真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百六十一話

 

 

 

「世はこともなし……平和とは素晴らしいな」

 

 

俺は煙管から紫煙を流しながら街を歩く。久々の休暇を満喫しながら店の冷やかしをしつつ買い食い。なんと素晴らしい事か。

 

 

「あ、ふくちょー!」

「真桜か」

 

 

ボーッとしながら歩いていたら背後から呼び止めの声が。振り返ると真桜が慌てた様子で走ってきた。

 

 

「どうした真桜。そんなに慌てて」

「ええから来て!」

 

 

真桜は俺の手を取ると走り出す。なんなんだ急に。

 

 

「桂花、連れてきたで!」

「た、助けて秋月!」

「は……ふ、ふが……」

「なにこれ」

 

 

真桜に手を引かれて来た路地裏で桂花が俺に助けを求めた。稟が血塗れで倒れてる。自然と回れ右をしようとした俺は間違っていない筈。

 

 

「いつもの妄想か?稟、大丈夫か?」

「ふが……ふぁ……」

「慣れとるね副長」

 

 

俺が稟の名を呼びながら呼吸を見る。少し苦しそうだが重症じゃなさそうだな。

 

 

「割と稟の鼻血を見ることが多くてな……いつもより量が多いな。何を妄想した?」

「はぷ……失礼。もう大丈夫です」

「慣れすぎでしょ……」

 

 

稟を抱き起こして首筋をトントンと叩く。意識を取り戻した稟が俺に礼を言うと桂花からのツッコミが来た。

稟が回復した所で事情を聞く。水鏡の新作の本を買いに来た大将、桂花、稟、風。その途中で街の警邏をしていた一刀や真桜、警備隊の連中と遭遇。稟や風の発案で一刀に案内をさせながら本屋巡り。しかしここで真桜達は一刀と大将を二人きりにさせようと画策した。まずは真桜が本屋に先回りをして水鏡の本を残り二冊になるように回収する。本屋で残り二冊の本を購入した桂花と稟は会議があるからと離脱した。そして他の店を回ると決めた一刀と大将と風。その後を監視しようとした所、稟の妄想が発動して鼻血を噴出。慌てた桂花と真桜は、たまたま近くを歩いていた俺を見つけて助けを求めた。

 

 

「なるほどな……だったら早く後を追うとするか」

「副長、凄い乗り気やね」

 

 

話を聞いた俺は即座に一刀が次に向かうだろう本屋に目星を付けていた。先回りして現場を見なくては。

 

 

「こんな面白そうな話、見逃すわきゃないだろ」

「悪どい笑みやねぇ。でも副長が乗ってくれるんは嬉しいわ」

 

 

俺と真桜は悪戯小僧の様な笑みを浮かべていたに違いない。

普段、大将に弄られてるんだ。たまには大将の面白い所を見させてもらおう……クククッ。

そんな事を思いながら次の本屋に到着すると店の裏手で風と沙和と凪が居た。

 

 

「おやおや、思っていたよりも早いと思ったら純一さんもご一緒でしたか」

「こんな面白そうな話を見逃すと思ったか?」

 

 

到着と同時にガシッと握手を交わす俺と風。今の心境は『お主も悪よのう、越後屋』『いえいえ、お代官様ほどでは』的な所だ。

 

 

「風の策略でお兄さんと華琳様のお二人だけにしてみました」

「ナイスだ風。恐らく次の本屋は少し歩いた先の本屋にする筈だ」

「アンタ等……その状況判断を普段に生かしなさいよ」

 

 

俺と風が場と状況を即座に読みながら移動すると桂花からツッコミが入った。甘いな、桂花。仕事の時の判断と遊びの時の判断は別腹よ。

凪と共に居た警備隊の連中に本を返すように頼んでから後を追う。

 

 

「きゃー!腕組んでる!」

「おやおやー。華琳様も楽しそうなのですよー」

「乙女やなぁ華琳様」

「なるほど……ああやって腕を組むと隊長は喜ぶ……」

「ああ……あのまま二人は一線を越えて……ぷぅー」

 

 

それぞれがコメントを溢しながら、並んで歩く一刀と大将を見てニヤニヤとしている。稟は相変わらず鼻血を噴出しているが。

 

 

「ねぇ……」

「ん、おっと……?」

 

 

急に袖を引かれたと思ったら、桂花が俺の服の袖をちょんと掴んでいた。

 

 

「秋月も……ああしたら嬉しい?」

 

 

上目使いで不安そうに聞いてくる桂花。ズキュンと俺の心は撃ち抜かれた。しかし一刀と大将の真似をするのは芸がないので……

 

 

「うーん……こうしよっか」

「ひゃあっ!?……ち、ちょっと……」

 

 

俺は桂花の手を取ると指を絡ませる。所謂、恋人繋ぎって奴だ。驚いた様子の桂花だが次の瞬間には恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 

 

「……いいだろ?」

「……うん」

 

 

俺の問いに桂花は微笑んでくれた。本当に素直になったんだよなぁ……

 

 

「ふくちょー、うちも構ってやー」

「うおっと真桜!?あ、胸が……って痛っ!桂花、指が痛いから!?」

「……鼻の下伸ばしてんじゃないわよ」

 

 

頬を膨らませた真桜が俺の後ろから抱き付いてきた。真桜のはデカいからちょっと接触しただけで、その圧倒的な存在感を感じる。そんな真桜が抱き付いてきたのだ。そりゃもう背中に全神経が集中……しかけた所で桂花が繋いだ手をギリギリと締め付けてきた。

 

 

「……邪魔すんじゃないわよ」

「……独占なんかさせへんわ」

「ちょ……ギブ……」

 

 

桂花と繋いだ手と真桜が抱き付いてから首に腕が回されていたのだが、二人が張り合ってギリギリと手と首が絞められていく。

 

 

「おやおやー……こっちも面白い事になってるのですよー」

「こそこそ見る必要がないので落ち着いて見ていられますね」

 

 

風と稟が落ち着いた様子で見ているがヘルプなんですけど!?

なんとか二人を落ち着かせてから一刀と大将の尾行を再開。

最後に来た本屋は凪達がなんの手も加えていない。本は平積みに置かれてるのでゴールだ。

店の中はそこそこ広いため、大将にバレない様に中に入り監視を続ける。

大将が本を取ろうとしても手が届かなかったので、一刀が後ろから本を取る。然り気無い一刀の行動に大将は顔が真っ赤に染まっていく。大将は赤くなった顔を誤魔化すために別の所へ本を見に行った。可愛すぎるな……学生くらいの子達の青春みたいな恋愛は見てるの顔が緩むなぁ。

そして一刀が一人になった所で目に入ったのかある本を見始める。そのタイトルは明らかにエロ本的な感じだ。

 

 

「……古代中国、恐るべし」

「恐るべしじゃなぁぁぁい!」

 

 

うーむと悩む一刀の背中を桂花が蹴りあげた。凪が見事な蹴り上げですと感心してる最中、桂花が一刀を説教していた。

 

 

「け、桂花!?会議があったんじゃ!?」

「そんな事よりも華琳様をほったらかしにして何、読んでるのよアンタは!」

 

 

突然の事態に驚く一刀に、桂花が床に落ちた本を指差して叫ぶ。

 

 

「な、何って……」

「たいちょー、最低なのー」

「ま、まさか……この本を読んで華琳さまで試そうと……」

 

 

さっき一刀が眺めて呟いたエロ本的な本が周囲に散らばっている。それを見た女性陣が一刀を非難し始める。稟のは妄想混じりだったが。

 

 

「俺の部屋って月や詠が掃除するから、こんな本は置いとけないんだよな」

「置いておけば月ちゃん達の勉強にもなるのではー?」

「アンタ等はアンタ等で何をしてるのよ……」

 

 

床に散らばった本を拾い片付けていたら風が俺に助言してきた。そんな俺と風を疲れた様子で桂花が睨む。

 

 

「みんな!華琳様がお戻りになられたぞ!」

「総員退却!たいきゃーく!」

「おっと……」

 

 

凪の声が聞こえ、真桜の退却指示で退却する。退却後、大将が戻ってきたが、惨状を目の当たりにし、怒って店を出ていってしまった。

 

 

「あーらら。行っちまったな」

「そりゃ怒るやろ」

 

 

俺の呟きに真桜が同意する。まあ、あの状況で怒らない女はいないだろう。

この後、桂花達は一刀を非難した後に店を出ていってしまう。甘い物でも食べながら今日の反省会かね。そして俺はと言えば……

 

 

「もうちょっと女心を学ぼうな一刀。大将も途中までは楽しんでたと思うぞ」

「女心って……難しいんですね。あ、最後のは反省してます」

 

 

床に散らばった本を片付けながら一刀のフォローをしていた。これも男同士ならではだよな。

 


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