とても、とてもいらない
「キャベツの外側の葉は取り除け。葉が固くて料理に使いにくい。おい、切る前に洗うんだ。キャベツに含まれている栄養素は水溶性のものが多い。切ってから洗ってしまっては栄養素が流れ出ていってしまうだろう」
「うるさいな。やればいいんだろ」
「なんだその態度は。それに冷蔵庫にあった煮付けを食べた少々煮詰めるのが足りん。戦闘技術は多少上がっても料理の腕はまだまだのようだな衛宮士郎」
「なんで人の家に勝手に上がって冷蔵庫の中を漁っているんだ!」
「なに、お前の家は私の家でもある。普通に家に居ても何の不思議もなかろう」
シュールだ。この上なくシュールだ。
ヘラクレスとの死闘を果たし、動けない衛宮さんとマシュを連れて衛宮さんの家に帰宅したらエミヤがいて、驚いたのもつかの間、エミヤが衛宮さんを無理矢理台所まで引きずっていった。俺たちは呆然としていたが、気を取り直し居間に移動して座る。
確かにあの時やり直せたら、あの時こうだったらと人間である限り誰しもが考えたことがあるだろうことだ。しかし、それは本来であれば不可能な事である。だが、もし目の前に過去の自分がいれば口出しできないでいるだろうか。カルデアにも過去の自分の英霊と未来の自分の英霊が同時に存在しているが、彼らは既に完成された存在であり事象だ。しかし今回は話が変わってくる。英霊のエミヤと生前の衛宮さん、エミヤからして己の過去、生前の自分の未熟な部分はどうしても指摘したくなるのだろう。それは仕方のないこと…なのか?うーん。わからなくなってきた。どちらにせよこの光景はシュールでシュールでありシュールなのだ。
「ねえセイバー、アーチャーなんか丸くなった?」
「それは私にもわからないのですが、もしかしたらシロウとアーチャーが戦った時に何か思うところがあったのでしょう」
「ふーん、こっちの世界ではそんなことがあったのね。でもそんくらいのことがなくちゃアーチャーがこんな事しないもの」
「ええ、確かにその通りですね」
「あの、エミヤさんと衛宮さんって仲が悪かったのですか?自分同士なのに」
ナイス質問だマシュ。先程から薄々疑問を抱いていた。そう、似た者同士なのに仲が悪かったのか?ていうか自分同士なのに。自己嫌悪かな?
「と〜ってもよ。それに私の世界では何回か殺しにかかっているし。だからこの状況に困惑しているってわけ」
「嘘だろ⁉︎」
まさかあのオカン属性のスキルを全てマスターしているエミヤが衛宮さんを殺しにかかった?とても信じられない事だが、どこかでそのような話を聞いたことがある。多分カルデアで話した時だ。
「自分との対決?よせよせ、碌なものじゃあないぞ」
うん。確かにそんな事を言っていたような気がする。あの時は色々な経験と憶測で"禄でもないこと"と述べたと思っていたのだが本当に経験していたとは。
「でもいくらそんな事があったからって、まさか、自分は衛宮士郎で間違いありません。みたいな発言するとは夢にも思わなかったわ」
そういって、彼女はなにかを懐かしむかのように瞼を閉じる。彼女には彼女の戦いや思い出などが沢山あったのだろう。これ以上言及するのは彼女にとって無粋となる。
「お腹が空きました」
でもセイバーは平常運転だ。恐らく過去の事より目の前のご飯なのだ。まさに花より団子の鏡である。
「遠坂ー、皿並べるの手伝ってくれ」
「わかったわ衛宮くん」
「俺にも手伝える事はありますか?」
衛宮さんに聞いた。このままなにもせずに出してもらったものを食べるというのは何とも後味の悪いものだ。マシュも隣でコクコクと頷いている。マシュも同じ考えだったみたいだ。
「いや、お客さんに手伝って貰うのは気が乗らないから大丈夫だよ」
と言われたのでご厚意に甘えることにし、セイバーとマシュと談笑した後、エミヤが「私はいい」。といったのでエミヤ以外の全員で食卓を囲むのだった。
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「さて、私がなぜここにいるのか?その疑問についてお答えしよう」
「私たちがこの冬木の土地まで来るのに、少なくとも2日はかかりました。英霊とはいえカルデアとの連絡が途絶えたとしても到着するのが早すぎます。エミヤさんはどうやってここまできたのですか?」
俺たちはカルデアの場所は最重要機密で、俺たちは目隠しをされそのまま冬木まで連れてこられた。それで2日。連絡が途絶えたのは昨日だ。
「いやなに、暴飲暴食の黒王のジャンクフードを拵えていた時に、レオナルド・ダ・ヴィンチから招集があってな。それで嫌な予感がしていたのだが、案の定マスター達が行方不明となったといわれたので駆けつけたというわけだ。1日でここに来れたのは…彼女の発明品のおかげだな。まさか背中にロケットのようなものをつけられ、なんの防護服を身に纏うこともなく飛ばされると思わなかったよ。凄まじい勢いで飛翔したから熾天覆う七つの円環を展開しながらここまで辿り着いたというわけだ。まったく、天才のする事はいつも凡人の予想を超える」
まさか宝具を展開しながらここまできていたとは夢にも思わなかった。やはりエミヤさんは苦労人みたいだと、苦笑する。
「私が選ばれた理由だが、魔力の性質が異様に私に似ていたらしい。このような大規模の固有結界だ、私も半信半疑で聞いていたがね。いざ、入ってみるとまさかここまで酷似しているとはおもいもしなかったが」
やれやれと皮肉げに笑った。恐らく遠坂さんからこの世界の主が自分との違う道を選んだ衛宮士郎の世界と聞いたのだろう。
「明日の作戦からは私も参加させて貰う。足手まといにはならないさ」
作戦?と遠坂さんの方を見る。
「アーチャーには先に伝えたのだけれど、明日が決戦となるわ」
「この街に張っている結界はどうするのですか?凛」
「今もこの固有結界は拡大を続けようとしているから、このままだとジリ貧だし、抑えとくには限度があるのよ。だから短期決戦にする。結界の維持は貴方達に聖杯を破壊しにいってもらってる間に魔術工房を補強したわ。だから多少の攻撃を受けてもビクともしないし、結界の予備の宝石も準備しておいたから大丈夫よ」
「と言うわけだ。安心しろ立香とマシュ」
確か聖杯を破壊しにいった理由は街の周囲を安全を確保するためだったはず。その脅威が振り払われた今、短期決戦というのは実に理にかなっているのかもしれない。
「わかったら、君たちは早く寝た方がいい。明日のためにも英気を養って決戦おかないとな。それと衛宮士郎、お前には話がある。庭まで少しきてもらおう」
そう言われて風呂に入り布団に入った後、今回の特異点、いやビーストのエミヤについて少し考えた。彼はどのような気持ちでいるのだろう。世界を敵に回したビーストのエミヤは、人類の平和を願った彼はどこかゲーティアに似通っている。ゲーティアの逆行運河/創世光年、人類の救済。それは愛の果てに夢見た哀しき大偉業。
目をつむり、ふぅとため息をついた後に隣で眠るマシュを見る。彼女は1度死んでいる。ソロモン王での神殿でだ。彼女に二度と死なせてはならない。そう覚悟を胸にし、そのまま深い眠りにつくのだった
エミヤと衛宮士郎が仲が少し良くなったところを一度書いてみたかったのです。後悔はしていません。
あまり長引かせると話がグダグダになり、面白味に欠けてしまうので次からはビーストエミヤとの決戦ということにしました。
もう少しでこの話は終わりますがどうか最後までよろしくお願いします。