あわわわ
「お見苦しいところを見せてすみませんマスター」
セイバーは少し顔を赤くしながらペコペコと頭を下げる。衛宮さんは俺たちがいたことを忘れていたのか、顔がかなり赤くなっている。そうなっても仕方がない。知っている人の前で抱きつくのも少し恥ずかしいのに、今日会ったばかりの人の前で抱きついたのだ。顔が羞恥で赤くなってしまってしまうのは当然だ。
「だっ大丈夫ですよね先輩?」
マシュが少し顔を赤くしながら俺に話を降ってくる。うぶだ。
「大丈夫だ。それにセイバーの嬉しそうなところを見れたから」
セイバーがあんなに嬉しそうなところを見たのは初めてかもしれない。いつも堅いイメージであったが、あんなに砕けた様子で安心しきった顔を見たのは。いや、美味しいご飯を作ってくれる人にもあんな様子か。
「マスター?今失礼なことを考えませんでしたか?」
ギロリとにらんでくる。
「いっいや…何にも考えてません」
セイバーコワイ…。思わず敬語になってしまうくらいに。
「ならいいのですが」
まだ疑っているようだが、一応許してくれたようだ。
「話を本題に戻そう」
いつの間にか立ち直った衛宮さんが脱線した話を戻す。
「立香達はなぜこの世界に来たんだ?」
あの優しい雰囲気が嘘のようになる。彼から険しい雰囲気が漂う。
「この世界が危険なことはわかっていたはずだ」
わかっていた。
「気が緩めばすぐに死ぬ」
一瞬気を緩めたら死にそうになった。今でも思い出すだけで体がふるえる。逃げ出したい。逃げ出して楽になりたい。でも逃げるわけにはいかない。
「それでも来た理由は?」
理由は決まっている。俺がここに来た理由はーー
「俺をサポートしてくれるみんなのためにも。そして生きるためです」
目的を再確認することによって覚悟を決める。決意が固まる。自分は目的を見失うことはないだろう。
「覚悟が篭ったたいい返事だ」
衛宮さんの雰囲気が和らぐ。
「試すようなことをして悪かった。立香は覚悟を決めたいい目をしている。よほど死線をくぐり抜けて来たのだろう」
どうやら俺に覚悟があるかどうかを試したらしい。
「先輩には私がついてます。もう2度と危険な目には合わせません」
「私はあなたの剣だ。あなたが進むというのなら喜んでついていきましょう」
マシュとセイバーが俺の覚悟を感じたのか、俺のことを支えてくれることを誓う。やはり2人は頼りになる。決意がより強固なものになる。
「ありがとう。マシュ、セイバー」
この2人には助けてもらってばかりだな。恩返しをできるように頑張るしかない。
「そろそろ安全な場所へ行こう。この場所にとどまり過ぎた。怪物が集まってくるかもしれない」
そして衛宮さんが歩き始める。俺たちはその後を追う。
「この世界で安全な場所などあるのですか?」
マシュが衛宮さんにきいた。見渡す限り剣が荒野に刺さっていてそこに知性無き怪物が闊歩している。安全な場所などないはずだ。
「俺には協力者がいる。その協力者が冬木全体に魔力障壁を展開してくれていて外敵などの侵入を防いでいる、だから冬木全体は安全ということだ」
「街全体に魔力障壁を展開しているのか⁉︎」
街全体に魔力障壁を展開している?簡単に言っているが普通はできることではない。一般の魔術師ならば1時間持てばいい。だがその協力者だという人は常に魔力障壁を展開しているというのか。しかもこの世界ができたとされるのは昨日であり、もし昨日からずっと展開しているのであればその協力者の魔力量は生半可なものではない。
「その人は何者なんだ?」
「それは彼女から聞くといい。彼女はこの世界の全貌を知っている」
その人物に会えばこの異常事態を解決できる方法を教えてくれるかもしれない。そう思った矢先、セイバーが急に立ち止まる。そしてあたりを警戒したようにキョロキョロしている。
「セイバーどうしたんだ?」
「妙じゃありませんか?」
言われてみればそうだ。しばらく歩いたはずなのに、先ほどからあれだけいた怪物に1度も出くわしていない。空から落ちていた時もあれだけの数がいたのだ。先ほど戦闘で何体かは倒したがそれだけでは殲滅できたとは思えない。
「まずい」
衛宮さんが厳しい表情で、あたりを見渡す、まるでよく無いものが来るみたいに。
「走れ!街まで一気に駆け抜ける!」
彼が走り出す。それを見失わないように後を追う。その直後だった。後ろから何かが遠くから迫って来ている音がする。徐々に鮮明になっていく。だが、何かの足音ではない。何だ?何が迫って来ている?確認のために後ろを振り返る。
それは明らかに人為的に造られたもの、だがしかし自然界にも存在する脅威。津波だ。本来の津波は海水で構成されているのだが、あの津波は黒い泥で構成されている。あの津波にのまれてしまっては人間は即死、例え英霊であれ数秒持つかどうかであろう。遥か遠くにあるというのに可視できるということは推定の高さは50メートルはあり、横幅は1キロメートルはありそうだ。その津波が今街の方向に向かっている。はやく街に辿り着かなければ俺たちはのまれてしまう!
走る。
だがこのままでは津波の方が先に街に辿り着く。
全力で走る!
だがこのままでは津波の方が先に街に辿り着く。
限界を超えて走る‼︎
だがこのままでは津波の方が先に街に辿り着く。
まずい間に合わない。このままでは街に着くギリギリのところで津波にのみこまれてしまう。だが今はなりふり構ってられない。街まであと100メートルくらいだ。
「先輩このままでは間に合いません!」
「私の宝具で消し飛ばしますマスター!」
「だめだセイバー!宝具を展開する前に津波にのまれる!」
「しかし!」
街まであと50メートルくらいを切った。だが荒々しい音はすぐ後ろから聞こえる、今後ろを振り返れば目前まで迫っているだろう。街まで残り20メートル!あと少し!あと少しだ!そんな時だ。衛宮さんが俺とマシュの腕を掴む。
「うおおぉぉぉぉぉぉ!」
衛宮さんの雄叫びが聞こえる。突然の浮遊感が体を襲う。そして地面に転がり着いた時には街の中にいた。マシュも転がっている。そしてセイバーも飛んで来た。まさか衛宮さんが街の中まで俺たちを投げたのか!
「衛宮さん!」
ーー彼はニコリと笑った。
そう彼はもう間に合わない。それを全て悟った上で彼は俺たちに心配をかけないように笑ったのだ。
「シロウ!」
セイバーの悲痛な叫びが聞こえる。ようやく出会えた奇跡。まだ2人はろくに話をしていない。今、衛宮さんが死ねば今度こそ永遠に会う機会を失う。そんな結末はあってはならない。
限界を出し切り疲弊した足にムチをうち無理やり動かす。そうまだ彼は生きている。彼は見知らぬ俺たちのことを何の見返りもなく助けてくれた。そんな恩人を俺は見捨てることはできない!
「衛宮さん手を!」
手を伸ばす。だが彼は手を伸ばさない。彼にはわかっていた。今立香の手を取れば2人もろとも黒い津波のまれてしまう。くそどうすればいいこんなとこで彼を死なせてはならない。津波は彼のすぐ後ろまで来ていた。
「自分を犠牲にして他人を助けるとこはこの世界の士郎も同じなのね」
1人の女性が彼の横に立っていた。こちらをちらりと見たが津波の影で顔がよく見えない。
「そして、助けられたのに死地に飛び込もうとする馬鹿な男1人」
彼女は宝石を短剣にしたようなものを振り上げる。
その瞬間黒い津波は時が止まったかのようにピタリと進行をやめた。まるで先ほどの荒々しい音が嘘かのようだ。
「はぁ、もしかして男ってみんな馬鹿なのかしら」
そこには並行世界の可能性の1つ。人類悪を倒し救世主と崇められた女性がいた。
風王結界を使えば津波から逃れたんじゃね?という声が上がるかもしれないので補足しておきます。
風王結界は一度解放すると風を集束するのにまた時間がかかります。つまり落ちる時に使った彼女は今は使えなかったということです。