真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百八十一話

大将の天幕から出た後、黄蓋さんと凰雛が手配したという鎖を受け取り、真桜率いる工兵隊に作業を任せた。勿論、普通に鎖で船を繋ぐのではなく簡単な仕掛けで鎖を外せる様にギミックを仕込む予定だ。

 

 

「副長、いくらなんでも手が足りひんでぇ……」

「気持ちは分かるが頼む」

 

 

俺は本格的な作業が出来ないので少し手伝いと監督役として残った。桂花は他の仕事があるので離れてしまったが仕方ない。

 

 

「大体、ウチかて船酔いがキツいんやで……」

「他の人達も船酔いが残ってるのもいるんだ皆、条件は同じだっての」

 

 

恨み節が続く真桜。俺は現状で手伝える作業が少なくなったので煙管を取り出して火を灯した。真桜は話を続けながらも手は止まってない。見事な仕事人だ。

 

 

「副長は桂花とイチャついてたみたいやし」

「……見てたのかよ」

 

 

真桜の何処か拗ねた様な口振りに、顔を覗き込めば頬を膨らませていた。

 

 

「どうせ副長は桂花ばっかり構うんやもん」

「あー……もう……」

 

 

分かりやすいくらいに拗ねている真桜。俺が紫煙をフゥーっと吐くと真桜は顔を背けた。

 

 

「……つーん」

「膨れるなっての」

 

 

そっぽを向く真桜の頬を指で突く。それでも、そっぽを向いたままの真桜。ほほぅ、無視をする気か?

 

 

「頬が駄目なら胸にするかな?」

「あ、あかんで副長!そういうのは二人っきりの時に……あ」

 

 

俺の言葉に真桜は胸を手で隠しながら俺から距離を取る。そして直ぐ様、顔が赤くなった。

 

 

「か、からかったんやな……」

「からかいで終わらせたくなかったら作業を続けてくれ。今は時間がないから仕方ないけど戦が終わったら埋め合わせすっからよ」

 

 

顔を赤くしたまま睨んでくる真桜の頭を撫でる。流石に今はイチャつく時間がないから勘弁してくれ。

 

 

「副長……後で覚えときや」

 

 

真桜はフンと鼻を鳴らすと作業に戻っていった。やれやれ、却って怒らせたか?

 

 

「副長、李典隊長の作業効率が上がった様ですが……目の前でやり取りを見なければならない我々の身にもなってください」

「うん、素直に悪かったとは思ってるよ。皆にも特別報奨考えとくから頑張ってくれ」

 

 

ああ、不機嫌になったんじゃなくてテンションが上がってたのか。それを気付かれない為に作業に没頭したな?俺に声をかけたのは工兵隊の古参の一人。そりゃ上司がイチャつく姿を見せつけられた部下は堪らんわな。

俺は謝罪をすると共にもう一度、煙管に火を灯し作業をする彼等を眺めていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

朝になり、船に繋がれている鎖を眺めている一刀と凪と沙和。彼奴等はしっかりと寝て、すっかりと元気になっている。

あの後、徹夜で作業をしていた俺達は満身創痍となっていた。俺も真桜も工兵隊達、誰もがボロボロだ。そんな彼等に俺が掛けてやる言葉はこれしかあるまい。

 

 

「よくぞ生き残ってきた我が精鋭たちよ!」

「ネタが古いですよ純一さん。でもジブラルタル海峡は熱かった」

 

 

俺の台詞に背後から一刀のツッコミが入った。このネタが分かるとは一刀、恐るべし。絶対に通用しないと思ったのに。因みに俺は人食い穴の方が好きだ。

 

 

「よく知ってたな一刀」

「前にス◯パーで再放送してたので」

 

 

俺と同じだな。風雲たけし城は時代が変わっても面白い。俺も一刀と同じくス◯パーの再放送を見た時、超ハマったから。

 

 

「純一さん、真桜は?」

「疲れて寝てるよ。工兵隊の指揮やら作業で一番疲れてたのは真桜だからな。もう少し寝かせてやれ」

 

 

真桜が居ない事を不思議に思った一刀が俺に尋ねてくる。流石が終わると真桜は真っ先に寝てしまった。俺が天幕まで、お姫様抱っこで運んでったんだが何気に周囲の視線がキツかったが。

 

 

「でも、これで解決したんですね」

「ああ……後は今夜だな」

 

 

俺と一刀は流れる赤壁の川を眺めながら呟いた。これから起きる出来事を俺達は心の中で噛み締めていた。

 





『風雲!たけし城』
数々の難関を挑戦する素人参加型の人気番組。

『よくぞ生き残った我が精鋭達よ!』
「風雲たけし城」に登場する谷隊長の決めゼリフ。
人食い穴を突破し、たけし城へ続くトンネルを抜けてきた勇士たちを称えて送られる。

『ジブラルタル海峡』
『風雲たけし城』の難関の一つ。下に落ちないようにバランスをとり、吊り橋を横断する。人喰い穴手前の難関としてお馴染み。

『人食い穴』
『風雲たけし城』の難関の一つ。たけし城へ到達する最後の難関。5つの穴のどれかを選んで入る。敵が潜む罠の穴に入ると失格。外見では判別できないため運を要する。

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