『ごめんなさい……ごめんなさい先輩……』
……そんなに謝るなよ。
『だって……私のわがままで……』
愛美の思うようにすればいいさ。
『はい……さようなら……先輩』
ああ……じゃあな……
「う……あ……?」
目を開ければ見慣れた天井。痛む体は俺の思う通りには動いてくれず、ただ全身に痛みが走っただけで終わった。
ああ、久々にやっちまったな……まあ、華雄と恋の悪魔超人コンビと戦えばこうもなるか。
「すー……すー……」
「…………桂花?」
静かに聞こえた寝息に首を動かせば俺が寝ている寝台に上半身を預けて眠る桂花の姿。壁を背に寄り添う様に月と詠が眠り、ねねが月の膝を枕に寝ていた。真桜は椅子に座ったまま、船を漕いで寝ている。
「皆……集まってたのか?」
「秋月さんが倒れたと聞いてから皆、大慌てだったんですよ?」
俺の呟きに来る筈の無い返事が返ってきた事に驚いて視線を移せば、そこには水を溜めた手桶に浸した手拭いを絞る斗詩の姿が。
「斗詩……」
「シーッ静かに。皆さん、漸く寝た所なので……」
俺が斗詩の名を呼んだら怒られた。漸く寝た……あ、窓の外を見ると真っ暗……どんだけ寝てたんだか。あれ……そう言えば……
「華雄さんと恋ちゃんは華琳様が罰を与えましたよ。『いくらなんでも、やり過ぎよ。暫くの間、罰を受けなさい』って言ってました」
「………そっか」
斗詩は俺が知りたかった事を先読みして教えてくれた。いや、もしかしたら大将が予想して斗詩に言っといたのかも知れんが。
「華雄さんも……きっとどうして良いか分からなくなったんだと思います。好きな人に気持ちを打ち明けられず……その中で好きな人が他の人と一緒になったから……華雄さんはこれが初恋だと言っていましたから……」
「どうしたら良いか分からなくなったからって……」
斗詩の言葉にタラリと汗を流した。どうしたら良いか分からなくなって頭がオーバーヒートを起こして、暴走……うん、せめてもの救いは対象が桂花じゃなくて俺だった事かな。うん。
「大河君は秋月さんが華雄さんと恋ちゃんが戦ってる事を知らせに来てくれたんですよ。朝議の最中にバタバタと走り込んで来ました」
「そっか……あの時、大河が居なかったのは助けを呼びに行ってくれたのか」
ナイス判断だ大河。仮に一緒に戦っていたら屍が一つ増えて終わりになっていた。
「その後、皆で現場に駆けつけたら……ちょうど秋月さんが倒れた所でした」
「ああ……体力の限界と気が枯渇して倒れた辺りか」
最後に華雄の声と大河の声だけは聞こえていた。つまり丁度、その時に大河が大将達を連れてきたのだろう。
「…………秋月さん。もう無茶はしないでください」
「俺はしたくないんだけど、向こうから来るからさ……」
少なくとも俺から喧嘩を売った覚えはない。今回は潔く買っちまった気もするが。
「皆、心配してたんですよ」
「それは……この惨状を見ると分かるかな」
斗詩の言葉に苦笑いな俺。回りを見渡せば桂花や月達が俺を心配してくれたのは、よく分かる。
「勿論、私も心配してましたからね」
「う……すまん」
顔を近づけて念を押す斗詩。睨んでるつもりかもだけど可愛いなぁおい。
「目が覚めたばかりでしょうけど……もう一度寝ておいた方が良いですよ。明日から私と大河君と華雄さんで秋月さんの仕事を手伝いますけど忙しくなりそうですから」
「え……忙しく?」
何故に忙しくなると?
「秋月さんは知らなくて当然です。今朝の会議で決まった事ですから」
「あはは……俺が寝てる間に決まった事なのね」
そりゃ知らなくて当然か。
「だとすれば……明日から手伝ってもらうのに、こんな遅くまで看病させちまってゴメンな」
「いいんですよ私が好きでしてる事ですし……それに」
俺の謝罪を斗詩は笑顔で返してくれた。本当に頭が下がる。
「私も……諦めてませんから」
「っ!」
斗詩はフワリと顔を近づけると、ほんの少し触れる程度のキスをしてくれた。
「今は皆が寝てるから……少しだけ役得です」
斗詩は嬉しそうに笑うと、そのまま部屋を出ていく。まったく……敵わないな。この世界の女の子達は。
◆◇side桂花◆◇
「今は皆が寝てるから……少しだけ役得です」
何が役得よ、他の皆は寝てるけど私は起きてるわよ!
私は秋月の寝台で寝てたんだから、そこで話せば私は目が覚めるに決まってるでしょ!
ああ、もう……起きる間を逃したわ……