蜀への道中は長い。途中で村や街を幾度となく立ち寄り、行軍する。
その道中は移動ばかりとは限らない。敵が居ないか斥候を放ったり、山賊とかを退治したりとやる事は多い。そしてその最中で鍛練をしないという選択肢は存在しなかったりする。
「うりゃぁぁぁぁぁぁっ!」
「魔閃光!」
今現在、立ち寄った村から少し離れた場所で春蘭相手に季衣と流琉と大河が模擬戦をしていた。
春蘭が大剣を振りかぶったと同時に大河の魔閃光が春蘭に直撃するが、春蘭はダメージが無かったのか、そのまま突っ込んで来た。無茶苦茶である。
「甘い!そんなもの効かぬわ!」
「甘いのはお互い様ッスよ!」
大河に大剣を振り下ろした春蘭だが、大河は素早く跳躍して飛び上がり剣を避ける。それと同時に、春蘭目掛けてガンダムハンマーと超電磁ヨーヨーが交差する様に飛んで行く。
「季衣と流琉か!だが!」
「嘘ぉ!?」
「凄いです、春蘭様……」
なんと春蘭は剣をそのまま地面に突き刺すと、両手を広げてガンダムハンマーを右手で超電磁ヨーヨーを左手で受け止めてしまう。
「中々良い連携だった……だが、私を相手にするにはまだまだ未熟だったな!」
「へぶっ!?」
隙を突こうと背後から大河が蹴りを見舞おうとするが、野生の本能で察知したのか春蘭は右足を素早く上げて前蹴りで大河を打ち落とした。あ、下着がチラッと見えた。
「やっている様だな」
「秋蘭、用事は終わったのか?」
大河達の鍛練を眺めていた俺の隣に秋蘭が立っていた。春蘭が鍛練をすると言い始めてから用事があると離れてたのに。
「ああ、姉者の仕事を終わらせてきたのでな。少々手間取ったが」
「なるほど、後始末だったか」
そう言って俺の隣に座る秋蘭。大方、春蘭が仕事を秋蘭に任せて鍛練を始めたか、春蘭の仕事でミスがあったから其れを手直ししたかのどちらかだろう。
「しかし……季衣と流琉と大河が姉者相手に鍛練とはな」
「最初は俺が相手をしたんだがな。流石に体が保たん」
そう最初こそ俺が相手をしていたのだが、体力の限界と強さの限界を感じていた。新しいシルバースキンを身に纏っても防御し続けるのが精一杯な俺じゃ鍛練にならない。寧ろ、公然と行われるチビッ子リンチに俺が音を上げた。
「それで姉者か?」
「ああ。よっぽど三日月の熊に負けたのが悔しかったんだろうな」
ついでを言うなら春蘭なら野生の熊みたいな部分があるし……とは言うまい。隣に重度のシスコンが居るんだし。
「そうか……だが姉者も滾っている様だ。蜀との決戦を前に良い鍛練となっている」
「ああ……もうすぐだもんな」
トレーニングの域を越えているとは思うがな、と思うと同時に蜀との決戦を考えさせられる。既に俺や一刀の知る歴史とは大幅に変化している。やっぱ赤壁の辺りから……
「ぐあっ!?」
「おい、秋月!?」
これからの決戦や赤壁の事を考えていると、心臓を鷲掴みされた様な痛みが走り踞る。秋蘭が声を描けてくれたが
返事は出来そうにない。
「師匠!」
「純一さん!」
「おい、秋月!」
鍛練をしていた大河や春蘭達の声が聞こえるが遠く感じる。なんだ、この感覚は……意識が遠のく……
「秋月さん!」
俺の瞳に最後に映ったのは泣きそうな顔で俺に駆け寄ってくる月の姿だった。