真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百八話

 

 

 

蜀へと向かう道中は長い。行軍しても簡単には到着しない距離だ。まあ、俺が途中でダウンしたのも理由の一つだが。だが、なんやかんや言っても既に蜀の国境は越えて劉備の居る城まで後僅かって距離まで来てる。

 

 

「遂に決戦か……フゥー」

 

 

俺は煙管を吸い、紫煙を吐く。何ともまあ……俺が此処まで歴史に関わるとは思わなかった。気が付けば三國志の様な世界で生活して、桂花と恋人になって、部下を持ち弟子を取り、自爆して。

 

 

「人間人生が何処で変わるか分かったもんじゃねーな」

 

 

単なるサラリーマンだった俺が曹操の下で働いて天下統一の手助けって……

 

 

「ギャグにしか聞こえねーわな」

 

 

カンっと煙管を叩いて灰を落とす。やれる仕事は終わらせたし一眠りしようかと思ったらドゴーンと何かの破壊音が聞こえた。

 

 

「もうちっと平穏にいかねーかな、俺の人生」

 

 

軽く溜め息を吐きながら俺は音のした方へと足を向けた。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

破壊音が聞こえた場所へ到着すると魏の真面目コンビこと、凪と大河が修行をしていた。本当に真面目だねぇ。

 

 

「こうっスか、凪さん」

「違う、もう少し前屈みで構えて気を手の中に押さえ込むようにして……」

 

 

その修行は凪が大河に何かの型を教えてる様だった。というか、その構えに見覚えが有りすぎた。二人は俺に気付いていなかったので少しだけ状況を見守る事にした。

 

 

「かめはめ波!」

「気を放つ際に遠くに飛ばす事を意識するんだ。そうすれば自然と気の密度が濃くなり威力と飛距離が増す筈だ」

 

 

大河が腰を落として両手の平を前に突き出すと、その手から気弾が放たれる。まだ気の密度が濃くないのか俺が放つかめはめ波よりは小さいけどしっかりと、かめはめ波が放たれていた。

 

 

「まだ……小さいッスね」

「いや、放てるだけ凄いと思うがな。しかし、なんで私にかめはめ波の事を聞きに来たんだ?この技は私も使えるが使い手は副長なんだから副長に聞いた方が良いと思うが」

 

 

大河が凪に習っていたのは、かめはめ波の撃ち方だった。凪の言うとおり、かめはめ波は俺が良く使ってるから教えを乞うなら俺じゃね?と少しショックを受けていた。我ながら豆腐メンタルだ。師匠としての面目丸潰れだよ。

 

 

「そ、その……師匠からまだ、かめはめ波は教えてもらってないんス。他の技は教えてもらったんスけど……どうしても、かめはめ波を覚えたくて」

「それは副長が大河に技を教える順番を考えてるんじゃないのか?」

 

 

大河の発言に俺は大河への指導が間違っていたのかと考えてしまう。前回、大河に教えたのはギャリック砲だが、あの技はチャージが少なく素早く出せるから大河にピッタリの技だと思って教えたのだが、大河は不満だったのだろうか?

 

 

「そうかも知れないッス。それに自分も師匠から教えてもらった技は練習してるッス」

「だったらなんで、副長に教えを乞わず私に聞きに来たんだ?」

 

 

大河の発言に俺は凪と同じ疑問を抱く。ギャリック砲の練習してるならなんで凪にかめはめ波を習いに来たんだ?

 

 

「そ、その……師匠のかめはめ波は自分の憧れなんス。初めて見た時にドキドキしたッス。師匠から色々と技を学ぶのも嬉しいッスけど、やっぱり憧れた師匠の技を使いたいんス……でも、師匠がまだ教えてくれないって事はまだ自分の修行不足に思えて……だから」

「だから私に学びに来たと……」

 

 

大河の発言に更なるショック。俺が今まで大河に教えていたのは大河のスピードを生かした戦い方に合った技を教えていたのだが、大河はかめはめ波を学びたかった模様。

 

 

「それは師を裏切る行動と分かっての事か?」

「そんなつもりは……でも……」

 

 

凪の厳しめな一言に何故か俺もダメージを受けていた。此処まで大河を思い詰めさせていたのか俺は。

 

 

「まったく……大河が副長の事に憧れているのは分かるがもう少しやり方を考えるべきだったな」

「凪……さん?」

 

 

凪は先程の厳しい一言を放った時とは違って、優しげな笑みで大河の頭を撫でていた。大河は怒られると思っていたのか一瞬ビクッとなったが、今はキョトンとした顔で頭を撫でられている。

 

 

「私も嘗て師に学んでいたいた時は早く気を修得したいと焦ったものだ。だが、副長が大河にかめはめ波を教えていないのは何かの理由があるのかも知れない。だから……」

 

 

言葉を区切った凪。次に出る言葉を俺と大河は息を飲んで待つ。

 

 

「既にかめはめ波を修得したと副長を驚かせてやろう」

「今の凪さん、師匠みたいな笑い方だったッス」

 

 

凪にしては珍しく悪戯な笑みを浮かべていた。その笑みに大河も驚いていた。いや、俺が一番驚いたとは思うが。

 

 

「副長のがうつったのかもな。私もかめはめ波は副長程ではないが修得している身だ。可能な限りは教えてやろう」

「押忍!」

 

 

悪戯な笑みを浮かべたまま大河の指導を続けると言う凪に、大河は気合いを入れ直していた。俺は二人にバレない様にその場を後にした。

 

 

「弟子の成長を喜ぶべきか……俺の不甲斐なさを嘆くべきか」

 

 

俺は再び煙管に火を灯して肺に煙を入れる。なんだろうなー、この嬉しいような寂しいような気持ちは。

 

 

「どうしたんですか、純一さん。複雑そうだけど満足そうな笑い方してますけど……」

 

 

そんな事を思っていたら一刀と会う。一刀は俺の表情から何かを読み取ったのか疑問を浮かべていた。

 

 

「ちょっと……太ったかも知れない事にショックを受けただけだ」

「そんな風には見えないですけど、太ったんですか?」

 

 

話すのも少し恥ずかしい気がしたので適当に誤魔化す事にした。その発言を真に受けた一刀がジロジロと俺を見る。

 

 

「太ったと言っても健康的に収まった状態の話だ。健康的な証拠に打撃にも強いぞ」

「その発言で俺の中じゃハート様と同じ区分に分類されましたよ。普段から酒とか煙草とか多いんだから気を付けてくださいよ」

 

 

俺の発言に一刀のツッコミが入る。エラく的確なツッコミだった。オマケに気を使われたよ。ま、気恥ずくて誤魔化した発言だったからいいんだけどさ。

 

 




『ハート様』

北斗の拳の登場人物。凄まじく太っている体型で、ケンシロウからも豚呼ばわりされているのだが、その肉厚から殆どの拳法を吸収して無効化してしまう事により、「拳法殺し」の異名を持っている。

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