犠牲の果てに   作:ドライヤー

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マシュの存在が消えていく…


忘却

ー殺せ

 

幾度となく私に語りかけてくる誰かがいる。声が語りかけてくる度に自分の大切なはずの記憶が霧散し、掴めなくなる。私に何かを思い出されるのが不都合であるらしい。私はどうしたい?私が骸をひたすら、ただひたすらに積み上げていく。それは悪逆非道なことであり、本来ならばしようとも思ってはいけないことなのだ。だが、何かが私を突き動かす。子供の頃、縁側に座る私、隣には顔も名前も思い出せない誰か。忘れてはいけない人、この夜に誓ったこの人から受け継いだ何か。それが私を突き動かす。こんな物ではなかったはずだ、このような願いではなかったはずだ。

 

ー殺せ殺せ殺せ

 

まただ、また霧散してしまった。かつて誰かに「その程度もできない未熟者は○○○○○も名乗ることも許されない」と言われたのを思い出す。今では○○○○○ですらも思い出せない。この世界を構築してからは何もかもが頭から何かが零れ落ちてゆく。だが私は○○○○○にならなければならない。思い出せないのに、ならなければならない、あまりにも矛盾している。

 

ー殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

 

そうだ。殺さなければならない。私は思い出せない理想を抱いて、一歩でも歩みを進めるために最善を尽くそう。ああ、私の理想の邪魔をする敵がもうすぐ近くにまできているのか…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まさかとは思ったが、やはりあれは大聖杯か」

 

「私もそう思ったわアーチャー。まさか士郎の魔力供給源の先が、この世全ての悪に汚染された大聖杯だったなんて」

 

大聖杯、確かかつての特異点冬木でも存在していた大空洞の中に敷設された魔法陣であり、聖杯戦争を行うための魔力を7人のマスター達に提供するための超抜級の魔術炉心だったはずだ。

 

「やってくれる。腐っても聖杯か。まさか人の心象に住み着くとはな、まるで寄生虫のようだな」

 

エミヤが思わず悪態を吐く。並行世界での自分だがそれでも自分には変わりはない。このような醜悪なものに自分の心象に住み着かれている思うと悪態の1つや2つは吐きたくなるのは仕方のないことだ。

 

「やっぱり聖杯を破壊しておいて良かったなセイバー」

 

「はい。まさか並行世界でシロウの心象に居座るとは、羨ま…、言語道断ですね、ええ」

 

「セイバー?」

 

「どうしたのですかシロウ」

 

まさか今のを無かったかのような笑顔で一刀両断、バッサリ切り捨てるとは。さすがセイバー、聖杯戦争での最優のサーヴァントだ。

 

「無駄話はそれまでだ。敵が見えたぞ」

 

そこに彼はいた。こことは違う遠坂さんと同じ並行世界の住民、衛宮さんともエミヤとも違う道を歩いたもう1人の衛宮士郎。ビーストの冠位を請け負う人類に害悪をもたらすもの。彼はゆっくりと口を開く

。それはゲーティアやティアマトとは異なる人間味のある、しかしその音質はどこまでも冷えたものだった。

 

「ようこそ、よくぞここまで来たものだ。あのまま醜悪な怪物どもに喰われていたら絶望せずに済んだものを」

 

身体の毛が逆立つ。人間の生存本能が激しくサイレンを鳴らしている。ティアマトの時にも、ゲーティアの時にも似た感覚はあった。だが、今回は異質だ。今までの敵は人間というものを総体的にしか見たていないかのような感覚だが、彼は人間を個体として見ている。個人を入念にすりつぶす。常に刃物で喉仏に突きつけられている、そのような錯覚に陥る。

 

「士郎。雰囲気どころか性格も変わっちゃったんじゃない?」

 

遠坂さんが口を開く。彼を最も知る人物。その彼女の問いかけに思いもしない返答が返ってくる。

 

「君は誰だ。私を知っているのか」

 

息を飲む。彼にとって彼女は絶対に忘れてはいけない人物であるはずなのに忘れてしまっている。つまりこれは…

 

「記憶操作ですか。随分姑息な手を使いますね」

 

セイバーが剣を構えながら憶測をいう。

 

「ああ.確かに自覚はある。しかしそんなことはどうでもいい。今は私が敵で君達が戦わなくてはならない。ただそれだけでいい」

 

それを彼は否定せずに武器を構える。その双剣を構えている姿は否応なくエミヤや衛宮さんの面影を彷彿させる。

 

「マスター指示を!」

 

セイバーの声で我に帰る。そうだ、俺たちの目的は彼を倒すことにある。

 

「セイバーは前衛!エミヤと衛宮さんはセイバーの援護!マシュは俺を守ってくれ!遠坂さんは…」

 

心配して遠坂さんの方を見る。あんなに焦がれていた人に、記憶操作とはいえ忘れられてしまったのだ。かなり精神的にダメージを受けているだろうと思ったが

 

「士郎を目覚めさせるにはショック療法しかないってわけか」

 

彼女は前向きであった。それが彼女の人となりであり、魅力でもあるのだろう。だが睨みつけるように彼を見る、忘れられてしまったことへの多少の恨みはありそうだ。

 

「私も援護するわ。今の士郎にただ宝石剣をぶっ放すだけじゃ倒せそうにないもの」

 

彼女の冷静な判断力に感服し、一言だけ告げた。

 

「任せました」

 

「任されたわ」

 

彼女も一言だけ返答し、彼の元へ走っていった。

 

 

 

 

 

 




今回短めです。

衛宮士郎、エミヤ、ビーストエミヤの言葉の使い分けが非常に難しい。

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