◇◆side詠◇◆
真桜の発言から思わず秋月を殴ったけど意識を取り戻した秋月から話を聞くと真桜の悪戯だった事が判明した。思わずカッとなって殴っちゃったから謝ったんだけど……
「ああ、いいっていいって。コイツが悪いんだし」
「痛ったたたたたたっ!?」
秋月は真桜に抱き付くような体勢で絡んでいる。天の国では格闘技の一つで関節技と呼ばれる技術らしい。
「これぞモモスペシャルその二『アグラ・ツイスト』」
「ちょっ、堪忍や!痛たたたたっ!?」
秋月は笑いながら真桜に技を掛けている。コイツ等の関係って恋人と言うよりも兄妹よね。
「それで……なんでこんな事になってんのよ」
「んー……それがな」
「待ってや!普通に会話を始めんといて!」
私と秋月は普通に会話を始めようとしたけど真桜が先に音を上げた。
そして真桜の拘束が解かれないまま聞かされたのは秋月が最近、様々な人から恋愛相談を持ち掛けられる事。その事に首を傾げていた秋月は真桜に何故そんなことになったのかと聞いた所、真桜が悪ふざけをしたらしい。そしてその最中で僕と月が会って現在に至るとの事。
「理由は……なんとなくわかるかも」
「え、マジで?」
コイツも本当に無自覚よね。月も苦笑いだし。
「アンタは自分で思ってる以上に他の人から好かれてるのよ」
「それに人当たりもよくて話しやすいですし」
コイツや北郷は自分の事を平凡だと思っているけど、それはあり得ない。天の御遣いと呼ばれ、華琳や魏の重鎮とも気軽に話が出来る存在。それで有りながら気さくに話しかけやすい。でも、それ以上に城の中の人間や民達が相談を持ちかけたのは別の理由だろう。
「何してるのよ……アンタ達」
「あらあらー純一さんったら大胆なのですよー」
「秋月殿が真桜と、くんずほぐれず……プーッ!」
と其処へ桂花、風、禀の軍師三人が通りがかる。桂花は秋月と真桜が絡み合ってるのを冷めた視線を送り、風は面白い物を見たと笑みを浮かべて、禀はいつも通り妄想を膨らませて鼻血を出して倒れた。
「この間もそうだけど、真桜の方がいいわけ?」
「いや、そう言うんじゃなくて……」
桂花の睨みにたじたじの秋月。その隙を見計らって真桜は既に脱出していた。
「きっちり聞かせて貰うからね」
「いやいや、聞くなら今聞いて!明らかに話の姿勢じゃねーし!」
そう言って桂花は秋月の耳を引っ張って連れていく。
「あ、副長!まだ警邏の途中やで!」
「アンタがそれを言うの?アンタがサボってるの私の所まで報告来てるんだけど?」
「後の事はウチに任せてやー」
ズルズルと引きずられている秋月を止めようとした真桜だけど反論できなくなって笑顔で見送る。責任逃れに秋月に差し出してるけどサボってるのがバレてる段階で手遅れよね。
「頼りになる部下ね」
「しっかりサボってるのがバレてるねー。怖いよ母さんや」
桂花の嫌みに秋月は何処か諦めた様な声を出している。
「誰が母さんよ!」
「お似合いなのですよー」
「秋月殿と桂花の夫婦……ふ、ふふ……」
桂花は顔を赤くして摘まんでいた耳から手を離して秋月の頭を殴り、風は後で弄る気満々みたい、禀も鼻に詰め物をしながら笑みを浮かべてる。最近よく見る流れよね。
「も、もう……行くわよ!」
「はーいはいっと。あ、月に詠も一緒に帰ろうか」
「後で華琳様に報告ですね」
「面白い事になりそうなのですよー」
桂花は耳まで真っ赤にしながら秋月の手を引く。禀と風は面白そうに後を着いていく。僕と月は秋月の提案に乗って一緒に帰る事にした。
「ねぇ、月」
「なぁに、詠ちゃん?」
僕が話しかけると月は小首を傾げる。僕は秋月が恋愛相談を持ち込められる一番の要因を口にした。
「相談される一番の要因は桂花と恋仲になった事よね」
「そうだよね」
僕の言葉にアハハと笑みを浮かべる月。男嫌いを公言していた桂花を落としたとあって城の中でも街の中でも噂になったから魏の民は秋月を恋愛の達人とでも思ったのだろう。月も思い当たる節が多いから笑ってる。そして笑った後、月は秋月と桂花の後を追う。
「ほんと……なんで、あんなのに惚れちゃったんだろ」
僕の溜め息は誰かに聞かれる事もなく消えていき、僕は皆の後を追って歩き出した。
『アグラ・ツイスト』
『THE MOMOTAROH』の主人公モモタロウが使用する「モモ・スペシャル」のその二。下半身をインディアン・デスロック、上半身をコブラ・ツイストで攻める複合技。