アーチャーがビーストエミヤを呼ぶ時。
貴様
衛宮士郎がビーストエミヤを呼ぶ時。
お前
雑!
マスターの指示に従い前衛を任された私は彼の元に剣を構え、一直線に走っていく。私の知っているシロウとは別の道を歩んだ衛宮士郎。彼には私の想像も及ばないような惨状や苦悩の中、己が信じる道を突き進んで来たのだろう。それが例え、この世全ての悪に性質を捻じ曲げられたものだとしてもだ。あの真っ直ぐな剣のような少年を守りきれなかった自分が情けない、私がしっかり守れていたらこのような事にならなかったのではないか?もちろん彼といた私は私であり、それと同時に別種の私でもある。それでも守りきれなかった事には変わりないのだ。歯噛みをするが、今は戦闘時なのでその気持ちを心の奥にしまい、雑念を振り払うかのように雄叫びを上げながら魔力放出と風王結界を発動し、距離を一気に詰めてありったけの力を籠め、斜め下したから上に斬りつける。
キィン!
「なっ!」
いとも簡単に受け止められ、驚嘆する。彼の筋力値はそこまで高くなかった筈だ。思考を巡らせた隙をつかれて剣は無造作に弾かれ、バランスを崩されたところを懐に回し蹴りされ、吹き飛んでしまう。
「偽・螺旋剣!」
私が吹き飛ばされた瞬間、アーチャーから放たれた矢が彼に向かっていく。その間になんとか体制を整えた私は息を整え、彼の方を見る。
「壊れた幻想」
呟かれた瞬間、彼の目の前で爆発し、砂塵が舞い上がった。しかしこのくらいで倒せたとは思わない。先ほど剣を一合交えた時、バーサーカーを彷彿させるような力だった、しかも彼には理性がある。その事実に冷や汗をかく。
「まさかこのくらいで倒せたとは思ってはいまい」
砂塵が薄れていき、その中で7つの花弁が咲いているのを目にする。あれは間違いなくシロウとアーチャーが使う宝具、熾天覆う七つの円環だ。
「いささか投影が早いな。そのような無茶な投影では身がもたないのではないか?」
「お前は…英霊の私か。まさか英霊になった私までいるとはな。なに、この程度造作もないよ」
「貴様と同一人物と思われるのは癪だ」
アーチャーの声が低く冷めたものになる。アーチャー自身にしかわからない彼に対する憤りがあるのだろう。
「冷たいものだな。お前はどうなのだ衛宮士郎」
その問いにシロウが無言で彼を睨みつけ、返答を手短に済ませる。
「俺もだ」
私は少し驚くが、それと同時に少し納得する。許せないのだろう。彼の在り方が。
「そうか、残念だ」
彼もそれだけ言い、この短い問答は終わりを迎え再び戦闘へと戻る。
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「おかしくないか?マシュ」
「私もそう思います。先輩」
マシュも盾を構えながら、俺の言葉に肯定する。そう、今の戦闘はまるで英霊同士の戦いだ。それが、かえって奇妙なのだ。確かにあの4人の攻勢をあしらっているビーストエミヤは流石と言わざるおえないのだが、それでもまだ英霊の戦いの範疇に留まっている。仮にも人類悪、あのティアマトの迫り来る脅威もゲーティアの目の前にいるだけで押しつぶされそうになる威圧感もない。胸騒ぎがする。
「何か、隠しているのか?」
ポツリと呟く。だが今まで培ってきた経験が、危険信号を鳴らしている。いやまて、ここまで順調過ぎなんじゃないか?まるで今日ここに来る事が分かっていたみたいな、俺たちは誘い込まれたのではないか?ならば何が目的だ?ここに来させるには何か理由がある筈だ。その時ビーストエミヤと俺の目が合った。
「気づいたか。人類を救ったマスターよ」
「みんな!距離を取れ!」
俺は指示を出し、4人に距離をとらせる。攻防を続けているにもかかわらずあの余裕な態度。まるで、俺たちを撃破することは大した問題じゃないみたいな物言いだが、まさか!そうして俺は街の方を見る。やられた!最初から目的は俺たちではない。街の結界を破るためか!セイバーも俺の目線の先に街があるのが分かったのか、歯切りをし、声を荒あげる。
「そこまで、外道に落ちたのですか!」
「落ち着いてセイバー、街には結界が張ってはるし結界を張るために必要な予備の宝石もちゃんと完備してあ…」
遠坂さんの言葉が詰まる。彼女の顔が段々と青ざめていく、この反応まさか…
「しまったー!予備の宝石配置するの忘れてたーーー!」
「「「「「なっ!なにぃ!」」」」」
彼女は頭を抱えながらとんでもないことを口にした!俺たちは漏れなくらしくない声を上げ、ビーストエミヤに関しては苦笑いである。あの完璧な遠坂さんが?なんかの呪いか⁉︎ビーストエミヤかなんかにやられたのか?と思い彼女のステータスを急いで確認する。そこにあったのはとんでもないものだった。
うっかり:A
これは遠坂代々に伝わる呪い。彼女のうっかりも呪いのようなものであり、わざとやっているんじゃないか?と言わんばかりに発動する。
っていや何んだこれ!明らかにこれだけが彼女のステータスの中で禍々しいオーラを放っている。まさかこんな固有スキルがあったとは沖田の病弱みたいなものか?と1人で納得する、事にしておいた。だが、今の状況は限りなく最悪に近い。このままでは街の住人達は成すすべもなく殺されてしまう。
「衛宮くん、アーチャー、セイバー!3人で士郎をお願い!」
すぐさま街への方向へと身体を翻し、走っていこうとする。予備の宝石を今から配置しにいくのであろう。ここまで来るのに約1時間はかかったが、それは周囲を警戒しながら進んだからであり、本来は30分もかからない。
「いかせんよ」
ビーストエミヤが手を横へ振る。その瞬間に彼女の道を遮るかのように泥が地面から溢れ出し、そこから何かが生まれてくる。あれはこの世界を徘徊している怪物ではない、人型だ。あれはシャドウサーヴァントか?
「それらは全て英霊の成れの果て、強い願望を持った英霊達を無理やり使役したものだ。だから本来ならば宝具は使えんが…」
シャドウサーヴァントは普通は宝具を持っていない。本物ではなく偽物だからだ。だが、ビーストエミヤが召喚したとされる英霊達は一人一人が宝具を持っている。
「この通り、私が投影した宝具を持たせてある。一度しか真名解放を使えないがこれが無限に出てくるものだとしたらどうだ?」
流石の遠坂さんでも無限に湧き出してくる英霊達の中、そこを突破し、冬木の街に着くのは可能性はほぼ絶望的だ。
「くそっ!」
詰みだ。今の俺たちに街へと辿り着く手段はない。あの結界が破壊されれば冬木だけでなく、この世界がビーストエミヤの固有結界に囚われてしまう。今すぐ彼を倒せば止まるだろうが、それ程甘い相手ではない。だが、それしか手段はない。
「この英霊供が生まれる泥を街の周辺に4つ配置した。あの結界さえ破壊すれば私の目的はほぼ達成される。だから、私も全力で足止めさせてもらおう」
そういったビーストエミヤの背後に、かの黒王の聖剣が8本浮遊している。もしあれら全てが宝具として機能するのだとしたら。彼はほぼ無限の魔力を持っていると遠坂さんは言っていた。つまり、ほぼ際限なしに約束された勝利の剣を使えるのではないか?そう思った時だった。
『やっと繋がった!マシュ!立香くん!生きているかい!』
ダ・ヴィンチちゃんから連絡が入る、今繋がったのは奇跡かもしれない。彼女に縋るような気持ちで、彼女ならこの現状を打破できるのではないかと思い、この状況を簡潔に説明した。
『それは大変だ!だが安心していい、こんな事もあろうかと既に手は打っておいたよ』
流石ダ・ヴィンチちゃん!天才だ。
『今そちらに12体のサーヴァント+愉しみを求めている王様が1体向かっている。今回は特別だよ。こんなことを毎回していたらカルデアの機能が暴走してしまうのだから!って言うかエミヤくんには先に伝えておいたはずだよ?知らなかったの?』
えっ?と思いエミヤの方を見ると彼は妙に落ち着いていた。始めから知っていたのだろう。なぜ伝えなかったのかとエミヤを見る。
「なに、伝えれば凛がうっかり口を滑らせてしまうかもと思っていたのだ。まあ今回は私の予想を遥かに上回ったがな」
うっと遠坂さんが言葉が詰まる。そう言われれば確かにそうだろうけどなんで俺たちにも?
「マスター達はいかせん嘘をつくのが苦手だと思ったのでな、奇襲をかけようと思っていたが…まぁ結果オーライというやつだ」
むぅっと納得してしまう。ビーストエミヤも限りなくエミヤの思考に近いのだとすれば下手な嘘は勘付かれてしまっただろう。
「これで形勢逆転だ。さて貴様はどうするんだ?」
「なに、お前たちを全員殺して私自ら結界を破壊すればいいだけのことだ」
確かに今の彼なら俺たちを殺した後、結界を破壊するのは容易であろう。つまりエミヤの言った通り、立場が逆転したのだ。彼は他の英霊が到着する前にここで俺たちを殺さなければならなくなり、俺たちは街の結界を破壊させないためにここで彼を倒さなければならない。
「セイバー、君はマシュと供に後ろの残骸どもの相手をしてくれ。奴は私と衛宮士郎で相手をする」
その提案に俺は驚嘆した。エミヤはビーストをたった2人で相手取ると言ったのだ。
「アーチャー、勝算はあるのですか?」
「ああ、むしろ私たちでないと倒せんだろう。マスター、私たちの勝手を許してくれ」
真っ直ぐとエミヤに見つめられ、だめだとは言えなくなる。
「信じていいんだな」
「ああ」
短く発せられた言葉にはエミヤの覚悟が見える。俺はエミヤと衛宮さんを信じ、後ろのシャドウサーヴァントの方に目を向けるのだった。
???更新
ビーストエミヤの宝具
英霊残骸
それは英霊達の願望のみを汲み取り、形に為したもの。大聖杯の甘い蜜に引き寄せられた英霊達の残骸。そこに理性はなく、ただ願いを叶えんとする意思だけが具現化したもの。故に宝具は使えないが、ビーストが宝具を持たせる事によりその弱点を克服した。