真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第十七話

 

 

さて、本日より始動の『北郷警備隊』街の平和の為に頑張りましょう。と思っていたのだが……

 

 

「隊長、緊張しとるん?さっきから「さて」しか言うてへんやん」

「いや……人前に立つのに馴れてなくて。俺は基本的には恥ずかしがり屋で小心者だからさ」

 

 

昨日の事もあったがまだ緊張気味らしいな。真桜のツッコミに一刀は苦笑い。

 

 

「アハハッ、そう言う事を自分で言っちゃうのが隊長らしいねー」

「その言葉に引っ掛かりを感じるがそー言う事だ」

 

 

そして沙和の失礼を感じる発言にも一刀は笑った。それに感化された真桜と沙和も笑い始める。玉座の間に笑い声のみが響き渡る。

 

 

「はあ……隊長、しっかりして下さい」

「……あ、はい」

 

 

笑っていた一刀に凪の言葉が刺さる。一刀はへこみつつもなんとか持ち直そうとしている。

 

 

「副長も黙ってないで何か言ってください」

「……俺が口を挟まなければこの空気がどれだけ続くかと思ってな。一刀、隊長らしくとは言わんがシャンとしろ。真桜、沙和。一刀はお前達の上司に当たる人間なんだから対応を変える様に。凪、叱りをありがとう。この隊には必要な事だな」

 

 

凪が俺に水を向けたので少し真面目な口調で話を始める。

 

 

「さて、本日より北郷警備隊の副長に任命された秋月純一だ。立場的には一刀の部下兼補佐。立場的にはお前達の上司になるからヨロシク。一刀、挨拶と仕事の内容の説明を」

「え……あ、はい!」

 

 

俺は真面目な顔付きと口調で一刀と凪・真桜・沙和に向き合いながら挨拶と仕事の内容を一刀に促す。一刀は慌てながら俺の一歩前に出た。凪達も俺の態度に少し驚いている様で背を少し伸ばしていた。

 

 

「あ、えっと……本日より華琳の命でキミ達の上司になった北郷一刀です。街の警備隊の指揮を任される事になりました。つきましては、この様な案を考えたので意見を聞きたい」

 

 

一刀は挨拶と共に巻物を広げた。そこには街の警備案や巡回ルートが記されていた。ふむ、中々考え込んだ案だな。真桜と沙和も先程の態度とは違い一刀の巻物を見ている。凪は元からだとしても二人には少しマジな空気を出しすぎたか?

 

 

「純一さ……副長のお考えは……」

「あー……もういいよ一刀。無理に口調を変えんでも。少しマジになりすぎた」

 

 

先程の俺の真面目な挨拶に感化されたのか場がピリッとした空気になっていた。いかんいかん、今後に関わるレベルの話になりそうだ。

 

 

「俺は一刀の部下なんだし無理に繕う必要もない。お前はお前なりの仕事をしてみろ」

「純一さん……はい」

 

 

一刀はその後、口調を元に戻し凪達と警備の打ち合わせを始める。先程の空気は幾分かマシになったけどグダグダな空気になりそうだ。

 

その後、街に出てパトロール。もとい警邏を始めた。始めたのだが……

のんびりな沙和、ツッコミ役の真桜、ひとり真面目な凪。

なんて言うかかなりグダグダだった。俺はならべく口を出さないようにと思っていたのだが、この雰囲気だとそうも言ってられないか……

そして、その予感は見事に命中した。

 

 

「あーっ!阿蘇阿蘇の新刊!」

「見てやっ!絶版になったからくり夏侯惇!」

 

 

真桜と沙和の二人は自分の趣味に没頭。一刀はそれに翻弄されている。俺がハァーとため息を吐いたと同時に聞こえてきたのは悲鳴。

 

 

「ひ、ひったくりだー!」

「待てぇー!」

 

 

振り返れば、そこには何かを抱えて逃げる男とそれを追う凪。

 

 

「何があったんですか!?」

「ひったくりだよ、アイツが店の商品をかっさらって行きやがった!」

 

 

一刀が慌てて事情を聴くと店の店主が答えた。なるほど、やっと街の警備隊らしい仕事になったか。

俺も一刀も走って、盗人を追うがチョロチョロと逃げ回り、中々捕まえられずにいた。

そして業を煮やした凪は気を身に纏った。メラメラと燃える闘志は凪の気そのもの。

 

 

「待て凪!街に被害が出る」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

凪は一刀の制止も振り切って気を足に溜めた。そして気弾を放とうと構え……あ、ここで止めないとヤバい事になるな。

 

 

「はい、そこまで」

「え、うわっ!?」

「隊ちょ、……きゃあっ!?」

 

 

俺は一刀を凪の正面に回して突き飛ばす。一刀は凪に抱きつく形となり、凪は突然一刀に抱き付かれて可愛い悲鳴を上げた。ボイスレコーダーがあるなら録音したかった。

 

 

「さて、今度は……テメェだ!」

「な、なん……ひっ!」

 

 

俺は盗人を追い、全力ダッシュ。俺の剣幕に怯えて逃げ始めた盗人は相変わらずチョロチョロと逃げ回るがなんとか捕まえた。俺、汗だくだけどね。

 

 

「純一さん!」

「副長!」

「あーっ!街が大変なの!」

「なんや盗人かいな、副長が捕まえたん?」

 

 

俺が取っ捕まえた盗人は縄で既に縛っておいた。そんな時に一刀や凪も到着。そして阿蘇阿蘇とからくり夏侯惇を手にした沙和と真桜も到着。ああ、もう……

 

 

「一刀、お前は……もう少し部下を使える様になろうな。凪は少し、肩の力を抜こうか」

「スイマセン。純一さん」

「は、はい……」

 

 

俺の言葉に一刀は謝り、凪は俯いた。凪はたぶん俺が盗人を追いかけてる間に一刀からお説教を受けたな。さて、後はサボった二人だな。

 

 

「あ、あんな副長……見逃したらアカン思うたんよ……からくり夏侯惇」

「あ、阿蘇阿蘇もすぐに売れちゃう……の」

 

 

俺は上着を脱いで肩に担いでいる。ああ、もう暑いから腕捲りもするか。ワイシャツの袖を纏めあげると俺は若干怯えながら言い訳をしに来る真桜と沙和に視線を向けた。

 

 

「真桜、確かに絶版になった物があったのは嬉しいよな。でもそれは盗人を見逃す理由になるのか?真桜のからくりに対する情熱はこれからの魏に必要になってくるだろう……さて、沙和も同じだな。沙和の情報通は市場を調べるには最適な物だろう。でも盗人が街に蔓延る事は沙和のお洒落とかに必要か?」

 

 

俺の言葉に真桜も沙和も俯く。この手の人間には下手に叱るよりもこの方が効く。俺の説教を見ていた一刀や凪は説教されている二人と俺を交互に見ながらオロオロとしている。

 

 

「一刀、凪。後は任せた。コイツ等のフォローと盗人を詰め所に連れていって……一刀は後で警備の巡回の手順の見直し案の提出かな」

「え、あ、はい!」

「あ、その……申し訳ありません副長」

 

 

俺は一刀と凪に真桜と沙和を任せると煙管を取り出して火を灯す。俺がフゥーと煙を吐くと一刀と凪は慌てて行動開始。

真桜と沙和のフォローをしながら先程の盗人を詰め所までの連行を開始した。

 

俺は四人の少し後ろを歩く形で考え事をしていた。

この個性的な三人の部下と頼りない上司が少し不安になったのと……この後、行われるであろう警備隊の予算会議を思うと少し頭が痛くなった。一刀よ、補佐と言っても俺にフォローしきれる内容にしてくれよ。

 


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