真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百九十五話

 

 

 

なんちゃってシルバースキンの強制キャスト・オフによる自爆から次の日。気絶はしたが思いの外、体へのダメージが少なかった俺は武器庫で頭を悩ませていた。

 

 

「見事なまでに弾けたとんだみたいですね」

「服の中に爆竹入れて火を灯した様なもんだ。威力は桁違いだが」

 

 

破損したなんちゃってシルバースキンを見ながら一刀が呟き、俺は鎖帷子の破片を手にしていた。

 

 

「コレを作ってから結構、経過してるし金属疲労ってのもあるんだろうな。それで耐久力がギリギリだったのに俺が気を込めたから爆発したんだろ」

「リア充爆発しろとは、良く言いますけど実際に爆発してるのは純一さんくらいですよね」

 

 

お前も似た様な状態なのに言うじゃないか一刀。

 

 

「それに……甘寧との戦いが決め手だったのかもな。甘寧の攻撃を凌ぐ為に気を多量に込めた上に甘寧の連撃を食らいまくったんだ。むしろ、今まで良く耐えてくれたと思うよ」

 

 

俺はあの時、甘寧に斬られた箇所の鎖帷子に視線を移す。そこには切り刻まれてボロボロの鎖が。

 

 

「そうですね……それに恋や春蘭との模擬戦も理由の一つじゃないですか?」

「寧ろ、金属疲労と劣化の理由はそっちが主な気がしてきた」

 

 

思い返すと敵軍よりも身内の攻撃の方がキツい気がしてきた。敵よりも味方が強敵ってどうよ?

 

 

「暫く戦は無いらしいから大丈夫だろうけど、早めに直さないとな」

「当面は呉の豪族や権力者が相手なんでしたっけ?」

 

 

呉の軍勢は蜀と合流した連合になっている。これらを相手にするには、準備不足は命取りになるとして、今は後に残され反抗している豪族や権力者達の鎮圧が主な仕事となっている。そんな訳で警備隊の隊長副長コンビは戦場に出なくても良い事になっているのだが、その分、内政やら街の治安に力を注いでいる。その矢先に俺が倒れたのだ。

 

 

「大将は新兵に戦場の空気を実感してもらう良い機会じゃないなんて言ってたけどな」

「凪達も新兵訓練に気合い入ってましたね」

 

 

そう。次の蜀呉連合軍との戦いが最終決戦になると誰もが予想し、ピリピリした空気が流れてる。あの仕事をサボりがちな沙和や真桜ですら、その空気を察して仕事をしているくらいだ。まあ、そのせいでなんちゃってシルバースキンの修理を頼みづらいんだが。

 

 

「ちょっと、あんた!怪我人が出歩いてんじゃないわよ!」

「ああ、悪い。ちょっと気になったもんだからさ」

 

 

 

等と一刀と会話をしていたら桂花が凄い剣幕で入ってきた。城の誰かから俺の居場所を聞いたな。

 

 

「北郷!あんたもあんたよ!この馬鹿が無理しないように見張ってなさいよ!」

「あ、うん……ごめん」

 

 

ズカズカと武器庫に入ってくる桂花の怒りは一刀にまで飛び火した。

 

 

「悪かったから機嫌直してくれよ。な?」

「ひゃん!?ちょ、何処触って……馬鹿!」

 

 

俺は桂花の怒りを静める為に後ろから抱き締めたのだが逆効果となった。足踏まれました。

 

 

「まったく……種馬兄弟が……」

「俺達にとっては不名誉なんだけど、その渾名」

 

 

足を踏まれて痛がってる俺を見ながら一刀が呟く。桂花は少し頬を赤く染めていた。

 

 

「種馬でしょ。それとも否定できるのアンタ達」

「そりゃお互い様だろ肌う……まっ!?」

 

 

溜め息を吐いた桂花のアッパーが、あるキーワードを言おうとした俺の顎を捉えた。怪我をした胸や腹を狙わないのが彼女なりの配慮だと思いたい。

 

 

「まったく、もう……」

「まあまあ、それが純一さんだから」

 

 

一刀よ、それはどっちの意味でのフォローだ。いや、どっちでもろくな事じゃないのは確定だが。

 

 

「でも……今でもたまに思うんですよ。純一さんが隊長の方が良かったんじゃないかって……」

「ちょっと、あんた!」

 

 

少し遠い目をした一刀に桂花が咎めようと声をあげたが一刀は手で制した。

 

 

「華琳にも言われたけど凪達の信頼を裏切るような事は言わない……でも、本当にたまに思っちゃうんだ」

「気持ちは……わからないでもないわよ。春蘭と秋蘭みたいに姉妹でも春蘭が将軍やってるくらいだからね」

 

 

まあ、言わんとしてる事はわかる。年上とか兄姉がいるなら、そっちが上に行くべきって気持ちも。ならば俺はこう言おう。

 

 

「兄よりも優れた弟など存在しないのだ!」

「そのセリフだと俺が純一さんと隊長の座を賭けて戦うことになりますよ。それに……俺は純一さんとは戦いたくないです」

 

 

北斗羅漢撃の構えをしながら名セリフを出したが、一刀はいつものツッコミの後に少し悲しい顔をしていた。少しノリで話してたけど唯一の未来から来た人と戦いたくないって事かね。

 

 

「んじゃ……これからも頼むぞ、弟」

「あ……はい!」

 

 

俺が裏拳気味に一刀の胸をポンと叩くと今度は笑顔になった。これで少しでも元気が出たなら何よりだ。

桂花は小首を傾げていた。うん、このノリは男じゃなきゃわからんよな。

桂花にはなんでも無いと告げた後に、なんちゃってシルバースキンの話や先程、一刀と話してた内容を説明した。怪訝な顔をされたけど、「無理はしないで……」と服の裾を掴む桂花が愛しくて抱き締めようとしたら頬をつねられた。

 

 

 

因みにだが、部屋に戻ったら医務室にも部屋にも居なかった俺を心配した月にめっちゃ怒られた。ごめんなさい。




『兄より優れた弟など存在しない』
『北斗の拳』に登場するジャギが作中で放った台詞。
自身より未熟な弟であるケンシロウが北斗神拳継承者になった事に激怒し、ケンシロウに対して発せられた。しかし、この後ジャギは自身の発言が間違っていた事を、その身を持って味わう事となる。

『北斗羅漢撃』
ジャギが作中で使用した北斗神拳奥義の一つ。
両手を前に突き出す構え、螺旋を描く様な腕の動きから無数の高速の突きを繰り出す技。
スピンオフ作品『極悪ノ華』では師父・リュウケン自らがジャギに伝授した技とされ「全ての雑念を取り払ったものにしか使えない」と語っていた。 リュウケンやラオウ、トキの口から北斗神拳の奥義の中でも高位の技だった事が語られている。
しかし、この技を使用したジャギはケンシロウへの憎しみ・恨み・妬み・嫉みの感情全てをコンプリートしていた為に技は不完全なものだったと推測される。
当然ながら不完全なジャギの北斗羅漢撃はケンシロウには通用しなかった。

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