先日、斗詩と腕を組んでいるのを見られてから数日。未だに桂花は俺と口を聞いてくれない。
「もうダメ……ツラい。今の俺なら完成型の獅子咆哮弾を撃てそう」
「どんだけへこんでるんですか」
今日は久々の鍛練を開始する日なのだが、俺は亀仙流の胴着を着たまま鍛練場の隅で膝を抱えていた。そんな俺に様子を見に来ていた一刀のツッコミが入る。
「だってさぁ~……」
「新兵も居るんだからシャキッとしてくださいよ。只でさえ純一さんの悪い噂ばかり広まって新兵の間じゃ名ばかりの副長みたいになってるんですから」
確かに怪我ばかりで休んでいる事が多いが、それは心外だな。
「仕方ない……ストレス解消も含めて思いっきり体を動かすか」
「ならば私がお相手させていただきます」
よっこらしょと立ち上がると真っ先に凪が名乗りをあげた。既に拳を構えて、やる気十分な感じ。
「純一さん、気を付けてくださいね。復帰初日にヤムチャは洒落になりませんよ」
「お前が俺をどう思ってるか、よく分かったよ」
一刀の発言に苛立ちを感じながらも俺は凪と相対する。
「では副長……全力で行かせてもらいます。副長はあの馬超と渡り合ったのですから楽しみです」
「ありがとう凪。お礼は今の俺の全力で返すとしよう」
「では私が審判をするとしよう」
拳を俺に突きつける凪に俺は体に気を込め、拳を合わせる。華雄が審判を申し出てくれたのでそのまま模擬戦へと突入が決定した。
「では……始め!」
「波っ!」
「甘いっ!」
開始と同時に俺は気功波を放つ。が、凪は片手でアッサリと気功波を弾き飛ばすと俺との間合いを詰める。
「せやっ!」
「とっ……危なっ!?」
間合いを詰めた凪は俺に左膝を叩き込もうとしたので右腕でガードした。すると即座に凪の右拳が迫ってきており、俺はバックステップで少し距離を空ける。
と思ったら更に凪の放った気功波が俺を襲う。
「凪……流石に病み上がりの副長にはキツいで今の……」
「問題ない。全て防がれた」
今のやり取りに真桜がツッコミを入れるが、凪は俺から視線を外さないまま答えた。
「まったく……何で、そんなにやる気出しちゃってるんだ凪?」
「副長は今まで様々な相手と戦ってます。ですが大半の戦いが有耶無耶に終わることが多く、副長の強さの底が見えません……そこで一度しっかりと副長の強さを把握しておきたいと思いました」
なるほどね……生真面目な凪らしい意見な訳だ。
「つまり、凪は俺の強さを把握した上で俺を鍛えてくれるって事か」
「そ、それは恐れ多いと言いますか……私も副長から技を学びたいと言いますか……」
モジモジとする凪。まあ、部下が上司に向かって『鍛えてやる』とは言えんわな。でも凪としては色々な技を学びたいって事なんだろう。そしてそれを教える筈の俺がダウンじゃ駄目だわな。
「ま、今後は気を付けるよ。さしあたり技を一つ披露しようか。大河、来な」
「は、はいッス!」
俺はポリポリと頭を掻いてから大河を呼び寄せる。
「俺と模擬戦だ。俺が寝込んでる間にどれほど強くなったか見るぞ」
「ま、まだ気功波は撃てないッスけど師匠が倒れてからも自分は修行を続けてたッス!」
俺の言葉に飛び蹴り……と言うか浴びせ蹴りで飛び込んでくる大河。これから俺がやる技にうってつけだな。
俺は大河の浴びせ蹴りを防ぐと大河の足を捕まえて体を半回転させる。こうすると大河の頭が下を向く形となり、俺はその体勢のまま大河を肩に担ぐ。更に大河の太股辺りに手を添えて固定した後に気で脚を強化してジャンプ。後は叩きつけるのみ。
「キン肉……バスタァァァァッ!」
「ぎゃうっ!?」
俺は大河を逃がさぬようにガッチリとホールドしたまま地面に着地した。着地と同時に大河の口からは悲鳴が漏れて力が抜ける感覚が伝わる。
「ふっ……これぞ数多の屈強な超人を倒し続けたキン肉マンの必殺技キン肉バスター」
「く……かはっ……」
俺は技のクラッチを解きながら立ち上がる。大河はそのまま力尽きて倒れてしまった。
「この技は首折り、背骨折り、股割き、恥辱プレイの四大必殺技を一度に集約した超必殺技だ」
「純一さん、一個余計に増えてます」
俺が技の説明をすると一刀のツッコミが入る。今日も鋭いね。
ああ……それにしてもタバコ吸いたい。桂花と話したい。
『獅子咆哮弾』
らんま1/2で響良牙が習得した技。ちなみに元々は土木作業用の技らしい。 技そのものはいわゆるかめはめ波や波動拳のような、特に珍しくも無いエネルギー放出型の技である。 心の重さ。所謂『気が重い』を体現させた技で不幸になればなるほど技の威力が上がる。
『完成型・獅子咆哮弾』
獅子咆哮弾の完全版で桁違いの重い気を上空に放ち、落とす技。この技のスタイルから術者本人も技を食らう事になるのだが技を放った瞬間に脱力して『気が抜ける』状態になり、技をすり抜けて回避する事が可能。
『キン肉バスター』
キン肉マンの代名詞と呼べる技で頭上で逆さに持ち上げた相手の両腿を手で掴み、相手の首を自分の肩口で支える。この状態で空中から尻餅をつくように着地して衝撃で同時に首折り、背骨折り、股裂きのダメージを与える。実際のプロレスでも用いられることがある。