーラシアや東アジアはMSの使用禁止を盛り込もうとしたが、議論が平行線だったため、協定に盛り込まれることはなかった。

 

「まぁ、なんにせよだ、明朝、連合初のMSを用いた軍事作戦が実行されるわけだが、抜かりはないな?」

 

「そこはもちろん、大西洋の連中も、大体は疾風で出ることになっているがな。コクピットは変わらん、感覚は変わるだろうが。こちらのほうがどちらかというと機動性重視だ。出だしやら、なんやら変わるだろうさ」

 

「それは後で転換訓練でもしてもらうしかないだろう。というか、我々の感知するところではないはずだ」

 

 

 

―――――――――

 

CE70年 10月下旬 東アジア共和国 雲南戦線 第43対MS特技中隊

 

 

「各班、お客さんだ。各砲手、照準器起こせ。有線無人砲台起動準備。敵を前から標的甲、乙、丙と仮称する」

 

ドーランを顔に塗った男たちが一斉に動き出す。今日の狩場と定めた渓谷にMS隊が侵入してくる。ジン1、最近確認された陸戦型が2。おそらく後ろの2機は素人だ。モノアイセンサの動きが無い。少なくとも、この戦線にいたパイロットではないのだろう。そうでなければ、こんな「どこから噛みつかれるかわからない場所」で注意を払わない理由がない。

 

「無人砲台起動!!敵を分断しろ、後ろの2機は後回しでいい。先頭の標的甲をやる、頭をつぶすぞ」

 

脅威度としては、先ほどから周囲の警戒を怠っていなかった先頭のジンが最大だ。確か持っている携行火器も最近確認された小口径で速射性と貫通性に優れたものと、盾に爆発反応装甲を付けた即席の対人装備だ。脚部のロケットポッドも対人を意識したものに変わっている。おそらくはこのような状況を想定したものなのだろう。先頭のジンと、後方の陸戦型2機を分断するように弾幕が上がり、敵をかく乱する

 

「各班撃て!!」

 

合図とともに70式180㎜ロケット砲と63式対MS誘導弾が発射され、目標1の脚部関節を砕き、コクピット部に誘導弾が命中する。

 

「次弾装填後、各班に攻撃のタイミングを任せる。撃ちまくれ!!」

 

その後あてずっぽうの射撃が飛んで、無人砲台や襲撃班がいくつか食われたが二機とも撃退に成功する。

 

「ふぅ…陣地転換を急げ、敵の攻撃機が飛んでくるぞ。それと、回収班に連絡。最悪破片だけでも回収しておけ」

 

犠牲は多いが、開けた土地でバクゥとかいう高速型を相手にしているユーラシアよりはマシらしい。急いで退避しなければ飛行型と砲撃型によるこのあたりの制圧射撃が始まってしまう。…毎度思うが、どうして連携して攻めてこないんだ?何かあればすぐ対地攻撃機や砲弾が飛んでくるのは普通だろうに…。いつも砲撃や対地攻撃機が来るのが遅いし。ひどいときは砲撃も飛行型も来ないのだから何かがおかしい。まぁ、楽だからいいか。

 

――――――

同日

AOCミャンマー州、東アジア国境地帯 AOC第1空挺団第1MS中隊、大西洋連邦第7騎兵連隊B大隊A中隊 AOC空軍第二航空団第3、第8飛行隊…敵補給基地強襲作戦実行チーム

 

24機のSFSと数十の航空機が空を駆ける。AOC、大西洋連合の奇襲部隊だ。この隊は戦線の形成される前…というより、横断山脈で戦線の形成が難しいとされるエリアを飛行し、敵の後方補給拠点を叩くという目的のために行動している部隊だ。そしてこの部隊が、公式記録上の「初めて連合でMSを用いた作戦を行った部隊」となる。今まで連合側のコーディネイターが乗る鹵獲ジンを用いることがあったがそれは記録には残っていない。というよりも記録に残してはいけないということになっていた。大体連合側のコーディネイターを兵士として扱ってすらいなかったのだ。許されることではないが、それが横行していた。しかしAOC軍に多くのコーディネイターが軍に在籍していたため、待遇の改善を求めたのだ。もちろん反発はあったし。AOCを特例として、他国のコーディネイターへの扱いは変えないという話になりかけたが。「適当に褒美を与えてやれば、コーディネイター同士がつぶしあうなんて最高じゃないか」というアズラエルの一言で当のブルーコスモスが乗り気になったことが大きかった。尚、この発言の後アズラエルは頭を抱えて転げまわっていたという。

 

《隊長機から各機、間もなく作戦エリアへ到達する。目標は敵補給物資集積拠点、護衛は汎用型3、砲撃型6、それから飛行型が3機確認されている。だが、我々の任務は拠点の破壊だ。MSなど補給がなければただの木偶だからな。最悪は無視だ。まぁ、この数で掛かれば全機排除でも問題はないと思うが、あくまで目標は敵基地の破壊だ。そこを忘れるなよ》

 

「まぁ、簡単な任務だ、君たちならできると私は確信している」

System battle mode

 

NEw generation type

Mobile weapon

Operation system

 

using unilateral nerve connection

 

―NEMO―

ギャリー・オーウェン重サブフライトシステムに乗るトリコロールカラーの機体、105ダガー先行量産型を操作し、OSを戦闘モードに、武装のセーフティを解除しながらエマ・カスター中佐はAOC指揮官の任務確認の後にそう続ける。皆私なんかよりもリラックスしているとは思うが、まぁ軽い冗談の一つも必要だろうか?…そうだ。

 

「キャリー少尉、君の境遇や覚悟は理解しているつもりだ。だからこそ、重ねて言う。死ぬな、そして躊躇うなよ。憎しみを終わらせたいのならこんなつまらん戦場で死んでいいほど暇じゃないぞ。憎しみの連鎖が断ち切れるとしたら、戦って戦って、戦い倒して、その結果だ。お互い、無意味だって解るまで殺しあわなきゃいけないところまで来ているからこの現状なんだ。思うところはあるにせよ、今は未来を信じて戦うしかない」

 

まぁ、見え透いたプロパガンダで指揮官に据えられたお人形の言うことなど話し半分でしか聞いてもらえないだろうが。と、思いながら自分よりも随分と歳上な、白い疾風に乗った部下に個人回線で通信を送る。ジャン・キャリー少尉。この隊に配属されるような奴に、敵と仲間の区別もつかない奴はいないと信じているし、いれば修正だが、それでも窮屈な思いはしているだろう。

 

「了解」

 

味気ない返事だ。まぁ当然か、あんな環境にいたら私だって人間不信くらいにはなる。

Soundonlyの文字を確認して、顔を顰める。誰だ、こんなになるまでやってくれた阿呆は。

 

―――――――――

 

物量(こういうの)は俺らの専売特許だと思うんだがなぁ!!」

 

「特許料でも請求するか!?」

 

「下らん事言ってる暇があったら退避壕へ急げバカ共!!」

 

砲兵レーダーや誘導砲弾が使えないのだから、当然砲撃はこうなるのはわかっているが。それでも歩兵にとって敵の砲撃とは悪夢だ。第43対MS特技中隊の頭上には砲弾が降り注いでいる。敵の砲撃型、ザウートの砲撃だろう。単純に砲を4門も搭載している。このような局面で役に立つであろうMSだ。そう、どこにいるのかわからないネズミを周囲の地形ごと吹き飛ばすには。

 

「うっそだろおい…」

 

退避壕の入り口は土砂と瓦礫で埋まっていた。

 

「騎兵隊でも呼びます?」

 

「ははは…山の中じゃ役立たずだな」

 

これじゃ神に祈りでもするしかないな。古典映画のようなネタを引っ張り出してきた部下の発言になんとなくまじめに返したとき。上空を何かが飛び、砲撃が止んだ。

 

―――――――――

敵補給基地強襲作戦実行チーム 隊長 トゥラ・タン・セイン大佐

 

《命中、全機機動停止を確認…クリア》

 

「ナイスショット」

 

侵入した地点の近くでザウートが砲撃を行っていた。そのため、部下が120㎜を使い狙撃をした。よく考えるとすごいことだが、非常識なことが起こるのは空挺の日常なので気にしてはいけない。レーダーが役に立たないのは周知の事実だが、目視で確認されないとも限らない。排除は早いに越したことはない。増援が来たら面倒だ。ここまで進出していた理由は、おそらくは東アジアの襲撃部隊でもいたのだろう。事実、MSの残骸を確認した。なかなかすごいな。

 

《mark78ゴルフに敵MS二機確認、陸戦汎用型です》

 

《おいおい、手負いじゃないか…、カモだな》

 

部下たちが敵のMSを確認する。確かに、多少の損害は負っているようだ。

 

「油断するなよ、空戦型はまだ確認されていないし、砲撃型もまだ3機いるのだからな」

 

《大佐、言ってるそばから空戦型、ディンのお出ましです》

 

AEWが伝えてくる、レーダーは使えない。と言っても、短距離ならばなんとかなるらしい。そうでなければFCSすらまともに機能しないのだから当然といえばそうだが。やはりあると役には立つか。

 

「レイヴンソード隊、相手をしてやれ、露払いは任せた」

 

《了解》

 

レイヴンソードは、火力だけなら汎用MS以上といってもいいものを持っている。最高速度も空戦型MSよりも早い。そして、ベテランが検証し、訓練してきた対MS戦術を実行するのだ。成果を出すと期待できる。

 

《こちら、ブラボー隊、現在敵の砲戦型と交戦中。どうも改修型の対空仕様らしい。弾幕はうるさいが、どうもFCSの範囲外らしく、ロックオンはされていない》

 

大西洋の指揮官から通信が入る。対空仕様ね、そりゃ作るだろう。技術者というのはいろいろなものを作りたがるものだ。ウチの技術部もいろいろこさえているが、現在現場に回されているのが、疾風含め5タイプ程、最終的には数タイプ増えるとのことだが。まぁ試験隊を通しているのだし、選別はしているのだろう。

 

「うおっと!?…危ない危ない、各機油断するなよ?」

 

陸戦型汎用機の放った無反動砲に当たりそうになり避ける。

 

《自分が油断しといてそりゃないですぜ隊長?》

 

全16機の攻撃が、残りの陸戦汎用型2機に集中する…袋叩きだ。その後、爆装したレイヴンソードが補給基地を爆撃、残った目標をMSで叩く。

 

「全目標の破壊を確認」

 

何というか、締まりのない終わり方だったが、一応は勝利した。いい戦意高揚のプロパガンダにはなるだろう。

 

―――――――――

 

第501試験戦闘大隊 工廠艦パゴタ

 

「すまんな、大尉。私個人のわがままのようなものを作らせて」

 

「いえ、少佐、大した苦労はありませんよ。それに、こういうのは大切にしましょうって決まりですしね」

 

大体、ブレード用の鋼材から打ち出して研磨するだけだ。この船の設備でどうにかなる。形は少々独特だが、まぁ、問題はないだろう。『MS用ククリナイフ』、グルカ族出身で、この隊のMS隊隊長であるディプラサット・シュレスタ少佐用に開発された専用装備だ。単分子ブレードの柄に装着すれば完成である。本来のククリナイフの製法とは違うかもしれないが、そこは許してほしい。一応、他民族、多文化共生を意識せざるを得ないAOCにとって、各地の民族に存在するアイコンというものは極めて重要だ。すぐとは言わないが、まぁどうにかなる。…あまり増えても困りそうだが。ブレード用の鋼材打ち出して研磨するだけの設備なら、そこそこ大きな艦には積めるだろう。ビームサーベルに移行をした後にも必要なのか?とも思うが。グルカの名前がコーディネイターに通用するかはわからないが。他勢力には有効だし。

 

「とりあえずは完成したのですが…、何かご不満な点はありますか?」

 

「ふむ…、まぁ、生身で使うわけではないし、現行のブレードの切れ味に不満がある訳でもなかったからな。私の乗機はビームサーベルを装備しているし、私のわがままで作らせたものに不満など言えんさ。強いて言えば、グルカ兵のために制式化してほしいが」

 

「それを判断するのは上なので…」

 

MSグルカ連隊とか作るのだろうか?だとすればこのような装備も必要だろうが。まぁ、この艦で作ったもののデータは逐次月のTDARD本部に送信されているのだから、だれか検討するだろう。陸軍あたりか?本気で検討するのは。

 

「そうそう、君の機体、組みあがったのでこっちに運ぶと向こうの整備長が言っていた…が、こちらに空きハンガーはあるのか?」

 

「そうそう機体本体の改修依頼が来るわけでもなく、細々とした装備品を作るのが主な任務なので、大丈夫でしょうと言ってあります。あのタイプを扱えるかは疑問なのですけどね」

 

僕に渡される機体は、ネモ・ディフェンサーをモデルに開発された機体で、便宜上疾風火力試験型と呼ばれている機体だ。火力支援型G用の火器テスト用として開発された機体で。NJ環境下での高精度長距離射撃用レドームと、高出力収束プラズマ砲その他高出力の火器を搭載するために、SFS流用の大容量のバッテリーを搭載したバックユニットを背負っている。ちなみに、ミサイルポッドの追加やらで原形をとどめていないのだが、一応SFSとしても使用可能である。そういえば、この装備を受け取ったとき、プラズマ砲の開発者たちが「この世界に、神はいない」とかつぶやいていたが…。何か悲しいことでもあったのだろうか?この機体は技術試験大隊でテスト用として使用されていたのだが、テストが終了して宙に浮いたところを、僕にあてがわれたということだ。今まで使っていた機体は、ガンバレル運用大隊へと送られそちらでテストをしている。この大隊に配備されている、ネモ・ハイマニューバをベースとした『疾風改』は、現在他の精鋭部隊に向けて増産中で数がないため、また試験用を回されたのだ。まぁ、重火器の試験は疾風改よりこちらが良いのだろう。戦場に出なければならないことが問題だが。

 

「大丈夫ではないか?私はあんな長物ほしいとも思わんが、大尉の射撃成績はなかなかだろう?」

 

シュレスタ少佐は完全に白兵戦タイプの人間なので、高火力の兵器よりは、本体の機動性を上げてほしいという意見が強い。現状でもリミッターをぎりぎりまで外してスラスターの出力を上げているし、武装に関しての要求もどちらかというとクロスレンジに対応するものが多い。背部ビームキャノンをビームサブマシンガンを流用したものに変えたり、ビームサーベルの出力向上などを既に実行している。

 

「他が平均レベルだから際立っているだけでもっとすごい人なんて一杯いるじゃないですか」

 

へっぽことまでは言わないが、僕はテストパイロットだ、パイロットとは違う。偶然にも実戦経験があり、撃墜記録も持っているが、やはり、戦闘技術という意味では劣っていると言わざるを得ない。その辺は、まぁ、軍人としての教育の差なのだろう。「技術士官促成過程を出た技術士官」と「士官学校を出た上にMS教導大隊を出た少尉」じゃそのあたりの差が大きい。いくらMSに触れていた時間が長いとはいえ。

 

「ふむ、君の場合、もっと実戦に出ればその辺も改善されるだろう。センスは悪くないはずだ」

 

「この大隊の人たちに比べれば悲しいものですけどね…」

 

「そう卑屈になるな。現状、撃墜数トップだろう?」

 

確かにそうだ。撃墜数1だが。

 

「開戦したのですから、今日あたり抜かれるんじゃないですかね?」

 

未だ、戦闘は起こっていない、先ごろのビクトリアでプラントは攻勢限界点を超えたというのが理事国間の認識だ。宇宙でも小規模艦隊による奇襲くらいあっていいと思うがそれすらない。戦力再編と戦略の見直しで忙しいのか?

 

「違いない…が、まぁ、自信を持てということだ。相手もMS戦は初めてだったとはいえ、我らもそうだった。それで敵を撃墜したのだ、誇っていい」

 

シュレスタ少佐の言葉に曖昧に頷く、あまり誇る気にはなれなかった。大したことではないのだから。

 

―――――――――

 

「ですから、我々の生産能力では足りないと言っているのです。というかなんですか、いきなり5万も作れって!!」

 

生前勤めてたブラック企業でもそんな無茶言わんレベルだ!!と心の中で叫びながら藤田は電話相手に絶叫する。というか5万も作ってどうする?誰が乗る。

 

「ですよねぇ…我々香港重工公司でも、無茶をして1年半はかかります。そちらは…そちらの軍部を無視すれば半年…いや9ヶ月ほどでしょうか?」

 

何かをあきらめたような顔で、テレビ会談の相手は、溜息を吐きながら言う。

 

(ウォン)さん、さすがにそれは無理です…。というか、無茶以上の地獄でしょうそれは、いやライセンスなどは認めても良いのですがね…。ちょーっと、この値段は厳しいかなと…」

 

ちょっとどころではない。大西洋が売り込み攻勢をかけているストライクダガーの三分の二の値段で疾風を売れというのは不可能だ。ストライカーパック分を抜いた素体では105ダガー以上の性能があるんだぞ。値段もそれなりにはするし、相応の値段で売り込みたい。

 

黄文禧、香港重工公司の重役の一人だ。主に対AOC販売戦略担当らしい。つまり、メンツと実利のはざまで胃と頭髪を犠牲にしながら、古狸と交渉をするという素晴らしくやりがいのある仕事を任されている苦労人である。就任当初は豊かだった頭髪は今や見る影もない。…上層部になればなるほど、「敵対する不毛さ」を知っているのに下々のせいで敵対せざるを得ないというなんだかかわいそうな連中だが、この人はその中でもダントツだ。

 

「当然ですね。まぁ、我が国も、わが企業も一枚岩ではないのです。それはそちらも同じでしょうが…、ぜひ、うまくいく秘訣をお教え願いたいものですね」

 

「互いが互いを理解し、尊重しあうことですよ。尤もこのような月並みな言葉を求めているわけではないのでしょうけど」

 

 

月並みな言葉だが、本当にこれしかない。皆生き残るために諦めと妥協で乗り切ったのだ。もちろん安定したのちに、不満が噴出したりもしたが、うまいこと折り合いはつけている。

 

「うん、われらには不可能だ。わかりきっていたことですがね。やはり、大西洋の安物…という表現は不適当でしょうが、簡易量産型にしますか。安い割に、ジンには対抗できそうですしね」

 

「そういう値下げの手段は聞きませんよ?特許関連に関してはウチも持っている部分があるので、アレが採用されてもウチは儲かるのです」

 

ご不満なら他社へ、どうせ関節とOS、コンピュータ関係はウチの特許だ。売れればそれなりに金は入る。というか、ストライクダガーが売れればいいんじゃね?というのが本音である。大西洋が計画したハイローミックスのローとして開発された機体だが、別に、戦えないわけじゃない。MSは機密の塊だ、売りつけるなら廉価版でいい。

 

「なるほど、この手段は使えないと」

 

「まぁ、そりゃ、疾風が売れるに越したことはありませんけどね。無理に値下げしてまで売るもんじゃありません」

 

本音を言うと、戦後は緩やかな冷戦機構の構築を目指している。各国の関係は、ジブリールの影響の強いユーラシアを隔離が可能な程度には緊張させたい。東アジアは、最悪切り捨てるが、まぁ大西洋は大丈夫だろう。あのアズラエルが前線に出ていくことが想像できないし。と、つい最近、温泉で会った奥方に尻に敷かれていたアズラエルを思い出しながら考える。原作を知るものとしては中々、…面白いというか、シュールな光景だった。

 

「ふむ…まぁ、なぁなぁとはいえ潜在的に敵国…というのは変わりませんからね、わかりました。そのように。あぁ、雲南戦線の補給基地強襲作戦は感謝していますよ。ありがとうございます」

 

「それはまぁ、友軍ですから。ではこれで」

 

「えぇ、勝利のために」

 

そう言って黄は通信を切った。さて、こちらも、仕事の続きをしないと。

 




登場した兵器などは折を見て設定で紹介したいと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。