パーソナルカラー:白
CV:中田譲治
…うっ…頭が…(冗談)
遅く…ってレベルじゃないですね、ごめんなさい。
「ヒィッ!?」
「何なんだこいつは!!」
彼らの心境を推測すればこんなもんだろうか、ジン三機が突撃機銃を乱射しながら後退する。
《演習プログラム緊急停止、セーフティ解除、リアルビームへ移行します》
システムからの音声が聞こえ、HMDのビーム砲表示がすべて実戦モードになる。遭遇戦だが、大方の試験プログラムは終わっていた、ジェネレータ出力に若干のふらつきを認めるが、それはこちらが慣れていないせいだ。問題のない範囲には収まっている。あとは腕の問題、こちらは腕利き三人どうにかなるだろう。
《システム、戦闘モード》
「こちら機関管制、ジェネレータ出力問題なし。行けます」
「伊丹、ガンバレル、やれるな?ジョンは機体制御をこっちへ、火器管制任せる」
「行けます」
「アイハブ」
「では、ペナンガラン、対MS戦実戦テストを開始する」
遭遇戦ではあるが絶好のデータ収集の機会だと機長は判断し、自機のスラスター出力を上げる。
MAペナンガラン、初めて外見を見たときは何かの冗談かと思ったがなかなかどうして性能が高い。尤も核融合炉を搭載しているせいでMAとしては非常に大型であり、コストも高く、量産するものではないらしいが…そんなものを通商破壊…。即ちプラント地球間の輸送路破壊に投入しようというのだから、本気でZAFTを締め上げる気なのだろう。と思いながら口部に搭載されたスキュラを三本束ねたビーム砲を機動させ偵察型ジンを吹き飛ばす。対艦用ではあるが、核融合炉を使用している都合上冷却を無視すれば結構な時間照射できる。構造を考慮すれば三十秒が限界だろうが。元は搭載されていなかったガンバレルを含めて、有効な火力を多数搭載し、高出力、高機動、防御力も高いと来れば、MAでMSを撃墜することも難しくはない。そう思いながら両腕のビームナタでジンを十字に切り裂く。ヒートナタのレンジの狭さに改善要求を出したらこんなものになっていた。15メートルは伸びるだろうか?対艦にも使えそうである。本来想定されている用途からすれば、初めからついていてもおかしくはないのだが。
「ま、MSとかいうカトンボが飛び交ってお役御免になるかと思っていたが、まだまだMAも捨てたもんじゃないって上も思ってると知れただけ良しか」
もう30代後半という、いわゆる「ロートル」の位置におり、MSへの適正の低かった機長はそう呟く。ロートルはロートルらしく、消え去るのみと思っていたが、こんなこともあるのだろう。
「誰だよ、試作機とはいえ、よりにもよってザクレロなんか選んだやつ…、しかもブラレロ化してるし…。でも高出力で高火力の武装ブン回せば見た目なんぞ何でもいいのか…、あ、量産型はビグロ…、ザクレロにした意味…、あるのか?」
試験に同行して記録をとっている技術中尉は人知れず呟くのであった。
―――――――――
大西洋連邦 エドワーズ空軍基地
「計画を聞いたときは無茶苦茶だと思っていましたが…」
「案外悪くないもんだろ、巨人機ってのも」
「性能だけを見れば…ですけどね」
砂漠を走る一台のジープに乗ったアズラエルと、BRA社長ウィルソン・ルロップの目の前にはある大きな航空機が鎮座していた。全翼機で、滑走路に収まらないほど巨大なため、乾湖に置かれている。
「XNB-001、融合炉を搭載し、核熱ジェットエンジンで成層圏を飛行する巨大飛行機、運用コストは許容範囲とはいえ高い、しかし、展開速度は船舶と比べるまでもなく、積載量は今までの航空機を鼻で笑えるレベル…ですか」
逆にいえば一般的な輸送機より遅いし、船舶に積載量は劣る、言ってしまえば中途半端な代物ではあるのだが。MSを中隊規模で空輸できる。というのは魅力かもしれない。
「前々からこんな感じの機体をずっと計画してたんだがな、MSの登場でやっと作れた」
「まぁ、確かに、大きな戦争でもなきゃ作れないでしょうねこんな機体」
アズラエルは呆れたように言う。このところ、ストライクを量産しろとか、24in.六連装砲24門の戦艦だとか、射程120㎞のレールガンを搭載した陸上戦艦だとか、正気を疑いたくなる兵器を提案され続けていたからだろうか…。目の前にあるものも大概なのだが。
「MS12機を輸送可能、空挺作戦用と考えれば悪くないんじゃないか?」
「それを決めるのは私たちじゃないでしょうに…」
というか、この航空機をそんな単能機にしないでくれ…と思いながらアズラエルは言う…基地をユニット化して輸送することによる野営地の迅速な建造とか、空中からのロケットやALBMの発射拠点…は可能だろうか?兎に角使い道は無理やり作ればありそうではある。なくても困らないと言われてしまえばそれまでだが。
「護衛用のMS用飛行パックとセットで売り込んだらサザーランド君とアームストロング大将の賛同は取れた、ほぼOKが出るとみて間違いない」
「同期を利用しないでくださいよ…」
ウィルソンは一時期軍に所属するという、軍需企業の重役子息のよく通るルートを辿っており、軍への影響力も大きい。ついでに言えばサザーランド大佐、アラスカ基地司令と同期である。
「いやまぁ…専用飛行場が必要になるのが欠点ですが、インフラに関しては国内ならどうにでもなりますし、この機体比喩じゃなく地球一周できるみたいですし…、現実問題、無理がありますが」
流石に他国領空をバンバン飛ばすような雰囲気にはならないだろう。同盟国とはいえ、一定の線引きはある。と言うか潜在的に敵と言って良い。さすがにこんなものが自国の空を飛ぶといわれると渋い顔されるだろう。
「あ、そうそう、アークエンジェルだがな…大丈夫なのか」
ウィルソンが思い出したように言う。
「現地徴用兵が多いと聞きますが…、現時点で指揮をしているであろうバジル―ル中尉は優秀と聞いていますし、技術部の優秀な方が生き残っていると聞きます。かのエンデュミオンの鷹もいるらしいので。指揮、整備共に問題はないでしょう。何とか我々かAOC勢力圏までは逃げてほしいですね」
せめて我々のマスカット基地か、AOCのジプチ基地まで逃げてくれれば補給のしようがあると続ける。それ以外の大西洋連邦勢力圏へ行くには山地が邪魔していて遠回りになるとアズラエルは続ける。高高度飛行能力を持たせるべきだった…、テスト艦だからそこまで気が回らなかった。まぁ、スローンズ級にもAOCのアーガマ級にもない機能なのだが。
「まぁ、俺らにできるのは兵器を作って、送り出すことだけだ。あとは信じるしかないさ」
同期が何人か死んでいるのでウィルソンも心配なところがあるのだろう。
「幸いにして、副産物というかなんというか、優秀な社員をまとまった数獲得できたからな。性能では負けんさ、なら勝てる」
「えぇ、意図していたわけではないのですが、コーディネイターの保護を謳って優秀な社員をいくらか集められましたからね」
ブルーコスモスもスポンサーには強く出れませんしね。あぁ、空気の読めない自称の方々はいますが、そのうち自壊するでしょう。お金がなければなにもできませんから。とアズラエルは続ける
「問題はどうやって差別感情を取り除くかだな」
「広報とメディアに掛け合って情報操作してみます?」
「だとしたらまずは軍だな。軍人のほうが良いだろう。嫌な話だが、ナチュラル守って死んだ奴とか…」
兵器作っただけじゃちょっと弱いと言い、宣伝戦の内容を詰めていく、コーディネイターは確かに恐ろしい。ブースデットマンを研究していた研究者のように対抗手段を模索するのは当然のことだ。ただ、アレはばれたときがまずい。手段が手段だったから怒ったが、気持ちは理解できる。だからこそ、取り込んでこちらの力とするのだ。スパイに気を付ける必要はあるが、だからと言って遠ざけるだけでは、プラントの二の舞三の舞だ。そんな何度も同じような戦争をするほど、戦いに飢えてはいない。あとは、戦後に製造の禁止、段階的同化を図ればいい、どうせ、コーディネイターは単体では立ち行かない種なのだ。
多分AOCで一番早くMAが出回るのは海ですね…。その…、SEED以外の地球圏勢力(ジム頭勢力)の水泳部事情がお寒い限りですので…。