◆◇side一刀◆◇
先日行われた魏の武術大会。実質的な優勝は霞だったけど、恋相手にかなり良い勝負をした純一さんにも褒美が与えられる事になっていた。休暇と言う名の褒美が……
「かゆ……うま……」
「その台詞だと意味合い変わってきますよね?」
自室の寝台で横になりながら流琉の作ったお粥を食べている純一さんは多分、「お粥、美味い」と言いたいんだろうけど何故か区切った純一さん。バイオは俺もやりましたよ。
「でも、今回は凄かったですね。恋を相手にあそこまで戦うなんて」
「その反動でマトモに動けなくなったけどな」
あの戦いの後、純一さんは動けなくなっていた。極度の筋肉痛と気が枯渇した事、そして恋から受けた攻撃のダメージの結果、完全に動けなくなり、今に至る。
「だがまあ……手応えは色々と感じたよ。自信も付いたしな。今後の恋の鍛練相手が俺になったのは今一釈然としないが」
「そりゃ……恋を相手にして無事とか驚異的ですよね。新兵も純一さんの事を見直してましたよ」
今回の一件で純一さんの兵達における信頼感は凄まじいものとなった。今までは『サボっている』『軟弱』『名ばかりの副長』などと陰口を叩かれていた純一さん。その理由の大半が戦の度に怪我をするor新技開発に失敗して自爆などで副長は大したことをしていないと勘違いされていた事にある。
しかし、今回の戦いは彼等の認識を覆すものだった。
最強の武将と名高い呂布に互角の戦いをする純一さんを嘲笑うのは、自身に見る目がないのを露呈させる様なものだ。
尤も、今後の恋の相手は純一さんで決定されたのは泣きたくなる事態だと思う。恋も純一さん相手なら戦っても良いと喜んでたみたいだし。
「ま、完全無事とは言えんな。褒美がそのまま休暇に消えたわけだし」
「なんか欲しいものでもあったんですか?」
溜め息を吐いた純一さんに俺は何か欲しいものがあったのかと聞いてみた。もしも俺で用意できるものならプレゼントしてあげたい。
「んー……そうだな。大将と桂花に猫下着とか着させてみたい」
「話を持ちかけた段階で華琳にぶった斬られますよ」
華琳は兎も角、桂花なら純一さんが頼めば着てくれそうな気はするけど。
「大将に……ねぇ。どちらかと言えば一刀が他の誰かに大将の下着姿を見せたくない……の間違いだろ?」
ニヤニヤと笑う純一さん。やっぱりこう言うときの純一さんは何かとズルい気がする。こっちの考えを先読みすると言うか……からかってくると言うか。
「純一さんのそう言うところって華琳に凄く似てますよ」
「俺が大将に似てるって?そりゃねーわ」
俺の発言にもカラカラと笑ってる。そして少し悩むそぶりを見せてから口を開いた。
「大将のはどっちかと言うと我儘だろ。もっと言えば駄々っ子になるか?」
「どれも華琳には当てはまらないと思うんですが」
純一さんの言葉に反論してしまう。華琳が駄々っ子って……
「この間の本屋の事もそうだけど我儘を言うってのは信頼を試したいからだ。そしてそれを確かめる事で自分なりに甘えられる落とし所を確認したかったんだろうよ」
「そ、そうなんですか?」
そう言って笑う純一さんに俺は『大人』を感じた。純一さんにとっては華琳も年下の女の子くらいに見ているのだろうか?
「ま、あれは一刀の最後の詰めが甘かったからだな。あのタイミングで怒ったのももう少しエスコートして欲しかったんじゃないか?」
「あれは……反省してます」
反省してますとは言ったものの、あれは俺だけの責任だったんだろうか?
「ま、女の子とは頭抱えて悩むべきだと思うぞ……大将みたいな子に限らずとも苦労はさせられるもんだがな」
「それは……経験からですか?」
純一さんの言葉に思わず聞き返してしまう。純一さんは前にも『愛美』さんの話で噂になったくらいだし。
「ああ……過去の経験からかな。ま、お前等の事は面白おかしく見させて貰うけどな」
「弄る気満々じゃないですか!」
明らかに俺と華琳のやり取りを見て楽しむ気だよ、この人。でも華琳とこの人が似てると言ったけどやっぱり違うと今は感じている。
さっきの純一さんの言葉が確かなら華琳は信頼を試したいから弄るけど純一さんは違う。肩肘張ってる人を弄っては周囲を笑わせて……弄った甲斐があると弄られた本人も笑わせる。場を和ませると言うか……
「兎に角、もう少しは休んでください。華琳の話じゃそろそろ遠征を決めると行ってましたから」
「へぇ……遠征ね。行き先は?」
俺の心情を察するように先程まで笑っていた顔から一転して、真面目な顔付きになる純一さん。
「多分……呉です」
「ん……わかった。そんじゃもう少し休むとするか」
そのまま布団に潜り込む純一さん。それを確認してから部屋を出ようとすると「赤壁か……」と呟くような声が聞こえた。やっぱり純一さんも覚えてますよね三国志の赤壁の話は。
今度、本格的に純一さんと話し合うべきだなと俺は純一さんの部屋を後にした。