真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百五十九話

 

 

 

 

「桂花?」

「ん……あ、れ……」

 

 

俺が声を掛けると桂花は眠そうに瞳を開くと目を擦る。完全に寝惚けてるな。

 

 

「おはよう。とりあえず俺が目を覚ましてから幸せな気持ちに浸れる、この状況に説明を求む」 

「何を……あ、そうだった……」

 

 

寝惚けたままの桂花だが俺の言葉に状況を把握したらしい。

カァーと顔が赤くなっていく。

 

 

「あ、そ……その……あのね……」

「おい、桂花?」

 

 

桂花にしては歯切れが悪い。俺は起き上がろうとしたのだが桂花に肩を押さえられた。

 

 

「そのままで聞いて……」

「あ……わかった」

 

 

顔は赤いままだが覚悟を決めた表情の桂花に俺は膝枕の位置に戻る事にした。

 

 

「わ、私……好きなの、アンタの事が……」

「あ、あの……」

 

 

顔を真っ赤にした桂花から突然の告白。いや、ちょっと待て……こんなに真っ直ぐに言われた事無いからスゴいビックリしてんだけど!?

 

 

「好きで好きで……仕事の時でもアンタの事を考える事がある。華琳様の事は今でも敬愛してるし尊敬してるわ。でも……アンタは男として私が惚れた唯一の人物よ」

 

 

もう聞いてる方が恥ずかしくなってきた。多分、俺の耳も真っ赤になってる。確認するまでもなく耳が熱いから。

 

 

「だから……アンタが斗詩と一緒に居た時は……凄く嫌だった。だから暫くアンタとの距離を空けてた」

「桂花……俺は……」

 

 

見上げれば目の端に涙を溜めていた桂花。俺が口を開こうとしたら桂花の人差し指が俺の唇に添えられる。黙って聞いてほしいってか。

 

 

「でもね……本当はツラかったの。アンタと話す事も触れる事も出来ないのがこんなに苦しいなんてね」

 

 

自嘲気味に笑う桂花。そっか……無視されて俺はツラかったけど無視してた方もツラかったと。

 

 

「そしたら……ね。言われたの『素直になれ』って」

「素直ねぇ」

 

 

ぶっちゃけ桂花には程遠い言葉だと思っていたんだが。

 

 

「言う事を聞くのは癪だったけど……素直になったから話が出来るわけだしね」

 

 

桂花にアドバイスした人物は誰だったんだろう……微妙に怒りが伝わってくるんだが。

 

 

「でも……私にも分かってるのよ。アンタは種馬なんだから他の子達とも……その……」

「取り敢えず種馬を俺の仕事の一環に入れないでくれ……とは、もう言えないか……」

 

 

桂花の言葉に反論したかったが、確かに桂花以外の子達とも関係持ってるから否定も出来ないし。おまけにこの時代……と言うか世界は、権力を持つ者は正妻の他に側室持つのは当たり前みたいな部分がある。

俺はそんな立場じゃないと大将に言ったが「『天の御使いの兄』で『警備隊の副長』が立場がないとでも言う気なのかしら?」と怒られました。

しかも「皆を大事にするなら構わないわよ。でも誰か泣かせる様なら……わかってるわね?」と言った。笑みを浮かべた大将の背後に不動明王が見えたのは、俺の気のせいではあるまい。

 

 

「その……アンタは相手が沢山居るし……私はその中の一人でも……」

「大事にするよ」

 

 

どこか寂しそうに話す桂花の頬に手を添える。瞳には未だに涙が溜まっていて今にも流れ落ちそうだ。

 

 

「馬鹿……でも、嬉しい」

 

 

そう言って桂花はゆっくりと俺との距離を縮めて………唇が触れ……

 

 

「で、私はいつまで貴方達の逢い引きを見なければいけないのかしら?」

「か、華琳様っ!?」

「痛っ!?」

 

 

 

突如背後から聞こえた声に桂花が驚いて膝枕が崩れ俺は頭を打った。超痛い。

 

 

「まったく……見せ付けてくれるわね」

「あ、あの……華琳様、これは……」

 

 

突然の大将の登場に慌てまくる桂花。パニクって思考が定まってないねコレ。俺は起き上がり、桂花の代わりに質問する事にした。

 

 

「いつから見てたんですかね大将」

「桂花が純一に愛を囁いた辺りかしら」

 

 

つまりはほぼ全部って訳ね。

 

 

「可愛らしい桂花を見る事が出来たのは嬉しい事だけど……二人とも今日の仕事はどうしたのかしら?」

「「あー……」」

 

 

大将の言葉に俺と桂花は揃って視線を逸らす。そう、俺が昼間の辺りで眠り始めて起きたら暗い。つまりは夜な訳で……ヤバい完全に仕事をサボった形になってる。

 

 

「今回は面白い結果になったから見逃すけど次は無いわよ二人とも?とりあえず桂花は明日までに仕事を終わらせなさい。処理が急ぎのものから順にね」

「ぎ、御意!」

 

 

大将の言葉に多少の引っ掛かりを感じる……面白い結果になったから……

 

 

「さて、純一は月達のところへ行ってきなさい」

「はい?」

 

 

大将の発言に首を傾げた。何故、月達の所へ行けと?

 

 

「人目も憚らずに逢い引きをしてたのだもの。あの子達も悔しい思いをしたんじゃないかしら?」

「あー……ソウデスネ」

 

 

思い返すと此処は城の中庭。人は当然通り掛かる。そんな中で膝枕をしながら眠る女と膝枕をされて眠る男。注目されないわけがない。つまりは城の中の人間にバッチリ見られた訳で。隣を見れば同じ答えに辿り着いた桂花の顔は湯気が出るほど真っ赤になっている。オーバーヒートしたかね。

 

 

「そこから先は私の口からじゃなくて貴方の口から伝えなさい。どんな結果になるにせよ……ね」

「りょーかい」

 

 

先程までの弄る雰囲気からマジなトーンに変わった大将に俺は返事をして、その場を後にしようとした。

 

 

「あ、待って秋月。はい、これ」

「おっと……」

 

 

桂花に呼び止められて振り返るとトンと胸の辺りに桂花の手が当たる。俺はその手の中の物を受け取る。手渡されたのは没収されていたマルボロの箱とジッポと煙管だった。まさか返してくれるとは。

 

 

「いいのか?」

「私ももう意地を張る必要がないから」

 

 

そう言った桂花の顔は晴れやかだった。これからは常にデレ状態になるのだろうか。

 

 

「あら、桂花。純一の持ち物を肌身離さず持っていたのね」

「はぅっ!?」

 

 

大将の言葉にビクッとなる桂花。今日はもうダメだな、こりゃ。完全に弄られてる。

 

 

「わ、私は仕事がありますのでー!」

「あら、逃がすと思ったのかしら桂花?仕事しながらでも構わないから話を聞かせてもらうわよ」

 

 

走り去る桂花と悪戯な笑みを浮かべ後を追う大将。何故か、あの二人がシータとムスカに見えたんだが。

俺は二人の背中を見ながらマルボロを咥える。

 

 

「惚れたと認めてくれたのは嬉しいけど……名前で呼んでほしかったかな」

 

 

俺はそんな事を呟くと久しぶりにタバコに火を灯した。

 

 


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