片付けも終わったので桂花と街へ。夕食兼晩酌の為だ。
本当なら本格的に飲みたかったのだが桂花から止められて少ししか飲んでない。話があるから泥酔したくないし、させたくないそうだ。
すぐに話を切り出すかと思っていた桂花だけど歯切れが悪く、中々話を切り出そうとはしなかった。
何かを話そうかと口を開くのだが直ぐに閉じてしまう。なんと言うか……まだ自分の中で何を話すか纏まってない感じだ。
俺は桂花が話をするのを待っている間に酒をチビチビ飲んでいた。
「その……アンタさ……」
「んー…….?」
俺が煙管に手を伸ばそうとした所で意を決した様に桂花が話を始めた。割りと長かったな。
「天の御遣いじゃないけど……北郷と同郷なのよね?」
「ん……ああ。一刀とは同じ国に居たな」
桂花の言葉に俺は久しぶりに日本を思い出す。そういや、この国に来てから随分と時間が経過したよな。
「アンタにも……帰る国があるのよね?」
「帰りたいとは思っても帰れるかは別だがな」
思えば無茶苦茶な事だらけで最近は現代にどうやれば帰れるか考えてなかったな。それほど、この国に馴染んでたって事か……仕事に忙殺されてるとも言うが。
「もしも……帰れるとしたら……帰りたいの?」
「………フゥー」
桂花の発言に俺は煙管は止めて久々にマルボロに火を灯して吸う。久々に感じるマルボロの匂いにすっかり忘れた感覚を思い出していた。
「どうなんだろうな……帰りたいと思って帰れるなら苦労はないし……」
「………」
俺の言葉に桂花が俯く。何を思って俺が国に帰るなんて話を切り出したんだか。
「ずっと……この国に来てからバタバタとしてたから、その考えはなかった。天の国でも俺の知り合いや家族は居る訳だし……せめて一言は伝えたいかな」
「………そう」
つーか、俺はハッキリと帰りたいとは今は言えない。だって俺が現代に帰ると言う事は桂花とは会えなくなるって事なんだから。
「………華琳様の覇道の途中で帰るなんて言い出したら、とっちめてやろうかと思ったけど要らない心配だったわね。私が一生死ぬほど、こき使ってやるから覚悟しなさいよ」
「く……くくっ……」
俺は桂花の言葉に笑いを堪えられなかった。桂花は俺が笑ったのを見て怒り始める。
「ちょっと、何笑ってるのよ!」
「だってさ『一生死ぬほど、こき使ってやる』って事は……一生一緒に居るって事だろ?」
俺の言葉に桂花は自身が出した言葉の意味を再確認して顔がカァーと赤くなっていく。ああ、もう……可愛いなぁ。
「いやぁー、まさか桂花からプロポーズされるとはねー」
「何よ『ぷろぽーず』って……」
俺がケラケラと笑っていると桂花がプロポーズの意味を訪ねてきた。まあ、わからんよな。
「天の国の言葉で求婚を意味する言葉だ」
「きゅ、求婚……ち、違うからね!私が言いたかったのは……」
見るからに慌てる桂花。もう少し見ていたい気もするが弄り過ぎると後が怖いし止めとくか。
「わかってるって。勢いと意地張りで言っちまったんだろ?」
「……その、分かってるって顔も腹立つんだけど」
俺が煙草の火を消しながら話すと桂花からジト目で睨まれた。解せぬ。
その後、いつもの調子に戻った桂花と酒を飲んだのだが桂花が案の定酔いつぶれた。なんか胸の支えが取れたかの様にスッキリとした顔をしていた。
つっかえる程、胸が無かろうと思わず視線を下げた辺りで目潰しが来た。酔っていても的確に狙う辺り侮れん。
店を出る時にはフラフラだがなんとか歩ける程度に回復した桂花と並んで歩く。城までの道程だが俺は少しでもゆっくり歩きたかった。
桂花が『酔ってるから』と俺の服の袖を掴んでいるのだ。微妙に素直に成りきれてないのが桂花らしい。
そんな幸せタイムも直ぐに終わりを迎えた。城に着いた俺達だがなんとなく部屋には戻らなかった。
まあ、互いに明日の仕事が朝早いからどちらかの部屋に……なんて事にはならないのだが。
「アンタ……言ってたわよね。この世界に来てから大変だったって」
「ん……ああ」
桂花が俺の袖から手を離したかと思ったら口を開く。うん、大変だったけどなんで、このタイミングでその話を?
「私も本当に大変なんだからね……背伸びするの」
「え……んむ」
桂花が背伸びをして俺の首に手を回してキスしてた。身長差もあってか桂花は爪先立ちになりながらキスをしてくれている。俺は桂花の背に手を回して支えた。
どれくらいの時間だったかはわからない。触れた程度だったのか……それとも十数秒だったのか。その認識も出来ない位に急だった。そして桂花が離れる素振りを感じた俺は背中に回していた手を離す。ゆっくりと離れた桂花の顔は湯気が出るのでは?と思うほどに真っ赤だった。
「そ、その……おやすみ!」
桂花はそのまま逃げるように……と言うかマジで逃げて行った。俺はその場にしゃがみ込む。既に体を重ねた間柄だってのに、こんなにドキドキさせられる。
「あー……もう不意打ち過ぎるだろ」
俺の唇には先程まで触れていた桂花の柔らかな唇の感覚が名残惜しそうに残っていた。