真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

174 / 306
第百七十四話

 

 

 

 

一刀と大将の逢い引きが終わってから数日。俺は一刀を部屋に呼んでいた。これからの話をする為である。

 

 

「一刀も大将と結ばれた事だし、国を挙げて盛大に祝わないとな」

「華琳に止められますよ」

 

 

俺が真面目な顔付きで話すと一刀は溜め息を吐いた。

 

 

「どした?大将と結ばれて嬉しかったんだろ?」

「ここ数日、その事で弄られ続けて……」

 

 

一刀の言葉に『ああ……なるほど』と思ってしまう。この間の一件は、将クラスの人間には周知の事実となってしまっている。

俺が体を張って春蘭を止めた事や帰ってきた一刀と大将が手を繋いで顔を赤くしていたなど、状況証拠待った無しなった。

ここで不思議なのは、同じく弄られる側である大将が何故か弄る側になってしまっている事である。と言うよりは皆の前で話して一刀の反応を楽しんでると言うか……大将なりの甘え方なのかね。

 

 

「ま、良かったじゃないか思いを遂げられて。弄られるのも一時的なもんだよ」

「ならいいんですけど……風には『風は日輪を支える存在になりたいのですが、お兄さんは日輪を落とした存在なのですねー』って言われました」

 

 

流石、風だ……弄り方も一癖ある。

 

 

「『種馬兄弟』に続いて『日輪を落とした存在』か新しい二つ名だな」

「名誉なんだか不名誉なんだか……」

 

 

二つ名って本来は誇るべきなんだが俺や一刀に付けられる二つ名って大抵、不名誉な感じが多いんだよな。

 

 

「『日輪を落とした存在』ってのは良い方だぞ。俺なんか最近は『夜の棒術師範代』って二つ名がな……」

「かなりストレートですね」

 

 

華雄と一晩過ごした数日後には二つ名が出ていた。確かに激しかったけどさぁ……

 

 

「この世界にゃプライバシーは無いのか……噂の広まりも超早いし」

「テレビとかネットがないから人の口から口へと噂の伝達が異常ですよ」

 

 

誰かと関係持ったら話題に上がるとか……誰か覗き見でもしてるんじゃなかろうか……。

 

 

「噂と言えば……劉備や孫策の動きが気になるな」

「もうすぐ……赤壁ですからね」

 

 

俺の雰囲気を察したのか一刀も頭を切り替えた様だ。

 

 

「今まで色んな事を……歴史を添って来ましたけど、やっぱり避けられませんよね」

「三国志における最大のターニングポイントだからな」

 

 

一刀の言葉に俺も溜め息を出しそうになる。そりゃそうだよな……この戦いが切っ掛けで魏は敗北の一途を辿る事になるんだから。

 

 

「今までも俺達の知っている歴史から微妙に逸れていたけど今回は予想もつきません」

「今まで予想通りに事が進んだことも少ないがな」

 

 

三国志の武将が全員女の子だった事はさておき……月や詠、華雄、恋、ねねと言った本来なら反董卓連合の時に董卓達が死なずに魏に下った事。

本来なら蜀や魏に戦いを挑み、本来の歴史だと呂布の部下で『陥陣営』の名を持つ大河が俺の弟子となり魏に居る事。

袁紹軍の二枚看板でもあり、将軍でもある顔良。彼女もまた袁紹の下から魏へと来ている事。

そして定軍山で秋蘭……夏侯淵が討たれなかった事。

 

既に俺や一刀の知る歴史から結構外れてきてるよな。

 

 

「純一さん……これから、どうなるんでしょうか……」

「……どうにもならねーさ」

 

 

一刀の不安そうな発言に俺はそう言うしかなかった。

 

 

「月達を助けたのも大河を弟子にしたのも斗詩が魏に来たのも秋蘭を救えたのも……全部、皆が頑張ったからだ。歴史とか関係なくな。これから起きる事にしたって、そん時になってみなけりゃわからんよ」

「そう……ですよね」

 

 

思ってた答えと違ったのか一刀はまだ不安そうだ。

 

 

「じゃあ一刀。俺達の知っている赤壁では魏は敗北したから俺達は仕方なく負けるとするか?」

「……え?」

 

 

俺の言葉に一刀は顔を上げる。

 

 

「嫌がるだろうけど俺は桂花を連れて途中離脱するわ。死にたくないし。ああ……月達も留守番してる間に夜逃げの準備を進めてもらおう」

「あ、あの……純一さん?」

 

 

俺の発言に戸惑うばかりの一刀。

 

 

「だってそうだろう?魏が負けると決まってるんだ。一刀も大将を死なせたくないだろ……だから逃げる準備しとけよ。大敗が決まってんだから」

「そんな事は無いです!俺は皆を死なせたくない!あまり役に立たないかも知れないけど俺は俺の役割を果たします!華琳は俺が守る!」

 

 

一刀は俺の発言を聞いて流石に我慢できなくなったのか立ち上がり俺に噛み付いてきた。

 

 

「だったら……頑張らないとな。俺達がな」

「え……あ……」

 

 

俺がクシャリと一刀の頭を撫でてやると、漸く俺の意図を察したのか冷静になったようだ。俺が本気でこんな事を言う訳ないだろ。

 

 

「す、すいませんでした」

「ったく……普段からそんくらい言えれば大将にも弄られないだろうに」

 

 

謝る一刀を尻目に俺は煙管に火を灯した。

 

 

「フゥー……確かに俺達の知る歴史とは違ってるけどよ。既に俺達も当事者みたいなもんなんだ。だったら今を全力で生きなきゃな」

 

 

紫煙を吐くと俺は煙管を一刀に向ける。

 

 

「特に惚れた女の為に……ってな」

「はいっ!」

 

 

俺の言葉に先程と違って目に力がある。もう大丈夫そうだな。と言いつつも俺も自分の発言を反復していた。

 

 

惚れた女の為に。

 

 

赤壁……負けるわけにはいかない。俺は拳を握りしめ近々行われる呉への遠征に決意を新たにした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。