真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月
<< 前の話 次の話 >>

128 / 204
第百二十八話

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side桂花◆◇

 

 

 

「居ないわね……」

 

 

私は先日、またしても自爆したと聞いた秋月の部屋を訪ねていた。気絶や怪我は無かったと聞いたけどもう出歩いてるのかしら。

私が来たんだから無駄足を踏ませないで欲しいわね。それとも他の娘と一緒なのかしら……

私が悩んでいると通りすがりの侍女が「副長さんなら調理場向かいましたよ」と教えてくれた。私は侍女に礼を言うと調理場へと向かう。

調理場に到着すると秋月が居た。中に入って声をかけようとしたけど秋月は食材を刻みながらブツブツと呟いている。私が入ってきた事にも気付かない辺り余程、集中しているのだろう。

 

 

「あれだな。一歩進んで二歩下がる的な……」

「それは前に進んだとは言わないわよ」

 

 

私が声を掛けると、やっと気づいた秋月が振り返れる。間抜けな顔して何考えてたんだか。

 

 

「桂花、どうしたんだ?」

「アンタが部屋に居ないから探しに来たんでしょうが」

 

 

呑気な質問をしてくる馬鹿に私は溜め息を吐きながら答えてやる。心配させるなって言うのよ。

 

 

「で、何で料理してんのよ。小腹が空いたなら……」

「ああ、いや。小腹が空いたんじゃなくて大将からの頼まれ事でな。これも仕事なんだよ」

 

 

この馬鹿が料理をしている事に疑問を持った私だが秋月からは意外な答えが返ってきた。

 

 

「華琳様から?」

「ああ、天の国で野営や遠征の時に簡単に作れて大量生産可能な料理や保存の効く料理は無いかと聞かれてな。で、まあ……簡単に料理の概要を話したら『作れ』の一言が飛んできた」

 

 

何処か遠い目をしている秋月は私との会話を続けながら手際よく調理を続けていた。

 

 

「ふーん……これがその料理?」

「ああ、まだ下拵えの段階だけどな」

 

 

天の国の料理だからなのか作業行程を見ても私にはどんな料理かわからなかった。

 

 

「なんて料理なの?見たことないわ」

「この料理は牛丼ってんだ」

 

 

牛丼って事は牛肉を使う料理なの?珍しいわね。

 

 

「牛丼?」

「簡単に言うと薄く切った牛肉を炒めて汁で煮込んだ物を白飯の上にかける料理だ」

 

 

秋月の説明に私は物を想像する。簡易的に出来る上に大量生産に向く料理なら確かに遠征の時に利用できるかも。

 

 

「ふーん……あ、良い匂い」

「ふむ……どれ」

 

 

グツグツと煮込まれた鍋から沸き上がる匂いに私は思わず声を上げてしまう。味見をしていた秋月は少し悩んだ素振りを見せてから私に皿を差し出した。

 

 

「桂花、少し味見をしてくれないか?」

「あ、うん。わ、美味しい!」

 

 

つい反射的に皿を受け取った私は汁を味見する。その味は私が食べた事の無い味で素直に驚いてしまった。

 

 

「なら、この味で決まりだな。大将と一刀呼んで試食会だな」

「ちょっと、私好みの味で良いの?華琳様にお出しするんでしょ?」

 

 

秋月の呟きに私は驚いてしまう。華琳様にお出しするのに私の舌なんかで確かめた物を出すなんて。

 

 

「だからこそ俺はそれを出したいんだよ。俺が作って桂花が味見したってな」

「秋月……」

 

 

秋月の言葉に私はドキッとしてしまい、先程の皿に視線を移してしまう。そういえば、この皿は秋月が使った皿で……つまりは間接……

 

 

「……お腹空いた」

「なんだ、この良い匂いは?私にも食べさせろ!」

「純一さん、僕もー!」

 

 

思考の海に沈み掛けた私を引き戻したのは春蘭達だった。季衣や恋なら兎も角、大人の春蘭まで食べ物の匂いに釣られたのはどうかと思うけど。

 

 

「桂花、丼にご飯盛ってくれ。俺は汁の味を調整するから」

「はいはい。まったく、手が掛かるわねアンタ達は」

 

 

秋月の言葉に私は従う。大方、私に頼んだみたいにコイツらにも味見をさせる気なのね。それほどの舌を持ってるとは思えないけど。

 

 

「俺達、手の掛かる子供を抱えた夫婦みたいだな」

「そうね……でも春蘭みたいな子供は嫌よ」

 

 

秋月の言葉に私は苦笑いだった。だってそうでしょう?季衣みたいに元気な子や恋みたいに純粋な子なら兎も角、春蘭みたいなのが我が子だったら苦労しかないわよ……って、違う!何で私は秋月との子供の事なんか考えてるのよ!?あ……でも秋月って面倒見が良いから子供の世話とか任せられるかも……

 

 

「桂花、ご飯盛ってあげて」

「ちょっと、華琳様にお出しするんでしょ?」

 

 

秋月の言葉にハッとなる。私ったら何を考えて……

 

 

「この状況じゃ仕方ないだろ。もう少し食べたら落ち着くだろうし」

「まったく……甘やかすんだから」

 

 

私は文句を言いながらもご飯を持ってやりながら秋月の甘やかしに呆れていた。コイツ、子供とか出来たら絶対に甘やかすわね。私がしっかりしないと……………じゃなくて何で私はコイツとの夫婦生活を考えてるのよ!

ああ、もう……なんか駄目だわ。

 

私が頭を抱えていると先程みたいに考え事をしているのか上の空になっている秋月が春蘭達のおかわりに答えていた。

 

 

「ちょっと、秋月!鍋が空じゃない!?」

「え、あ……しまった!」

 

 

私が指摘すると秋月は正気に戻ったのか空になった鍋を見て慌てている。

 

 

「ヤバいな……大将が来る前に作り直さなきゃ!桂花、俺は市場に行ってくるから後を頼んだ!」

「ちょっと!」

 

 

秋月は走って調理場から出ていってしまう。この状態で丸投げしないでよ!と思ったら、ぎこちない動きで戻ってきた。それもその筈。調理場の外には華琳様が要らしていたのだから。

秋月はその後、頭を下げながら事の顛末を話していたけど己の失態を認めたから華琳様が許す筈もなく、そのまま説教が始まっていた。

 

私は華琳様に怒られる秋月を見ながら先程の秋月が発した夫婦や子供の事を考えていた。

 

コイツは私が悩んだり考えてる事を知らないのよね……馬鹿馬鹿しいと思うと同時に少しは察しなさいよと思う気持ちを持っていた。

 

 

「………馬鹿」

 

 

私の口から自然と漏れた言葉は秋月に向けた物だったのか……それとも私自身に向けた物だったのか……わからなくなってしまった。






※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。